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公爵家の養女  作者: 透明
第一章 回帰
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音楽祭



 「お嬢様、今日はいつにも増してご機嫌なご様子ですね」




 鼻歌を歌いながら、並べられたドレスから音楽祭に着ていくドレスを選んでいるリーナに、ふふっと微笑ましそうにするエマ。


 そんなエマにリーナは「だってエーデルとシュタインと初めてお出かけするんだもの。浮かれずにはいられないわ」と誰が見ても一目でご機嫌だと分かるほど、ニコニコと笑みを浮かべている。




 エーデルとシュタインがリーナを音楽祭に誘った後、直ぐに公爵に外出の許可を貰いに行くと、公爵は喜んで許可を出してくれ、三人で音楽祭へと行くことになった。


 初めてのエーデルたちとのお出かけに、ずっと行ってみたかった音楽祭、リーナはこの日をずっと心待ちにしていたのだ。




 「今日の髪型は動いても崩れにくいよう、下の方で両サイドに結びましょうか」


 「うん! お願い!」




 準備をしている最中、ずっとニコニコと笑みを浮かべるリーナを見て、エマ含め他のメイドたちは(ずっとニコニコとしていらっしゃる……)(可愛い)と微笑ましそうにリーナの準備を進めるのだった。




 「――エーデル、シュタイン!」




 準備を終えたリーナは、少し遅くなってしまい、小走りでエーデルとシュタインが待つ玄関へと向かい、既に待っていた二人の事を呼ぶと「遅くなってしまってごめんなさい」と謝る。


 そんなリーナに「遅いぞ――」と言いかけるも、シュタインはリーナを見た途端、固まってしまう。



 ふわふわとした金色の髪は、低い位置で両サイドに結び、ラベンダー色と白色がベースの小花が散りばめられた、レースが重なったドレスを身に纏っており、いつもと雰囲気が違いとても可愛らしい雰囲気を纏っているリーナ。



 リーナを見て固まっているシュタインに、リーナは「シュタイン、どうしたの?」と問いかけると、シュタインはハッとしたのか「別に……! 早く行くよ!」と先を歩いて行く。


 そんなシュタインを不思議に思いながら、リーナは隣に立つエーデルに「もしかして、シュタインの事を怒らせてしまった……?」と不安そうに言う。




 「……いや、怒ってないから気にするな」


 「そうかしら……?」


 「お腹空いてるんだろ。俺たちも行こう」




 エーデルはそう言って歩いて行こうとするので、リーナもその後を続こうとした時、エーデルはリーナの方を振り返ると「髪型とドレス似合ってるよ」と褒める。


 その表情や声から照れているのが伝わり、リーナまで頬が熱くなり、恥ずかしくなってしまう。



 それを隠すようにリーナは「あ、ありがとう、エーデル! エーデルこそ今日もとっても素敵ね!」とエーデルの事を褒めると、エーデルは「え……」と驚いた表情を浮かべる。


 かと思えば直ぐに「……どう、も」と顔を背けるので、エーデルの耳が赤くなっている事に気がつく。




 見た目についてなんて、これまで何万回と褒められているだろうに、照れるエーデルを見て、リーナは(まだまだ子どもなのね)と微笑ましくなり、ふふッと笑っているとエーデルは、恥ずかしいのか「行くぞ」と歩き出す。




 (回帰前はこんな風にエーデルと話したことなんてなかったから、何だか凄く新鮮で嬉しいな)




 そう嬉しそうに玄関から出て、階段を降りて行こうとするリーナに、エーデルは「ほら」と手を差し出す。


 その行動に驚くリーナに、エーデルは「どうした?」と首を傾げるも、リーナは「何でもない」とエーデルの手に自身の手を乗せ階段を降りて行く。




 (そう言えば回帰前は、エーデルとは仲は良くなかったけれど、必ず一緒にパーティーに行く時は、今みたいにエスコートをしてくれたっけ……昔から優しいところは変わらないのね)


 (まぁ、紳士のマナーとしてエスコートをしてくれていたのかもしれないけど……)




 リーナたちは馬車に乗り込むと、音楽祭が開かれている城下街へと向かうのだった。




 「わぁ……! 凄い……!」




 目の前には、大勢の人で賑わい、音楽祭のために飾り付けられた街は、色鮮やかで、何処からともなく楽しげな音楽が聞こえてき、思わず音楽に身を委ねたくなる。


 

 音楽祭へとやって来たリーナは、念願の音楽祭に目を輝かせ、いつもよりテンションが上がっているようで「見て! エーデル、シュタイン! 向こうで皆んなが食べているのは何かしら?」と珍しいものを見ては、二人に報告する。


 そんなリーナを見て、エーデルとシュタインは顔を見合わせると嬉しそうに笑い合う。




 「今日は父上から、夜遅くまで居てもいいって許可をもらっているからな。ゆっくり順番に見て回ろう」




 祭りは夜遅くなってからが楽しいと、ヴァンディリアの騎士団から団長、副団長を連れて行く事を条件に、夜遅くまでの外出許可をエーデルは貰っていたのだ。


 エーデルの言葉にリーナは、嬉しそうに頷くとシュタインは「まず何処から周る?」と問いかける。




 「うーん……お腹が空いたから、何か食べたいな」


 「お、いいね! 俺肉が食べたい!」




 リーナとシュタインの希望を聞き、リーナたちは順番に食べたいものが売っているお店へと周る。


 少し腹ごしらえを終えると、色々な場所に売られている、色々な国の楽器を見たり、他国からやって来た音楽団の演奏を聴いたり、しばらく音楽祭を満喫した。




 「リーナ、見て!」




 次は何処を見て周ろうかと、リーナとエーデルが話をしながら歩いていると、先を歩いていたシュタインが、アクセサリーを売っている店の前に止まり、リーナに手招きをする。




 「わぁ……すごく綺麗……! アサーナトスにはあまりないようなデザインね」




 リーナの言葉に、店の店主は「さすがお客様、お目が高い! このデザインは、ラナンキュラスで流行っている物で、ラナンキュラスの姫様も大変お気に召されているとか!」と意気揚々とリーナに説明をする。


