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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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鉢合わせ



 「――さん、リヒトさん!」




 視線を下に向け、一点を見つめるリヒトのことを、小声ながらも必死に呼ぶ仮面をつけた男性。


 何度目かで自分のことを呼んでいる事に気づいたリヒトは「ごめん……どうした?」と首を傾ける。



 リヒトたちシャッテンヴェヒターは、仮面パーティーに潜入捜査を行なっており、今夜の潜入担当はリヒトと同じくシャッテンヴェヒターのテオと他二名。


 パーティー会場内は、広く、多くの部屋があるためペアを組んで行動しており、リヒトは同期のテオと組む事になったのだ。



 テオは「特に用はないんですけど」と言うと、小さな顔に比べて大きな仮面を軽く上に上げながら「今日ずっと元気がないようなので……」と心配したように言う。


 テオの言葉にリヒトは「あ……」と呟くと「ごめんね。少し考え事をしていて」と仮面から覗く目元に笑みを浮かべる。




 「リヒトさんが任務中に考え事だなんて珍しいですね。何かあったんですか?」




 パーティーの参列者を装うために手に持つグラスを飲むふりをしながら、隣に立つリヒトに首を傾げるテオ。


 リヒトは言おうか迷うも「……妹の事でちょっとね。最近気にかけてやれてなかったなって」と話す。




 「喧嘩したんですか?」


 「まぁ……そんな所かな。今まで、軽い言い合いはしてきたけど、今回みたいな口を聞いてくれないって言うのは初めてで」




 「どうしたらいいか分からなくて」そう話すリヒトをじっと見つめると、テオは「リヒトさんがそんなに悩んでいるの初めて見ました」と丸くて大きな目を二回ほど瞬きする。




 「そうかな?」


 「はい! いつも何でもリヒトさんはそつなくこなすから。」




 「本当に尊敬しているんですよ!」と力強く話すテオに、リヒトは「ありがとう」と笑う。


 話がそれた事に気づいたテオは「すみません! 妹さんとの事でしたね」と慌てて言う。




 「僕には兄がいるんですけど、兄とは毎日喧嘩していましたよ。騎士団に入るまでは」




 そう言うテオの話に「毎日?」と驚くリヒト。


 テオは「そう、毎日!」と頷く。




 「小さなことから、もう一生許さない!! ってことまで。一週間口を聞かない日もありました」


 「……そういう時はどうするの?」




 リヒトの言葉にテオは笑うと「どうもしません」と答える。


 テオの返答に驚くリヒトを見て、テオはふふっと笑みを浮かべると「気づいたら仲直りしているから」と言う。




 「別に、どちらから謝ったわけでも、何かきっかけがあったわけでもないですけど、どんなに激しく言い合っても気づいたら普通に話しているんです」


 「きっと兄弟ってそういうものなんです」


 「どんなに憎んでもむかついても、結局僕は兄のことが大好きで大切だから。そして兄も僕と同じだから、どんなに喧嘩をしてもまたいつものように話をする」




 そう話すテオをリヒトは黙って見つめる。


 そんなリヒトに顔を向けると、テオは「妹さんのこと大切ですか?」と問いかける。



 まさか、そんな事を聞かれるとは思っていなかったのか、リヒトは一瞬驚いた顔を浮かべるも、すぐに「もちろん、大切だよ」と頷く。


 その言葉を聞き、テオは笑顔を浮かべると、力強くはっきりと言う。




 「なら大丈夫です。直ぐに仲直り出来ますよ」







 「あ、あの……もしよろしければ、私たちと一緒にお話でもしませんか?」

 



 仮面パーティーへと、エミリアを探しに来たエーデルとシュタイン。


 会場内に入る時は、仮面をつけることが義務付けられており、当然エーデルとシュタインも仮面をつけているのだが。



 エーデルの周りには数人の女性が集まり、仮面をつけていても顔を赤らめているのが分かる。


 女性たちが、恥じらいの混じる声でエーデルを誘うのを、シュタインは横で引いたような表情を浮かべ見ている。



 顔の半分隠れていても分かる、端正な顔立ちに一際高い背。


 先ほどから会場内の女性たちが、エーデルに好意的な視線を向けては、話せる機会を伺っているようで、帝国三大美男の名は伊達ではないと言うことがわかる。


 

