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公爵家の養女  作者: 透明
第二章 新たな始まり
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意味



 ヴァンディリア公爵が亡くなった事が、朝一の号外で国中に知らされた頃、教区・神聖国にもその事は伝わっていた。


 まだ、若い助祭らはその号外を聞き、生涯アサーナトスのために、その身を捧げて来た公爵が安らかに眠れるようにと、祈りを捧げていた。



 そんな中、窓が無いので机と壁にかけられた蝋燭の炎だけで、部屋の中が灯された薄暗い部屋の中に、長いテーブル囲むように、大司教のベネディクトと、二人の司祭が座り、食事を摂りながら何やら話をしていた。




 「まさか、こんなに急に亡くなられるとは」




 大司教はフォークとナイフを使い食事を摂りながら、あっさりとした様子で、ヴァンディリア公爵の死について触れる。


 一人の少し歳のとった司祭は「まだまだ若いのに……非常に残念です。ねぇ? ゼーゲン司祭」と向かいに座る、まだ若く見える司祭に話を振ると、ゼーゲンと呼ばれる司祭は「えぇ。心の底から」と笑みを浮かべる。



 そんな二人のやり取りを見ていた大司教は「おや? 私はてっきり、お二人がおいたをしたのかと思っていたのですが、勘違いだったようですね」と水を一口飲む。


 その言葉に、歳のとった司祭の動きは不自然に止まる。



 そんな彼を見た大司教は「やはりそうでしたか。」とさほど興味なさそうに頷く。




 「も、申し訳ありません……! 大司教様。私はもう少し慎重にと止めたのですが、ゼーゲン司祭が聞かなくて……」




 汗を掻き、必死にそう弁明を述べる歳のとった司祭とは裏腹に、ゼーゲンと呼ばれる司祭は「もう少し慎重に始末するつもりだったんですよ。ですが、これ以上逃しているとこちら側に不利になるので」と身振り手振りをつけ説明する。




 「別に、今更貴方方のやり方にとやかく言うつもりはありませんよ。教会(われわれ)に危害が加わらない限りは。ですが」




 大司教はそう、口元をクロスで拭うと、ゼーゲンと呼ばれる司祭は「流石は大司教様」と笑い、歳のとった司祭はほっと胸を撫で下ろす。


 そんな彼らのやり取りを、扉の外で聞いていた司祭のナハトは、顔色一つ変えることなく歩いて行く。







 ヴァンディリア公爵が亡くなってから間も無くして、葬儀が行われた。


 公爵の葬儀には大勢の人が参列しては、公爵との別れを悲しんだ。


 葬儀の準備は全て、マティアスが行ったおかげで、エーデルは公爵のことをゆっくりと見送る事ができたようだった。



 葬儀中、シュタインはずっと泣いており、リーナも何度か涙を流したが、エーデルだけは最後まで涙を流すことはなかった。


 そんなエーデルを見て、冷たいだの何だの言う人もいたが、リーナからすればそれは、次期当主としての覚悟の表れのように感じられたのだった。




 「リーナ」




 ヴァンディリアと深い交友関係にある、グランべセル公爵家一同も参列しており、リーナを見つけたエミリアが声をかけてくると、その後に続け、グランべセル公爵、リヒトもやって来る。


 グランべセル公爵は「突然の事で、何と言ったらいいか……我々に何かできる事があれば、是非何でも言ってくれ。必ず力になるよ」とエーデルに声をかけては、リーナとシュタインにも視線を向ける。




