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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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不愉快



 「司祭様ー! これ見て!」




 炊き出しを貰いに来た子どもたちが、ナハトの周りに集まっては、嬉しそうに話しかけている。


 そんな子どもたちに対しても、その仏頂面は変わることはない。



 だが、子どもたちが次から次へと話しても嫌な顔はせず「順番に話してください。聞き取れません」と一人一人の話に耳を傾ける。


 回帰前も後もナハトのこんな一面を見たことはない。



 毎度、リーナを見るたびにただえさえ目つきの悪い目を更に顰め、冷めた視線を向けてくるため忘れてしまうが、彼は聖職者だ。


 前も思ったけれど、こうやって子どもたちと触れ合うのが本来の姿なのかもしれない。多分だが。



 心なしかいつもより穏やかな表情を浮かべ、子どもたちと話すナハトを見て思う。




 回帰前も後も、ナハト司祭から嫌われているんだろうなっていうのは伝わってくるけど、彼はどうしてそこまで私を嫌っているんだろう?


 彼は誰に対しても顔色を変えない。


 けれど、私と話す時だけはいつも嫌そうな顔をして……もしかして、私がフォルトモントの血を引くことと何か関係があるのかな……?




 そう考えながらナハトのことを見ていると、ふとナハトがリーナに視線を向けてき、目が合ってしまう。


 見ている事がバレてしまい、気まずくなるリーナ。



 ナハトはリーナを見ては表情を変える事なく、すぐに視線を逸らす。


 やっぱり、私は彼に嫌われているみたい。と思うリーナに、隣に立つバルドゥールが「お嬢様、どこか行く予定があったのでは?」とコソッと言う。



 バルドゥールの言葉にそうだった。とユリスに来たもう一つの理由を思い出す。




 「――ここの図書室はどこも出入り自由なので、お好きにお過ごしください」




 そう言う司書に、リーナは「ありがとうございます」と礼を言うと、図書室の中に入り本を探し始める。


 リーナがユリスにやって来たもう一つの理由、それは、ユリスにある図書室にフォルトモントにまつわる本を探しにくる事だった。



 ユリスの図書館は皇室にある図書室に次いで古い場所となっており、所有数も国で一、二を競う。


 国で一番古い図書室は、神聖国の図書室なのだが、許可が必要な上、今の状況でリーナが行くのは危険なためとりあえずユリスの図書館にやって来たのだ。




 図書室の外では、ヴァンディリアの騎士が見張りをし、バルドゥールが探すのを手伝ってくれると言うので、リーナはバルドゥールと一緒にフォルトモントに纏わる本を探す。




 「やっぱり……ここはパラディースの歴史に纏わる本が多いわ」




 そう呟き、見た事ないパラディースの歴史書を手に取っては、パラパラとめくっていく。


 だがその本にはフォルトモントのについて詳しく書かれておらず、本を閉じる。



 ヴァンディリアからユリスは遠く、頻繁に来ることができないため、今日だけで何かしら収穫が欲しいところだ。




 「ダメだ」




 どの本にもこれと言ったことが書かれていない。


 リーナは本を閉じては、そう頭を抱える。



 フォルトモントはかなり閉鎖的な場所だったらしく、パラディースの歴史書と言え、詳しいことが書かれていないのだ。


 

 さっき見たのには、フォルトモントの見た目について書かれていた。


 フォルトモントは基本的に紫の瞳と髪を持つと書いてあった。



 けれど私はブロンドの髪……お母さんもフォルトモントだけど、ブロンドの髪だったらしいけど。


 そう言えば、紫の髪といえばナハト司祭も紫の髪だ。

 まぁ、紫と言うより黒っぽく見えるけど。




 なんて考えながらフォルトモントについて調べ続けるリーナ。


 だがやはり、これと言った内容はなく、時間だけが過ぎていく。




 「バルドゥール!」




 リーナは他の本を探そうと、室内を歩いていると、本を立ち読みしているバルドゥールに出会し(でくわ)声をかける。




 「何か見つかった?」




 そう問いかけるリーナに、バルドゥールが「特に……ですが、書いている内容も嘘か本当か分からないような事ばかりで」と眉を下げ笑みを浮かべると、リーナにとあるページを見せる。




 「これなんて、まるでおとぎ話ですよ」


 「おとぎ話?」




 リーナはそう首を傾げ、バルドゥールが指す箇所を読む。


 その内容を見て、リーナは「これって……!」と眉を顰める。



 そこに書かれていたのは、フォルトモントの者が未来を予知出来ることやら、過去をやり直せるやらと言う内容だった。


 動揺するリーナの隣で、バルドゥールは「流石に迷信でしょうが」と信じていないよう。



 当たり前だ。リーナ自身、人が過去をやり直せる事ができるだなんて夢にも思っていなかったから。


 だが、殺されたはずの自分が、気がつくと出て行ったはずの家、それも昔の姿に戻っていたと言うことを体験しているため、そこに書かれてある事が事実であると認めざるおえない。



 私が過去に戻って来たのは、フォルトモントの血を引いていたから……?


 だとしたら、過去に戻る条件は殺されこと? そうだとしても、理由は何?




