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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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恋の予感?



 「グランべセル公子様がパーティーに参加されるのは珍しいですわね」




 複数の令嬢たちが、頬を赤らめながらリヒトに話しかける。


 リヒトはエミリアに『今日はずっとリーナの側にいなさいよ!』と口うるさく言われたのにも関わらず、他の令嬢たちと話をしていた。



 もちろん、リヒトはリーナの元へと行こうとしたのだが、リーナの周りを他の令嬢令息が囲み、タイミングを逃した時に、リヒトも他の令嬢に囲まれてしまいこのような状況になったのだ。


 リヒトは困ったな……。と思いながらも、ここで自分が令嬢たちを適当にあしらい、リーナの元へ行けばリーナに飛び火が行きかねない。



 そう考えるリヒトは令嬢たちの話に耳を傾けるのだった。


 しばらく令嬢たちと会話を交わしたら、リーナの元へと行こう。



 そう飲み物を飲み考えていた時だった。




 「あ、あの……! グランべセル公子様……!」




 か弱く可愛らしい声がしたかと思えば、薄紅色のふわふわとした髪が視界に見える。


 リヒトは声のした方を向いては「あぁ……ファルバーニ令嬢」と名前を呼ぶ。



 リヒトの事を呼んだのは、リーナたちと同じく招待を受け、会場にやって来ていたエンゲルで、エンゲルは白い頬を髪の色と同じ色に染めリヒトを見る。


 その姿は何とも愛らしい。



 どこか緊張した声で、エンゲルは「グランべセル公子様もいらしていたんですね。こういった場はあまり参加されないと思っていたのですが」と話す。


 リヒトは笑顔を作ると「たまたま休みが取れたので」と返す。



 そんな二人の間には、どこかぎこちない空気が流れているような気がする。


 「そ、そうだったのですね……!」と眉を下げ笑みを浮かべるエンゲルは、さらに頬を赤らめると、少し視線を外し「まさか、グランべセル公子様にお会いできるとは思わず……嬉しいです」と言う。



 あまりにも可愛らしい様子に、リヒトと話していた令嬢たちは「まぁ……!」「何とも愛らしい」と笑みを浮かべる。


 きっと、彼女からそう言われればどの男性たちも一瞬で彼女に心を奪われてしまうだろう。



 だがリヒトは「……ありがとうございます」と笑みを浮かべるだけで、それ以上は何も言わず、エンゲルから視線を逸らす。


 その事にエンゲルは少し悲しそうな表情を浮かべるも、負けずリヒトに話しかける。




 リヒトとエンゲル……? 珍しい組み合わせだけど、知り合いだったんだ。




 その頃、ふとリヒトの方が気になり視線を向けたリーナは、リヒトとエンゲルが話しているのを初めて見、少し驚くも「それもそうか」とあまり深くは考えていないようだった。


 リーナはやっと解放され、一人、端の方で飲み物を飲んでいた。



 そして、リヒトを見つめながら、リヒトとこうして会うのは久しぶりね。と考える。

 


 久しぶりだから、リヒトと話をしたかったけれど……今は他の令嬢たちが話しているしな。


 皆んな、リヒトと話したいよね。




 リヒトはその美しい見た目と、紳士的な振る舞い、アサーナトスの名家、グランべセルの嫡男とあり、数多の女性たちが彼に想いを寄せていた。


 それは、回帰前も同じで、リヒトはあまり社交の場に顔を出すことは少なく、顔を出した日には大勢の人がリヒトの周りに集まった。




 相変わらず、令嬢たちに囲まれているリヒトを見て、しばらくは話せなさそうだな……とリーナが考えていたところに、エーデルが「話は終わったのか?」と言いながら歩いてくる。


