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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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目撃

  


 「見て! リーナ、エンゲル!」




 はしゃぐエミリアに呼ばれ、リーナとエンゲルはどうしたのかと、手招きするエミリアの元へと行く。


 リーナたちは再び音楽祭を見回り始め、リーナ、エミリア、エンゲルの三人は可愛らしい雑貨が売られている店にやって来ていた。



 男性陣はというと、女性の買い物を邪魔してはいけないと、雑貨屋の前にある噴水の前に腰を下ろし、話をしながらリーナたちが見終わるのを待っている。



 

 「この髪飾りすごく可愛くない?」




 エミリアの元にやって来たリーナとエンゲルにそう言っては、手に持つ髪飾りを見せる。


 白いレースと黄色のリボンで作られたその髪飾りを見ては、リーナとエンゲルも「可愛い!」と口を揃えて言う。




 「この髪飾り色違いで売られているんだけど。三人でお揃いにしない?」




 エミリアの言う通り、黄色のリボンの髪飾り以外にも淡い紫とピンクのリボンで作られた髪飾りが売られており、リーナとエンゲルはお揃いという言葉に嬉しそうに頷く。




 「わぁ……! 二人とも凄く似合ってるよ!」




 リーナたちは早速、買った髪飾りを髪につける。


 エミリアは黄色の、エンゲルはピンクの髪飾りをつけているのを見て、褒めるリーナに対し、エンゲルは「リーナも凄く似合っていますよ!」と言う。



 紫の髪飾りはリーナにとても似合っており、リーナは嬉しそうに「ありがとう」と笑う。


 

 お揃いの髪飾りは買ったものの、まだ店内を見回る三人は、女性の店主と意気投合し、つい時間を忘れ話に花を咲かせている。




 「やっぱりフリルは重なれば重なるほど可愛いわよね」


 「分かります〜」




 そう話していた時だった。

 どこからか僅かに声が聞こえてきたような気がした。


 その声にリーナだけが気づいたらしく、一人、辺りを見渡すリーナとは違い、エミリアたちは楽しそうに話をしている。



 気のせいか……とリーナは気にしないようにするも、今度は確かにはっきりと声が聞こえてきた。



 この声……! と一気にリーナの顔が曇る。


  


 その唸るような声はつい最近、エーヴィッヒに連れて行ってもらった温室で聞いた声と同じようなものだった。


 確かに聞こえた声に、エミリアたちは気づいていないようで、リーナは怖がらせてはいけないと、そっとその場を離れる。



 そして、声がする方へと足を向ける。




 興味からではない。なぜか、その声が気にかかり、なぜそんなにも気になり、胸をざわつかせるのか確かめるため、リーナは声のした方へと向かう。


 店の裏口から外に出ると、そこは路地裏のような場所で、その奥から声が聞こえて来ているようだった。



 薄暗く、人も誰一人とおらず、その唸る声しか聞こえてこない。


 しばらく路地を進んだ時、曲がり角が出て来た。



 その先から声は聞こえて来ており、リーナは恐る恐る壁から先を覗き見る。




 「……っ!」




 漏れ出そうになる声を咄嗟に手で口元を押さえて飲み込む。


 リーナの視線の先には、一人の男性とその男性に覆い被さるようにしている人のような何かがいた。



 覆い被さられている男性はもう息はないように見える。


 

 体から一気に血の気が引いていくのがわかる。


 

