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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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提案



 グランべセル公爵邸、グランべセル当主の執務室。


 そこでは執務机に肘をつき、おでこに手をやるグランべセル公爵と、ドレスを掴み俯きながらソファに座るエミリア。


 そんなエミリアの向かい側に、エミリアを見つめ座るリヒトの姿があった。



 公爵はため息をつくと「……まずい事になったな」と呟き、その言葉にエミリアは更にドレスを掴む手に力を入れる。




 聖騎士団は、パーティーに参加していた者たちを解放したのだが、パーティー会場内で麻薬の取引に加えあらゆる犯罪が行われていると言う、ある協力者の証言により、強制捜査を行なったと話し、パーティー会場に参加していた者たちを解放はしたものの、パーティーの経営者であるヨハスとその他数名の関係者を逮捕。


 また、パーティーに参加したものたちを逮捕しない代わりに、罰として参加した者の名前を朝刊で明かすと、神聖国から報告があったのだった。




 その中にはもちろん、エミリアも入っておりその事を話していた。


 エミリアは「……ごめんなさい」と泣きそうな声で謝る。



 そんなエミリアに公爵は「お前は賢い子だと思っていたのに……あれほどあのパーティーには行くなと言っただろ? どうしてパーティーなんかに行ったんだ?」と問う。


 だが、エミリアは何も言わず俯いている。



 公爵はため息をつくと「このままでは、国民から非難の声が上がる。一体どうしたものか」と眉を顰める。




 「パーティーに参加していたのはグランべセル(うち)だけではありません。他の名家の者たちも参加をしていました。このままでは国民から多くの不満が上がり、また暴動が起きかねません」


 「陛下はこの件についてどのように仰られているのですか?」




 リヒトの問いに、公爵は「お前も分かっているだろ? 神聖国が動いた以上、例え陛下だろうが動くことが難しいと」と首を横に振る。




 「シセルバン伯爵ならどうにか出来るかもしれないが、麻薬の取引などの犯罪が行われていたパーティーに参加したとなれば、手は貸してくれないだろう」




 その言葉にリヒトは眉を顰め、何も言わない。


 唯一、神聖国相手に掛け合う事ができるシセルバン伯爵家。


 だが、今回ばかりは伯爵家当主であるノアは力を貸してくれないだろう。




 「何てバカな真似を……エミリア。お前はグランべセルの娘だ。それがどれだけの意味を持つか、幼い頃から散々話してきたと言うのに」




 そう頭を抱える公爵に、リヒトは「父上。今はその事を話している場合ではありません」と言った時だった。


 エミリアは「……から」と何かを呟く。



 その声はあまりにも小さく、はっきりと聞こえず、リヒトは「どうした? エミリア」と問いかける。


 するとエミリアはずっと下げていた顔を上げては「一度でいいから、グランべセル家の人間としてじゃ無くて誰かと話してみたかったから……!!」と声を上げる。



 そんなエミリアに驚くリヒトと公爵。


 リヒトが「エミリア……」と名前を呼ぶも、エミリアはそれを遮り言う。




 「どこに行っても、誰と話しても皆んなグランべセルの娘としてしか接してくれない。誰も私自身を見ようとしてはくれない!!」


 「表では皆んな、いい顔をしてくるけど、裏では皆んな私と兄様を比べては、私の事を悪く言うの」


 「分かってる!! グランべセルに生まれた以上、そう言った人はいくらでも集まってくるってことも、それに苦しんでいるのは兄様も同じだって言うことも!!」




 エミリアはそう話しては、息を吐きながら「分かってる……けど」と震えた声で言う。




 「一度だけでいいから、誰も私の事を知らない状態で誰かと話してみたかったの。だから……」




 エミリアはそう言うと、立ち上がったかと思えば、リヒトが呼び止める声も聞かず、部屋から出て行った。


 リヒトは扉から、公爵に視線を向けると「父上」と公爵を呼ぶ。




 「家の当主として、グランべセルを守らなければならない事は承知しています。ですが今は、少しでもエミリアに寄り添ってあげてください」


 「叱るべき場面ですが、今のエミリアに必要なのは父上たちの寄り添いです。もちろん、俺もエミリアを気にはかけますが、()では力不足な時だってありますから」


 「あの人にも話しておいてください」



 リヒトはそう言うと、執務室から出ると、丁度執務室にやって来、入ろうとしていたグランべセル公爵夫人と鉢合わせる。


 公爵夫人は何か言おうとするも、リヒトは何も言わず去って行く。







 「ごめんね。エマに着いて来てもらっちゃって」




 馬車の中。

 リーナは向かい側に座るメイド長のエマにそう謝る。


 エマは「気にしないでください。お嬢様一人で行かせるわけにはいきませんから」と首を横に振る。




 昨夜、屋敷に戻ってきたエーデルに話を全て聞いたリーナ。


 そして、今朝エーデルから参加者の名前を神聖国が明かすと聞き、知った。



 エーデルは平常を装っていたが、神聖国の知らせを受け、後悔している様な表情を浮かべていた。


 きっと、エーデルはエミリアを助けなかった事を後悔しているだろう。



 だけど、エーデルの対応は正しい。

 

 きっと、リーナが同じ立場でもエーデルと同じ対応をするだろうし、他の名家の当主が同じ立場になってもそうだったはず。




 「でも良かったのですか? エーデル様に内緒で神聖国に行っても」




 エマの言葉に、リーナは「……バレたらまずいかな」と眉を下げ笑う。



 何とか力を貸してもらえるよう、エーデルはリヒトと皇宮へと向かい、シセルバン伯爵にも話をすると言う。


 だがその望みは薄い。

 


