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公爵家の養女  作者: 透明
第三章 おとぎ話のような
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フォルトモント



 ヴィルスキン辺境伯たちからフォルトモントについて話を聞いたシュタインは、とても信じられないと言った表情を浮かべる。


 その隣でリーナの表情は青ざめ、指先が冷たくなっている。



 ヴィルスキン辺境伯たちから聞いた話によると、フォルトモントの件を調べていてヴァンディリアの前当主である、クラウスが殺されたと言う事。


 

 公爵様は私のためにフォルトモントについて調べてくれていた。


 もし、フォルトモントの件を公爵様が知らなければ?もし、私を養女としてヴァンディリアに迎え入れていなければ?



 公爵様は死んでいなかったかもしれない……。




 自分のせいでクラウスが二度も死んでしまったのでは。


 そして、クラウスが死ぬとわかっていながら止める事ができなかった。



 リーナはそう考え、ドレスをギュッと掴んでいたらしく「リーナ」と呼ぶエーデルの声でハッとし気づく。


 顔を上げ見渡すと、エーデルたちが心配そうな表情を浮かべ、リーナのことを見ていた。



 エーデルは、クラウスが亡くなった理由をリーナに話すつもりはなかった。


 クラウスのことを心の底から慕っていたリーナの事だ。クラウスが亡くなったのに、少なくとも自分が関わっていると知れば、リーナは深く傷つくと分かっていたから。



 だがマティアスの『フォルトモントのことについてリーナに話すとなればきっと、リーナ自身でも調べ始め、嫌でも情報を耳にするはず。後から知るより、先に知っていたほうがリーナのためです』と言う言葉で、エーデルは躊躇われたがリーナに話す事にしたのだった。



 案の定、話を聞きリーナは深く傷ついた表情を浮かべている。


 そんなリーナを見てエーデルは「父上が亡くなったのはお前のせいじゃない」と言う。




 「きっと今は何を言われても、自分のことを責めるだろうけど、父上は自分の意思でフォルトモントの件に関わった」


 「お前も知っているだろ。父上は俺にシュタイン、そしてリーナの事を心の底から愛していたという事。そして父上は家族を守るためならどんな危険なことでも立ち向かって行くということ」


 「父上はお前のことを守りたかったんだ。だから、父上はリーナの事を責めないし、お前のせいだとも思わない」




 エーデルの言葉にリーナは俯く。

 そんなリーナにエーデルは更に続ける。




 「リーナの事を守ろうとした父上のことを俺は誇らしく思う」




 その言葉にリーナは顔を上げる。きっと、エーデルもクラウスが亡くなった理由を聞き色々と思うことはあったはずだ。


 けれど、そんなエーデルが泣き言は言わず、力強くクラウスの事を誇らしいと言った。



 なら自分がいつまでも悲しんでいてはダメだ。


 クラウスが亡くなって、ショックを受けているのは自分だけではないのだからと、リーナは「私も……」と震える声で言うと、泣きそうな顔に笑みを浮かべる。



 今は泣き言を言っている場合じゃない。


 公爵様が命をかけて守ろうとしてくれたんだ。


 なら自分がすべきことは、公爵様がしてくれた事を今度は自分がしなければ。




 「……先ほどお話ししたように、フォルトモントと神聖国の関わりについてはまだ何も分かっていません。アサーナトスの人間である以上、神聖国との関わりは避けれませんが、なるべく一人で神聖国の者たちと会うのは避けてください」




 もし、神聖国の人間にリーナがフォルトモントだとバレれば何をされるか分からない。


 マティアスの言葉に、リーナは「その事なんですけど……」と少し言いづらそうに話す。




 「実は、この間の狩猟祭の時、ナハト司祭に私がフォルトモントだとバレてしまったようで……」


 「ナハト司祭に?」




 そう眉を顰めるマティアスとヴィルスキン辺境伯。


 ヴィルスキン辺境伯が「何か言われませんでしたか?」と問うので、リーナは「何も」と首を横に振る。




 「私の目を見てフォルトモントと呟いただけで……その後すぐにリヒトが来たので、ナハト司祭は帰って行ったんです」


 「その後も一度会いましたが、特にその事については何も」




 リーナの話を聞き、マティアスは顎に手を当てると「ナハト司祭はフォルトモントの件に関わっていないのか……?」と呟く。




 「他の神聖国の者たちに話、様子を伺っている可能性も考えられますよ」




 ヴィルスキン辺境伯の言葉に「それもありますね」とマティアス。




 「ナハト司祭にフォルトモントだとバレているのなら尚更、神聖国の人間には用心してください。引き続き、情報交換は行いましょう」




 マティアスの言葉に皆は頷き、椅子から立ち上がる中、シュタインは何かを考えているようで、一人椅子に座ったまま。


 そんなシュタインに「シュタイン? どうしたの?」とリーナが問いかけると、シュタインはハッとした表情を浮かべては「ううん……! なんでも……」と立ち上がる。



 そう言えば、フォルトモントの話を聞いてから、シュタインは一言も話していなかった。


 もしかしたら、公爵様の件でショックを受けているのかも。



 ならば、自分は何も言わない方がいいと、リーナはそれ以上はシュタインに話しかけなかった。


 

