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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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嵐の前触れ



 「これはこれは、ゼーゲン司祭にナハト司祭ではありませんか」




 ナハトとゼーゲンが、大司教の元へと向かうため教会内の廊下を歩いていた時、助祭を引き連れ前から歩いて来たヨハス司祭に声をかけられる。


 足を止めるナハトとゼーゲン。


 

 「誰かと思えばヨハス司祭ですか」と返すゼーゲンに、ヨハスは「ゼーゲン司祭はお久しぶりですね。忙しく過ごされているようで?」と声をかける。


 そんなヨハスの言葉に「……ヨハス司祭ほどではありませんよ。最近は調子がいいようで? 大司教様が褒めておられましたよ」と笑みを浮かべる。




 「マテオ司祭の後任で大変でしょうが、あなたはしっかりしておられる。私もとても期待しています。ねぇ? ナハト司祭」




 ゼーゲンにそう笑顔で話を振られ、ナハトは数秒間を開け「えぇ。」と返す。


 そんなナハトを見てヨハスは「ナハト司祭はそうでもないようですが」と眉を下げ笑みを浮かべるので、すかさずゼーゲンは「ナハト司祭は誰にでもこうなのでご心配なさらず」と答える。



 その時、一人の助祭がヨハスに「ヨハス司祭様、そろそろ」と声をかけ、ヨハスは行く場所があるのか思い出したかのように「そうだった」と呟く。




 「では、私はこれで失礼いたします。次会う時、是非お食事でも」


 「もちろん」




 会釈をし歩いて行くヨハスの後ろ姿を見送るナハトとゼーゲン。


 先ほどまで笑みを浮かべていたゼーゲンは、ヨハスがいなくなると無表情になる。




 「白々しい。私と仲良くしようとする気はさらさらないくせに」


 「マテオ司祭よりかはまだ使える脳を持っているようですが、中途半端に頭が切れるせいで、邪魔だと思いません? ナハト司祭」




 そうゼーゲンに問われ、ナハトは「随分、彼の事が気に食わないのですね。あなたがそこまで誰かに敵意を見せるのはあまりないでしょう」と返す。


 その言葉にゼーゲンは「まぁね」と言うと「にしても、本当に目障りだなあの人」と呟く。




 「聞きました? ヨハス司祭、司教の座を狙っているとか」


 「みたいですね」




 さほど興味がなさそうに返すナハトにゼーゲンは続ける。




 「私は司教には私やあなたのような、神に心の底から忠誠を誓っている人間がなるべきだと思っているんです。ヨハス司祭のような人はダメだ。彼は教会に害をなすことしかしていない。マテオ司祭のようにね」


 「ですが、大司教様は随分とヨハス司祭に期待しておられるようですよ」




 そう話すナハトの肩に、ゼーゲンは手を置くとナハトの耳元に顔を近づける。




 「ならば、使えなくするだけですよ。ナハト司祭」




 まるで囁くようにそう言うゼーゲンに、ナハトは顔色を全く変えず「使えなくする、ですか」と返す。




 「どうやって? マテオ司祭と違い、彼は腹の内をなかなか明かしませんよ」


 「それは……これからわかりますよ。」




 ゼーゲンはナハトから顔を離し笑みを浮かべると、そのまま歩いて行く。


 そんなゼーゲンの後ろ姿を見たナハトは「また、教会内が荒れそうですね」と呟く。







 「これで五件目ですね」




 皇宮の会議室内で最近頻発している事件について会議が行われていた。


 ため息混じりに話すエーデル。



 グランべセル公爵が「捜査の方はどうなっているんだ?」と、今回の件の捜査を行なっているシャッテンヴェヒター団長に尋ねるも、団長は隣に座るマティアスに顔を向け「お前が説明しろ」と言いたげな表情を向ける。


 そんな彼に、はいはい。と呆れた表情を浮かべ説明するマティアス。




 「捜査の方は我々、シャッテンヴェヒターの者たちが数名、実際会場内に潜入し行っていますが、会場内は至って普通に交流を楽しんでいる者たちばかりで、取引現場はまだ確認されていない状態です」




 マティアスの言葉に、すかさずエズワルド侯爵が「君たちが捜査を行なっているのにも関わらず、これでもう五件目だ。ちゃんと隅々まで探しているのか?」と眉を顰める。


 そんな彼にマティアスは言葉を返そうとするも、隣に座る団長が「相手はかなりのやり手で、多くの貴族も関わっている。あっさりと取引現場を目撃させるほどバカじゃねえってことくらい、少し考えたらわかんだろ」と眉を顰め、呆れたように言う。




 「第一、その辺の騎士団で捜査が難しいからうちに依頼が来たんだろ。もっと考えてから物を言え」




 シャッテンヴェヒター団長の言葉に、言い返す言葉が見つからないエズワルド侯爵は口をつぐんでしまう。


 今回の件だけではなく、他の件もシャッテンヴェヒターは担当しており、ここ最近、団員らは寝ずに働き続けている。


 それは団長も同じなので、苛立っていたのだ。



 マティアスは一つ咳払いをすると「例の建物を運営している者もまだ分かっていませんが、そのパーティーに参加した者の話によると、ウサギと名乗るウサギの仮面をつけたものが案内をしてくれるようです」と話を戻す。