 リーナは頷くと「エーデルももういいの?」と尋ねる。



 エーデルもリーナやリヒト同様、囲まれ、今し方まで話をしていたのだ。


 もっぱらエーデルの周りに集まったのは、年頃の令息令嬢ではなく、名家の当主たちだ。




 「あぁ。せっかくのパーティーだって言うのに、仕事の話をし出したら皆んな止まらないからな。隙を見て抜けて来たんだ」




 そう眉を顰め笑みを浮かべるエーデルに、リーナは「なるほど」と眉を下げ頷く。


 そんなリーナに「一人で何してたんだ? 向こうにシュタインたちがいるけど……」と言いながら、ふと、リヒトの方に視線を向ける。



 すると、何を思ったのかエーデルは「あぁ……なるほどね」と零す。


 そんなエーデルを見てリーナは「エーデル?」と首を傾げると、エーデルは「そういえば」とリーナの事を見る。




 「向こうのバルコニーから庭の噴水が見えるんだけど、見てこいよ。庭も噴水も綺麗だったよ」


 「噴水?」




 いきなり何で噴水? と思うもエーデルに「それに話しすぎて疲れただろ? ついでに空気吸ってきな」と半ば強制的にバルコニーに行くように言われ、リーナはまぁ、少し疲れたしな。と思いバルコニーへと向かう。




 「――わぁ……! 綺麗……!」




 バルコニーに出てくると、エーデルの言う通り中庭が見え、中央には大きな噴水が見える。


 中庭は綺麗に手入れされ、流れる水は癒しをもたらし、エーデルに言われ見に来て良かったと、バルコニーの手すりに腕を組み、顎を乗せる。




 いつの間にエーデルはバルコニーに来たんだろ?

