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公爵家の養女  作者: 透明
第一章 回帰
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食事会



 アサーナトス帝国の西部に拠点を置き、数々の領地を所有し、莫大な軍事力、財力を成す、アサーナトス帝国の剣と呼ばれるヴァンディリア公爵家。


 アサーナトス帝国になり、現皇族であるディセール家に王権が向いた時から、650年もの間、ヴァンディリア家は、共に帝国の剣と呼ばれるグランべセル公爵家と皇室を支えてき、三家の間には計り知れない絆があり、誰も間に立ち入れることは出来ない。



 そんなヴァンディリア家は、現在、おおよそ50人ほどの使用人に、騎士団、ヴァンディリア公爵に、その実子であるエーデルとシュタイン、養子のリーナが暮らしている。



 ヴァンディリア公爵夫人は、リーナが公爵家にやって来る二年前に、病気で亡くなってしまった。


 そんな傷が癒えぬ中、リーナが公爵家にやって来たこともあり、エーデルとシュタイン、特にシュタインはリーナに対し、当たりが強いのかもしれないとリーナは思った。




 (わぁ……! 凄い料理の数……!)




 食事の時間となり、ダイニングルームで席に着き、目の前に並べられた大量の色とりどりの食事を見て、リーナは、回帰前のシュタインが士官学校から帰って来た時を思い出す。




 (そう言えば、過去のシュタインが帰って来た食事の時、私とシュタインは言い合いになってしまったのよね)


 (確か、いつものように、シュタインに意地悪な事を言われて、それに私が怒ってしまって……)




 回帰前は、よくリーナとシュタインは喧嘩をしていた。


 ほとんどは、シュタインがリーナに意地悪なことをし、それに対してリーナが怒るか泣くかだった。




 (あの後、公爵様がシュタインを叱ったんだけど、シュタインは謝らずに、怒って部屋に行ってしまって……エーデルも何も言わずに居なくなるしで、それが凄く申し訳なかったけれど、公爵様はずっと大丈夫だと慰めてくださったっけ……)




 そう過去の出来事を思い出すリーナは(今度は素敵な食事にするぞ!)と意気込む。


 そんなリーナを、隣に座るシュタインは(何だこいつ……)と言った視線を向ける。




 「久しぶりの家族全員での食事だね。それじゃあ、頂こうか」




 公爵に続け、リーナたちも「頂きます」と食事を摂り始める。


 久しぶりにシュタインが帰って来たからだろうか、料理のほとんどは、シュタインの好物で作られており、お肉の料理が多くなっている。




 「シュタイン、士官学校では楽しく過ごせたかい?」




 しばらく食事を進めた時、公爵は水を一口飲むと、シュタインに士官学校での事を尋ねる。




 「はい! 士官学校には沢山の剣の腕が立つ奴がいっぱい居たんですが、その中でも俺が1番だと先生に褒められました!」




 そう嬉しそうに、公爵に士官学校での日々を話すシュタイン。


 そんなシュタインの話を公爵は、優しい笑みを浮かべ、時に「それは凄いな」「流石はシュタインだね」と相槌を交えながら聞く。




 「でも、驚いたな。まさか、シュタインもエーデル同様に、首席で士官学校を卒業するとは」




 アサーナトスの貴族に生まれた男子は、皆、10歳を迎える年に、士官学校へと入学する事が義務付けられており、エーデルもまた、2年前まで士官学校に通っていたのだ。


 そこでエーデルは、首席で卒業したのだが、シュタインまでも士官学校を首席で卒業したそうで、その事は国中で話題となっていた。




 「国民らの間では、その事で持ちきりだそうです……俺が兄貴を追い越す日は、そう遠くはないって事だよ! 覚悟しておいてよ、兄貴!」




 そう鼻高々に、斜め向かいに座るエーデルに指を差すシュタイン。


 だが、エーデルは「たかが士官学校を首席で卒業したくらいで、俺を超えられると思える思考は褒めてやる」と口元を布巾で拭く。




 「何だよそれ! そんなに余裕こいていられるのも今のうちだからな!」


 「そうか、楽しみにしているよ」




 そう笑みを浮かべるエーデルだが、その表情はどう見ても、シュタインを煽っているようにしか見えない。


 そうして始まったエーデルとシュタインの喧嘩を、また始まったと言わんばかりに、眉を八の字にし、リーナに笑みを向ける公爵。



 そんな公爵を見てクスクスとリーナは笑うのだった。







 「そう言えば、今度、グランべセルの所の娘が誕生日だそうで、軽いパーティーを開くそうなんだが、お前たちにも招待が来ていてね。参加できそうか?」




 食事もほとんど食べ終えた頃、公爵はリーナたちに尋ねると、シュタインは「エミリアの! 参加するよ! なぁ、兄さん!」と嬉しそうに言う。


 エーデルは「まぁ、どうせ行くことになるしな」と頷く。




 (エミリアって確か、グランべセル公爵家のご令嬢で、私と同じ歳だったはず……前世では一度だけ、挨拶を交わした程度で、交流はほとんどなかったのよね)




 リーナがエミリアについて思い出していると、公爵が「リーナはどうだ?」と問いかけて来る。


 その瞬間、エーデルとシュタインの視線も、リーナに向けられる。




 (あ……そうだった。私は昔、公爵邸にやって来て直ぐに参加した、パーティーで、嫌な思いをしてからパーティーには全く行かなくなったんだった……)


 (回帰前は、何が何でも婚約者を見つけたくて、パーティーに参加し倒していたから忘れていたけれど……)




