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公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
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帝国の闇



 『アサを所持していた男はフェイクで、別の件が絡んでいる。そう思った私は、陛下にこの事を話し、シャッテンヴェヒターが内密に捜査を始めました』




 シャッテンヴェヒター


 皇帝付き騎士団、皇室騎士団とはまた違う、皇命を受け極秘任務や特殊作戦を行う、実力のある者たちで作られた騎士団。



 マティアスもシャッテンヴェヒターのうちの一人なため、ヴィルスキン辺境伯とともに、アサの件を捜査していた。




 『そして調べて行くうち、一部の貴族らと神聖国の者が、裏のルートを使い隣国サマリンへと出入りしている事を掴んだ我々は、サマリンへと向かいそこでも調査を進めました』


 『そこで分かったのは、一部の貴族、神聖国の者たちがサマリンを通し、パラディースととある取引をしていると言う事でした』




 パラディースとは、アサーナトスと停戦中のアサーナトスに次いで力のある国。


 そんなパラディースと、アサーナトスの貴族と神聖国がしていた取引き。


 それは




 『アサ、そして人身の売買でした』




 何となく予想はついていたのか、エーデルもリヒトも顔を顰めるだけで、さほど驚いてはいないよう。




 『ですが、確かな証拠やアサの出所、人身売買のために連れて来られる子どもたちの出所、関わっている人数など分かっていない状態で』


 『捕まえようにも捕まえられないと言うわけか』




 エーデルの言葉にマティアスは『シャッテンヴェヒターなら、疑わしい時点でも捕らえることは出来ますが、完全に根絶やしにするには、動くこともできません』と返す。




 『その件を調べるため、マティアス閣下がサマリンへと向かうと言うことは分かりましたが、どうしてこれらがヴァンディリア前当主の死へと繋がるのですか?』




 今の話では、クラウスは出て来ておらず、何故、クラウスが殺害されたのかが分からない。


 冷静に尋ねるリヒトに、ヴィルスキン辺境伯は頷くと、ゆっくりと口を開く。




 『私とクラウスが親しかった事はご存知ですよね?』




 ヴィルスキン辺境伯の言葉に頷くエーデルとリヒト。


 ヴィルスキン辺境伯の者は、立場も相まり、他者とあまり交流をとらない事で有名だった。


 そんなヴィルスキン辺境伯を唯一と言っていいほど、親しくしていたのがクラウスだったため、他の貴族たちも知っていた。




 『あともう一人、私とクラウスが親しくしていた者がいるのです。』


 『それは?』




 リヒトの問いに、ヴィルスキン辺境伯は頷くと『ヴァンディリア令嬢のお父上であるフィンスと言う者です』と言う。


 予想外の人物に、エーデルもリヒトも『リーナの父上……?』と凄く驚いといるようだ。



 そんな二人の反応を見て、ヴィルスキン辺境伯は『やはり、クラウスは話していなかったみたいですね』と頷く。




 『私とクラウス、フィンスの三人は国境付近の町、ニートリッヒにある、フィンスが営んでいる酒屋で出会いました』


 『何度か酒屋で会う度に、私たちは親しくなっていき、特にクラウスは随分とフィンスの事を気にっており、よく楽しそうに話をしていました』


 『フィンスが亡くなり、ヴァンディリア令嬢を、親族の猛反対の元、クラウスが養子として迎え入れたのも、彼が何よりも大切にしていたからでしょう』


 『フィンスが亡くなった後も、クラウスはフィンスが営んでいた店を買い取り、たまに訪れているようでした』


 『そんなある日、丁度、アサの件を調べている時でした。突如、クラウスからフィンスの店に来て欲しいと手紙を貰い、私はフィンスの店へと向かいました』



 

 そう話すヴィルスキン辺境伯の表情はだんだんと険しくなり、エーデルとリヒトの表情も更に真剣になっていく。




 『フィンスの店に行くと、約束通りクラウスがおり、私はクラウスに連れられ、店の地下、と言っても貯蔵庫のような場所へ向かいました』


 『そこは埃を被り、人の出入りした気配は全くないところでした。そんな場所にクラウスは私を連れて行くと、この部屋を見てくれと貯蔵庫の奥にある扉を開けました』


 『扉の先は、人一人入るのがギリギリと言った小さな部屋があり、そこには大量の本や資料のような者が置かれてありました』


 『そして、クラウスが一枚の手紙を私に渡して来たのです』




 ヴィルスキン辺境伯はそう言うと、組む足を変える。


 そして、クラウスから受け取った手紙の内容を話す。




 『その手紙は、フィンスとパラディースにいる、フォルモントの長である人物からの手紙でした』




 〝フォルトモント〟と言う言葉を聞き、眉を顰めるエーデルとリヒト。


 フォルトモント


 パラディース帝国にかつて存在した半独立国家であり、そこに住んでいた者たちは皆先祖が同じで、血が繋がっていると言う。



 だが、人口の減少により、国は無くなり、残ったフォルモントらはパラディースの各地に散らばり、生活していると言う。


 そして、その者たちには共通する()()がある。




 『手紙の内容はこうでした。最近、パラディースでフォルトモントを狙った連れ去りが頻繁に起きている。どうやら、アサーナトスの神聖国の連中が関わっているようだ。リーナの存在がバレぬよう、気をつけるんだぞと』