 それから夜になり皆が眠りについた頃、エーデルまだ執務室で作業をしていた。


 そろそろ寝るかと、一息ついた時だった。



 コンコンッと扉を叩く音がしたかと思えば「兄貴、俺」と言う声がする。


 その声に驚きながら「シュタインか?」とエーデルは椅子から立ち上がると、扉が開きシュタインが入ってくる。



 その表情はどこか暗く、俯いていた。


 そんなシュタインを見て、エーデルは「どうした?」と問いかける。



 シュタインは何かを言おうとして黙るので、エーデルは「言わないと分からないぞ」と言う。


 すると、シュタインは右手で左腕を掴む。


 その仕草は、シュタインが言いたいことがあるのを我慢する時や、言いにくい本心を話す時に見られる癖だった。



 シュタインは昔から、思っていることを素直に口にするのが苦手な子だ。


 エーデルはそれを分かっていた。



 シュタインが話してくれるまで待とうと「とりあえずソファに座りな。お茶を淹れるよ」とソファに歩いて行った時。


 「……だよ……」と何かを呟いたシュタイン。


 その声は小さく聞き取れなかったエーデルは「ごめん、シュタイン。聞き取れなかった」ともう一度聞き返そうとしたのだが




 「何で教えてくれなかったんだよ……!!」




 そう声を上げるシュタインにより、それを遮られてしまう。


 エーデルの中ではかなり前に聞いて、消化したことだったが、シュタインにとって初めて聞く父親の死の原因。


 混乱してもおかしくないと、エーデルは配慮してやれなかったことを反省する。



 そしてシュタインに「すまない、シュタイン。もう少し早く話すべきだった」と謝る。




 「父上が亡くなってすぐだったし、フォルトモントのことについてもあやふやだった。そんな状態で父上が殺されたなんて聞かされたら、シュタインが余計に混乱するんじゃないかと思って……」




 そう申し訳なさそうに話すエーデルに、シュタインは「は……?」と驚いた表情を浮かべたかと思えば「そうじゃなくて!」と前のめりに言う。


 そうじゃない? と驚くエーデル。



 シュタインは「そうじゃなくて……」と言うと、再び自分の右腕を掴む。




 「……どうして、リーナがフォルトモント? って言う血を引いていて、神聖国の人間から狙われるかもしれないって事教えてくれなかったんだよ」




 シュタインの言葉にハッとするエーデル。


 だがシュタインは話を続ける。




 「そりゃ……父上のことも話してくれなかったのは腹立つけど、リーナが危ないかもしれないってのに、俺だけのほほんとして馬鹿みてぇじゃん」


 「俺だってリーナと兄弟で、父上の息子なのに。」




 シュタインはそう言うと、今まで溜まっていたことを吐き出すように「兄貴は当主として忙しくして、リーナだって語学とか頑張って、兄貴の役にたってるし……なのに俺は……!」と声を上げる。



 

 「勉強を頑張ろうにも全然覚えられないし、政治のことだってさっぱりだし、唯一得意な剣だって、兄貴には及ばないし……リーナが頼るのも兄貴にだし……兄貴だって……」




 そう最後の方は力なく言うシュタイン。


 そんなシュタインの元にエーデルは行くと「そんなことない」とシュタインの肩を掴む。




 「俺もリーナもそんな事は思ってない。お前は分からないかもしれないけど、俺もリーナもお前が居てくれるだけで救われているんだ」


 「居てくれるだけって。結局俺は役立たずじゃんか」


 「そうじゃない!! 俺が仕事で家を空けるのが続いた時、お前がリーナだけじゃなく使用人や騎士たちに気を遣ってくれていることも知ってる」


 「父上が亡くなった後、屋敷が暗くならなかったのだって、お前が寂しいのを我慢して明るく振る舞っていてくれたからだ」




 そう真剣な表情でシュタインに伝えるエーデル。


 そんなエーデルを見てシュタインは「……それくらいしか、できることないし」と顔を逸らす。




 「それくらいって、誰でもできることじゃないよ」




 エーデルはそう言うと、シュタインの頭に手を置く。




 「父上のことも、フォルトモントのことも言わなかったのはすまなかった。シュタインはもちろん、リーナのことを傷つけたくなかったから」


 「けれどこれからはちゃんと話すよ」




 そう言うエーデルに、シュタインは「約束だよ」と拗ねたように言う。


 エーデルは「あぁ。約束だ」と言うと、シュタインの髪をくしゃっとし「大人になったな、シュタイン」と笑う。



 シュタインは「やめろよ……!」と恥ずかしそうに、だが嬉しそうにしている。


 

 ついこの間までまだ子どもだと思っていたのに、いつまで経っても甘ったれで悪ガキだと思っていたのに、いつの間にこんなに考え、家族の支えになれなくて悲しむようになったのか。


 まだ16と若いのに、考えさせてしまい申し訳ないと言う気持ちと、家族のために出来ることがないかと考えてくれているのが嬉しいと言う気持ちが入り混じり、エーデルは何とも言えない気持ちになった。




 「それじゃあ早速、シュタインにはこの書類を任せようかな」


 「はっ? 無理無理! 兄貴みたいに頭良くないから俺には無理!」




 そう楽しそうな賑やかな声が執務室から聞こえてくるのを、リーナは執務室の外で壁に背を預け聞いていた。


 昼間、シュタインの様子がおかしかったことが気になっていたため、エーデルに相談しようと思い、リーナは執務室にやってきたのだ。



 二人のやり取りを聞き、リーナの目には涙が浮かんでいる。



 シュタインもエーデルも、クラウスが殺された事は辛いはずなのに、いつも自分のことを思ってくれている。


 リーナはグッと手に力を入れると、執務室を後にする。

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