 黙り込むリーナに、公爵は「無理にとは言わないよ。正式なパーティではないし、行きたくなければ……」と言おうとした時、リーナは「行きます……!」と食い気味に返事をする。


 予想外の返事だったのか、公爵らは驚いた表情を浮かべている。




 「行きたいです! 誕生日パーティーに! だめ、でしょうか……?」




 眉を顰め、少し声を小さく言うリーナに、公爵はハッとし「だめなんかじゃない! そうか、リーナも一緒に来てくれるのか……!」と嬉しそうに笑う。


 すると、黙って話を聞いていたシュタインが「いきなりどうしたんだよ? お前、ずっとパーティーとか行くの嫌がってたじゃんか」と眉を顰める。



 そんなシュタインに、リーナは「友達が欲しくて……」と恥ずかしそうに答える。




 「は? 友達?」


 「うん……!」




 リーナは友達が欲しかった。


 回帰前も、デビュタントを終えるまで、ありとあらゆるパーティーには出ず、デビュタントを終えた後、社交界に頻繁に顔を出すようにはなったが、ずっと婚約者を探していたため、リーナに友人と呼べる存在がいなかった。



 そんなリーナは、エーデルとシュタインと仲良くなると言う夢と同等に、友人を作ると言う夢も、この2度目の人生で抱いていたのだ。


 頃合いを見て、公爵に友人を作れる場を設けてもらおうとしていたが、まさかこんなに早く、機会が回って来るとは思ってもいなかったリーナ。



 リーナは心の中で(生まれて初めての! 友人ができるかもしれない!)と嬉しさのあまり、小躍りをしていた。


 友達が欲しくてと言うリーナに、公爵は嬉しそうに「私もリーナに友人をと考えていたんだ。参加してくれると言ってくれて嬉しいよ」と笑う。




 公爵はずっと、家に引き篭もるリーナのことを心配していた。


 外に出なくなってしまった理由が理由なので、公爵は無理にリーナを外に出す事もなく、ただ見守るしかなかった。



 だが、心の中ではいつも、リーナに友人を作ってあげれないかと考えていたのだ。




 「当日は、リーナと同い年くらいの子が沢山参加するそうだ。沢山友人を作れると良いな」




 いつも、自身のことを気遣ってくれる公爵。


 その事が嬉しく、リーナは「はい!」ととびきりの笑顔を浮かべる。




 「友人だけではなく、婚約者も見つかるかもしれないしな」


 「まだ早いですよ……!」




 そう公爵とリーナが冗談混じりで言った時だった。


 シュタインの「は!?」と言う声と共に、カチャンッ――と食器のぶつかる音がし、そちらに視線を向ける。


 どうやらエーデルがフォークを皿に滑らせたようだ。



 エーデルは「すみません」と冷静に言うと、公爵は「珍しいな。エーデルが手を滑らすとは、大丈夫か?」と優しく言う。




 「はい……大丈夫です」




 エーデルはどこか動揺したように、そう言いながら、滑らせたフォークを整えると、真っ直ぐに公爵を見て言うのだった。




 「リーナに婚約者はまだ早いと思います」


 「え?」




 思いもよらないことを口にするエーデルに、リーナは驚き、思わず間抜けな声が出る。


 婚約者の話は、リーナも公爵も冗談で話をしていた。



 だが、シュタインも「兄さんの言う通りです、父上! こいつに婚約者はまだ早いですよ!」と言うのだった。




 「エーデルにシュタイン、どうしたの? 本当に婚約者を探すわけじゃないわよ?」




 戸惑いながらも、笑みを浮かべながら言うリーナに、シュタインは「じゃあ何でいきなりパーティーに行く気になったんだよ?」と疑いの目を向ける。




 「それはさっきも言ったでしょ? 友達が欲しいからって!」


 「本当に? 男が欲しいだけなんじゃないの?」


 「なっ……! シュタイン、下品な言い方はよして!」




 慌てるリーナに、シュタインは「よしてって、何でそんな歳上みたいな話し方なんだよ?」と眉を顰める。


 そんな2人のやりとりを見ていた公爵は、声を上げ笑い出し、リーナとシュタインは言い合いをやめ、驚いたように公爵を見る。



 公爵がこんなに大笑いをする事は滅多にないのだ。




 笑いすぎて出て来た涙を拭いながら、公爵は「そうだな。エーデルもシュタインも可愛い兄妹を、他所の者にやるのはまだ嫌だよな」と笑う。


 その瞬間、シュタインは顔を赤くしながら「べっつに、可愛いだなんて思ってませんよ!!」と声を上げる。




 「そうか? 側から見れば、姉を取られるのが嫌な弟にしか見えなかったが?」


 「なっ……! そんなわけないじゃないですか……! それに、僕の方が上です!!」




 そう慌てるシュタインに、公爵は「そうだな」と微笑ましそうに頷き、ますますシュタインの顔は赤くなる。


 そのやり取りを見ていたリーナは(多分、違うと思うけれど……)と苦笑する。




 「いやぁ、兄妹の仲が良くなって、私も嬉しいよ」


 「だからっ、違いますって……!!」




 公爵の言葉に、必死に反論するシュタイン。


 2人に何と声をかければいいか分からず、辿々しくなるリーナ。



 そんな中、エーデルだけは何処か戸惑ったような表情を浮かべ、自身の手元を見つめていた。




 最後の方は慌ただしくなったが、久しぶりの家族皆んなでの食事は、無事に終わったのだった。

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