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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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箝口令



 「箝口令(かんこうれい)が敷かれたそうだ」




 朝刊が出た日の昼、ヴァンディリア公爵邸を訪れていたリヒトは、朝刊について話をしていた。


 リヒトの言葉に「箝口令……?」と、談話室に集まっていたエーデルとリーナは驚いた表情を浮かべる。



 朝刊にてパーティー参加者の名前が掲載されるはずだったのだが、実際は載ることはなかった。


 その理由をリヒトは箝口令が敷かれたからだと話すのだ。



 リヒトの話を聞いていたシュタインが「箝口令だなんて、どうしていきなり? 神聖国側が敷いたの?」と戸惑いながら問いかける。


 シュタインの言葉にリヒトは首を横に振ると「敷いたのは陛下だ」とゆっくりと言う。



 「陛下が?」と驚くエーデルに、リヒトは頷くと事の経緯を説明し始める。




 「今朝早くに、うちに皇宮から使いが来たんだ。パーティー参加者の中に、〝皇室関係者〟がいたから一部箝口令が敷かれ事になったって」




 リヒトの話に驚くリーナたち。


 シュタインが「それで箝口令が……」と呟くも、エーデルが「どうしていきなり皇室関係者が参加していたと分かったんだ?」と眉を顰める。




 「それに、皇室関係者が参加していたと言う理由だけで、神聖国が箝口令を敷く事を許可した事も気になるな」


 「それは俺も考えていた。初めから皇室関係者が参加していたと知っていたとしても、何故いきなり箝口令を敷く事にしたのか」




 エーデルとリヒトの話に、シュタインは「どう言う事?」と二人の顔を交互に見る。


 そんな中、リーナは「……誰かが、皇室関係者が参加していた事を神聖国側に教えた?」と呟く。



 その言葉にエーデルは「あぁ。その可能性が高いな」と頷き「でも一体誰が?」と顎に手をやるリヒト。


 リーナも同じように考える中で、ある人物の事が思い浮かび「まさか……」と小さく呟いた。







 『――忙しそうですね、ゼーゲン司祭』




 リーナが神聖国へと訪れた後、執務室に訪れたナハトに目を向ける事なく、忙しそうに書類に目を通すゼーゲンに声をかけるナハト。


 ゼーゲンは書類から目を離す事なく『ご覧の通りですよ。まぁ、多少の忙しさは覚悟はしていましたが』と答える。




 『それより、あなたが私の部屋へとやって来るとは珍しいですね。何かありましたか?』




 そう言うと、ゼーゲンは書類からナハトに視線を移し、どこか嬉しそうに笑みを浮かべる。


 そんなゼーゲンを少し見つめると『……私も、仮面パーティーについて調べていたのですが』と言う。




 『ナハト司祭が? これまた珍しいですね。この手の話に全く興味を示さないのに……やはり、ナハト司祭もヨハス司祭が気に入らなかったのですね』




 そう嬉々と話すゼーゲンは『それで、わざわざ私の元までやって来たと言うことは、何か良い事があったんですね?』と問いかける。


 ナハトは頷くと『中々興味深い人物が、あのパーティーに支援をしている事がわかりました』と、懐から一枚の紙を取り出しては、執務机の上に置く。



 ナハトが机に置いた紙に目を通すゼーゲン。




 『これは?』


 『()()()()がヨハス司祭に会うため、会場内に訪れた日にち、時刻、回数とそこでの内容が事細かく時間と共に書かれてあります』




 ナハトの言葉に、勢いよく顔を上げては『まさか、皇后も利用者だったのですか?』とナハトを見るゼーゲン。


 ゼーゲンの問いに、ナハトは『少し違います』と首を横に振ると『皇后陛下は、ヨハス司祭に資金を渡していました』と答える。



 ナハトの話を聞き、驚きが隠せない様子のゼーゲン。




 『ヨハス司祭に同行していた聖騎士団員の証言によるものなので一言一句間違いありません。』




 そう平然と話すナハトに、ゼーゲンは『いつの間に調べていたんですか?』と問うと『私もずっと調べてはいましたが、気が付きませんでした』と言っては、椅子の背もたれにもたれかかる。




 『よく、皇后陛下が資金を渡していると知っていましたね』


 『たまたまヨハス司祭が落とした書類を見たんです。拾う際にほんの少し見えた程度なので、確証はありませんでしたが』




 ナハトの話を聞きながら感心したように頷くゼーゲン。


 そんなゼーゲンを見るナハト。



 ゼーゲンは書類に目を通し『それで……どうしてこの事を私に?』と問いかけると、ナハトは言う。




 『……資金が足りないと仰られていましたよね』




 ナハトの言葉の意味を理解したのか、ゼーゲンは驚いた表情を浮かべるも、直ぐに笑みを浮かべ『あなたが調べ上げたのに、いいのですか?』と問う。


 ナハトは全く表情を変えずに頷くと『きっと、この事を両陛下に話せば、今回の仮面パーティーの詳細を伏せてくれと仰られるはず。そのためなら、どんな望みでも聞いてくださるでしょう』と話す。