 エーデルも一緒に来れば良かったのに。




 そう考えながら噴水を眺めていた時だった。


 バルコニーの扉が開く音がしたかと思えば「リーナ?」と驚いた声が聞こえてくる。



 その声は誰のものか見なくてもリーナにはわかる。


 リーナは驚いた表情を浮かべ振り返ると「リヒト……!」と名前を呼ぶ。




 リーナを見たリヒトは一瞬、何かを考える素振りを見せると「そう言うことか……」と納得したように言う。


 そんなリヒトを不思議に思いながら「どうしてここに?」とリーナは問う。



 リヒトは「エーデルに言われて」と言うので、リーナは「私も……!」と返す。




 「ここから見える噴水が綺麗だから見てみろって」


 「俺もだよ」




 リヒトはそう言うと、リーナの隣に立っては、目の前の景色を見る。




 「エーデルの言う通り綺麗だね」




 そう景色を眺めるリヒトの髪は、風で揺らされ、陽の光に当たった黄金色の瞳が綺麗に輝いている。


 そんなリヒトの横顔を見つめるリーナ。



 久しぶりにこんなに近くでリヒトの事を見たと、思わずマジマジと見てしまう。


 本当に、綺麗な顔をしてるな……。



 そんな事を考えながらリヒトの事を見ていると、不意にリヒトはリーナに視線を向け、思い切り目が合ってしまう。


 リヒトに見惚れていたことが恥ずかしくなり、リーナは咄嗟に視線を逸らすと「……な、何だかこうして会うの久しぶりだね」と話し出す。



 リヒトは「だね」と頷くと「凄く会いたかったよ」と言う。


 その言葉に驚き、再びリヒトに視線を向けるリーナ。



 リヒトは柔らかい笑みを浮かべ、リーナを見ている。


 その表情に思わず胸が音を立て、頬が赤くなるのがわかる。




 「わ、私も……!」




 そう言うリーナにリヒトは嬉しそうに笑みを浮かべる。




 「……やっぱり、シャッテンヴェヒターは大変だよね?」




 景色を眺めながら、久しぶりにゆっくりと話をする二人。


 お互いの近況を聞き合っては、穏やかな時間を過ごす。




 「まぁね。けど、意外と合ってるみたいで。苦じゃないよ」




 そう笑うリヒトを見て、リーナは少し安心する。


 リヒトのリーナへの気持ちに気づいている状態だが、リーナははっきりとリヒトに自分の気持ちを伝えていない。


 そして、リーナが今は伝えるべきではないと思っていると言う事を、リヒトは理解しているだろう。


 そんな状態で、リヒトが自分のためにシャッテンヴェヒターに入り、毎日忙しくしている事に対して、申し訳なく思っていた。



 だから苦じゃないと聞けて、少しだけだが良かったと思ったのだ。




 「それと、もう次期騎士団の仕事も落ち着くと思う。だから、前みたいにまた、ヴァンディリアに遊びに行くこともできる。だからその時また会いに行ってもいいかな?」




 そう眉を下げ笑みを浮かべるリヒトに、リーナは「もちろん……! いつでも歓迎だよ」と返すと、リヒトは安心したように笑みを浮かべる。


 そんなリヒトを見て、今すぐにでもリーナの気持ちを伝えたくなるも、今はまだ解決できていない事が多すぎてそれは躊躇われる。



 そしてふと思う。


 もし、リヒトに私の気持ちを伝える時、私が二度目の人生を生きているって話すべき……?


 リヒトだけじゃない。


 エーデルやシュタイン、エミリアにも話すべきなのだろうか。




 考えるも、正解が分からず、それ以上考えるのをやめた。







 「あ、リーナに兄様!」




 バルコニーから会場へと戻って来たリーナとリヒトは、エミリアの姿が見えたので、エミリアの元に行くとエミリアは嬉しそうに二人の名前を呼ぶ。


 どうやら誰かと話していたらしく、エミリアの側を一人の男性が去る。



 その様子を見てリーナは「あ……話していたのにごめんね」と謝ると、エミリアは「ぜーんぜん!」と首を横に振る。


 どこかか上機嫌に見えるエミリアに、何かいい事があったのかと尋ねるリヒト。



 するとエミリアは「実はね」と話す。




 「素敵だなって思う殿方がいたの!」




 赤くなる頰に両手を当てキャーッ! と一人はしゃぐ彼女に、リーナは「どんな人?」と興味深そうに話を聞く。


 エミリアは「リーナたちが来るまで話していたんだけど……ほらあの方!」と後ろに視線を向ける。



 エミリアの視線の先にリーナも視線を向けると、そこには鮮やかな緑の髪をした男性がおり、複数の男性と話をしていた。


 そんな彼を見てリヒトは「見た事ないな。名前は?」と問う。




 「ヘブン子爵家のベン令息よ。」


 「ヘブン子爵……? 聞いた事ないな」




 リヒトは「まぁ、ライハッド夫人に招待されているなら、問題ないんだろうけど」と言うと、すかさずエミリアは「問題なんかないわよ!」と返す。




 「彼とっても知的で誠実なのよ!」


 「かなり仲良くなったの?」




 リーナの問いにエミリアは「えぇ!」と頷くと「私の落としたハンカチを拾ってくださってね、そこから先まで話してたの!」と嬉しそうに言う。




 「私のくだらない話も楽しそうに聞いてくださって!本当に素敵な方だわ!」




 そう胸に手を当て、うっとりとした表情で話すエミリアに、リーナは「良かったね」と返す隣で、リヒトは「社交辞令だよ」と返す。




 「な……! そりゃ、兄様が令嬢たちの話を聞く時はそうかもしれないけど。あの方は違うわ! だって僕たち気が合いますねって言ってくれたんだもの!」


 「でね! 今度、是非お家にお伺いしたいって言うから是非! って返したの!」




 そう話すエミリアに、リヒトは「は?」と眉を顰めると「いきなり家に来たいって言ったの? しかもそれを受け入れたの?」とエミリアに聞き返す。


 エミリアは「そうよ! 文句ある?」とリヒトの事を睨む。




 「文句あるって……会っていきなり家に招待しろだなんて、まともな奴じゃないだろ」


 「仕方ないじゃない! 運命的な出会いをしてしまったんだもの〜! それに兄様には関係ないでしょ!」




 何を言っても耳を貸してくれなさそうなエミリアに、リヒトはため息をつくと「後で泣きついて来ても知らないぞ」と注意するも「私が泣く時は嬉しい時だけよ」とエミリアは全く話を聞こうとはしなかった。

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