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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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偶然ですね



 「あ、肉! 肉が食べたい! 肉食べに行こ!」




 シュタインは声を弾ませ、まるで子どものような純粋な瞳を輝かせては、視線の先にある出店を指差す。


 そんなシュタインにエミリアが「何回肉って言うつもりよ」と呆れた表情を浮かべる隣で、エーデルも「お前、さっきまで甘いのが食べたいって言ってただろ?」と呆れている。




 「今お肉の口になったの! 早く行こう!」




 そう言っては出店へとかけて行くシュタインに「楽しそうだねシュタイン」と笑うリヒト。


 


 「本当にもう直ぐ十八なの? 全く落ち着きがないじゃない」


 「そうか。あいつ十八か」




 シュタインの年齢を忘れていたのか、エーデルはそう呟いては遠い目をしている。


 そんなやり取りを聞きながら、リーナは音楽祭を楽しんでいるシュタインを見て安心する。



 この間、フレイヤとアリーがヴァンディリアにやってきて以来、何処か心ここに在らずな状態が続いていたシュタイン。


 何を話しても、返事が曖昧で心配していた。



 だが、音楽祭ではしゃいでいるのを見る限り、とりあえず大丈夫そうかなと、今は見守ることにした。




 「リーナは? 食べる?」




 出店の前に着くと、エーデルがリーナにお肉の串焼きを食べるかと尋ねる。


 リーナは「お腹すいたし食べようかな」と頷く。



 リーナたち五人でこうしてどこかへ出かけるのは初めてのこと。


 一昨日、リヒトがヴァンディリアにやって来た時、エーデルと一緒にリーナとシュタインの事を音楽祭に誘って来たのだった。



 エミリアもエミリアで、この間の仮面パーティーの件ですっかり前のような元気をなくしており、あまり外出をしなくなっていた。


 その事を心配したエーデルとリヒトが、皆んなで祭りに行けば少しでも元気が出るのではないかと、二人で考えたのだ。




 「はい。熱いから冷まして食べろよ」


 「ありがとう」




 エーデルから串焼きを受け取ると、湯気が出ている串焼きをふーふーと息をかけ冷ますリーナの側で、シュタインが「あっつ!!」と騒いでいる。




 「舌火傷した〜……」


 「馬鹿ね。だからあれほど冷ましてから食べなさいって言ったでしょ? あんた猫舌なんだから」


 「だって熱々が美味いじゃん」




 いつものように、シュタインの言動に呆れたようにツッコミを入れているエミリア。


 初めは元気が無いように見えたが、今はいつもエミリアのようにシュタインとはしゃいでいるのを見ると、エミリアも音楽祭を楽しめているようだ。



 きっと、シュタインの無邪気さがエミリアをいつも通りにしているのだろう。


 リーナは楽しそうに話すシュタインとエミリアを見て嬉しくなる。




 「嬉しそうだね」




 嬉しい気持ちが顔に出ていたのか、リーナの隣にいるリヒトがそう声をかけて来る。


 リーナは「うん……こうして皆んなでゆっくり過ごすの久しぶりだなって」と頷く。




 「しばらく予定が合わなかったからな」


 「エーデルもリヒトも凄く忙しいもんね」




 リーナの言葉にエーデルが「たまにはこうやって皆んなでどこかに行くのも良いな」と話す。


 その言葉にリーナとリヒトは頷く。




 軽く食べたものの、まだお腹が減るシュタインに付き合い、リーナたちは音楽祭の出店を見て回っていた。


 その時「リーナ?」と呼ぶ声が聞こえて来る。



 声のした方を見ると、そこにはエンゲルとノアがおり、リーナは「エンゲルとシセルバン伯爵?」と驚いたように言う。


 リーナの言う通り、声が聞こえた先には何故かエンゲルとノアが居たのだった。



 リーナの言葉に、シュタインが「え? おわっ、ほんとだ!」と足を止め、続くようにリヒトたちも足を止める。




 「わぁ……! 皆さん偶然ですね!」と嬉しそうにするエンゲルに、エーデルが「珍しい組み合わせですね」と言う。


 確かに、エンゲルとノアはあまり見ない組み合わせで珍しい。



 「一緒に回ってるの?」そう聞くエミリアに、ノアが首を横に振り「いえ。たまたまつい先ほど会ったので挨拶をしていた所です」と答える。




 「たまたまシセルバン伯爵に音楽祭で会うことある?」


 「え? シセルバン伯爵一人で祭り回ってたってこと?」




 そう小声で話すエミリアとシュタインに、ノアは「聞こえていますよ」と返す。




 「この辺はシセルバン伯爵領ですからね。毎年、シセルバン家の騎士団が音楽祭の警備と見回りをしているんです」




 ノアの言葉に「なるほど」と頷くシュタインとエミリア。


 その横でリーナが「エンゲルは? 遊びに来ているの?」と問う。




 「メイドと一緒に買い物していた帰りに、寄ったんです」


 「そうなの? だったら私たちと一緒に音楽祭回らない?」




 エミリアはそう言うと「ね? いいよね!」とリーナたちに聞く。


 リーナは「もちろん!」と頷き、シュタインたちも頷く。



 エンゲルの「いいんですか……?」と言う言葉に、エミリアは「当たり前よ! お祭りは人が多い方が楽しいしね!」と笑う。


 エミリアたちのやり取りを見ていたノアが「それでは私はこれで」と一礼し歩いて行こうとした。



