表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
39/40

狩猟祭



 リーナはお茶会での出来事を、エーデルに話さないつもりだったのだが、どうやらフレイヤがエーヴィッヒと皇帝に話したらしく、エーデルに何があったのかを聞かれた。


 知られた以上は隠せないと、リーナはあったことを全て話すと、エーデルは「……すまない、リーナ」と申し訳なさそうに謝ってきた。



 そんなエーデルの手を握っては「どうしてエーデルが謝るの? 噂を流した人やそれを鵜呑みにした人が悪いの。エーデルが謝る必要ないわ」と伝える。



 リーナが思った通り、皇帝はブリューテや他の令嬢を咎めることはなかった。


 だが、一つ予想外の事があった。



 フレイヤからお茶会のことを聞いたエーヴィッヒは、強くブリューテを注意し、当分の間、皇宮への立ち入りを禁止され、ブリューテと一緒に噂話を話した令嬢たちには皇宮へと足を踏み入れることは、今後一切禁ずると命じたのだ。


 流石にやりすぎではと思ったものの、エーデルの「ヴァンディリアを侮辱したんだ。むしろ軽すぎるくらいだ」と言う言葉に、それはそうかとリーナは思う。



 その話が貴族たちの間で流れると、罰を恐れたのか、リーナやヴァンディリアに関しての噂をする者が居なくなり、他の令嬢たちのお茶会に参加すると、リーナを伺うような振る舞いをする令嬢が増えた。


 そして、余程エーヴィッヒに注意されたのか、あの娘を溺愛していたエズワルド侯爵は、しばらくの間、ブリューテに謹慎するよう命じたらしく、ブリューテの噂は聞かなくなった。



 それから月日は経ち、暖かい風が吹く日が続く季節となり、もう直ぐ狩猟祭が行われようとしていた。




 「あれ? お嬢様、エーデル様たちにお渡しするハンカチはもう、刺繍が終わったはずでは?」




 ソファーに座り、白いハンカチに刺繍を施すリーナを見て、メイド長のエマが不思議そうに問いかけると、リーナは少し恥ずかしそうに「これは……リヒトの分なの」と笑う。


 リヒトの分のハンカチだと知ったエマは「まぁ……!」と口元を手で覆う。



 狩猟祭では、女性から男性に刺繍したハンカチを贈るのが定番。


 兄弟だったり、父親だったり、意中の相手だったりに、愛情込めて刺繍を施したハンカチを贈るのは、狩猟祭の醍醐味と言っても過言ではない。



 リーナも今回の狩猟祭でエーデルとシュタインにハンカチを贈ると、刺繍していたのをエマは知っていた。


 だが、リヒトの分までも刺繍をしているとは知らず、エマは頰を赤くしながら「お嬢様がグランべセル公子に……!」と興奮したように言う。



 シャッテンヴェヒターの一員になったリヒトは、忙しいらしく、最近中々会う機会がなく、狩猟祭で久しぶりに会うことになっているので、リーナはハンカチを渡す事にしたのだ。


 リーナは「喜んでくれるかしら……?」と不安そうに言うと、エマが「もちろんです! お嬢様にハンカチを贈られて喜ばない男性は居ませんわ!」と食い気味に言う。



 そんなエマに驚きながらも、ふふッと笑みを浮かべると「ありがとう、エマ」と刺繍をする手を進める。

 

