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公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
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強制捜査



 神聖国内にて、長いテーブルを挟み食事を摂る大司教と司祭のゼーゲン。


 そんな部屋の扉が叩く音がしたかと思えば「大司教様! 神聖国内にシセルバン伯爵家の当主であられるノア・シセルバン様が来られています……!」と焦った声がする。



 その声を聞いたゼーゲンは「シセルバン伯爵家ね」と水を一口飲む。


 そんなゼーゲンに続け、大司教は「何かコソコソとしているのは知っていましたが、シセルバン伯爵が出てくるとは……一体何をやらかしたのやら」と呆れた表情を浮かべると、食事していた手を止め、椅子から立ち上がる。




 「――シセルバン伯爵」




 神聖国内を捜査するノアに声をかける大司教。


 ノアは手に持つ本から、大司教に視線を向けては「あぁ……お久しぶりですね」と本を閉じる。




 「まさか、久々の再会がこのような形だとは思いませんでしたよ。我が神聖国の者が何かいたしましたか?」

 



 大司教の問いかけにノアは「えぇ。少々騒がしいですが、ご理解願います」と言うと、大司教は「もちろんです。罪を犯すとは神に背くと言うこと。隅々までお調べください」と笑みを浮かべる。


 そんな大司教を見つめるノア。



 その時「離せ!!」と言う声とともに、両手を捕まえられた司祭服を着た男性と、数人のシセルバン家の騎士がノアの元へとやってきた。




 「伯爵様。マテオ司祭をお連れいたしました」




 そう言う騎士たちにマテオ司祭は「何だ急に! 無礼だぞ!!」と抵抗しようとするも、鍛えられた騎士たちには敵わない。




 「神聖国には許可なく立ち入る事は禁止されているのだぞ! 知らないのか!?」




 そう叫ぶマテオ司祭にノアは「シセルバンだけは、許可なく立ち入る事ができるのですよ。ご存知なかったですか?」と返す。


 その時「マテオ司祭」と大司教がマテオ司祭のことを呼ぶ。 



 大司教に気がついていなかったのか、マテオ司祭は「だ、大司教様……! 私を助けてください……!」と助けを乞う。




 「伯爵様。こちら、マテオ司祭の部屋にあった資料です。確認したところ、パラディースの貴族らとの取引内容、日付など詳しく書かれてありました」




 騎士から資料を受け取ったノアは「……言い逃れのできない証拠が出てきましたね。マテオ司祭、同行していただけますね?」と問う。


 だがマテオ司祭は「わた、私はそんなもの知らないぞ!! 誰かが私を嵌めるために私の部屋においたんだ!!」と往生際悪く言うのだ。




 「ね、ねぇ……大司教様! 私がそんなこと、するはずありませんよね……?」




 そう笑みを浮かべ、大司教に助けを求めると大司教はマテオ司祭に視線を向ける。


 普段、穏やかな笑みをその目に浮かべているとは思えないほど、冷たい目で「神の加護を受ける聖なる神聖国で騒ぎを起こすなど言語道断(げんごどうだん)。聖職者にあるまじき行為です」と突き放す。




