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公爵家の養女  作者: 透明
第一章 回帰
11/21

騒動



 リヒトと一緒に会場へと戻って来ると、丁度エミリアへプレゼントを渡すタイミングだったらしく、来場者は皆、エミリアへとプレゼントを渡し祝いの言葉を述べている。




 「あ、リーナ帰って来た! どこ行ってたんだよー」




 リーナを見つけたシュタインは、何処か不貞腐れた面持ちでリーナを迎え入れる。


 そんなシュタインの隣に立つエーデルも、リーナと一緒にいるリヒトを見て「リヒトと一緒にいたのか?」と問いかけて来る。




 「本当だ。二人って知り合いだったっけ?」




 頭の後ろで手を組み、不思議そうな表情を浮かべるシュタイン。


 そう言えば、音楽祭で助けてくれたのがリヒトだったと言う事を、二人には話していなかったなと、二人に説明する。


 リーナの話を聞いた、二人の反応は対照的だった。


 


 「えぇ!? そうだったの?」


 「まぁ、だろうな」




 驚くシュタインとは裏腹に、エーデルは驚いている様子はなく、むしろ納得している様子だった。


 そんなエーデルに「え、兄貴知ってたの?」と更に驚くシュタイン。



 

 「まぁ、普通に漆黒の髪に俺と同じくらいの年齢で、成人の男三人を瞬殺できるってなったら、大体予想つくしな。毎年、妹を音楽祭に連れて行ってるって言ってたし」




 平然と言うエーデルにリーナは「気づいてたなら教えてよ」と眉を下げる。


 リヒトも眉を下げ呆れた様に「無駄だよ、リーナ。エーデルはその辺適当な所があるから」と笑う。




 「そう言えば、お前の事を探してる令嬢がいたけど、会った? 確か、黄色のドレスの……」

 

 「あぁ……会ったよ」




 そう話す二人の横で、リーナは、そう言えばリヒトもエーデルと同じ士官学校に通っていて同級生だったっけ、と思い出す。


 エーデルが首席で卒業したのに対し、リヒトは次席だったとか。



 二人が通っていた士官学校は、身分関係なく入学する事ができた。


 だが入学するには、難関な試験を合格しなければならない。



 けれど、難関な試験を合格できたら、民間人も入学できるって言うのが良いわよね、と考えるリーナ。


 実際、才能が開花し、騎士の爵位を貰った民間の出の騎士がいる。



 それくらい、アサーナトスにとって軍事力は大切なものなのだ。




 「はぁ? 兄貴、まじで言ってる? あの令嬢黄色いドレスなんか着てなかったじゃん!」




 突如、シュタインの呆れた大きな声が、リーナの耳に入ってき何事かとシュタインたちの事を見る。


 どうやら、先程リヒトに告白をしていた令嬢が、エーデルとシュタインにリヒトの場所を尋ねたようなのだが、その令嬢のドレスの色をエーデルは異なった色で記憶していたらしい。




 「オレンジのドレスだったって。なぁ? リヒト兄」


 「あぁ。オレンジだった」




 二人の話を聞き、確かにオレンジの小花柄が散りばめられた、暖かい雰囲気のドレスだったと頷くリーナ。


 「ほら、やばいって兄貴!」と言うシュタインに、心底どうでも良さそうに「どっちだっていいだろ」と返すエーデル。



 そんなエーデルをあり得ないとでも言いたそうに、シュタインは「兄貴ってこう言うところあんだよなー」と言う。




 「人に興味ないって言うか、妙に冷めてるって言うか。人の名前と顔も覚えるの苦手だよな?」




 この前だって、一人の令嬢がエーデルに挨拶して来た時に、初めましてとか言って相手の女の子がショックを受けていたんだと、そんな事が何度もあり、あまりにも可哀想だと訴えるように言うシュタイン。


