驕り高ぶる
引き続き、お茶会が行われているが、主催者であるはずの皇女様が一向に姿を現さない。
そのことについて、何か知っているかとリーナはエンゲルに尋ねると「皇女様は体調が優れないようで、遅れてくるそうですよ」と教えてくれる。
「心配ですよね」と皇女様を心配するエンゲルの横で、体調が良くないのだったら、お開きにした方が……とリーナが考えていた時「そういえば、デビュタントの時のヴァンディリアご令嬢のドレスはとても素敵だったとお聞きしましたが」とブリューテを慕っている令嬢のうち一人が話しかけてくる。
突然、話しかけられ、驚くリーナは「え、えぇ……」と返事が軽くなってしまう。
彼女の話に便乗するように、エンゲルが「会場でドレス姿を拝見いたしましたが、ヴァンディリア令嬢によく似合っていて、とても美しかったです」とニコニコと笑みを浮かべ褒めてくれる。
そんなエンゲルに「ありがとう」と返した時、ブリューテを慕っている彼女は「無名の仕立て屋にお頼みになられたそうですね」と更に話を続ける。
そんな彼女を怪訝に思うリーナ。
ブリューテを慕っている彼女が、どうしてずっと私に話しかけてくるのかしら……?
リーナがそう考えた時、彼女は「私ならデビュタントという晴れ舞台に、無名の仕立て屋に頼むなど恐ろしすぎて出来ませんわ〜」と言うのだ。
その言葉に、他の令嬢たちがくすくすと笑みを浮かべている。
あぁ……なるほど。
嫌味を言うために、わざわざ私に話しかけてきたのね。
どうしてわざわざ、ブリューテを慕っている彼女が、ブリューテが嫌っている自分に話しかけてきたのかが分かったリーナは、傷ついたり怒ったりすれば、相手が喜ぶだけ。と過去の経験から冷静に対応する。
「そうですね」と笑みを浮かべ、お茶を飲むリーナ。
何か反論してくる事を期待していたのだろう。
全く相手にされず、面白くないと言いたげに彼女は、リーナから顔を背けると「その点、ブリューテ様は皇室御用達の仕立て屋でお仕立てになられていて……流石はエーヴィッヒ殿下の婚約者ですわ〜」と褒める。
「既に皇族の一員ですわね」
「やはり、一流の仕立て屋で仕立てなければ」
そう次から次へとブリューテを褒める令嬢たち。
ブリューテは笑みを浮かべると「ヴァンディリア令嬢は、皇室御用達の仕立て屋に頼まれたようですが、私のを仕立てなければいけなかったから、断られたのですよね」と話す。
「それで、あのような無名な仕立て屋に……私の責任ですわ。もし今度、ドレスを仕立てる際は仰って下さいね。殿下にヴァンディリア令嬢も仕立てて頂けるように頼みますので」
そう情けをかけるような表情を浮かべ言うブリューテに、他の令嬢たちは「まぁ……何とお優しい」と感動している。
どこが優しいのかしら。私より立場が上だと言う事を見せびらかしているようにしか見えないわ。
言い返すつもりはなかったけど、仕立ててくれたアンナの事を馬鹿にされているようで気に食わない。
リーナは「そこまでして頂かなくても問題ありません」と笑みを浮かべる。
「確かに、皇室御用達の仕立て屋で頼み断られましたけど、私は断られずとも、今回仕立てて頂いたお店で仕立てて頂くつもりでした」
そう言うリーナに「そんなはずないですわ。無名の仕立て屋より、皇室御用達の仕立て屋の方がいいに決まっていますわ」と一人の令嬢。
そんな彼女にリーナは「令嬢が言う皇室御用達の仕立て屋が良い。と言うのは一体どう言う意味でしょうか?」と問う。