 「連れて行け」




 ノアの言葉に騎士たちは頷くと「大司教様……! お助けを……!!」と叫び続けるマテオ司祭を連れて行く。


 そんなマテオ司祭を見送ると、ノアは「もうしばらく神聖国内を調べさせていただきますが、よろしいですよね?」と大司教に言う。




 「まだ何か気になることでも?」




 そう言う大司教に、ノアは「いえ……まだ何か証拠があるかもしれませんので」と返すと大司教は「……そうですね」と頷く。




 「では、私はこれで失礼しますよ」




 大司教はそう言うと、ノアの元を去る。


 その時、前から司祭のナハトが歩いてき、大司教はナハトに「シセルバン伯爵の行動に注意していてください」と伝える。



 ナハトは立ち止まると、振り返ることなく「……承知いたしました」と返事をする。







 森を抜けた先、辺りは暗く人通りが全くない場所に、ローブを被った者が激しく息を荒げ、辺りを警戒したように止めてある馬車に向かい歩いてきた。


 よく見てみると、手には何やら大きな荷物を持っている。




 「こ、ここまで来ればシャッテンヴェヒターの奴らも気づくまい……やはり、別のルートを用意して正解だった」




 そう独り言を言いながら、馬車に乗り込もうとするのは、シャッテンヴェヒターらが今捕まえようとしていたバートン当主だった。


 バートン当主は、シャッテンヴェヒターらから逃げてき、あらかじめ用意していた逃走用の馬車に乗り込もうとしていたのだ。



 後は、証拠を消し去り、私が関わっていた事は完全に証明できなくするだけだ。




 そうニヤニヤと気味の悪い笑みを、バートン当主が浮かべた時だった。




 「こんな夜更けにお一人で、どこへ向かわれるんですか?」




 そう声がし、バートン当主は馬車に乗ろうとする足を止め、声のした方を振り向く。


 そこには、何故かエーデルとリヒトの姿があり、エーデルが「お久しぶりですね、バートン当主」と笑みを浮かべる。



 そんな彼らにバートン当主は「ななな、何故……君たちが……?」と焦りの混じった声で言う。


 リヒトは「この取引の貴族側の主犯格があなただと聞いて、別の逃走経路を用意してあると踏んでここにきたんです」と返す。




 「取引が行われていた現場から、バートン当主が友好にしていた家は近い。恐らく、逃走経路を確保できるように仲のいいふりをして近づき、家に訪れるのを理由に下見をしにきていたのでしょう」


 「俺とエーデルで、この場所を見つけるまでそう時間はかかりませんでしたよ」




 そう笑みを浮かべるリヒトに、バートン当主は「な、何故私が逃走経路を用意していると気づいたんだ……!」と問うので、今度はエーデルが答える。




 「先ほどリヒトが言っていたでしょう? あなたが主犯格だと聞いた時から、別の逃走経路を用意していると思ったと」


 「あなたは常に用心深く、バートン夫人にすら話していない別荘をお持ちだ。それに加えずる賢さを持っておられる。その用心深さとずる賢さで貴族派の中で上の立ち位置まで上り詰めた」


 「そんなあなたが、別の逃走経路を用意せずに、自ら取引を行うわけがないと思った。と言うわけです」




 シセルバン伯爵家で、貴族側の主犯格がバートン当主だと聞いたリヒトは、シセルバン伯爵家を後にした際、エーデルに『バートン当主が主犯格だとすれば、きっと別の逃走経路を用意しているはずだ』と話した。


 エーデルも同じ意見だったらしく、その後すぐにエーデルとリヒトで逃走経路に使えそうな道を探し、今、エーデルたちがいる場所に違いないと思ったのだった。



 案の定、エーデルたちの読みは当たっており、エーデルたちが隠れていることにも気づかず、逃走用の馬車がやってきたのだ。




 「と言うことでバートン当主。我々と一緒に来てもらえますか?」




 エーデルの言葉に、バートンは「あ、あぁ……」とやけに素直に、馬車に乗ろうとしていたのを辞めたかと思えば「……その前に、少しあなたたちにお会いさせたい人が」と言う。


 その声を合図に、どこかに隠れていたのかゾロゾロと約十名くらいの甲冑を着、剣を腰にさす恐らくバートン家の騎士たちが姿を現す。




 「見た感じ、あなた方二人でここに来たようですし、騎士たちがいる事は予想できなかったようですね」




 バートンはそう言うと「まだ未来ある若者を傷つけるのは気が引けますが……」と、騎士たちに合図をし、騎士たちは剣を取り出しエーデルとリヒトを取り囲むように剣先を向ける。