 「ありがとうございます、グランべセル公爵。」




 エーデルは丁寧にグランべセル公爵に、対応する。


 マティアスが居るとはいえ、次期当主となるエーデルが参列者の対応をする事はやはり多い。



 自身も辛い筈なのに、ずっと丁寧に対応をしているエーデルは流石だと思う。




 「リーナ、シュタイン……私も何でもするから、何でも言ってね……!」




 エミリアはポロポロと涙を流しながら、そう伝えてくれ、それがとてもリーナは嬉しかった。


 「ありがとう、エミリア」とリーナは眉を下げ笑うと、エミリアは更に涙を流す。




 「大勢の人を相手にして、疲れただろう。我々はこの辺で失礼するよ。何かあれば連絡してくれ」




 グランべセル公爵は、エーデルの肩に手を置くと歩いて行く。


 リヒトは何かをエーデルに話すと、リーナの方を見て頷くので、リーナも頷き返す。



 それからしばらくし、ヴァンディリア公爵の葬儀は終わったのだった。




 「――本当にエーデルを当主にする気?」




 葬儀が終わった後、休む暇もなく公爵家へやって来たのは、ヴァンディリアの傍系であるクラウスの兄妹たち。


 何やら話があるとやって来たのだったが、口を開けば当主についての事だった。



 マティアスたちが思っていた通り、甥や姪の心身を心配する言葉を発する前に、本当にエーデルを当主にするのかと尋ねて来た時には呆れて何も言えなくなるかと思った。


 エーデルとマティアス、その他兄妹らは一つの長いテーブルを囲む形で座り、当主について話を広げる。




 「エーデルが当主につく事は、クラウスの遺言ですので」


 「それは分かっているわ。ただ、私たちが言いたいのは、エーデルはまだ18歳よ? 当主を継ぐにはまだ幼すぎる」




 真っ当な事をマティアスに言う、クラウスの姉の言葉に、他の兄妹たちはうんうん。と頷く。


 そんな兄妹たちに「えぇ。ですが、当主を継げないことはありません。」と返すマティアス。


 そんなマティアスに対して、今度は次男が「普通は、未成年の場合、成人するまで代理を用意するものだろ?」と言うのでマティアスは「ですから、私が一月ほど代理を行いますと言ったはずでしょう? 聞いてなかったのですか」と呆れたように言う。


 マティアスが、一月ほど当主代理を行うことは、遺言に書かれており、兄妹たちにも説明をしていた。



 だが、まだ納得がいっていないらしく、今度は一番目の妹が言うのだった。




 「その後はどうしますの? マティアス兄様が代理をすると言っても、たった一月でしょう? 一月先でもエーデルはまだ未成年なのですよ?」


 「えぇ、分かっています。一月後にはエーデルには、本格的にヴァンディリアの当主となってもらう予定なので、代理はいらないでしょう」




 マティアスの言葉に「正気か!?」と立ち上がる四男に、マティアスは「落ち着きなさい」と冷静に返す。




 「法律でも、当主を継ぐものが未成年であっても、代理が不在の場合、当主を継ぐものが18を超えていれば、当主を継ぐ事ができます。」


 「代理が不在って、伯父叔母(僕たち)がいるじゃ無いか! まだ、成人を迎えていないエーデルだけに負担をかけるわけには……!」




 四男の言葉にマティアスは「だから、代理を立てずにエーデルを当主にするのです」とはっきりと言う。




 「貴方方に莫大な力を持つヴァンディリアの、代理だとしても当主が務まるとは到底思えませんので。それに、エーデルは優秀な子です。慣れてくれば何の問題なく、こなすでしょう。貴方方と違って」




 そうはっきりとマティアスに言われ、口をつぐむ兄妹たち。


 兄妹の中で優秀であるマティアスに言われ、誰も何も言い返せない。


 代理だとしても当主の器ではないと分かっているのだ。




 「え、エーデルはそれでいいのか? まだ兄さんも亡くなったばかりだし、色々と不安だろう?」




 一見、エーデルを心配しているように見えるが、クラウスが亡くなった今、体よく、ヴァンディリアの力にあやかろうとしているのがわかる。


 エーデルはとてもいい笑顔を浮かべると「いえ。僕一人で問題ないかと。マティアス伯父様も一月はヴァンディリアに居てくださりますし」と言うのだった。



 実の兄が亡くなったと言うのに、ここぞとばかりにやって来た伯父叔母を門前払いしなかっただけでも、有難いと思えとエーデルは言ってやりたかったが、どこかでそんな伯父叔母の力を借りなければならなくなる時が来るかもしれない。


