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公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
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ボートに揺られ

 


 「――あれ? お嬢様、どうされたのですか?」




 ヴァンディリアのテントに戻って来たリーナを見て、そう声をかけて来たメイド長のエマ。


 そんな彼女にリーナは「私のことを探してるって聞いて、戻って来たんだけど……」と言うと、エマ含め、他の使用人らが不思議そうな表情を浮かべる。




 「私たちはずっと、テントにいましたよ」




 そう首を傾げて言うエマに「え……?」とリーナは振り返り、ノアのことを見る。


 するとノアは「すみません、嘘です」と平然と答える。




 「嘘……?」


 「はい。嘘です」




 「何故、そんな嘘を……?」と首を傾げるリーナに、ノアは「ヴァンディリア令嬢が困っている様子だったので、咄嗟についてしまいました」と言うのだ。




 「私のために……」


 「お話の最中だったのに、申し訳ありません」




 そう謝るノアに、リーナの頭の中に懐かしい思い出が蘇ってくる。


 それはまだ回帰前、ノアと知り合ったばかりの頃、男性たちに言い寄られ困っていたリーナの元に、ノアが突如現れたかと思えば『ヴァンディリア嬢。向こうでヴァンディリア公爵が探されていましたよ』と言い、その場から連れ出してくれたのだ。



 もちろん、エーデルがリーナのことを探していたと言うのは嘘で、リーナが困っているようだったから嘘をついたのだと、今のように謝っていた。


 そんなノアを思い出しては、相変わらず、周りがよく見えているな、ノアは。と懐かしく感じるリーナ。




 「助けてくださりありがとうございます。お会いするのは初めてですよね? リーナ・フォン・ヴァンディリアです」




 そう挨拶するリーナに、ノアは「そういえばそうでしたね」と頷くと「ノア・シセルバンです。お会いできて光栄です」と胸に手を当てお辞儀する。


 