「意味……?」
「もし、無名の仕立て屋より名家御用達の仕立て屋の方が優れているからと言う理由であれば、それは大きなお世話ですし、もし、皇室御用達という言葉だけで良いと仰っているのなら、その考えは浅はかです」
リーナの言葉に「なっ……!」「皇室御用達なのですよ? どこの仕立て屋よりも素材も腕もいいに決まっていますわ!」と令嬢たちはムキになる。
そんな彼女らに、一つため息をつくと「だからそれを浅はかで大きなお世話と申し上げているのです」と返す。
「価値や評価は人それぞれです。あなた方のように、皇室御用達の仕立て屋が一番良いという者もいれば、たとえ無名だとしても、自分の好みの物を作る方に仕立ててもらいたいと思う者もいます」
「現に、私が仕立ててもらったドレスは唯一無二のデザインで、多くの方々にもお褒めいただき、仕立てて頂いたお店には多くのご令嬢たちが足を運んでいると聞きます」
リーナの話を聞き、エンゲルが「私も……! お店に行ってみましたが、どのドレスも素敵でした」ときらきらとした笑みを浮かべ言う。
そんなエンゲルを見て笑みを浮かべるリーナ。
すると、気まずくなったのか、ドレスの話を始めた令嬢は、一つ咳払いをすると「デビュタントの時、エーヴィッヒ殿下と踊りになるブリューテ様がとてもお美しかったと皆様お褒めになられていましたわ〜」と話を変える。
その時、一人のメイドが「おかわりはいかがですか?」とリーナに声をかけてくれたので、リーナは「頂きます」と返す。
お茶を淹れてくれるメイドから、ふわっと匂いが香ってき、リーナはこの匂い……。とメイドを見るも、お茶を注ぎ終えたメイドはすぐに、テーブルから離れ後ろで控える。
そんなメイドのことをリーナが気にしている間にも、令嬢たちのブリューテを褒めるのは止まる事を知らない。
「帝国きってのお美しさをお持ちになる、エーヴィッヒ殿下とブリューテ様のデビュタントのダンスは、それはそれは絵になったに違いありません」
「お聞きしたところ、多くの殿方がブリューテ様に踊りを申し込んだそうですが、エーヴィッヒ殿下以外とは踊りにならなかったとかで。」
そう言う令嬢の話に、ブリューテは「えぇ。私はエーヴィッヒ殿下一筋ですから。誰それ構わず踊ったりしませんわ」とリーナを見て言う。
それはまるで、四人の男性と踊ったリーナに対して、皮肉を言っているようで。
婚約者がいたとしても、他の男性と踊ったり、何人もの男性と踊ることは普通のことなのだが。
リーナは、また始まったと言わんばかりに、軽くため息をつくとお茶を口にする。
何も言い返してこないのを良いことに、ブリューテは「ヴァンディリア令嬢も多くの殿方にダンスの誘いを受けていましたよね。実際に踊られていたのは四人の方でしたが」と続ける。
「ヴァンディリア令嬢ほどのお美しを持っていたら、殿方が放っておかないのも無理ありませんわ」
そう褒めるブリューテに、リーナは、いきなり何……? と眉を顰める。
ブリューテがリーナの事を褒めることなど、回帰前も後もなかった。
一体どう言う風の吹き回し……? と思っていた時だった。
「その美貌を使い、ヴァンディリア前当主の心を買ったと言うのは本当ですの?」
意地悪い笑みを浮かべ、そう発したブリューテ。
他の令嬢たちも、くすくすと笑みを浮かべては、リーナを見ている。
今、なんて言った……?