 そんな二人のやり取りを、ドアの隙間から、一人の人影が見ていた。



 廊下は暗く、顔ははっきりと見えないが、薄らと見えたのはメイドが着用しているエプロンだった。




 そして日は経ち、狩猟祭の日がやってきた。







 『……見たか? ヴァンディリア令嬢が、シセルバン伯爵にハンカチを贈っていたぞ!』


 『当たり前だろ? 婚約者なんだから』




 狩猟祭が始まる前。令嬢たちは男性にハンカチを渡す。


 もちろん、回帰前のリーナも婚約者であるノアにハンカチを渡したのだが、それを見ていた男性の間でちょっとした話題となった。



 一人の男性は『見たか? あの笑顔を! 何ともシセルバン伯爵が羨ましいよ』と眉を八の字にする。


 そして、隣の馬に乗る男性に『グランべセル公子もそうは思いませんか?』と同意を求める。



 その男性の隣にいたのはリヒトで、リヒトは仲睦まじく話すリーナとノアを見ては『……そうですね』と眉を顰める。


 そしてまた、男性は『あんなに美しい妹を、嫁に出すのは寂しいでしょ。ヴァンディリア公爵』と言うと、エーデルに同意を求める。



 馬に乗るエーデルは『ですね』と少し笑みを浮かべるも、直ぐに視線は逸らされる。


 そんなエーデルを見るリヒト。



 そう話している間に、狩猟祭が始まる合図が鳴り響く。




 「――あれ? エマ、置いてあったハンカチ知らない?」




 狩猟祭の日、刺繍をし仕舞っておいたはずのハンカチがない事に気づいたリーナは、準備をするエマにハンカチのことを問う。


 だがエマも「その棚にしまっているはずですが……ありませんか?」と、リーナが今探している棚を見る。




 「それが、エーデルとシュタインのハンカチはあるんだけど、リヒトのハンカチがなくて……」


 「昨夜、確認した時は確かに仕舞われていたはずなのですが」




 どこか違う場所に仕舞ったのかと、リーナとエマは探すもどこにも見当たらない。


 だが、狩猟祭へと向かう時間は迫ってくる。




 「どうしよう……もう時間がないのに……」




 そう眉を下げるリーナに、エマは「お嬢様は先に狩猟祭に向かわれてください。私がしばらく探してみますので」と言ってくれる。




 「でも……」


 「せっかくこの日のために、用意したんです。探せるとこまで探しましょう」




 そう笑うエマに、リーナは「……ありがとう、エマ」とお礼を言うと、狩猟祭に向かうため、部屋を出る。




 「――相変わらず、狩猟祭は派手ね」




 狩猟祭の会場にやって来たエミリアは、盛大に開かれた狩猟祭の会場を見ては、腕を組み眉を顰めては呆れたように言う。


 そんなエミリアに、グランべセルの騎士団長が「お嬢様。あちらにリヒト様がおられますよ」と声をかける。



 騎士団長の言う方に視線を向けると、そこにはシャッテンヴェヒターの制服を着、団員と楽しそうに話すリヒトの姿があった。


 そんなリヒトを見て「よそ行きの顔をしているわ」と呟いては、リヒトの元に行く。


 「兄様!」と声をかけるエミリアに、リヒトは気づくと「エミリア」とエミリアに体を傾ける。




 「珍しいね。狩猟祭は苦手だろ?」


 「リーナが参加するって聞いたから……それに、中々家に帰らないどこかの誰かさんが元気にしているのか、顔を見に来たの」




 エミリアの言葉にリヒトは「一昨日帰っただろ?」と言うので、エミリアは「三日ぶりにね」と眉を顰める。




 「今、追っている件で忙しくて」


 「分かってるわよ。だからこうして会いに来てあげたんでしょ」




 二人がそう話をしていると「ヴァンディリア公爵家の皆様のご到着です――」と言う声がする。


 その声に、エミリアは「あ、リーナが来たみたい!」と嬉しそうな顔を浮かべると「早く行くわよ、兄様。どうせ、リーナにもしばらく会っていないんでしょ?」とリヒトを急かす。