 誰よりも彼のことを知っていると自負できるくらい、彼のことを知っているし、ずっと一緒にいたのに初対面だなんて。


 ……何だか変な感じ。



 そう考えながら、ノアをじっと見つめるリーナ。


 その視線に気づいたノアが「私の顔に何かついていますか?」と不思議そうにリーナに問う。



 つい、ノアのことを見過ぎだと、リーナは恥ずかしくなり慌てて「い、いえ……!」と頭と手を振る。


 その時「リーナ!」と呼ぶ声が聞こえてきたかと思えば、エミリアとエンゲルがリーナの元に向かって歩いて来ていた。




 「エミリア、エンゲル!」


 「用は済んだ?」




 そう問いかけてくるエミリアに、リーナは頷くと、エミリアが「ならボート乗りに行こう! ずっとテントで座っているの疲れちゃった」と言う。




 「私はいいけど……フレイヤ様は?」


 「フレイヤ様は後から来るって」




 エンゲルは可愛らしい笑みを浮かべそう答える。リーナはまだ時間があるしと、ボートに乗りに行くことにする。




 「私たちはボートに乗りに行くのでこれで。ありがとうございました、シセルバン伯爵様」




 そう挨拶をするリーナに会釈をするノアは、ボートに乗りに行くリーナの後ろ姿を黙って見つめていた。







 大きな湖には、沢山のボートがおり令嬢たちがゆらゆらと揺られながら、楽しそうに話をしている。




 「天気が良くて暖かいし、ボートに乗るのに丁度いい気温だわ~」




 リーナの向かい側に座るフレイヤは、背伸びをし気持ちよさそうに言う。


 暖かい風が吹き、空には雲が一つもない。

 ボートに乗るのにもってこいの天気だ。



 あまりの心地よさに眠くなってしまったのか、エミリアが一つあくびをする。


 そんな隣に座るエミリアを見てリーナは笑っていると、近くのボートから話し声が聞こえてくる。




 「えぇ!? ヴァンディリア公爵にハンカチを渡したの!?」




 その言葉に、リーナたちは思わず顔をむけてしまう。




 「私は、グランベセル公子様に……」


 「でも、受け取ってもらえず……」


 「私もですわ」




 令嬢たちの話を聞いていたフレイヤが「……だそうですけど、お二人の兄君は令嬢の気持ちがわからないのかしら?」とリーナとエミリアに顔を向ける。


 フレイヤの言葉にただ苦笑いを浮かべることしかできないリーナ。



 エーデルは多くの令嬢から、ハンカチを贈られたのだがその全てを断っていた。


 「ヴァンディリアの当主が、迂闊に受け取れば騒ぎになるだろ?」ととてもいい笑顔で言っていたことを思い出す。



 そして、貰いたい人にはもう貰ってあるとも。


 いつの間にエーデルにそんな相手がいたんだか、相手の人はどんな人なのかと気になったが、さらりと交わされてしまった。



 というか、リヒトも令嬢たちからのハンカチを受け取っていなかったんだ……でも……。



 リーナがそう考える横で、エミリアが「兄様はちゃんと受け取っていましたよ? 一人の令嬢のハンカチを」とニヤニヤとした笑みを浮かべる。


 その言葉に、リーナは顔が赤くなる。



 エミリアの話だと、リヒトは私のハンカチだけを受け取ったと言うことになる……。


 それはどうしてだろう。と考えるも、自惚れてはダメよと考えるのをやめる。



 エミリアの話に「一人……? その相手は誰なの?」と興味津々といった表情を、エミリアに向けるフレイヤ。


 だがエミリアは「それは内緒です」とふふふと笑みを浮かべる。




 「気になるわね……。気になると言えば、あなたたちは誰かにハンカチを渡したの?」




 フレイヤは令息令嬢のハンカチ事情がどうやら気になるらしく、話題の矛先はリーナたちに向けられる。


 リーナは「え……!」と頬を赤くしては「えーっと……」と言い淀む。




 「私はあげましたよ、シュタインに」


 「そう言えばお二人は幼馴染だったわね! まさか……!」




 そう期待の眼差しを向けてくるフレイヤに、エミリアは「あ、そんなんじゃありませんよ」とバッサリと切る。




 「シュタインには、私が贈りたい相手ができた時に練習したハンカチを贈りました」」




 エミリアの言葉に、フレイヤは「酷い……」と眉を顰め、リーナとエンゲルが苦笑いを浮かべる。




 「酷くありませんわ。シュタインは贈られた分だけ受け取っているので、一枚くらいそういったハンカチがあっても傷つきません」


 「幼馴染の恋愛は所詮、物語の中だけと言うことね」




 つまらなさそうにフレイヤはそう言うと、先ほどから黙って話を聞いていたエンゲルに「あなたは? 誰かに渡したの?」と問いかける。


 「あ、私も気になる!」と続けるエミリアに、エンゲルは眉を下げ「……渡しました」と言う。



 その瞬間、エミリアとフレイヤは「きゃ~」「どなたに? 私たちの知っている人?」と前のめりになる。


 だけどエンゲルは少し悲しそうな表情を浮かべ「だけど、受け取ってはもらえませんでした」と笑う。




 「えぇ!? 受け取ってもらえなかったの?」


 「誰? 相手は誰なの?」




 何とも可憐なエンゲルのハンカチを断るとは、一体どこのどいつだと、今すぐにでもその相手の元へ乗り込んでいきそうな勢いで、そう問いかけるエミリア。


 だが、エンゲルは相手のことは言わず「相手には想っている人がいて……それを分かって渡したので」と話す。



 エンゲルの話を聞いたフレイヤとエミリアは「健気……!」と手で口を覆う。




 エンゲルの話を聞いていたリーナは、エンゲルの想っている相手は一体誰なんだろう? と思う。


 エンゲルはとても可憐で愛らしく、男性からもとても人気だ。

 