 話しかけてきた女性たちに、エーデルは笑みを浮かべると「すみません。僕たち二人で楽しみたいので」とシュタインの肩を抱く。


 その行動にシュタインは「は?」と思い切り顔を歪ませ、女性たちは「え……?」と戸惑っている様子。



 だが、エーデルは全く気にした様子もなく「ね?」とシュタインに笑みを浮かべるので、シュタインも「お、おぅ……」と戸惑いながら返事を返す。



 エーデルは、シュタインの肩を抱きながら女性たちに笑みを向けると、女性たちはハッとしたように「お、お邪魔してしまいすみません……」「私たちはこれで」と帰って行く。


 そんな女性たちを見送るエーデルに、シュタインは「さっきの何だよ? 気持ち悪い!!」と声を抑えながら怒る。




 「普通に断ればいいのに、何が僕たち二人で楽しみたいだよ! 肩を抱くな!」




 そう怒るシュタインにエーデルは平然と「ああ言っとけば、話は広まって誰も寄ってこないだろ。」と言うのだ。




 「エミリアを探しに来たんだ。他の来場者に一々構っている暇はないからな」


 「だからってやり方があるだろ!」




 そう騒ぐシュタインをエーデルは「誰のせいでこんな所に来たと思っているんだ?」と睨む。


 その言葉に、シュタインは「それは……俺のせいだけど……」と先程までの威勢は無く、力無い声で呟く。




 「そうだ。お前に文句を言う筋合いはない。文句を言っている暇があるなら、さっさとエミリアを探せ」




 エーデルにそう言われ「はい……」と返すも「ここの会場にはいないんじゃないかな」と言う。


 建物のないの会場はいくつもあり、それぞれに人が集まっているため、一つずつ探して行っているのだが、どうやら今いる会場にエミリアらしき人物は居ないよう。



 エーデルは「だな」と頷くと、他の会場を探すため、会場内から出る。




 「シュタイン。あまり汗をかくなよ。髪染めが落ちるからな」


 「そんな無茶な」




 エーデルとシュタインは、次の会場へと向かう最中、そんな会話をしていた。


 ヴァンディリア家の人間は美しい純白の髪に、澄んだ青い瞳をしており、一目でヴァンディリアの人間だと分かってしまうため、エーデルとシュタインはハーブなどを使い、髪を金色に染めていたのだ。