 『手紙の内容はそれだけでしたので、何故、神聖国がフォルトモントの人たちを狙っているのかは分かりません』


 『ですが、パラディースでフォルトモントの者たちが、複数行方不明になっているのは事実のようです。我々は、アサや人身売買の件とこのフォルトモントの件は繋がっていると踏み、クラウスも含め調査を進めました』


 『そして、クラウスが亡くなったあの日、クラウスは何かを掴んだようで私の元に訪れたようですが、あの日私とクラウスは会う事はできず……』




 殺されてしまった。


 クラウスが掴んだと言う物が何なのかは分からないが、クラウスだけが殺害されたのを見ると、確信的な何かを掴んでいたのだろう。



 あまりにも衝撃的な内容に、エーデルとリヒトは黙り込む。


 そして、エーデルは口を開いたかと思えば『まさか、リーナがフォルトモントの人間だったなんて……』と呟く。



 『フォルトモントの人たちは、共通の特徴を持ちます。お二人もご存知でしょうが、それは珍しく特徴的な紫の瞳です』


 『フォルトモント以外の者が、紫の瞳を持って生まれることもありますが、フォルトモントの者の瞳は満月の光に照らされると薄らと花模様が浮かび上がります』


 『満月の光に照らされることがなければ、その花模様は浮かび上がらないので、気づかないのも当然です』




 ヴィルスキン辺境伯の言う通り、フォルトモントの者たちは美しく珍しい紫色の瞳を持つ。


 だが、紫の瞳を持つ者は、珍しいとは言えフォルモントの者以外にも居るので、満月の光に照らされるまで、フォルトモントの人間だと言う事は分からないだろう。




 『リーナの父上がフォルトモントの人間だったのですか?』




 リヒトの問いに、ヴィルスキン辺境伯は首を横に振ると『ヴァンディリア令嬢の母方が、フォトルモントの血を引いているそうです。』と言う。


 そんなヴィルスキン辺境伯に、今度はエーデルが『リーナの母親はかなり前に亡くなっているのですよね?』と問う。



 すると、ヴィルスキン辺境伯は『えぇ。ヴァンディリア令嬢が生まれて直ぐのことでした。元々、体が弱く、ヴァンディリア令嬢を生まれ、持っていた病が進行し……』と話す。


 そして、懐かしそうに笑みを浮かべると『ヴァンディリア令嬢ととても良く似ており、とても美しい方でした』と呟く。



 その表情や、話し方からヴィルスキン辺境伯と、リーナの母親は親しかったことが窺える。




 『幸いにも、神聖国や他の者たちは、ヴァンディリア令嬢がフォルトモントの血を引いていると言うことには気づいておりません』


 『ですが、気づかれるのも時間の問題でしょう』


 『引き続き、捜査はして行きますが、ヴァンディリアの当主であり、ヴァンディリア令嬢の兄君であるエーデル様と、グランべセルの公子であり、ヴァンディリア令嬢、エーデル様と共に親交の深いリヒト様にはお話ししとくべきと思い、今回お話しさせていただきました』


 『マティアスはサマリンへと立ちますし、私もずっとはヴァンディリアにはいられませんので。ヴァンディリア令嬢を守れるのはお二方しかいません』




 ヴィルスキン辺境伯は、真っ直ぐ二人を見ると『どうか、ヴァンディリア令嬢の事をお守りください』と頼むと、エーデルとリヒトは『当然です』と頷く。







 ヴィルスキン辺境伯から聞いた話を思い出しては、シュタインとともに楽しそうに話すリーナを見るエーデル。


 リーナがフォルトモントの血を引いていることには驚いたが、あの美しい瞳を見れば納得だった。




 『――まさか、裏であんなことが起きていたとはな』




 ヴィルスキン辺境伯らと別れた後、ブティック店へと二人残ったエーデルとリヒトは、先ほどヴィルスキン辺境伯らから聞いたことについて話をする。




 『アサや人身売買の事もそうだけど、フォルトモントの件はリーナやシュタインに知られないようにしないとね』




 リヒトの言葉にエーデルは頷くと『これからリーナはデビュタントを迎えて、より多くの人の目に触れることになる。しっかり見ていないと』と眉を顰める。




 『せめて、父上が掴んだと言う何かが分かればいいんだけど、まだ当主になった俺じゃ思うように動けないだろうな……』




 エーデルがそう呟くと、リヒトは『そう、だな……』と返すと、何かを考えるような素振りを見せる。


 そんなリヒトにエーデルは『どうした?』と尋ねると、リヒトは『いや……』と何も言わなかった。




 「エーデル!」




 リヒトとのやり取りを思い出していた時、突如エーデルの耳に、美しく澄んだ声が届く。


 ハッとし、顔を上げるとリーナとシュタインが、エーデルの方を振り返り「何してんのー? 早く中に入ろうよー!」とシュタインは言う。



 エーデルは「あぁ……」と頷き、リーナとシュタインの元へ行くと、リーナは心配そうに「ぼーっとしてたけど、大丈夫?」とエーデルに尋ねてくる。


 そんなリーナの瞳はきらっと輝くも、フォルトモントの特徴である、花模様は見えない。



 エーデルは柔らかく笑うと、リーナの頭の上に手を置き「大丈夫だよ。中に入ろう」と言う。




 それから日は経ち、エーデルが当主を継承してから、気が付けば二月が経とうとしていた。

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