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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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手紙

 


 「お、お嬢様? びしょ濡れじゃないですか……!」




 ヴァンディリアに馬車が到着するなり、出迎えたエマや執事長のアルバートが血相を変え「皆様早く中へ……!」とリーナたちに屋敷に入るよう言う。



 ヴァンディリアに着く頃には雨は小雨になっていた。




 「早くタオルを……!」


 「ホットミルクの用意も忘れずにね!」


 「とにかく温めなければ!」




 リーナたちが濡れて帰って来たことにより、風邪をひいてはいけないと使用人らは屋敷内を走り回っている。


 その様子をタオルで拭かれながら見守るリーナたち。



 慌てるだろうとは思っていたが、まさかここまで慌てるとは思わず、リーナは少し申し訳なくなる。




 「――フレイヤ様たちが?」




 リーナたちが湯浴みにて体を温めている最中、仕事から帰って来たエーデルにアルバートが、屋敷にフレイヤとアリーが来ていることを伝える。


 エーデルは驚いていたがすぐに「せっかく来て頂いたんだ。もてなさなければな」とアルバートに指示を出す。



 流石はヴァンディリアの当主。

 予想外の事が起きても冷静な対応だ。



 そして、リーナたちは十分に体を温め、湯浴みから出て来るとリーナのドレスに身を包み、エーデルに夕食でもどうですかと誘われ、夕食を食べて行くことにする。




 「えびの料理が沢山……! 私、えびが一番の大好物なんです!」




 アリーはテーブルに並べられた料理を見ては、嬉しそうに話す。


 もちろん、アリーの好物がえびだということはエーデルは知っており、えび料理中心に作ってくれと頼んだのだ。




 「遠慮なくお召し上がりになってくださいね」




 エーデルの言葉にアリーは「頂きます」と手を合わせては料理を食べると、嬉しそうに笑みを浮かべ「すごく美味しいです……!」と言う。


 アリーに続きフレイヤも「ほんと! すごく美味しいわ!」と感激しているよう。




 「皇宮の料理はいつも父様の好物ばかりか、健康を意識した料理しか出ないから美味しくないのよね」




 フレイヤは不満そうにそう話すと、もう一口料理を食べては「それに比べてヴァンディリアの料理は最高ね」と幸せそうに言う。


 そんなフレイヤの話を聞き、フレイヤの隣に座るアリーも「本当にそうです。健康を考えてくれるのはありがたいけど、食事は楽しめないと」と頷いている。




 アサーナトスとアンデル、両国の姫様の皇宮の料理の不満話を聞き、リーナとエーデルは、意外だなという感想が頭をよぎる。


 何というか、皇族の食事はいつも豪華なものばかりだときっと誰もが思っているはず。



 だからフレイヤたちの話を聞き、姫様も大変だなと思うのだった。


 しばらく食事を進めた時、フレイヤは唐突に「そういえば、シュタインは?」と聞く。



 いつも、夕食の時間になると真っ先にダイニングルームへとやって来るくらい、食い意地が張っているシュタイン。


 フレイヤはもちろん、そのことを知っている。



 エーデルは「シュタインは友人と一緒に合宿に行っていて屋敷を空けているんです。もう少しすれば帰って来ると思いますが」と返す。




 「合宿?」


 「はい。同年代の叙任式を受ける前の者が集まって、剣の稽古をするんです」




 エーデルの話にフレイヤは「そっか。シュタインももうすぐ叙任式だもんね」と頷く。


 フレイヤの言う通り、シュタインはもうすぐ十八を迎え、叙任式を受ける事となっている。




 「あのシュタインがね~」とどこか感慨深そうにフレイヤが笑った時、玄関の方が騒がしくなったかと思えば、バタバタと走って来る足音が聞こえて来る。


 それと同時に「ただいま! お腹空いた!」と元気よく発するシュタインがダイニングルームへとやって来る。



 だが、ダイニングルームにフレイヤとアリーがいることは知らなかったのか、フレイヤを見るなり「ふ、フレイヤ様!?」と驚いた声を上げる。


 そんなシュタインにフレイヤは「驚きすぎよ。私たちが来てるって聞かなかったの?」と呆れたように言う。




 「お腹空いたから、話聞かずに来たんです。珍しいですね、うちに来るなんて」




 シュタインはアルバートの呼び止める声も聞かず、真っ先にダイニングルームへとやって来たため、フレイヤたちがいることを聞いていなかった。


 驚きながらも、早々に受け入れているシュタイン。



 そんなシュタインにアリーが「お初にお目にかかります」と声をかける。


 アリーの存在に気づいていなかったのか、声をかけられ「え……」と驚くシュタインは、動きが止まる。




 「アンデルからやって来ました。アリーと申します。お邪魔させていただいております」




 そうシュタインに挨拶するアリー。

 そんなアリーを見て固まり何も返さないシュタイン。


 リーナが「シュタイン?」と声をかけると、シュタインはハッとすると「しゅ、シュタインです。よろしくお願いします……」といつものシュタインとは違い、少し小さめの声で返す。




 そんなシュタインを不思議に思いながらも、食事の続きを始めるリーナは、シュタインの耳が赤くなっているのには気が付かなかった。

 



