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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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綺麗よ



 「ゼーゲン司祭様。こちら、頼まれていた件の報告書です」




 聖騎士団の制服を着用した、一人のガタイの良い男性がそう部屋に入って来ては、ソファに座るゼーゲンに書類を渡す。


 騎士から受け取った書類に目を通しては「順調ですね。これなら予定通り行えそうです」と笑みを浮かべる。




 「ご苦労様です。引き続き、見張りの方よろしくお願いいたします」




 ゼーゲンの言葉に、騎士は「承知いたしました」と胸に手を当てお辞儀をしては、部屋から出て行く。




 「ヨハス司祭についてですか?」




 ゼーゲンの向かい側に座り紅茶を飲むナハトが、ご機嫌に笑みを浮かべるゼーゲンに問いかける。


 すると、ゼーゲンは「おや? 興味がおありで?」と更に笑みを浮かべ、前のめりになる。




 「もしご興味があるのなら、特別にナハト司祭にはお話ししますよ」




 普段、他人の行動を全く気にしないナハトが、自分の行動に興味を持ってくれた事が嬉しいのか、ゼーゲンは嬉しそうにナハトに言うも、ナハトは「別に。興味はありません。ただ確認しただけです」と淡々と返す。


 そんなナハトにゼーゲンは何故か嬉しそうに「相変わらずですね」と笑う。




 「あなたは誰に対してもまるで関心がない。実の家族にももう会っていないとか?」


 「神道を生きるのに必要ではありませんから」


 「会いたいとは思わないのですか?」




 ただの気まぐれだろう。ゼーゲンが本当に興味があってナハトにこう言った質問をしているわけではないと言うことは、ナハトには分かっていた。


 だからといって適当にあしらっても、ゼーゲンはしつこく聞いてくるだろう。



 ナハトは「思わないですね」とはっきりと答える。

 

 そんなナハトに「それは何故?」と更に問うゼーゲン。




 「先ほども申し上げましたが、神道を極めるのに家族との関わりは必要ありません。むしろ妨げになります。それに、私にとって必要である存在ならば、会いに行かずとも神が私の元へと導きいつかどこかで会うでしょう。」


 「すべては神の導きの元、成り立っていますので。」


 「また会わないことも神の導きだと?」




 「えぇ」と頷くナハト。ゼーゲンは「その考えは私も同じだ」と笑みを浮かべると、嬉しそうな顔をナハトに向けては「やはり、あなたとは仲良くやれそうです」と言う。




 「我々聖職者は平等でいなければならない。神の声を聞き、民を導く。そこに愛というものは存在してはならない。愛というものは感情に激しく影響を与えるから」


 「だから私は誰も愛しはしない。家族に対しての愛も、友人に対しての愛も、異性に対しての愛も。すべて障害にしからない」


 「その中でも異性に対しての愛は一番厄介だ。愛する人ができれば人は、これまでとは違う、自分でも想像のつかない行動をとる。例えそれが自分の首を絞めることになるとしてもね」