眉を顰めるリーナに、ブリューテは「皆さん気になっているのですよ。名家のヴァンディリアがなぜ、養女を迎え入れたのか」と言う。
「けれど、デビュタントを迎え、ヴァンディリア令嬢を拝見し、その美貌で前当主様の心を買ったのだと皆、仰っていましたわ」
ブリューテの言葉に、リーナの体は一気に怒りで熱くなる。
そんな噂が流れていることは知らなかった。
恐らく、エーデルが私に知られないようにしてくれていたのだろう。
何も言い返さないリーナに、ブリューテは「何も恥じることはありませんわ。女にとって美しさは武器ですもの。現に、その美しさのおかげで令嬢は名家のヴァンディリアの養女になれたんですもの」と続ける。
「ご両親に感謝しないといけませんね」
そうくすくすと笑みを浮かべる、ブリューテや令嬢たち。
そんな彼女らに、エンゲルが「噂で聞いた事を話すなど失礼ですよ」と注意した時「エズワルド侯爵令嬢」とリーナがブリューテの名前を呼ぶ。
その声は、低く落ち着いているがどこか冷たく、一瞬でその場の空気を重くした。
くすくすと笑みを浮かべていた令嬢たちの笑いはやみ、リーナに視線が集まる。
そんな彼女たちに冷めた目を向けると、リーナは「……先ほどの発言について謝罪を」と言う。
リーナの言葉に、ブリューテは「謝罪? ただ私は聞いたことを話しただけですわ。それに、私はヴァンディリア令嬢のことを褒めて……」と悪気がないように言う。
だがリーナは「聞いたことを話しただけ、ですか」と言うと「第一皇子の婚約者であろう方が、耳にしただけの話を公の場で話すとは。それがエズワルド式のマナーなのですか?」と笑みを浮かべる。
皮肉を言われたブリューテは「なっ……! 失礼ですよ! ヴァンディリア令嬢!」と眉間に皺を寄せる。
「失礼……? では、今し方、令嬢が話したことは失礼にはあたらないと? 先ほどから度重なる令嬢の無礼な態度を見逃して差し上げたのにも関わらず、ヴァンディリアまで侮辱するとは」
「仮にも第一皇子の婚約者である令嬢が、真実ではない噂を、公の場で話をした事を陛下やヴァンディリア公爵が知れば、どのような事態を招くか想像する事くらいできますよね?」
重い口調でそう問いかけてくるリーナに、思わず息を呑むブリューテ。
そんなリーナに、他の令嬢が「失礼なのはヴァンディリア令嬢の方ですよ! ブリューテ様はエーヴィッヒ殿下の婚約者です。ヴァンディリアの話だって、他の方が話していたのをブリューテ様が話をしただけではありませんか」と怒ったように言う。
そんな彼女にリーナは「どちらが無礼か分かっておられないようですね。名前にフォンがつく家は、アサーナトスでは三家しかいませんと言えば、理解することができるでしょうか?」と問うと、ブリューテは何かを察したのか顔を曇らせる。
「名前にフォンがつく家は、帝国の剣と呼ばれる我がヴァンディリア家、そして同じく帝国の剣と呼ばれるグランべセル家。そして、我が帝国の主人であるディセール家だけ」
「フォンと言う言葉は、帝国の剣であるヴァンディリア、グランべセルがディセール、皇室の所有であるのを表すため。そして、皇室に最も近い位を持つと言う意味でもあります」
「そんなヴァンディリアの侮辱とも捉えれる噂を、第一皇子殿下の婚約者である令嬢がする事は、皇室を侮辱したのも同然。そして三つの家の関係に亀裂を入れることになる」
「そしてもし、そうなった時、エズワルド令嬢だけではなく、同じく噂に便乗し、くすくすと笑っていたあなた方にも、償いを求めることとなるでしょう」
リーナは立ち上がると「この事は、ヴァンディリア公爵に報告させていただきます。」と去っていこうとするため、大変な事をやらかしたことに気づいた令嬢たちは「お、お待ちをヴァンディリア令嬢!」「話を聞いてください!」と必死に止める。
そんな彼女たちに、リーナは「話をしたとて、あなた方にできる事はせいぜい、ヴァンディリア公爵や陛下が情けをかけてくださる事を願う事だけです」と言う。
その時、後ろで控えていたメイドが「ヴァンディリアご令嬢」とリーナの事を呼び止める。
リーナが振り返り「……何かしら」と問うと、メイドは「皇女様がお呼びです。ついて来てください」と言うのだ。
リーナは一瞬、何かを考えると「わかりました」とメイドについて行く事を決める。
そんなリーナを「待って……!」と呼び止めるブリューテに、メイドは「エズワルド嬢は後日、お話があると仰っていました」と言うと、先を歩いて行く。