 ずっと話を聞いていたリヒトも頷くと「確かに。何度か見たことある」と言う。



 リヒトに同意され、シュタインは「でしょ!?」と更にエーデルへの不満をぶつける。




 「女の子たちの顔も名前も覚えないし、些細な変化にも気づかないから、褒めたりもしない。甘い言葉も囁かない。のくせ、俺よりモテるのが腹立たしい!」




 後半はシュタインの妬みが入っている気がするが、シュタインの言うことは事実だ。


 エーデルは他人に対して興味がなく、人の顔と名前を覚えるのが苦手なのだ。


 なので、社交の場では苦労をしているのだが、その冷静さと年齢の割には落ち着いた話し方に立ち居振る舞い、教養の良さでなんとか乗り切っている。



 だが、全部に対して記憶が悪いのではなく、その他のものに対しては記憶力が良いので、ただ単に人に興味がないのだろう。



 確かに、エーデルは簡単に人を褒めたりはしないと頷くリヒト。


 そんな中、リーナは二人の話を聞き、些細な変化にも気づかない? と不思議に思う。


 先程、リーナが令嬢たちに話しかけるのを不安に思っていた時、エーデルはそれに気づいて背中を押してくれた。


 それに、髪型やドレスだって褒めてくれる。


 そう首を傾げるリーナの横で、シュタインはずっとエーデルに対し恨みを言い続け、終いにはその恨みはリヒトまでにも向けられる。



 そんなシュタインにエーデルは「モテないだけでギャーギャー騒いでるからモテないんだよ」と極めて真っ当な事を言う。


 エーデルの言葉が心にナイフのように突き刺さったシュタインは、胸を抑え意気消沈してしまう。


 他人から見た、ヴァンディリアの人間は、気高く品があり、貴族の中の貴族だなんて言われているが、至って普通な人間なのだと、最近リーナは身に染みて感じている。




 「酷い! 言葉の暴力だ! 皆んな顔に騙されているんだ!」




 シュタインは全く上手くない泣き真似をしたかと思えば、その場から走って行ってしまう。


 何なんだと呆れた様子のエーデルの隣で、リーナとリヒトは苦笑いを浮かべている。



 その時、突如騒がしくなったかと思えば、どうやらシャスマン子息がエミリアにプレゼントを渡したらしく、エミリアが目を輝かせ喜び、そんなエミリアを令嬢たちが頰を赤くし「良かったですわね、公女様!」と騒いでいた。