 「――シュタイン? 聞いてる?」




 夕食を食べ終え、しばらく談笑をしていたリーナたち。


 フレイヤがシュタインに話しかけたのだが、シュタインはどこか上の空で、返事が返ってこなかった。



 フレイヤの言葉にシュタインは「……え? 何ですか?」と問う。


 そんなシュタインに呆れながら「聞いてなかったの?」と言う。




 「もうすぐ叙任式でしょ? どこか希望する騎士団はあるの?」




 フレイヤの話を聞き「あ、あぁ……今はまだないです」と返すも、やはりどこか上の空というか、さっきから誰かを気にしているよう。


 シュタインの様子がいつもと違うことに、フレイヤも気づいたのか「どうしたの? なんか元気ない?」と心配そうに問う。



 その言葉にシュタインは「え……?」と驚く。


 その時、シュタインとアリーの目が合い、シュタインは勢いよくその場に立ち上がると「お、俺疲れたから、もう寝るよ……!」と言い、リーナの呼び止める声も聞かず、部屋から出て行く。




 「どうしたのかしら?」と首を傾げるフレイヤ。


 リーナはエーデルの方を見「シュタイン大丈夫かな?」と問うと、エーデルはしばらく考え「今はそっとしておこう」と言う。




 部屋から出て来たシュタインは、しばらく歩いてはその場で立ち止まり「どうしたんだよ俺……」と、赤くなった顔を手で押さえるのだった。







 「何よこれ……!!」




 エズワルド侯爵邸、ブリューテの部屋の中。


 顔を真っ赤にしては、手に持っていた新聞紙を床に叩きつける。



 そんなブリューテに、側で控えているメイドたちが「お、お嬢様、落ち着いてください!」とブリューテを宥めるも、ブリューテは聞かない。




 「誰に向かって落ち着けって? 首を飛ばされたくなかったら、今直ぐ出て行きなさい!!」




 そうメイドたちに強くあたるブリューテ。

 その時、ブリューテの部屋の扉がノックされる。




 「失礼しますよ。外にまであなたの怒鳴る声が聞こえて来ていますよ」




 そう言いながら部屋に入って来たのは、司祭のゼーゲンだった。


 ゼーゲンはメイドたちに「後は私に任せて、あなたたちは外に出ていてください」と言う。



 メイドたちは戸惑いながらも部屋から出て行く。


 その様子を見送ると、ゼーゲンは先ほどまで人当たりの良い笑みを浮かべていたが、ブリューテに冷めた目を向け「いい加減、自分の思い通りにならないからと言って、癇癪を起こすのはやめられた方がよろしいかと」と話す。



 ゼーゲンの言葉に「何ですって?」と睨みつけるブリューテ。




 「私がどうしてこんなに苛立っているかわからないの? これを見なさいよ!!」




 ブリューテの言葉に、先ほどブリューテが地面に叩きつけた新聞紙をゼーゲンは拾い、紙面一面に書かれた内容を読み上げる。




 「〝フレイヤ皇女、アリー皇女、ヴァンディリア公爵令嬢の御三方、デザート巡りで親交を深める〟」




 そう。今朝の朝刊で、新聞紙に大々的にリーナたちが三人で出かけた事が書かれていたのだった。


 街でリーナたちを見かけた人は多々おり、噂になっていたらしく、三人を見かけた者たちの話によると、仲睦まじく買い物をし、お菓子を食べていたそうだと書かれている。




 「いい事じゃないですか。アルデン国の姫様と親交を深めるのは、アサーナトスにとっても利益になる」




 そう話すゼーゲンにブリューテは「何がいい事よ!!」と怒鳴りつける。




 「本来なら、ヴァンディリア令嬢のところには第一皇子殿下の婚約者である私がいるはずだった! これじゃまるで、彼女が殿下の婚約者のようじゃない!!」




 そう声を上げるブリューテに、ゼーゲンはため息をつくと「それはあなたの思い込みでしょう? ヴァンディリア令嬢はアルデン語が話せたから招待したと書かれていたでしょう?」と言う。




 「なるべく自然体で話せるよう、通訳をつかせなかったと。あなた、アンデル語を話せるんですか?」




 ゼーゲンにそう言われ「それは……」と口をつぐむブリューテ。




 「そんなに悔しいのなら、あなたもアンデル語を話せるように勉強されたらどうです?」




 そう言うゼーゲンに、ブリューテは「大体……!」と更に声を上げる。




 「彼女を痛い目に遭わせてって頼んでるのに、何一つ出来てないじゃない……!!」


 「なら、ヴァンディリアに潜入している人に伝えてください。もう少しマシな情報を提供しろと」


 「最近は、ほぼ近況報告じゃないですか」




 ゼーゲンの言葉に、ブリューテは何かを思い出したのか「そういえば、また手紙が届いてたんだったわ」と言うと、引き出しから手紙を取り出す。




 「今回の手紙によく分からない言葉が書かれていたんだけど、あなた分かる?」


 「さぁ……見てみないと分かりませんが」




 ゼーゲンはそう言うと、ブリューテから手紙を受け取り、目を通す。


 すると「これは……!」と驚いたように言う。



 そんなゼーゲンに「何? そのフォルトモントって何か知っているの?」と問う。


 手紙には、最近フォルトモントという言葉を耳にし、何やらヴァンディリア令嬢と関わりがあるようだ。と書かれていたのだ。



 ゼーゲンは「たまにはいいものを持って来ますね」と笑みを浮かべる。




 「ヴァンディリア令嬢の年齢を知っていますか?」


 「私と同じでもうすぐ十八だけど?」




 ブリューテの言葉に、ゼーゲンは「なんたる偶然。もう時期聖誕祭もありますしやはり、全ては神の導きか」と訳のわからないことをぶつぶつと呟く。


 ブリューテは「どういうこと?」と問うも、ゼーゲンは「今はまだお話できません。いずれまた」と言うと、用ができたと部屋から出て行くのだった。

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