 恐らく、男性の上に覆い被さっている者も人だろう。


 だけどその独特な雰囲気から、まるで人の見た目をしているが、人ではない得体の知れない生き物のように見える。



 よく見てみると、覆い被さられている男性の体から血が出ている。




 もしかして……あの男性のこと……。




 考えることすらおぞましいその事実に、リーナは胃の中の物が喉元まで上がってくる。


 とにかく早く逃げなきゃと頭では分かっていても、恐怖からか足が動かない。



 それでも逃げなきゃと、無理やり足を動かした時。


 床に落ちていた枝を踏んでしまい、ほんの僅かにだが音がしてしまった。



 その音が聞こえたのか、人のような何かの動きがピタリと止まった。


 かと思えば、ぐいっと勢いよくリーナの方へと顔が向けられる。



 顔も人のよう。けれども、その直ぐにでも飛び出して落ちてしまいそうなくらい見開かれた、イカれた目を見、リーナは瞬時に殺される……! と悟る。


 それでも体は言う事を聞かず、動くことがない。




 どうしよう……! リーナがそう考えるのも束の間、その人のようなものは、奇声をあげたかと思えば、四つん這いでリーナの元へと向かってくる。




 もう、ダメだ……。




 リーナは思い切り目を閉じる。


 それと同時に「リーナ!!」という声が聞こえたかと思えば、リーナの前に誰かが庇うように立つと、その人のような何かを剣で斬り殺す。



 奇声が響き渡る中、まだ放心状態のリーナに、彼は振り返り「怪我はない?」と声をかける。


 リーナは全く何が起きたのか理解ができなかったが、助けてくれた彼に向かい「エーヴィッヒ、殿下……?」と名前を呼ぶ。



 リーナのことを助けたのはエーヴィッヒで、エーヴィッヒの後から二人の騎士がやって来た。


 エーヴィッヒはリーナに「怖かったね。もう大丈夫だよ」と声をかけると、腰が抜けたのかリーナがその場にしゃがみ込みそうになるのをエーヴィッヒが受けとめる。




 「す、すみません……」


 「気にしないで。あんな事があったんだ。腰が抜けるのも当然だよ」




 そう優しく笑みを浮かべるエーヴィッヒに、騎士の一人が「殿下。あちらの男性は亡くなっておられます」と耳打ちする。


 その言葉にエーヴィッヒは「そうか。来るのが遅かったね……」と悔しそうに言う。



 そんなエーヴィッヒにリーナは「あの……」と声をかける。




 「ん?」


 「あの人? は何なんですか? 人だけど、あれは人じゃない、ですよね……?」




 リーナの問いに、エーヴィッヒは「わからない」と首を横に振る。


 「分からない……?」と眉を顰めるリーナ。



 さっき、リーナを助けた時や騎士たちとの会話の感じから、何かを知っているように見えた。


 けれど、エーヴィッヒは分からないと答えた。



 嘘をついているのか、本当に分からないのか。




 そう考えるリーナに、エーヴィッヒは「僕たちも噂を聞きつけてやって来たんだ。どうしてこんな所にいるのかも、あれが何かもわからない」と言うと、真っ直ぐリーナを見る。




 「だけど、この物が……人間ではないっていうことは分かる」




 はっきりとそう言ったエーヴィッヒの言葉に、リーナは「人間ではない……」と呟いては、エーヴィッヒに斬られ、血を流しその場に倒れ込むそれを見る。


 見た目は人間だ。



 けれども、男性を襲っていた姿や、私の元に向かって来た時のあの表情……。


 とても理性を持った人間だとは思えない。



 エーヴィッヒの言う通り、人間ではないのだと分かる。




 エーヴィッヒはリーナに「それより、リーナはどうしてこんな所に? 一人?」と問う。


 その言葉にリーナは、そうだった……祭に来ていたんだった。と思い出しては「皆の所に戻らなきゃ」と呟く。







 「兄様……!」




 噴水の前で心配そうに、走って来たリヒトの事を呼ぶエミリア。


 リヒトはエミリアの元へとやって来ては、上がった息を整える。



 額や首には汗をかいており、走り回ったのが窺える。




 「いたか?」とリヒトに問うエーデルに、リヒトは首を横に振っては「いなかったよ」と答える。


 その言葉に「そうか……」と眉を顰めるエーデル。



 エミリアとエンゲルからリーナがいなくなったと聞いたリヒトたちは、先ほどから辺りを探し回っているのだが、リーナは全く見つからなかった。




 「リーナ、どこに行ったんだろう?」


 「何か事件や事故に巻き込まれていなければいいのですが……」




 そう不安そうに話すシュタインとエンゲル。


 そんな二人を見たノアが「……もう一度探しに行きましょう。」と言った時だった。




 「リーナ!」




 エミリアがリヒトたちの後ろを見てそう名前を呼んだ。


 その声に、リヒトたちも後ろを振り返る。



 そこには、リーナとエーヴィッヒの姿があった。


 エミリアは「リーナ!!」とリーナの元へ駆け寄ると「どこに行ってたの? 心配したのよ?」とリーナを抱きしめる。



 そんなエミリアに「ごめんね、心配かけて」と謝罪するリーナ。


 ノアはエーヴィッヒを見ては「殿下と一緒におられたのですか?」と問いかける。



 その言葉にエーデルとリヒトは、エーヴィッヒを睨みつけるように見ると、リーナが「ね、猫!」と発する。




 「お店にいた猫が外に出たから追いかけていたら、その……遠くまで行ってしまって……道に迷っていた所に、エーヴィッヒ殿下とお会いして案内してくださったの」




 リーナの言葉に、エンゲルが「確かに……お店にいましたね」と頷く。


 「ですよね? 殿下」とリーナがエーヴィッヒの方を向くと、エーヴィッヒは「そういうことだから、ぼくはこれでお暇するよ。」と笑みを浮かべると、歩いて行こうとするも足を止め振り返る。




 「今度は迷子にならないように、ちゃんとリーナのことを見ていてあげてね」




 エーヴィッヒはリヒトとエーデルを見てそう言うと、再び前を向き歩いて行く。


 そんなエーヴィッヒの後ろ姿を見つめては、リーナはさっきのことを思い出す。



 リヒトたちの元へと戻ってくる前、エーヴィッヒにさっきの事は誰にも話さないでほしいとお願いされた。


 内密に調べている事だから、あまり人に知られたくないそう。



 リーナは分かったと頷いたが、あんな恐ろしいことを誰にも話せないのは辛かった。


 まぁ、たとえ話せたとしても、誰も信じてはくれないだろうけど……。



 そんなことを考えていると、ふと隣から視線を感じたかと思えば、リヒトがリーナの事を見ており「……何かあった?」と問いかけてくる。


 その言葉にエーデルも「顔色が悪いぞ。何があったんだ?」と言う。



 だがリーナは、エーヴィッヒとの約束なので笑みを浮かべては「何もないよ!」と答える。


 そんなリーナに、リヒトもエーデルも何か言いたそうにしてはいたが、それ以上何かを聞いてくる事はなかった。

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