 ゼーゲンの話に黙って耳を傾けるナハト。


 そんなナハトにゼーゲンは「それでも人は人を愛す。実に滑稽で哀れだと思いません? ナハト司祭」と真っ直ぐ目を見て問いかける。



 ナハトは数秒、ゼーゲンの目を見つめると視線を逸らし「……そうですね」と返す。


 ナハトの返答に満足なのか、ゼーゲンは笑みを浮かべると機嫌良く紅茶を飲む。



 そんなゼーゲンをチラリと見ると、ナハトは直ぐに視線を逸らす。







 「本当に初めてなのかい? 僕よりも上手くて驚いたよ」




 パーティー内でビリヤードを楽しんでいたエミリアとシュタイン。


 少し休憩にしようと、飲み物を飲み、同じくビリヤードを楽しんでいた人たちと話をしていた。



 エミリアは今回、ビリヤードが初めてだったらしいのだが、中々上手く、同じくビリヤードを楽しんでいた人たちがエミリアを褒める。


 エミリアは「そんなことないわよ……!」と褒められ、照れくさそうにしながらもどこか嬉しそうだ。



 そんなエミリアを飲み物を飲みながら見ては、エミリア楽しそうだな……。シュタインは思う。




 エミリアとシュタインがこの仮面パーティーにやって来たのは、エミリアが断るシュタインをしつこく誘ったからだ。


 エミリアは先日のライハッド夫人が開いたパーティー内で耳にしたこの仮面パーティーに参加したいと思っていた。


 だが、時間も時間だし一人で来るのは気が引ける。だからと言ってリーナやエンゲルは誘えない。



 きっと誘ったら、行くのはやめとけと言われると思ったから。


 そして誰を誘おう……と悩んだ末、思い浮かんだのがシュタインだった。



 エミリアは友人は多い方だ。だが、気軽にパーティーなどに誘える相手は限られていた。




 『シュタイン。私、仮面パーティーに行きたいの。ついて来て!』




 ヴァンディリアに遊びに来たエミリアに突如として頼まれたシュタイン。


 仮面パーティー? と首を傾げては『それって、最近流行ってるっていうパーティー? この前兄貴が行くなっていってたけど』と答える。



 エミリアは目を思い切り横に向けると『エェ、ソウダッタカシラ』としらを切る。


 そんなエミリアに呆れた目を向けると、シュタインはため息をつく。




 『俺が知ってるのにお前が知らないわけないだろ? グランべセル公爵が話したはずだけど?』


 『そう、だけど……一回! 一回だけだから! お願い!』




 そう顔の前で手を合わせ頼むエミリアに、シュタインは『何でそんなに行きたいの? パーティーに行きたいならちがうパーティーでもいいでしょ?』と眉を顰める。




 『身分と顔を隠した、深夜に行われるパーティーとか怪しさしかないし。大人しく諦めなよ』




 シュタインの言葉に『だって……』と眉を下げるエミリア。


 そんなエミリアを見てシュタインは不思議に思う。


 エミリアは一見、自由奔放でわがままに見えるが、実際はよく周りを見ており、決してリヒトやグランべセル公爵に迷惑がかかるようなことはしなかった。



 自分が周りにどう見られているか理解しているからだ。


 その事を知っていたシュタインは『……どうしてそんなにそのパーティーに行きたいの? らしくないよ』と理由を尋ねる。



 エミリアは一瞬、躊躇うも、口を開きゆっくりと言う。




 『……誰もエミリア()だと知らない状態で誰かと話してみたいの。一度だけでいいから、家柄とか身分とか関係なく、ただ一人の人として誰かと話してみたい』




 そう話すエミリアの表情は悲しそうで、そんなエミリアをこれまで何度もシュタインは見て来た。


 そして、シュタインにはエミリアの気持ちが痛いほど理解できた。




 共に名家に生まれ、優秀な兄を持ち常に比べられ生きて来た。


 その辛さや劣等感は、きっと本人たちにしか理解ができない。



 だから、シュタインはエミリアの話を聞き、断ることはできなかった。




 『……一回だけだからな。一回参加したらもう俺はついて行かないし、エミリアも行くなよ』




 そう言うシュタインを驚いた表情で見るエミリア。

 まさか、ついて来てくれるとは思わなかったらしい。



 エミリアは笑みを浮かべると『ありがとう、シュタイン』と礼を言う。