 このことを知れたのは良かったが、ますます分からなくなる。


 フォルトモントと神聖国の関わりを知れたら、私が過去に戻って来た理由もわかるのかな……。




 それからしばらくフォルトモントについつい調べるも、それ以上、特に手掛かりは見つからなかった。



 バルドゥールが孤児院の先生と話をするため、リーナの元を外しており、リーナの周りには図書館の庭の掃除を手伝うヴァンディリアの騎士たちがいる。


 そんな騎士たちを見ながら、考え事をするリーナ。




 そんなリーナの元に、足音が聞こえて来たかと思えばナハトがおり、リーナの目の前で立ち止まりじっと見てくる。


 何か用かと見つめ返すと、彼は「……ここには、あなたが望むのもはないですよ」と言うのだ。



 その言葉にリーナは「な……!」と眉を顰めると「……私が何を調べているのか知っているような口ぶりですね」と言う。


 するとナハトはゆっくりと口を開き「フォルトモント」と呟く。




 「……っ!」


 「でしょう」




 確信しているように言うナハトに、リーナはどう言うつもり? と見開いた目を顰める。


 彼は私がフォルトモントの血を引くと気づいたはず。


 そして、フォルトモントと神聖国の関わりを調べていることも恐らく気づいているはず。



 その上でフォルトモントと言う言葉を口にしたと言うの?




 一気に警戒心を強めるリーナは「……そうだと言ったら、何か教えてくれるんですか? 今、司祭様がおっしゃられた事について詳しいご様子ですが」と言う。


 こうなれば、何か聞き出せる事がないかと、リーナはナハトにそう問いかけたのだが、ナハトは数秒黙ると「私がお話しできることは何もありません」と答える。




 「何も答えないつもりですか」


 「……今は。時がき、そのタイミングになれば話す事があるかもしれませんが」




 訳のわからないことを言うナハトに、リーナが「どう言う意味……」と尋ねた時「お嬢様」と言う声が聞こえて来たかと思えば、バルドゥールがやって来、リーナとナハトの間に入る。


 そして、ナハトのことを睨みつけながら「お嬢様。準備が終わりましたので、そろそろ」とリーナに声をかける。



 そんなバルドゥールにリーナは「う、うん……」と頷くと、バルドゥールは「行きましょう」と手を取り、リーナは段差を降りる。


 そして、何も言わないナハトの横を通るリーナとバルドゥール。



 少しナハトを過ぎた時、ナハトは振り返らずに口を開く。




 「やはり、あなたを見るのは不愉快です」




 その言葉にバルドゥールが足を止めると腰にかけた剣を抜き、刃先をナハトの後ろに向ける。


 そんなバルドゥールをリーナは「バルドゥール。剣をしまって」と静かに止める。



 だがバルドゥールは剣を下ろすことはなく「自分の主人を侮辱され剣をしまったままいられる騎士はいません」とナハトを睨みつけ言う。


 いつもニコニコと笑みを浮かべ、人懐っこい雰囲気を纏っているバルドゥールとは思えないほど、ナハトに対して殺気立っているのが分かり、ヴァンディリアの騎士団の副団長を任されるだけあるなと頷いてしまうほど、一瞬でその場の空気をピリつかせ、息をすることも躊躇してしまう。



 そんなバルドゥールにリーナは「私は大丈夫。それより、あなたが咎められる方が私が傷つくわ」と言うと、バルドゥールの背に手を添える。


 すると、バルドゥールは剣を下ろし「……お嬢様を傷つけるわけにはいきません」と言うと、剣をしまう。




 これ以上、ナハトといれば本当にバルドゥールが剣を振るいかねないと、リーナは「帰ろう、バルドゥール」と声をかける。


 バルドゥールはナハトに思うところがあるが、頷くと「申し訳ありません、お嬢様」と素直にリーナの後をついて行く。



 そんな二人の後ろ姿を見つめるナハトの瞳が、静かに揺れているように見えた。







 「もう帰られてしまわれるのですか?」




 エズワルド侯爵邸の談話室で、帰ろうと立ち上がるエーヴィッヒにそう声をかけるブリューテ。


 エーヴィッヒは「あぁ……用があるんだ」ととても婚約者に接しているとは思えないほど素っ気なく返す。



 そんなエーヴィッヒにブリューテは「次はいつ会いに来てくださりますか? 最近、全く会いに来てくださらなくて寂しいです」とエーヴィッヒの手を取るも、エーヴィッヒは手を振り払う。




 「すまない、ブリューテ。昨日も眠れていないんだ。会いにくる時はまた文をよこすよ」




 そう言うエーヴィッヒに、ブリューテは「お、お見送りいたしますわ……!」と後をついて行こうとするも「見送りはいいよ」と拒否されてしまう。


 エーヴィッヒは少し、ブリューテを振り返っては「またね」と笑みを浮かべ部屋を後にする。



 その後ろ姿を眉を顰め見送るブリューテは、口元に親指を持って行くと爪をガリっと噛む。




 やっぱり、最近の殿下は様子がおかしいわ。


 いくら幼い頃に親同士が決めた婚約とはいえ、今まで一度だって殿下は私の事をぞんざいに扱わなかった。


 なのに最近は何?



 頻繁に会いに来てくれていたのに、月に数回になった。


 しかもその数回も一時間くらいいて帰って行く。


 触れようとすれば拒絶してくるし。




 「……あの女に会ってからね。殿下が変わったのは」




 そう呟いては、爪を噛む力を強めるブリューテ。



 リーナ・フォン・ヴァンディリア。

 何かと目障りな女。


 私と同じ目に合わせようと、狩猟祭のグランべセル公子へのハンカチを破棄するよう頼んだのに、失敗に終わった。



 ゼーゲン司祭に彼女を痛い目に合わせてと頼んだのに、それも結局失敗した。




 「ほんっとうに、どいつもこいつも使えないんだから」




 ブリューテはそう怒りが混じった声で呟くと、側に控えているメイドに「何かあの人から手紙は届いてないの?」と問うも、メイドは届いていないと首を横に振る。


 ブリューテは苛立ったような表情を浮かべては、ズカズカと歩き、談話室を後にする。

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