 流石に瞳の色は変えられないため、青い瞳のままだが。



 一時的に染めているため、汗をかけば塗料は落ちてくるため、なるべく汗をかかないようにしなければならないのだ。



 二人が言い合いをしながら会場へと向かう長い廊下を歩いていた時、どこからか「やめてください……!」と言う女性の声が聞こえてくる。


 その声を聞いた二人は顔を見合わせると、声のした方へと足を進める。




 「何しているんだ?」




 女性の声がした方に向かえば、そこには空いている部屋に女性を連れ込もうとしていた数名の男たちがいた。


 いきなりやって来たエーデルとシュタインに、男たちは「何だ? お前たち」と問いかける。



 そんな男たちにエーデルは「何をしているんだと聞いているんだ。された質問に答えろ。会話もろくに出来ないのか」と呆れたように言う。


 その言葉に、男たちは腹を立てたのか、仮面をかぶっていてもわかるくらい顔を真っ赤にし「誰か知らないがな、俺たちは貴族だぞ? 口には気をつけるんだな」と言うのだ。



 何とも典型的な悪役のセリフに、エーデルは「分かった」と頷く。


 あまりにも予想外の返事に、一瞬、シュタイン含めその場にいる者は「分かった……?」と固まるも、直ぐに男たちは「ふざけてるのか!!」と声を荒げる。




 「俺たちの行動を止めに来たのか知らないがな、ここではこういった事は多く行われている。お前たちも知っているだろ?」


 「だから見逃せと?」




 エーデルの問いに、男は「そうだ。いちいち取り締まっていたらキリがないからな」と笑みを浮かべるも、エーデルは「お前は馬鹿だな」と返す。




 「犯罪を犯そうとしたくせに、見つかれば皆んなやってると意味のわからない主張をして……そう言われ、はい、そうですか。と答える奴がどこにいるんだ。なぁ、シュタイン」




 エーデルにそう言われ、シュタインは「あぁ」と頷くと、男たちに「犯罪は犯罪だ。見逃すわけないでしょ!!」と声を上げる。


 そんな二人に男たちは「馬鹿な奴なのはお前たちだ」「俺たちは騎士団に所属して――」と力自慢を始める。



 だが、エーデルとシュタインは全く話を聞いておらず「シュタイン、汗はかくなよ」「だから無理だって!」と髪の心配をしている。




 そんな二人が気に障ったのか、耳まで真っ赤にした一人の男がエーデルに向かい走って来ると、そのまま拳を振り下ろす。


 だがエーデルはそれを軽々と避けると、残しておいたエーデルの足に引っかかり、男はその場に激しく転ぶ。



 そんな男を見下ろしながら、エーデルは「申し訳ない。足が長くて」と言うとシュタインは「ほんといい性格してるよな、兄貴って」と呆れた顔を向ける。




 「ちょ、調子に乗りやがって!!」




 残りの男がそう声を上げたのと同時に、男たちはエーデルとシュタインに一斉に殴りかかりに行く。







 「――シュタイン?」




 飲み物を飲もうとグラスを口につけた時、ふと耳に届いた気がする声に驚き、そう呟いては辺りを見渡すも、そんなわけないか。と飲物を飲む。


 エミリアはシュタインが思っていた通り、仮面パーティーへとやって来ており、何度か来て仲良くなった人たちと話をしていた。



 エミリアはグランべセル公爵に、夜中にこっそりと外出をしているのがバレ、ずっと部屋に引きこもっていたため、ずっと部屋にいると思われているのか、夜中抜け出すのは案外簡単に行けたのだった。




 「レディ。どうかしました?」




 隣に座る男性が、エミリアにそう声をかけてくるので、エミリアは「いえ……!」と笑みを浮かべる。




 「今日は何だかいつもより人が多い気がしません?」




 一人の女性が会場内を見渡しては、そう話をする。


 エミリアはそう言われるまで気が付かなかったけど、言われてみれば、いつもより多い気がし、いつもよりザワザワとしている気がする。




 「何かあるんですかね?」




 そう首を傾げるエミリアに、男性が「さぁ……でも最近、ますます人気だそうで。来場者が増えたのかもしれないですね」と答える。




 「身分を隠せるというのが、やはりいいそうで」

 

 「中には帝国を代表する名家の方も参加しているとかで」




 その話に、エミリアは飲んでいた飲物で咽せてしまう。


 「レディ、ハンカチを」と渡されたハンカチを「ありがとうございます」と受け取るエミリア。




 「名家って? エズワルドとか?」


 「いいえ。ヴァンディリアとかグランべセルって話もあるわ。何せ、かなりの名家って聞いたけど」




 その話を聞いている間、エミリアの背には冷や汗がながれ、もしかして、バレたの……? と頭の中が真っ白になる。


 そんなエミリアに、一人の女性が「どうしたの? 仮面を被っていても分かるくらい顔が真っ青よ?」と声をかける。



 他の者たちも「本当だ」「大丈夫?」とエミリアに一斉に視線を向ける。


 その事に対し、エミリアの心臓はドクッと音を立て、早く打ち出す。



 エミリアは「わ、私少し、外の空気を吸って来るわ……!」と言うと、止める声も聞かず、逃げるように会場内から出る。




 どうしよう……そんな噂があるなんて知らなかった。


 もし、私がグランべセルの人間だとバレていたらどうしよう……!




 そう考えながら、廊下を早歩きで歩くエミリア。


 その時、前の方から話し声が聞こえて来たかと思えば、二人組の男性が歩いて来ていた。



 そのうちの一人はずば抜けて高い背に、漆黒の髪をしており、顔を見なくても一目で誰かがわかった。




 「兄様――」




 そこまで言って、ハッとし口を押さえる。無意識にその言葉を口にしていたのだ。


 声が聞こえたのか、漆黒の髪の男性は足を止め「え……?」とエミリアをじっと見つめる。



 そして「エミリアか……?」と男性が言ったのと同時に、エミリアは来た道を走る。


 漆黒の髪をした男性は、会場内を見回りしていたリヒトで「エミリア!!」と後を追うも、曲がり角を歩いて来た女性とぶつかってしまい、女性はその場に転けてしまう。




 「申し訳ありません。」



 

 リヒトはそう言って女性に手を差し出し、怪我はないかと確認する。


 幸い、怪我はしていないようだが、エミリアの姿は見えなくなっていた。

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