 そんなエミリアにシュタインは『約束は守れよ!』と言う。




 そんなやり取りがあり、シュタインとエミリアは仮面パーティーにやって来たのだった。



 楽しそうに他の参加者と話をするエミリアを見て、初めは来た事を後悔していたシュタインだったが、来て良かったと笑みを浮かべる。




 「……あら? 髪に何かついているわ」




 一人の女性がそう言って、エミリアの髪に手を触れる。


 すると、女性は「あなたの髪……」と驚いたように言う。



 その言葉に、シュタインとエミリアは目を顰めるも「とても綺麗ね!」と言う女性の言葉に、拍子抜けした表情を浮かべる。




 「サラサラとしていて、綺麗なブラウンの髪ね」


 「僕も思っていました。まるで僕の好物のチョコレートのようだ」




 「それ褒めてるの?」と言われ、男性は「もちろん」と笑みを浮かべる。


 そんなやり取りをずっと黙って聞いていたエミリアが、驚いた表情を浮かべては「初めて、言われた……」と呟く。



 その言葉に周りの人たちは「本当に? こんなに綺麗なのに」「この魅力に気づけないなんて、美的センスがあまりないようだ」と言う。




 今まで、髪を褒められたことはなかった。むしろ、グランべセルを象徴する黒髪ではないその髪を悪く言う人ばかりだった。


 だからエミリア自身も、ずっと自分の髪が嫌いで、綺麗だなんて思ったことはなかった。



 エミリアが自分の髪に触れると「綺麗なのかな……」と呟く。すると、すかさず「あぁ、綺麗だよ」「えぇ、綺麗よ」と言ってくれる。


 その事が嬉しく、エミリアは泣きそうになるが、笑みを浮かべ「ありがとう」と言う。



 そんなエミリアを見てシュタインも嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。







 「エミリア?」




 パーティーから帰って来たエミリアは、誰にもバレぬよう音を立てないで屋敷に戻って来たのだったが、背後からいきなり名前を呼ばれ、肩を思い切り震わせる。


 そしてゆっくりと振り返っては「に、兄様……?」と驚いた表情を浮かべる。



 いるはずの無いリヒトがおり、一気に汗をかくエミリアは「どうして家に……? 忙しいんじゃないの?」と問う。


 リヒトは「最近、休みが取れないから交代で取る事になって昨日帰って来たんだよ」と答える。




 「まぁ、また今から行かないといけないんだけど」


 「そ、そうだったんだ」




 エミリアはそう笑みを浮かべているも、内心すごく焦っていた。



 お父様とお母様は愛嬌を振りまけば騙せるけど、兄様はそんなものは効かないし、勘も鋭いから、私が夜通し仮面パーティーに参加していたことがバレてしまうかも……!


 せっかく兄様がいない時を狙って行ったのに……!!




 そう心の中で叫ぶも、精一杯平常心を装うエミリア。


 そんなエミリアにリヒトは「友人の家に泊まりに行っていたんでしょ? もう帰って来たの?」と問う。



 エミリアはやばい! と思うも「う、うん。他の家に慣れなくて全然眠れなくてね……帰って来たの」と笑みを浮かべる。




 「そうなんだ。じゃあ寝ていないの?」


 「そ、そうなの! だから眠くて眠くて……寝たいからもう行ってもいい?」




 いらぬ事を言う前に、兄様との会話を切り上げなければと考えるエミリア。


 そんなエミリアを数秒、リヒトは見ると「そうだね。早く寝な」と頷く。




 「朝食は食べてないだろ? 起きたら食べれるように話しとくよ」




 そう言うリヒトを見て、エミリアはバレてない……? と様子を伺う。


 そんなエミリアを見てリヒトは「どうした?」と首を傾げるので、エミリアは首を横に振り「ううん……! ありがとう、兄様!」と笑みを浮かべる。




 「今日も帰ってこれるから、一緒に夕食を食べよう」


 「ほ、ほんと?」




 エミリアは嬉しそうに「約束よ!」と言うと、リヒトは「あぁ」と頷くと、エミリアの頭に手を置き「早く寝な」と優しく言う。


 エミリアは頷くと、嬉しそうに部屋へと向かう。



 その最中、ひとまずバレてはいなさそうだと、静かにほっと胸を撫で下ろすのだった。

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