 だがそれをシュタインが「シセルバン伯爵!」と呼び止める。




 「何でしょうか?」


 「せっかくだからシセルバン伯爵も一緒に回ろうよ!」


 「は、」




 「せっかく会ったんだしさ! ね?」とノアを誘うシュタインに「私は見回りがあるので」と断るも、シュタインがそれを断る。




 「祭りは人が多い方が良いってエミリアも言ってたし! ねぇ? 兄貴たちもいいよね?」




 シュタインの言葉に「俺はいいけど」「俺も構わないよ」と返すエーデルとリヒト。


 ノアは「回るなんて……」と拒否しようとするも「はい、決まり!」と半ば強引にノアと歩き出す。



 強引に連れて行かれるノアを見て、リーナは、本当に嫌そう……。と苦笑いを浮かべるのだった。







 「見て! あそこで猿が踊ってるよ!」




 シュタインはそう言っては、少し人だかりができている方へかけて行く。


 「猿が踊ってる?」と眉を顰めるエミリアに続け、リーナたちもシュタインが向かった場所へ行く。




 「本当だ! 踊ってる」




 シュタインの言う通り、猿が音楽に合わせ上下に両手を上げたり、体を動かし、踊っているように見える。




 「すごい……猿も踊れるんだね」


 「可愛いね」




 リヒトとリーナは踊る猿を見ながらそう呟くと、調教師であろう人が「よろしければ撫でてあげてください!」と隣の小さな赤ちゃん猿がいる方を指差す。


 シュタインは「触っていいんですか?」と嬉しそうに言う。




 「わぁ……! 小さい!」




 早速シュタインは猿を抱っこさせてもらっており、嬉しそうにしている。


 その隣でエミリアも「本当。私初めて抱っこしたわ」と言う。



 リーナも猿を抱っこしており、その猿をエーデルが「大人しいな」と撫でる。




 「皆んな良い子だね」


 「シセルバン伯爵も撫でてみては?」




 エーデルはノアにそう言うと、ノアは「いえ。私は遠慮しておきます」と言うも、エーデルは「遠慮しないでください」と無理やりノアを連れて来る。


 そんなエーデルに「兄弟揃って強引ですね」とノア。



 やって来たノアにリーナは「撫でてあげてください」と言うと、ノアはため息を一つつき優しく猿の頭を撫でる。




 「どうですか?」


 「……悪くないですね」




 素直じゃないノアにくすくすと笑うリーナは、本当は彼が動物を好きな事を知っていた。




 「兄貴! ちょっと来て!」




 突然、大声をあげエーデルの事を呼ぶシュタイン。

 

 エーデルは「どうした? シュタイン」とシュタインの元へと行く。



 リーナも何かあったのか気になり、シュタインの方を見た時、近くにいたエンゲルが「きゃっ!」と声を上げたかと思えば、その場で転けそうになり、リヒトがそれを受け止める。


 「大丈夫ですか?」と問いかけるリヒトに、エンゲルは「ごご、ごめんなさい……!」と慌てて離れようとするも、更に体勢を崩しそうになり、リヒトに再び支えられる。



 「ごめんなさい……!」と顔を真っ赤にし謝るエンゲルに、リヒトは「気にしないでください」と眉を下げ笑っている。




 「猿の方も少し驚いただけですよ。可愛いですよ、撫でてみてください」




 どうやら、いきなり近づいて来た猿にエンゲルは驚いたらしく、リヒトは猿の前にしゃがみ撫でながら、エンゲルにそう言うと、エンゲルも同じようにしゃがみ込み、猿の頭を撫でる。




 「ふわふわですね……!」


 「でしょ?」




 そう言いながら猿を撫でるリヒトを見て、エンゲルは頰を赤くしている。


 そんなエンゲルを見て、リーナは、エンゲルってもしかして……。と何かを考える。



 その時「痛っ」とリーナの頭に痛みが走る。


 見てみると、リーナが抱く猿がリーナの髪を掴みながら眠ってしまったらしく、リーナは髪を抜こうとするも猿を抱いているためうまく取れない。



 そんなリーナを見たノアが「髪、触れても良いですか?」と断りを入れて来るので、リーナは「は、はい」と頷く。


 リーナから了承を得たノアは、ゆっくり猿の手からリーナの髪を外す。




 「取れましたよ」


 「あ……ありがとうございます」




 リーナがそうお礼を言うと、ノアが「綺麗な髪だからこの子も触れてみたくなったのでしょう」と言う。


 その言葉に「え?」と驚くリーナは、ノアの顔を見るも、ノアは「どうしました?」と首を傾げる。




 そんなノアを見て、リーナはそうだった。と思い出す。



 ノアはこう言う事をサラッと言う人だった。


 本人は思った事を口にしたまでで、それ以外に意味はないんだよね。


 誰に対しても素で言うから、女性だけじゃなく男性もときめいていたこともあったっけ。



 そう、思い出しては一人苦笑いを浮かべるリーナは、あ、でも……と更に思い出す。


 

 私と婚約してからは、そういうことは無くなってたな。


 私の事はよく褒めてくれてたけど……もしかして、気遣ってくれていたのかな。




 そんな事を考えていると、ノアが「あの、私の顔に何かついていますか?」と聞いて来る。


 その言葉に「え?」と呟くも、自分がずっとノアの事を見ていたと気づき「い、いえ……!」と慌てて顔を逸らす。



 懐かしさに浸ってつい、顔を見過ぎだ……。


 リーナは恥ずかしくなり、耳が赤くなっている。



 そんなリーナを不思議そうに見るノア。

 

 その近くで、リヒトは二人のやり取りを見ては、何も言わずに視線を逸らしたのだった。

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