 その様子に、対して驚いたり慌てた様子を浮かべていないエーデルとリヒト。




 「……先に剣を抜いたな?」




 エーデルはそう言うと、腰にかけていた剣を抜き、リヒトも同じく剣を抜く。




 「人身売買してるやつを捕えるのに、丸腰で来るわけないだろ」




 エーデルがそう言うと、リヒトは「前は任せたよ」とエーデルの背後に立ち、剣を構える。


 そんなリヒトにエーデルは笑みを浮かべると、同じく剣を構える。



 それを見たバートン当主は「まだ叙任式を受けてもいない若造が騎士気取りか! お前たちやれ!!」と合図し、バートン家の騎士たちはエーデルとリヒトに襲いかかる。



 だが、エーデルとリヒトは軽々しく騎士たちを避けては、剣で斬っていく。


 そしてあっという間に騎士たちを倒していくエーデルとリヒトを、唖然とした表情を浮かべ見るバートン当主。



 若く、叙任式をまだ受けていないと侮り、彼らが帝国の剣と呼ばれるヴァンディリアとグランベルの人間だと言うことを忘れていたバートン当主。


 叙任式を受けていないとはいえ、幼い頃から英才教育を受けてきた彼らは、その辺の一般騎士よりも遥かに強いのだ。




 「と、取り引きをしよう……! 私を見逃してくれるのなら、今までの取引で得た報酬を半分分けてやる……!」




 往生際悪くエーデルたちにまで取引を持ちかけるバートン当主に、エーデルとリヒトは呆れた表情を浮かべると「さっさと縄で縛るぞ」とエーデルは言い、リヒトは「だね」と頷く。


 こうしてバートン当主も無事、お縄についたところで、バートン当主を探しに来たマティアスたちシャッテンヴェヒターがやってき、長く行われていた取引は幕を閉じたのだった。




 「――取引が行われていた家を押さえることができ、売買された子どもたちは全員無事に保護されました。取引が行われていたアサの出所についてですが、バートン当主が運営を行なっていた孤児院の地下で栽培されていたことがわかり、そちらも無事に処分することができたとのことです」




 取引現場を押さえた日から二日後、エーデルたちは再びシセルバン伯爵家へと集まっていた。


 マティアスの話に、ノアは「……取引に関わっていたのは主に、貴族派の人間たちで国民からの批判が殺到しているようですね」と言う。




 「逆に今回、取り締まったのがヴァンディリア、グランべセル、ヴィルスキンそしてシャッテンヴェヒターと言うどれも帝国を代表する者たちばかりで、皇室側の評価が上がったとかで」


 「さぞ、貴族派たちは悔しがっているでしょうね」




 そう言って一口お茶を飲むノアに、ヴィルスキン辺境伯は「ただ、帝国にとって害をなす者たちを捕らえただけですよ」と返す。


 ノアは「ですね」と頷くと「……そういえば、頼まれていたフォルトモントの件ですが」と話を続ける。




 「神聖国内全てを調べたわけではありませんが、これと言った神聖国との関係を示すような物は見当たりませんでした」




 ノアはエーデルたちに頼まれ、神聖国とフォルトモントの関係についても調べてみたのだが、何も手掛かりになるようなことは見つからなかった。




 「今回、取引に関わっていた者たちも、フォルトモントの事は知らないようで……この取引とフォルトモントが攫われていることはまた別件のようですね」




 今回の人身売買とフォルトモントの連れ去りは関連があると考えていたマティアスたちだったが、調べても何も出ず、どうやら関係はなかったようだった。


 なら何故、フォルトモントを狙った連れ去りが起きているのか。


 そしてその件に本当に神聖国は関係しているのか。



 まだ問題は残るばかりだ。




 「フォルトモントの件についても、引き続きお力を貸していただけないでしょうか、シセルバン伯爵」




 そう頼むエーデルに続け、ヴィルスキン辺境伯も「私からもお願いします」と頭を下げる。


 そんなエーデルたちにノアは、一つため息をつくと「……言われなくてもそのつもりです。命が関わっている可能性が高いのに、見過ごすわけにはいきませんから」と返す。




 こうして引き続き、シセルバン伯爵家の力を借りることができ、フォルトモントと神聖国との関わりについて調べることとなった。

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