 エミリアの言う通り、リヒトはあまり家に帰らず、そして、リーナと会うことも少なくなっていた。


 それくらい、シャッテンヴェヒターの仕事は多く、大変だと言うこと。



 リヒトも久しぶりにリーナに会えることを楽しみにしており、エミリアに手を引かれるまま歩いていく。


 エミリアたちがヴァンディリアの馬車へと向かうと、丁度、リーナたちが馬車から降りて来ており、エミリアは「リーナ!」と嬉しそうにかけて行く。



 エミリアに気づいたリーナは「エミリア!」と嬉しそうにしては、抱きついてくるエミリアを受け止める。




 「久しぶりね、エミリア。元気にしていた?」


 「もちろん! 元気が有り余りすぎて、困るくらいよ」




 そう再会を喜ぶ二人の周りには、無いはずの花が咲いて見える。


 そんな二人の元にリヒトはやって来ると「リーナ」と声をかける。



 リヒトの声に気づいたリーナは、リヒトの方に顔を向けると「リヒト」と嬉しそうな表情を浮かべる。


 あまりにも嬉しそうな声で、表情で自分のことを呼ぶもんだから、リヒトは思わず勘違いしてしまいそうになる。




 「久しぶりだね、リーナ。元気にしていた?」


 「うん。リヒトは? 最近忙しいんでしょ?」




 心配そうにそうリヒトに問うリーナに、リヒトは「まぁね。元気だよ」と返すと、すかさずエミリアが「聞いて、リーナ! 兄様ったら、一昨日三日ぶりに家に戻ったかと思えば、直ぐに出て行ってまた帰ってこないのよ?」と兄への不満を話す。


 エミリアの話に「そんなに忙しいの? 眠れている?」とリヒトに尋ねるリーナ。



 リヒトは「一々、家に帰って皇宮に行くのが面倒で……寝泊まりしているんだ」と眉を下げ笑みを浮かべる。




 「家に帰るのが面倒だなんて」


 「往復が面倒なんだよ。それに、収集がかかれば直ぐに行かなきゃいけないし」




 そう言うリヒトに、不満そうなエミリア。


 その時「リヒト」と呼ぶ声が聞こえてき、振り返るとエーデルとシュタインの姿があり、二人の後ろにはヴァンディリアの騎士たちがいた。




 「姿が見えないと思っていたら、どこかに行っていたのか」


 「あぁ……叔父上が来ているって聞いてね。挨拶に」




 そう話すエーデルに、リヒトは「マティアス副団長、もう来られていたのか」と言う。


 話を聞いていたリーナは「私は挨拶しなくて良かったの?」と問うと、エーデルは「……あぁ。ちょっと面倒な人たちがいるから、後でもう一度一緒に挨拶に行こう」と言う。



 面倒な人? と首を傾げるリーナ。


 リヒトは、あぁ……神聖国の人たちか。と察する。



 本来、聖職者が狩猟祭に参加するのはあまり無いことなのだが、皇帝陛下が無類の狩好きで、狩自体にに参加せずとも、会場には来いと半ば強制的に神聖国の者たちを呼ぶのだ。


 そして今日も呼ばれているらしい。



 そんな話をしている間にも、狩猟祭に参加する者たちが段々と集まってき、エーデルとリヒト、シュタインは知り合いの人たちに挨拶をするために、リーナたちの元から離れて行く。


 残されたリーナとエミリアは、狩猟祭が始まるまでテントで休んでいようと、用意されたテントに向かい、狩猟祭が始まるまでしばし話をする。




 「リーナは、兄様にハンカチを贈るの?」




 唐突にそう問いかけて来るエミリアに驚きながらも、リーナは「その予定だったんだけど……リヒトのハンカチだけ無くなってしまって……」と話す。




 「兄様のハンカチだけ?」


 「うん。エーデルとシュタインの分は、仕舞っておいた棚にちゃんとあったんだけど、何故かリヒトの分だけ見当たらなくて」




 リーナの話を聞き「そんな事ある?」と眉を顰めるエミリア。


 「今、メイドたちが探してくれているんだけど、見つかるかどうか……」と落ちむリーナを、エミリアは数秒見つめると「兄様はそのこと知っているの?」と問いかける。



 リーナは「知らないわ。無いのに、渡す予定だったと言っても困るでしょ?」と言うと、エミリアは「無くても言いなよ!」と返す。




 「渡す予定だったって聞いて貰えないのと、何も知らず貰えないのとじゃ、話は変わってくるもの」


 「そう言うものかしら?」




 そう首を傾げるリーナは、貰えないなら知らない方がと思うも、エミリアに「兄様のためにも、用意していたと言う事実だけでも伝えてあげて!」と言われ、リーナはリヒトに伝えに行くためにテントを出、リヒトを探しに行くのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おぉぅ、1人で動いちゃ危ないよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