 リーナは、エミリアのことを聞き、ただ明日の朝刊を待っているだけではだめだと思い、どうなるかは分からないがゼーゲン司祭にある()()をするためにエーデルたちには内緒で神聖国へと向かっているのだった。



 そう話をしているうちに馬車は止まり、リーナたちは馬車から降りる。


 いつ来ても神聖国の独特な雰囲気になれない。


 フォルトモントの件を知り、ずっと遠ざけていたため、神聖国に来るのは久しぶりだった。



 リーナは一つ深呼吸しては「行こう、エマ」と歩き出す。


 証明を持っているから神聖国内に入る事はできるが、いきなりの訪問で約束をしていないので、ゼーゲン司祭に会えるかは分からない。


 だけど、リーナには策があった。



 神聖国に入る門からしばらく歩き、教会の入り口までやってき、リーナは緊張から汗で濡れる手を強く握りしめては、教会へと入って行こうとする。


 その時だった。




 「ここで何をしているのですか?」




 低く冷たい声が聞こえてき、リーナの足を止める。


 神聖国にやって来た以上、会うとは思っていたがこんなに早く会うなんて。



 そう思いながら、リーナは声のした方に顔を向けては「ナハト司祭」とその名を呼ぶ。


 リーナの視線の先には、相変わらず冷たい目をリーナに向けてくるナハトが立っており、真っ直ぐリーナを見ていた。




 リーナは「お久しぶりですね。ユリスでお会いして以来でしょうか」と笑みを浮かべる。


 「そうですね」と頷くナハト。



 相変わらず、表情が変わらず何を考えているのか分からない。


 こんな所で足を止めている場合ではないと、リーナは「用があるので私はこれで」と、エーデルが帰って来るまでに屋敷に戻らなければならないので、話を切り上げようとした。



 だがナハトの「ゼーゲン司祭に例のことを話すつもりですか」と言う声で足が止まる。


 リーナは驚き振り返っては「……何のことですか?」と眉を顰め尋ねる。



 ナハトはリーナの後ろで、不安そうな表情を浮かべ立つエマに視線を向けては「話してもよろしいのですか」と問う。


 リーナはエマに視線を向けると「エマ。ナハト司祭と二人で話があるから、外してくれる?」と言う。



 エマは不安そうな表情をリーナに向けるも「かしこまりました」とその場から離れる。


 リーナはナハトに顔を向けては「私が何をしに来たのか分かったような口ぶりですね」と眉を顰めると、ナハトは頷き「フォルトモントのことをゼーゲン司祭に話すつもりなんでしょう」と答える。



 ナハトの言ったことに、リーナは言葉を詰まらせる。


 ナハトの言った通り、リーナはゼーゲンに自分はフォルトモントの血を引くと言うことを話そうとしていたからだ。


 

 フォルトモントの人間を攫っているとすれば、フォルトモントの血を引く人間が必要という事。

 

 ならば、リーナがフォルトモントである事を知れば、確実に神聖国は欲しがるだろう。そう考えたリーナは取引として使えるのではと神聖国にやって来たのだ。




 誰にも話していない事を、まさかナハトに気づかれるとは思わず、リーナは思わず動揺してしまう。




 「……どうして、そう思ったのですか?」




 リーナの問いかけに、ナハトは表情を全く変えず話す。




 「あなたは友人思いだ。神聖国が関わっているとなれば、自分を犠牲にしてもフォルトモントの事を持ちかけるのではと思ったまでです」


 「まさか本当にそんな無謀な真似をするとは思いませんでしたが」




 ナハトの話を聞いたリーナは「なっ……!」とムキになる。




 「無謀なことかどうかは、話してからではないと分からないじゃないですか」


 「では何故、神聖国がフォルトモントを必要としていると思っているのですか?」




 ナハトの問いに、リーナは言葉を詰まらせる。


 神聖国がフォルトモントの人間を攫っているという事は証拠がなく、確かではないからだ。


 それにその事を知っていると、神聖国にバレることは避けたい。



 黙るリーナにナハトは「あなたはもう少し頭のいい人だと思っていましたが、そうではないようですね」とため息混じりに話す。




 「取引とは互いに価値がある内容で行われる。相手に対しての価値もわからないまま、取引を持ちかけるのはリスクが大きすぎる」


 「最悪の場合、グランべセルだけではなく、ヴァンディリアまで危険な目に遭う可能性だってある」


 「友を救いたいという気持ちは立派ですが、その立派な気持ちだけでどうこうできるほど、ゼーゲン司祭は甘くはありませんよ」




 ナハトの言葉にリーナは手に力を入れては「分かってる……!!」と声を上げる。


 その瞳には涙が浮かんでいる。



 無謀な事も、下手をすればリーナだけではなく、ヴァンディリアも危険な目に遭わせるかも知れないという事も。


 だけど、リーナには取引を持ちかけることしか出来なかった。



 自分の不甲斐なさと、ナハトに正論を言われリーナは悔しかった。




 「分かってるけど、これしか方法が見つからないの……」




 そう涙を流すリーナを黙って見つめるナハト。


 そして「……どちらにせよ、今日、ゼーゲン司祭は教会にはいませんよ。例のパーティーの件で出ています」と話す。



 結局、リーナは何もできぬまま屋敷に戻ってき、悔しい気持ちと不甲斐なさを抱えたまま朝を迎えた。


 そして、約束通り今朝の朝刊でパーティー参加者の名前が明かされる。



 だったはずだが、朝刊の内容にはヨハス司祭とその他の関係者の事が明かされているだけで、パーティー参加者の名前は書かれる事はなかったのだった。

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