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公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
38/40

友人



 メイドの後をついて行くリーナは、メイドの後ろ姿をじっと見つめている。


 先ほどから二人の間に会話はなく、長い廊下には二人の足音だけが響く。



 そんな中「……あの」とリーナが足を止めては、メイドに話しかける。




 「違っていたら申し訳ないのですが、皇女様、ですよね?」




 様子を伺いながらそう問いかけるリーナ。


 メイドはピタッと足を止めると、ゆっくりとリーナを振り返る。


 そんな彼女は「何故そう思うのか」と問うて来ているようで、リーナは何故皇女だと思ったかを説明する。




 「先ほど、お茶のおかわりを淹れていただいた時、一瞬ベルガモットのような香りがしました。」


 「前にどこかで、皇女様はベルガモットの香りがお気に入りで、よく身に纏っていらっしゃると聞いたので、もしかしたらと思い」




 理由を説明するリーナに、メイドは「それだけですか?」と問うので、更にリーナは答える。




 「後は、右手の人差し指に付けられている指輪です。一見、宝石などもついておらず、とてもシンプルなものに見えますが、指輪自体が貴重な素材を使い作られたもの」


 「到底、一般の者では手が出せないものです」




 リーナの言葉に、メイドは自身の右手につけられた指輪を見ては「まさか、これの価値を一目見ただけで分かる人がいるとは……」と呟く。


 そして、メガネを外し、かぶっていたメイド帽を外すと、メイド帽に全て仕舞われていた皇族の証の美しい赤い髪が姿を現す。




 「流石はヴァンディリアの令嬢ね」




 そう言って笑う彼女は、髪を整えると、スカートの裾を掴み「改めまして、初めましてヴァンディリア嬢。フレイヤ・フォン・ディセール・アサーナトスです。お会いできて光栄です」と挨拶をする。


 流石はアサーナトスの皇女様。


 どこを切り取っても動きに無駄がなく、美しい。




 リーナも「こちらこそお会いできて光栄です。リーナ・フォン・ヴァンディリアです」と挨拶をすると、聞きたかった事をフレイヤに尋ねる。




 「何故、メイドの格好をしてお茶会に?」




 そう問いかけてくるリーナに、フレイヤは「……ヴァンディリア令嬢がどんな人か見るためと、私がいない時の普段の令嬢たちを見るためです」と答える。




 「ご存知の通り私は皇女ですので、多かれ少なかれ私を前にすると皆、気を使うでしょ? なので、私がいない状態の皆さんの様子を見たかったんです」


 「ヴァンディリア令嬢とは、これからも何かと関わる事があると思うので、尚更、どんな方か見ておきたくて」




 「騙すような形で申し訳ありません」そう話すフレイヤにリーナは「私を見た印象はどうでしたか?」と問うと、フレイヤは綺麗な緑色の瞳を細めると「是非、友人になって頂きたいわ」と笑うのだ。




 「光栄です、皇女様」




 そう笑うリーナ。


 フレイヤは「友人になりたいと言ったでしょ? 私のことはフレイヤと呼んで」と言う。




 「私もリーナと呼ぶから」


 「分かりました、フレイヤ様」


 「継承も敬語も要らないわ!」




 流石にそれは……と返すリーナに、構わないのにと口を尖らせるフレイヤ。


 「まぁいいわ」と言うと「早く部屋に行きましょ」と嬉しそうにリーナの手を引くフレイヤに、リーナは噂とは印象が違うなと思う。



 フレイヤは体が弱く、滅多に人前に姿を現さないため、なかなかお目にかかることはない。そんなフレイヤは噂では可憐でお淑やかだと聞いていた。


 確かに可憐だが、お淑やかと言うより、人当たりがよく明るい印象をリーナは持った。



 そして、どことなく第一皇子殿下に似ているなとも思うのだった。




 「遠慮しないで食べてちょうだいね!」




 余程友人ができて嬉しいのか、テーブルの上にはたくさんの種類のケーキが用意され、とても歓迎を受けている。


 談話室へとやって来たフレイヤはずっとニコニコしており楽しそうで、リーナまで笑顔になってしまう。



 フレイヤの言葉に甘え、ケーキを頂くリーナ。


 同じくケーキを頂くフレイヤに「それより、よかったのですか? お茶会を抜けて来ても」と尋ねる。



 お茶会の主催者がいないお茶会なんて、聞いた事がない。

 

 まぁでも、誰もメイドがフレイヤ様だと気づいてなかったし、最初からいない状態でお茶会を進めてたし、問題はないか?