 そんなことは無いに越したことないが、その時に借りれ無くなるのは嫌なので、エーデルはグッと堪えたのだ。



 マティアスはエーデルの言葉を聞き、ふっと笑うと「次期当主様もこう仰られています。どうぞお引き取りを。」と言うと「行きましょう、エーデル」と立ち上がり部屋から出て行く。


 取り残された伯父叔母は、悔しそうに立ち上がると、ぶつぶつと文句を言いながら、ヴァンディリアから帰って行った。




 それから月日は流れ、ヴァンディリア公爵が亡くなってから一月が経ち、エーデルは明日、新たにヴァンディリア公爵家当主となるため、貴族院へと継承の報告と宣誓をしに行く事になっている。


 エーデルはまだ未成年なので、マティアスも同行する事になっており、その後、隣国サマリンへと発つ。



 この一ヶ月間、エーデルはヴァンディリアの当主となるため、マティアスと一緒に、ひたすら当主の仕事をこなして来た。


 前ヴァンディリア当主、クラウスが生きていた頃から、エーデルは教わっていたこともあり、エーデルが職務に慣れるのにそう時間はかからなかった。



 だが、やはりヴァンディリアの当主の仕事はかなりの量で、日に日にエーデルは疲労が溜まっているようだった。


 そんなエーデルを見かねたのか、あんなにやんちゃ坊主だったシュタインが大人しくなり、剣の稽古も毎日顔を出すようになったのだ。


 まだ、クラウスが亡くなったことの傷が癒えていないだろうが、エーデルが切り替え、必死に当主の仕事になれるよう努めているのを見て、シュタインもこのままではダメだと、思ったのだろう。



 リーナはと言うと、クラウスが亡くなった事に対して、改めて、自身が回帰して来た理由はなんなのだろうと、深く考えるようになった。


 何故、自身は再びリーナとして生きて戻って来たのか。



 リーナは自身の部屋のソファーに座り、目を瞑る。


 

 確か、森の中で馬車に乗っている最中に、馬車が何者かによって襲われたのよね……どうして、馬車で森にいんだっけ?


 あれは確か、彼との結婚が決まり、彼の家に向かって……あれ?



 リーナはそこで違和感を覚える。


 本当に彼の家に向かっていたんだっけ?


 その瞬間、突如激しい頭痛と動悸がリーナを襲い、テーブルの上に置かれていたカップを倒してしまう。




 何、今の……?


 一瞬、誰かが見えたような……。




 その時「お嬢様?」と言う声が聞こえてき、リーナの肩に手が触れる。




 「大丈夫ですか? お嬢様」


 「ハン、ナ……?」




 リーナの名前を呼び、心配そうにリーナを支えるのは、メイドのハンナで、ハンナは「カップが倒れて……お怪我はありませんか?」とリーナをテーブルから離す。


 それと同時に、メイド長のエマも部屋にやって来ては「お、お嬢様? どうされたのですか……!」と慌ててリーナに駆け寄る。




 「だ、大丈夫よ。少し眩暈がして……もう治ったから安心して」




 リーナはそう笑みを浮かべるも、エマは「エーデル様をお呼びします」と言うので、リーナは「ダメ!!」と呼び止める。


 あまりの大きな声に、エマはビクッと体を揺らす。



 その事にリーナは謝ると「大した事じゃないから、大丈夫。ありがとう、エマ。ハンナも」と言う。


 ただでさえ、明日、当主になるので気が張っているのに、余計な心配をかけたくはない。



 リーナは再びソファーに腰を下ろすと、先ほど頭によぎったことを思い出す。


 さっきのは一体、何だったんだろう……。



 男性か女性かもわからなかった。


 あれが誰なのか分かれば、回帰して来た理由もわかるのかな。




 それから時間は経ち、いよいよエーデルは貴族院へと向かう日となった。

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