 流石は自信家のシャスマン子息と言おうか、どのプレゼントよりも大きな箱で、子ども1人なら入れそうなくらいだ。



 そんな様子を見ながらエーデルが「良いのか? あれ」とリヒトに問う。


 どう言う事だろうと、リーナはエーデルを見る。



 リヒトはエーデルの言葉の意味を理解しているのか「良いも何も、俺の言う事には聞き耳持たずでね。俺じゃどうしようもできないよ」と諦めたように答える。




 「この前もあのシャスマン家の坊ちゃんが、別の令嬢を家に招いたらしいんだけど、その事を話しても無理だったよ。彼が本当に愛しているのは私なのって」




 痛むのか額を押さえるリヒトに「恋は盲目って言うからな」と何故か納得している様子のエーデル。


 2人のやり取りを聞き、リーナはシャスマン子息の女癖の悪さの話かと納得する。



 まだ成人もしていない年だというのに、今の段階からそんな調子では、この先改心することはないのだろう。



 正直言って、彼の女癖が悪かろうがどうでも良い。


 だが、エミリアが慕っている相手とあり、無視はできない。



 話を聞く感じ、リヒトは何度もエミリアにシャスマン子息の事を話しているようだが、エミリアは全く聞く耳を持っていない様子。


 まぁ、恋は盲目と言うしね……と、エーデルと全く同じ事を考えているリーナ。



 リーナからしても、エミリアが女癖が悪いシャスマン子息なんかに、傷つけられるのは許し難い事。


 リーナは先程、シャスマン子息に家に来ないかと誘われた事を話し、彼だけは辞めるよう説得しようと心に決める。







 「え、エミリア……!」




 エーデル、リヒト含めた少年たちは、グランべセルの練武場を見に行っており、会場には令嬢たちと大人たちしかいない。


 グランべセルの練武場どころか、グランべセルの敷地内に足を踏み入る事ができるのは、決められた人間しかいない。



 そんなグランべセルの練武場を、今日は特別に見学ができると聞き、少年たちはこんな機会は滅多にない! と嬉しそうに見に行ったのだ。


 その隙にリーナは、エミリアにシャスマン子息の事を話そうと、エミリアに「少し、二人で話をしたいのだけれど……」と他の者には聞こえない声で、エミリアを誘う。



 エミリアは「話?」と首を傾げながらも、承諾してくれ、話をするため席を外そうとした時だった。




 「た、大変です旦那様……! リヒト様とエーデル様が……!!」




 慌てた様子で、屋敷内に入って行ったはずの、グランべセルの執事長のクラウスが会場へとやって来たかと思えば、リヒトとエーデルがシャスマン子息とその他の子息たちが、何やら揉めていると言うのだ。


 互いに殴り合っていると聞き、ヴァンディリア、グランべセル両公爵は「エーデルが?」「リヒトが?」と驚いている様子。



 リーナとエミリアも顔を見合わせると、急いで練武場へと向かう公爵たちの後を追う。




 「――エーデル!!」




 練武場へと慌てた様子でやって来たリーナたち。そこには、地面に尻餅をつき、泣きっ面を浮かべているシャスマン子息含めた二人の少年の前で、騎士たちに囲まれたエーデルとリヒトが苛立った様子で立っていた。


 周りの少年たちは、騒然としており、殺伐とした空気が流れている。



 ヴァンディリア公爵とグランべセル公爵が、一体何があったのかと尋ねた時、怪我をしたシャスマン子息らの親もやって来、腫れ上がった息子の顔を見て、いったい何があったのかと騒ぎ立てる。




 「いくら、公爵家のご子息とはいえ、無力な子たちに手を上げるとは……この事にどうお考えですか? 公爵様方……!」




 鼻息荒く両公爵に問いただすシャスマン伯爵。


 ヴァンディリア公爵は冷静に「一体何があったのか説明してくれ」と騎士たちに尋ねる。



 騎士の一人が「シャスマンご子息らが、ヴァンディリアご令嬢の――」と言いかけた時、エーデルの「むかついたから殴ったんだ」と言う声がそれを遮る。

 



 「弱いくせにヘラヘラとしていたからむかついたんです。」




 平然とした様子で言うエーデルに驚きながら、グランべセル公爵は「リヒト、お前は何故だ?」と問う。


 リヒトもエーデル同様平然とした様子で「エーデルと同じです」と答える。



 その瞬間、シャスマン伯爵らが「何て横暴な……!」と怪訝の表情を浮かべる中「違うだろ! 兄貴!!」と言うシュタインが間に入る。


 そしてシャスマン子息らを睨みつけ指を刺し「こいつらがリーナの事を悪く言ったから、兄貴たちが殴ったんじゃん!!」と言う。




 「シュタイン!!」




 そう苛立ったようなエーデルの声が鳴り響く。


 シュタインはハッとしたように、リーナを見る。



 その様子を見て、リーナは悟った。



 リーナに断られたシャスマン子息たちが、リーナの悪口を言い、それに怒ったエーデルとリヒトが彼らに手を挙げたのだろう。


 その事をエーデルとリヒトが言わなかったのは、悪口を言われていたと知れば、リーナが傷つくかも知れないと思ったからだろう。




 「リー、ナ……?」




 そう凄く驚いたようなエーデルの声が聞こえて来る。


 そんなエーデルの横では、リヒトも驚いた表情を浮かべている。



 何故だろう。


 そう思った時、自身の頰を温かい何かが伝っていくのがわかる。




 (あれ……どうして泣いているんだろう……)




