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公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
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ダンスの時間



「あの……グランべセル公子様。もしよろしければ、私と踊って頂けないでしょうか……?」




 二曲目のワルツの最中、端によけ立つリヒトの元に、一人の薄紅色の髪をした、ふわふわとした令嬢がダンスの申し込みをする。


 本来、女性から男性をワルツに誘うということはあまりなく、その意味はかなり深い意味となる。



 頬を髪色と同じ色に染め、自身の事をダンスに誘う令嬢に、一瞬、少し驚いた表情を浮かべるリヒト。




 「……申し訳ありません。次に踊りたい相手がいるので」




 リヒトがそう言ったのと同時に、二曲目が終わり、踊っていた人たちは、それぞれ、次の相手に声をかけたり、もう踊らないと表すように飲み物を手に取る。


 そんな中、リヒトの目が誰かを捉えると「すみません」と声をかけてくれた令嬢に断り、歩いて行く。



 リヒトに断られた令嬢は、リヒトが誰の元へと行ったのかを確認するように、視線を追う。


 リヒトが向かった先には、数名の子息らに囲まれているリーナがいた。




 ど、どうしよう……断っているのに、引いてくれない……。


 

 シュタインと踊り終えたリーナ。


 シュタインが今度はエミリアと踊って来る! と言い、リーナを残して行ってしまい、リーナに声をかけるのを邪魔する者がいなくなった事をいい事に、子息たちがリーナにダンスを申し込んでいた。



 だが、会ったこともなければ、名前も知らない子息たちと踊れば、後が大変なのでリーナは断っているのだが、まるで聞こえていないかのように、子息たちはリーナをダンスに誘うのだ。



 どうしよう……エーデルに助けをと思ったけど、エーデルもエーデルで、複数の令嬢に囲まれているし……。


 最近の女の子は積極的ね……。



 そう考えながら、自分でどうにかするしかないと、リーナが口を開こうとした時「ヴァンディリア令嬢」と呼ぶ声がする。


 その声に引かれるように後ろを振り返ると、こちらに向かい歩いて来るリヒトがいて、リーナの前まで来ると「俺と一曲踊っていただけますか?」と手を差し出す。



 普段会う時とは違う、正装のリヒトに、普段呼ばない呼び方と話し方に、まるで別人のように見えてしまい、思わず胸が音を立てる。



 突如、割って入って来たリヒトに、他の子息らが「先に我々がヴァンディリア令嬢を誘っていたんです」「割って入らないでいただけますか?」と口々に言う。


 そんな子息らを、リヒトは「外野は黙っていろ」と言いたげに睨みつけると、子息たちは肩を震わせ、黙り込む。




 いつもと違うリヒトに戸惑いながらも、リーナは「喜んで……」と、リヒトの手に自分の手を乗せる。


 そして三曲目の音楽が流れ始めると、リヒトのリードのもと、ゆっくりと踊り始める。




 踊るリヒトの顔を、チラッと盗み見るリーナ。


 片耳に髪がかけられ、いつもとは違う髪型のせいか、それとも正装をしているせいか、いつものリヒトとは違って見え、妙に緊張してしまう。



 それに、清涼感のあるリヒトの匂いが、いつもより近くで香り、照れてしまう。


 だけど、リヒトの香りは落ち着くな……。公爵様が亡くなったと聞いた日も、リヒトが抱きしめてくれた時、香ってきて、落ち着いて――



 そこでハッとするリーナ。


 さっきから一体何を考えているんだと、恥ずかしくなる。



 その時、リヒトが「リーナとこうして踊れるなんて、夢みたいだ」と突如言うので、リーナは「え……」と驚き顔を上げる。


 そんなリーナを見て、リヒトはリーナを見つめると「いつも綺麗だけど、今日は一段と綺麗だよ」と言う。



 あまりにも真っ直ぐ、真剣な声で言うリヒトの言葉に、リーナは恥ずかしくなり「あ、ありがとう……リヒトもいつもかっこいいけど、今日はすごくかっこいいね……」と顔を下げ言う。