 『そうなれば、一部に箝口令が敷かれる事になり、参加者の名前は伏せられる事になる……が』


 『私なら皇室に恩を与える方が利益と考えます』




 ナハトとの言葉に『本当によろしいのですか?』と再度問うゼーゲン。


 ナハトは『えぇ』と頷くと『私は特に、今のところお金には困っていませんので。お好きにお使いください』と答える。



 ゼーゲンは笑みを浮かべると立ち上がり『早速、皇宮へと向かうとします』と部屋を出て行く。


 そんなゼーゲンの後ろ姿を見送るナハト。



 こうして、ゼーゲンと両陛下の間で取引が行われ、仮面パーティーの件について、一部箝口令が敷かれ、エミリア含めパーティー参加者の名前は伏せられる事となったのだった。







 仮面パーティーの騒動から一週間が経った日、あれから一度、リーナはエミリアに会い話をした。


 いつもの元気さはなかったが、エミリアの体調は良さそうで、ひとまず安心した。



 そして今日、リーナはフレイヤに招かれ皇宮へとやって来ていたのだが、皇宮の廊下を歩いている途中である人物と会い、足を止めては「ナハト司祭」とその名を呼ぶ。


 リーナの向かい側から歩いて来たのは、ナハト司祭で、立ち止まるリーナを見てはナハトも足を止める。




 「一週間ぶりですね」と淡々と話すリーナに、ナハトも「えぇ、そうですね」と淡々と返すと「私はこれで」と歩いて行こうとする。


 リーナを少し過ぎたナハトを、リーナは振り返ると「仮面パーティー」と言う。



 その言葉を聞いたナハトは振り返る事なく、足を止める。


 だがリーナは気にせずに、ナハトの背に向かい話す。




 「箝口令が敷かれた事に、関わっていますよね?」




 参加者の名前を公表すると言っていた神聖国が、いきなり箝口令を敷く事を許可した。


 皇宮と神聖国の仲は良くなく、一部の神聖国の人間は神聖国こそがアサーナトスの中心に立つべきと考える者がおり、その代表がゼーゲンだ。


 そんなゼーゲンが、皇室と皇室側に着くグランべセルの不祥事を隠蔽するような事をしたりはしないだろう。



 きっと、彼に近しい誰かが話をしたのだと。


 そうなった時、一番思い当たるのがナハトだった。



 回帰前、ゼーゲンとは会ったことはなかったが、ナハトとは同年代で同じく天才と持て囃され、行動を共にしていたと話を耳にしていた。


 自信家のゼーゲンが、唯一話に耳を傾ける相手がナハトだと。



 その事を思い出したリーナは、今回の件もナハトが関わっているのではと思ったのだった。




 リーナの言葉に、ナハトはゆっくりと後ろを振り返っては「何の事を仰られているのか分かりませんね」と答える。


 その表情に感情はなく、全く考えていることが読めない。



 そんなナハトにリーナは「……とぼけるつもりですか?」と眉を顰める。




 「とぼけるも何も、私には何の話かさっぱりですので。」




 そう、しらを切るナハトに、リーナは「まぁいいです」と話すと「……助けたつもりはないでしょうが、今回ばかりは助かりました。ありがとうございます」と礼を言う。


 まさか、お礼を言われるとは思っていなかったのか、僅かにだが、瞳が揺れる。



 リーナは「私はこれで」と告げると、歩いて行く。


 それと同時に、ナハトの元にやって来た助祭が、歩いて行くリーナの後ろ姿を見つめるナハトに「お待たせしました、司祭様……!」と駆け寄って来る。



 助祭は息を整えながら、ナハトの顔を見ては「あれ……?」と首を傾げると、笑みを浮かべ問いかける。




 「司祭様。何かいいことがありましたか?」




 助祭の言葉に、驚いたのかナハトは勢いよく、助祭に顔を向けては「……何故、そう思うのですか?」と問う。


 そんなナハトに助祭は「何だか笑っているように見えたので、そうかと……」と言う。




 ナハトは驚いたように「笑っている……? 私が……?」と呟いては、自身の頰に手をあてる。


 そして、もう今は姿が見えない、廊下の奥に視線を向けては「やはり、おかしくなってしまったようだ」と眉を顰め呟くのだった。

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