 そんな店主の圧に押されながらも、リーナは「確かに、凄く素敵なデザインだわ」と頷く。



 リーナと店主のやり取りを聞いていたシュタインは「えー……俺はこっちの方がイカしてると思うけどなぁ」と、女性が身につけるにしては、ゴツゴツとし厳つい見た目のパリュールを指差す。




 「うーん……素敵だと思うけど、私には少し大きすぎるかしら」


 「そうか?」




 そんなやり取りをしながら、店内を見るリーナとシュタイン。


 そんな二人の後ろで、エーデルはとあるネックレスが目に留まったようで、足を止める。



 そのネックレスは、少し小ぶりのアメジストで作られた物で、エーデルはリーナの美しい瞳を思い出す。




 「お客様、そちらが気に入られましたか?」




 アメジストのネックレスを、熱心に見つめるエーデルに店主が声をかけると、エーデルは「……凄くシンプルな作りだな」と答える。




 「流石、お客様です! 目の付け所が違いますね! 最近は、こう言ったシンプルな物が流行っているんですよ! 一見、シンプルですが、カットの技術がとても高く、控えめな中に品があり、目上の方にお会いするときなどに、よく身につけられるんです!」




 突如、話しかけて来る店主に驚きながらも、エーデルは「そう、なのか……確かに、技術は高いようだが」と頷く。


 そんなエーデルに、楽しそうに店主はネックレスについて話を続ける。


 


 「それに、アメジストは愛の守護石と呼ばれていて、邪悪なものから身を守るとされているので、お守りにもなりますし、何よりお嬢様の瞳によく似ておられます。プレゼントにもってこいですよ!」




 そうエーデルに聞こえるぐらいの声で、コソコソっと話たかと思えば、ウィンクをお見舞いする店主。


 エーデルは「はっ……?」と戸惑いながらも、頬が赤くなる。



 あまりに驚くエーデルに、店主は「あれ? 違いましたか?」と首を傾げる。




 「お客様のお嬢様を見る目が、あまりにも愛おしそうだったので、てっきりそうなのだと……」




 店主の言葉を聞き、エーデルは「……そんなに、か」と恥ずかしそうに呟くので、店主は「えぇ。初対面の私ですらわかるほどに」と真剣に頷く。


 エーデルは恥ずかしそうに、口元に手を持って行き、少し視線を逸らしながら「……いきなり、ネックレスを贈っても気持ち悪がられはしないだろうか」と店主に問う。



 そんなエーデルを見て、店主は(あぁ……片思いなんだな)と微笑ましくなる。




 「仲の良さにもよりますが、拝見した感じ、仲睦まじく窺えましたので、大丈夫かと!」


 「それに、魔除けになるからと言って渡せば、何も思われないかと!」


 「…………包んでくれ」




 店主は嬉しそうに「喜んで!」とネックレスを手に取ると「後でこっそりとお渡ししますね!」と楽しそうに、エーデルに耳打ちをする。


 そんな店主に恥ずかしそうに頷くエーデル。



 店主が鼻歌混じりに、中に入って行くのと同時に、奥の方を見に行っていたリーナとシュタインがエーデルの元にやってき「なんかやけにご機嫌だな、あの店主」とシュタインは不思議そうに店主を見る。


 そんなシュタインの言葉に、エーデルは一つ咳払いをすると「俺は少し中を見るから、二人は先に外で待っていてくれ」と言う。




 「え、兄貴。何か買うのか?」


 「……何でもいいだろ。ほら、さっさと出ていろ」




 エーデルは早く外へと出るように促すと、外に出て来たシュタインは「怪しいな」と顎に手を当てる。




 「あの感じ……何処かの令嬢にプレゼントを渡すつもりだな? いつの間に兄貴にそんな仲の令嬢が……!」




 シュタインの話に、リーナは(そう言えば、エーデルのそう言った話はあまり聞いたことが無かったわね……)と過去の事を思い出す。




 (帝国三大美男のうちの一人に選ばれるくらいの整った顔をしているエーデルに、密かに恋心を抱く令嬢たちは大勢いたけれど……エーデルが特定の相手にそう言った感情を向けることは、無かった気がする)


 (たまに噂が流れるくらいで、その全てがあくまで噂だったけれど……まぁ、エーデルとは仲が良かったわけではないから、私が知らないだけで、そう言った相手はいたのかもしれないけどね)




 店からエーデルが出て来ると「……どこの令嬢に渡すつもりだ?」と問い詰めるシュタイン。


 リーナはシュタインに釣られ、エーデルを見ると、エーデルと目が合う。



 だが、直ぐにエーデルの視線は逸らされ「しょうもないこと言ってないで、次のところ行くぞ」と歩いて行く。




 「えー! しょうもなくないし! ……ちぇっ。何も教えないつもりかよー。まぁいいや。行こう、リーナ」


 「あ、うん」




 何も教えてくれないエーデルに、ぶつぶつと文句を垂れるシュタインの後を続くリーナ。


 三人は音楽祭の目玉である、各国の音楽団と踊り子の舞台を観に行くため、広場へと向かうのだった。

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