 そう考えるリーナに、フレイヤは「いいのよ。初めから参加するつもりはなかったし」とケーキを頬張る。




 「まさか、あのままお茶会が終わるまでメイドとして過ごされるつもりだったのですか?」




 リーナの問いに「まぁね」と笑みを浮かべるフレイヤに、驚きが隠せない。




 「それにしても、前からエズワルド嬢は傲慢なところがあるとは思っていたけれど……まさか、あそこまでとはね」




 そう呆れた表情を浮かべるフレイヤに、リーナは「フレイヤ様の前でも傲慢な態度を?」と問うと、フレイヤは頷く。




 「口では慕っているように言っているけど、節々の態度に私のことを下に見ているんだろうなって事がわかるの」


 「皇女と言っても継承権を持たないからね」




 「そんな……」と言うリーナに、フレイヤは「そう言う人間は何人かいるわよ。女だからと言って舐めた態度をとってくる者は」と紅茶を飲む。


 そんなフレイヤを見て、だから今まで公の場にそこまで顔を出さなかったのかと考える。




 「……さっきのヴァンディリアに対しての、エズワルド嬢の発言だけど、本当にお父様やヴァンディリア当主に伝えるの?」




 そう真っ直ぐリーナを見て問うてくるフレイヤ。


 リーナは「……いえ。」と首を横に振ると、フレイヤは「やっぱり」と頷く。



 ブリューテや他の令嬢たちには、皇帝やエーデルに報告をすると言ったリーナだったが、本心では報告をするつもりはなかった。


 「それは何故?」と聞くフレイヤに、リーナは「……失礼ですが、陛下に報告をしたとしても、エズワルド嬢や他の令嬢が咎められるとは思いませんので」と答える。



 言葉を選ばずに言えば、皇帝は無能な上身内に甘い。


 いくらヴァンディリアを侮辱したとしても、第一皇子の婚約者であるブリューテを咎めると言うことはしないだろう。



 それをフレイヤも十分理解しており「まぁね」と眉を顰める。




 「それに、私がお茶会で嫌な思いをしたと知れば、エーデルは傷つきますし、怒り、戦さを起こしかねませんので」




 そう眉を顰め笑うリーナに、フレイヤは「……あのヴァンディリア公子……公爵が?」と驚く。




 「噂には聞いていましたが、本当にリーナの事を大切にしているのですね。ヴァンディリア公爵は人に興味がない印象を持っていたのに」


 「私も昔はそうでした」




 そう笑うリーナに、フレイヤは「リーナはちゃんとしているわ。あなたがエーヴィッヒの婚約者だったらよかったのに」と突拍子もない事を言うので、思わずリーナは「え!?」と大きな声を出してしまう。




 「そうしたら、私の義妹になるでしょ?」




 そう笑顔で言うフレイヤに、リーナは「そのような事を仰られては誤解を招きますよ」と困ったように言う。




 「いいのよ。どうせ誰も聞いてやしないんだもの」







 「また手紙を送るから、リーナも手紙ちょうだいね!」




 しばらくフレイヤとのティータイムを楽しんだリーナ。

 

 「リーナを見送るわ!」とフレイヤは言うと、本当に馬車の前までついて来たのだ。



 リーナが「必ず送ります」と頷き、馬車に乗ろうとした時、別の馬車がリーナたちの馬車の近くに止まる。


 そして、扉が開いたかと思えば、赤色の髪をした男性が降りて来た。



 彼を見てリーナは、第一皇子殿下……。と顔が引き攣る。


 フレイヤが「あれ? エーヴィッヒ?」と声をかけると、気づいたエーヴィッヒが「姉上! それにヴァンディリア令嬢!」と笑顔を浮かべリーナたちの元に駆け寄ってくる。



 そんなエーヴィッヒにフレイヤが「早かったわね」と言うと「思ったより早く終わったんだ」と答える。


 そして、リーナに視線を移すと「お久しぶりですね、ヴァンディリア令嬢」とそれはそれは、花咲くような笑顔を浮かべるのだ。



 キラキラと眩しい笑みに、圧倒されながらも、リーナは「お久しぶりです。第一皇子殿下」と挨拶をする。


 そんな二人を見て、フレイヤは「知り合いだったの?」と聞いてくる。




 「うん。何度かお会いしているよ。今日はどうして皇宮に?」




 そう嬉しそうにリーナに話しかけるエーヴィッヒを見て、フレイヤは何かに気づいた表情を浮かべると「なるほど〜」と嬉しそうに笑う。




 「リーナは私がお茶会に招待して、来てくれたのよ!」


 「姉上が?」




 そう驚くエーヴィッヒは「というか、名前……」とフレイヤが、リーナを名前で呼んでいることに気づく。


 エーヴィッヒに「いいでしょ? リーナは私の友達になったの!」と得意気に話す。



 すると、エーヴィッヒは何を思ったのか「もしよろしければ、僕も名前で呼んでもいいですか?」と問いかけてくるのだ。


 突然のことに驚くリーナ。



 名前で呼んでもいいって、いきなりどうして……?


 そう困惑するリーナに、エーヴィッヒは「ダメでしょうか?」と眉を八の字にし問うてくる。



 そんなエーヴィッヒを見てリーナは、リヒトやフレイヤ様も私のこと呼び捨てにしているし、問題はないよね……?


 リーナは「も、問題ありません」と返すと、エーヴィッヒは嬉しそうに笑うと「僕の事もエーヴィッヒとお呼びください、リーナ」と言うのだ。




 流石にそれは……と言うリーナに、エーヴィッヒは「みんな僕の事エーヴィッヒ殿下と言うのに、リーナだけなので、第一皇子殿下って呼ぶのは」と言われ、皆んなが呼んでいるならと頷く。


 すると、エーヴィッヒは「呼んでみてください!」と言うので、リーナはわざわざ今呼ばなくても……。と思いながら「え、エーヴィッヒ殿下」と呼ぶ。



 ただ名前を呼んだだけなのに、エーヴィッヒはそれはそれは嬉しそうな笑顔をリーナに向けてくるのだ。


 そんな彼を見て、リーナはこれ以上、エーヴィッヒと一緒にいて誰かに見られたらどんな噂を流されるかわからないと。



 そう思ったので「で、では私はこれで……! フレイヤ様、今日はお会いできて嬉しかったです。エーヴィッヒ殿下もまた」とお辞儀をすると、慌てて馬車に乗り込む。


 馬車のから窓の外を見ると、フレイヤが手を振っていた。



 振り返すリーナは、ふと隣に視線を向けると、エーヴィッヒと目が合う。


 リーナは咄嗟に会釈をすると、エーヴィッヒもリーナに手を振る。



 動き出す馬車の中で、今日は何だか疲れたけど、フレイヤ様と親しくなれたのは良かったな。と考えているうちに、リーナは眠りについていた。

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