 「ウサギ?」と首を傾げるエーデルに、マティアスは「そこでは身分を隠すために、偽名をつけるそうです」と説明し、エーデルは「それでウサギ……」と納得する。




 「ともかく、引き続きよろしく頼むよ。それとこの件は他言しないように」




 今回、皇帝の代わりに会議に参加していたエーヴィッヒがそう言うと、団長とマティアスは「はい」と返事をする。


 そして今回、会議に呼ばれたエーデル、グランべセル公爵、エズワルド侯爵も頷く。


 この三名だけが呼ばれたわけ。ドラッグの売買が行われている可能性のあるパーティーへと、皇室に関わりのある三家が参加しないよう注意をするためだ。




 「――この件に、神聖国の人間が関わっていることは話さなくて良かったのか?」




 会議を終え、シャッテンヴェヒターの詰所(つめしょ)に戻る途中、隣を歩くマティアスに団長がそう話を振ると、マティアスは「えぇ」と頷く。




 「まだ曖昧な段階ですし、今日は神聖国の方たちは会議には参加していませんでしたが、貴族側の誰かが話してしまうと、逃げられてしまいかねませんからね」


 「まぁ……そうだな」




 マティアスは「とりあえず、引き続き調査を続けるしかありませんね。今日の潜入担当は……リヒトくんとテオくんでしたね」と話す。




 「リヒトとテオかぁ……。リヒトはまぁ大丈夫だろうが、テオは心配だなぁ」


 「真面目でいい子なんですけどね。少しおっちょこちょいなところがありますから……まぁ、リヒトくんと組むんです。それに、周りに他の隊員がいます。心配はないでしょう」







 「相変わらず、ライハッド夫人が開くパーティーに参加する人たちは、どの人も有名な人ばかりね」




 リーナがユリスに行った日から一週間経った日、その日はライハッド侯爵夫人の招待を受け、ライハッド夫人が開いたパーティーへとやって来ていた。


 ライハッド夫人とは、交流会で親しくなって以降、何かとお茶会には招待されていたのだが、こういったパーティーは初めてだった。



 ライハッド夫人自身、パーティーを開く事自体、久しいようだが。




 同じくライハッド夫人に招待を受けたエミリアが、会場を見渡し話す中、シュタインが「わぁ! 見て! 向こうにすげぇ美味そうな料理あんだけど!」と沢山並べられた料理を見ては目を輝かせる。


 そんなシュタインに「相変わらず、お前の頭の中は食べることばかりだな」と呆れたように言うエーデル。




 「パーティーなんか、食べ物を食べるためのもんでしょ!」


 「あんたくらいよ。食べ物目当てで来てるのわ。もう十七なんだからいい加減食い気より色気を優先させなさいよ」




 エーデルと同じく呆れたようにシュタインに話すエミリアに、シュタインは「色気ぇ? そんな得にならないものはいらねぇよ」と眉を顰める。


 そう二人が言い合いを始めた時、一人の女性がリーナたちのもとにやってきたかと思えば「お久しぶりです」と声をかけてくる。



 声のした方を見てみれば、今回のパーティーの主催者であるライハッド夫人がいた。


 「ユリア夫人!」と嬉しそうに声をかけるリーナに、ライハッド夫人は「お久しぶりですね、リーナ嬢」と笑みを浮かべる。




 「まさか、ヴァンディリア公爵とグランべセル公子にもお越し頂けるとは……これは令嬢たちが大喜びいたしますわ」




 そう笑うユリア夫人に、エーデルは「少しは役に立てそうで良かったです」と、返事を求めるように、隣に立つリヒトに眉を下げ笑みを浮かべる。


 そんなエーデルにリヒトも「そうですね」と眉を下げ笑みを浮かべると、ユリア夫人は「是非こちらにどうぞ」とリーナたちを案内する。




 「ずっと聞こうと思っていたんだけど兄様、仕事の方はいいの?」




 飲み物片手に皆が談笑する中、ふと隣に立つリヒトにそう問いかけるエミリア。


 リヒトは「今日は休みをもらったからね」と返すと、エミリアは「へぇーーー」と長い返事をすると、ジロッとリヒトを睨んでは言う。




 「ここ一週間、全く家に帰って来れないくらい忙しいくせに、パーティーに参加するために休みは取れるんだ。へぇーーー」




 そう含みのある言い方をするエミリアに、リヒトは「……何だよ」と問うと、エミリアは「リーナに会えるからわざわざ休んでまでパーティーに来たんでしょ?」と言う。


 図星だったのか、リヒトは「……そんなことないよ」と数秒間を開け、あからさまに作られた笑みを浮かべる。



 そんなリヒトを見てエミリアは「じゃなければ、パーティー嫌いの兄様が休んでまで参加するはずないもの」と眉を顰める。




 「図星でしょ?」


 「……仕方ないだろ。最近、仕事が忙しくて会えていなかったんだから」




 そう返すリヒトにエミリアは「別にそれがダメだって言ってないの!」と言う。




 「そうやって仕事仕事って言って会わなかったら、誰かに取られるわよ? そりゃ、シャッテンヴェヒターは忙しいみたいだし、仕方ないけど」


 「ただでさえ、リーナに想いを寄せている男性は多いのよ? 一番兄様が親しいとは言え、油断していたらだめよ!」




 そう口うるさくリヒトに言うエミリアに、リヒトは「そうだよね。」と返すだけで、言い返しはしない。


 きっと、リヒト自身も分かっているのだろう。



 そんなリヒトを見てエミリアは眉を顰めると「ほんと……何でシャッテンヴェヒターなんか入ったの?」言う。




 「騎士団なんて、兄様の柄じゃなかったでしょ?」




 そう話すエミリアに、リヒトは「そう、だね」と返すと「でも、必要なことだから」と笑う。


 だが、エミリアにはその意味がわからず「とりあえず、今日はずっとリーナの側にいなさいよ! 他の男が一言も話せないほどね!」としつこく言い聞かせるのだった。

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