 だが、リヒトは何も言わず、リーナは再び顔を上げる。



 するとリヒトは顔を赤くし、顔を逸らしており、そんなリヒトを見るのは初めてで、リーナまで顔が赤くなってしまう。


 かっこいいだなんて、言われ慣れているだろうに。


 リヒトが照れるから、私まで恥ずかしくなる。



 そう思いながら、顔を下に向けていると「……今日」とリヒトが何かを言おうとしているので、リーナは顔を上げる。


 リヒトはとても真剣な表情をしており、リーナも真っ直ぐリヒトを見つめ話を聞く。




 「今日……リーナをダンスに誘ったのは、ただの友人だからではないって事、そこに深い意味があるって事を覚えておいて」




 その言葉を聞いた瞬間、回帰してくる前、最期に話した時のリヒトと重なり、リーナは驚いた表情を浮かべる。


 あの時の彼は、縋るような、辛そうな表情を浮かべていた。


 今のリヒトはただ真剣に、真っ直ぐリーナを見ているけれど、なぜかあの時の彼と重なったのだ。



 リーナは何かを言おうとしたが、曲が終わり、慌ててお辞儀をする。


 リヒトは「一緒に踊れて良かった」と言うと、何事もなかったように、振る舞うので、リーナは何も返す事ができなかった。




 リーナとリヒトがダンスを踊っていた頃、一緒に踊る二人を、エーデルはそばで見ていた。


 そんなエーデルに「……そんなに、妹が他の男性と踊るのが気に食わないのですか?」と言いながら、ブリューテが歩いて来る。



 そんなブリューテに少し視線を移しては、すぐに逸らし「……何か私に用ですか」と持っていた飲み物を飲むエーデル。


 ブリューテは「相変わらず、他人には興味がないのですね」と眉をひそめる。




 「説教をしに来たのなら他を当たってください。」




 そう言って、エーデルが歩いて行こうとした時「私と一曲踊ってくださらない?」と言う声が、エーデルの足を止める。


 エーデルはブリューテを振り返ると、「……そのような冗談はよしてください」と眉を顰め、怪訝そうな表情を浮かべる。




 アサーナトスでは、デビュタントで女性から男性をダンスに誘うのは、男性に好意がある事を指し、男性が女性をダンスに誘うよりも、かなり深い意味を持つ事になる。


 なので、婚約者がいるブリューテが、エーデルを誘うということはかなり問題行為なのだ。




 「他の男性と踊りたいのであれば、誘われるのを待っていればよろしいかと。あなたと踊りたいという男はたくさんいるでしょう」




 そう言うエーデルに、ブリューテは「……えぇ、そうですね。けれどそれじゃあ意味ないの。私はあなたと踊りたいんですもの」と笑みを浮かべる。


 その言葉に、さすがのエーデルも少し、戸惑った表情を浮かべる。




 「ずっと誘われるのを待っていたのに、全然誘ってくださらないんだもの」




 そう話すブリューテに、エーデルは、前から何となく思ってはいたが……と眉を顰める。



 ブリューテは、婚約者のエーヴィッヒがいるのにも拘わらず、エーデルのことが好きだった。


 正確に言えば、エーヴィッヒとの婚約が決まる前から、ブリューテはずっと、エーデルに密かに思いを寄せていた。



 だったらなぜ、ブリューテはエーヴィッヒと婚約を結んだのか。


 親同士が勝手に決めたためということはあるが、ブリューテは傲慢でプライドが高く、他の誰かが第一皇子であるエーヴィッヒと婚約するのが許せなかった。



 自分より、上の人間がいてはならないと。


 だが、エーデルへの思いは消えず、どうすればと一度悩んだ時もあった。



 けれど、エズワルド侯爵夫妻の『第一皇子の婚約者になれば、帝国の剣であるヴァンディリアとグランべセルの公子はあなたを守る事になる。だからエーデル公子もあなたの者になるんだよ』という言葉を信じ、ブリューテはエーヴィッヒとの婚約を呑んだのだった。


 そして今も、ずっとそうだと思い込んでいる彼女は、エーデルの前であまり好意を隠さなかった。



 その事に、エーデルは薄々気付いてはいたのだ。



 あまり話した事もなければ、会う事もないので、そのまま放っておけば、いつか自身に向けられた感情も一時の気の迷いとして無くなるだろうと思っていたけれど……。


 エーデルはブリューテを見ると、低く冷たい声を放つ。




 「先ほども申し上げたでしょう。そのような冗談はよせと」


 「な……! 私は冗談なんかじゃ……!」




 そう言うブリューテに、先ほどよりも低い声で、エーデルは言う。




 「ならば尚更。そのようなことは二度と口には出すな。次、そのような事を口にしたのなら、侮辱と捉え、それ相応の処置を取る」


 「そんな……!」




 エーデルはそう言い放つと、グラスを置き、その場を後にする。


 「この私を振るなんて……!」そう手を強く握り締めながら、肩を震わせるブリューテ。



 周りに人が少なく、誰も聞いている人がいないのが幸いだと思う。


 そして、視線はリヒトと踊るリーナに向けられると、あの女のせいで……! と何故か怒りがリーナに向けられる。




 あぁ……疲れた……と、壁の方に行き、少し休憩をするリーナ。


 合計で三曲も踊り、あまり踊り慣れていないリーナは、もう足がクタクタだった。



 もう絶対、誰に誘われても踊らないでおこう……。


 そう考えながら、飲み物を口にし、ふと隣で話をしているエーデルとリヒトを見る。



 二人は今会場にやって来たのかと思えるくらい、疲れた様子が窺えない。


 まぁ、私と違って、体力があるだろうしね。



 そう考えていると「リーナ!」と呼ぶ声と共に、シュタインとエミリアがリーナたちのもとへとやって来る。


 シュタインとエミリアは、二人で踊った後、共通の友人と話をしていたのだ。




 エミリアは、リーナのことを見るなり「デビュタントおめでとう、リーナ!」と言い、リーナも「エミリアも。おめでとう」と互いに祝い合う。




 「そう言えば、ずっと思っていたんだけど、リーナのそのドレスって薔薇を模しているの? すっごくリーナに似合ってて綺麗!」




 目を輝かせ、そう興奮したように言うエミリアに、リーナは「そうなの!」と嬉しそうにうなずく。


 すると、何故か得意げな様子のシュタインが「超似合ってるし、超すごいよな! リーナが見つけた仕立て屋で仕立ててもらったんだぜ!」と言う。




 「そうなの? 私も今度作ってもらいたいな~、良かったら教えてくれない?」




 エミリアの言葉に、待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべるリーナ。


 すると、周りで話を聞いていた他の令嬢たちも「実は私も気になっていて……」「是非、よろしければ教えていただけないでしょうか!」とリーナたちの元に集まって来る。



 その事に少し戸惑いながらも、リーナは、これを待っていたのよ……! とアンナのお店のことを話す。


 それから、令嬢たちは楽しそうに、自身が行きつけのお店や、最近の流行について話をし、盛り上がり、楽しそうに話すリーナを見て、エーデルとリヒトは嬉しそうに顔を見合わせるのだった。

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