 そんな彼女からハンカチを贈られれば、誰だって大喜びをするはずなのに。



 そう考えながらエンゲルを見ていると、目が合い、エンゲルは眉を下げ笑みを浮かべる。




 「久しぶりに皆とゆっくり話せて楽しかったわ」




 そろそろ男性たちが狩から戻ってくる頃だろうと、リーナたちだけではなく、他のボートに乗っている令嬢たちもボートを降りて行く。


 背伸びをし、嬉しそうに「また皆でお茶でもしましょう?」と言うフレイヤに、リーナたちが「是非」と頷いた時だった。



 「キャーッ!!」と誰かの悲鳴が聞こえてきたのだ。




 「今の声、何……?」


 「どうしたのかしら?」




 エミリアとフレイヤはそう言って、悲鳴のした方を向き、リーナも眉を顰め悲鳴のした方を向く。


 「皆さん、あれを見てください……!!」エンゲルの焦った声を聞き、リーナたちはエンゲルが指差す方を見る。




 「な、何あれ……何でこんなところに……?」




 エミリアは、視線の先を見て動揺する。


 そこには数匹の狼が令嬢たちの目の前に居たのだ。

 令嬢たちは恐怖からか、体がこわばり動けない様子。




 「ここのボート場は安全なはず……!」


 「とにかく、助けを呼びに……!!」




 フレイヤの判断で、テントに戻り誰か助けを呼びに行こうとした時だった。


 再び、悲鳴が上がったかと思えば、一人の令嬢が狼に襲われたらしく、怪我を負っている。



 その瞬間、あちらこちらから悲鳴が上がり、令嬢たちは逃げ回り、辺りは混乱しはじめる。


 怪我を負った令嬢は動けず、その場に倒れ込んでいる。



 それを見たリーナは安全な場所に移動させなければと、怪我を負った令嬢のもとへと走る。




 「リーナ? 危ないから逃げて……!!」




 エミリアはそうリーナのことを追いかけようとするも、すぐ近くまで狼が来ており、それどころではなくなってしまう。




 「大丈夫ですか!」




 何とか、怪我をした令嬢のもとまで行くことができたリーナは、血が出ている足を持っていたハンカチで止血する。


 そんなリーナに「ヴァ、ヴァンディリア令嬢……私はいいから、早く逃げて……」と言う。


 だが、リーナは首を横に振り「助けが来るまで、安全な場所に居ましょう」と、令嬢を支え、安全な場所まで歩いて行こうとする。



 その時、近くで悲鳴が上がり、そちらに視線を向けるとまた一人の令嬢が狼に襲われたらしく、怪我を負い、その場に倒れ込んでしまっている。


 そして、その令嬢を襲ったと思われる、他の狼よりも大きい狼が唸りながら、リーナたちの前に来る。



 口元についた血、鋭い眼光。


 一瞬で体がこわばり、逃げなくてはならないと分かっていても、体が言うことを聞かない。



 安全な場所に避難させようとした令嬢が「ヴァンディリア嬢だけでも、逃げて……」と言う。


 それと同時に、狼は威嚇するように喉を鳴らしたかと思えば、リーナたちめがけ走ってくる。



 流石に逃げられない。


 リーナは令嬢を庇うように、狼に背を向け、ギュッと目を閉じる。



 それと同時に、狼の悲鳴のような声が耳に届いたかと思えば、ドサッと何かが倒れたような音が聞こえる。


 何が起きたのかと、リーナはゆっくり目を開け、後ろを振り返る。




 陽の光に照らされた明るいブラウンのサラッとした髪が目に映る。


 その人物は、ゆっくりとリーナを振り返ると「お怪我はありませんか、ヴァンディリア嬢」と低く淡々とした声で問いかける。




 リーナの美しい紫の瞳が揺れるのと同時に、溢れるようにその名前を呼ぶ。




 「ノア……!」

 

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