 何故、いきなり泣いてしまったのか、自分でも分からない。


 暴力はいけない事だとは分かっている。


 けれど、エーデルが自身のために怒ってくれた。


 ただ、その事に嬉しくなったのだ。




 「リーナ……! 泣かないでおくれ……!」




 そう、ヴァンディリア公爵がリーナの前にしゃがみ、頭を撫でる。


 エーデルたちは悪口を言われたと知り、リーナが泣いてしまったと思い、シュタインが「お、俺まずいこと言ったかな……?」と顔を青ざめさせ、エーデルはシャスマン子息の胸ぐらを掴み、騎士たちに止められる。



 そんなエーデルをリーナは止め、何とか騒動は収まったのだった。




 「――エーデル、リヒト」




 皆が帰る準備をしている中、馬車の近くで公爵たちと話していたエーデルとリヒトに声をかけるリーナ。


 あの後、騎士たちや見ていた他の少年たちに事の詳細を聞き、リーナに断られたシャスマン子息がその腹いせに、リーナの事や出身について他の少年たちと悪く言い、それに怒ったエーデルがシャスマン子息の胸ぐらを掴んだらしい。


 そんなエーデルにシャスマン子息は「殴れるものなら殴ってみろ」と挑発し、エーデルは殴ったそう。



 隣にいたリヒトは巻き込まれる形で、少年たちを殴ったそうだ。


 その事を聞いたヴァンディリア公爵は、彼らの謝罪は受け入れなかった。


 すなわちそれは、彼らはこれ以上、社交界では浮いた存在になると言う事。

 


 二人はリーナの事を見ると、エーデルが「……大丈夫か?」と問いかけて来る。



 エーデルは聡く冷静で、無闇に暴力を振るったりしない。


 そんなエーデルに手を挙げさせてしまった事が申し訳なく、リーナは「ごめんね、エーデル。リヒトも」と申し訳なさそうにする。




 「何でお前が謝るんだ。あいつに殴りかかったのは、俺らが勝手にやったことだ。お前が責任を感じる必要はない」




 そう平然と言うエーデルに、リヒトも頷く。


 それでもやはり、エーデルとリヒトが悪く言われてしまうのではと心配なリーナは「でも……」と心配な表情を浮かべる。



 そんなリーナの頭に手を置くと、エーデルは優しく笑い「お前は何も気にしなくて良いんだよ」と言う。


 隣では同じようにリヒトが優しく頷く。



 それはまるで、リーナが考えている事を読み取り、心配しなくても大丈夫と言っているようで。


 リーナはやはり申し訳なくなった。




 「リーナ!」




 エーデルたちと話をしていると、リーナの名前を呼ぶ声がする。


 振り返るとエミリアとシュタインがおり、リーナは「エミリア……」と何処か申し訳なさそうにその名を呼ぶ。



 シャスマン子息はエミリアの意中の相手だ。


 そんな相手と、自身のせいでエーデルとリヒトが揉めてしまった事は、エミリアも聞いていた。


 エミリアに申し訳ない事をしてしまったし、エミリアに嫌われてしまっただろう。



 それにせっかくの誕生日パーティーを台無しにしてしまった。


 せっかく仲良くしてくれたのに、申し訳なさでいっぱいのリーナは何も声をかける事ができない。


 嫌われてしまっただろう。


 リーナがドレスの裾をギュッと掴んだ時だった。




 「ごめんね、リーナ。嫌な思いしたよね」




 エミリアが申し訳なさそうな表情を浮かべ、リーナに謝ったのだ。


 いきなりの謝罪に、困惑するリーナに、エミリアは続ける。




 「女癖が悪いのは知っていたけど、あそこまでクズだとは思わなくて……あ、思い出しただけで腹が立って来たわ。」




 そう一人ぶつぶつと言うエミリアに、リーナは「私に怒って、ないの……?」と聞くと、エミリアは「怒ってるわけないじゃない……! あいつには怒ってるけど!」と言い、エミリアは次から次へとシャスマン子息への愚痴が出て来る。




 「フラれたからって、ねちねち悪口を言うなんて、本当醜い男! 何であんな奴のこと好きだったのかしら!」


 「身分でどうこう言う奴って嫌いなのよね!」




 そう怒るエミリアを見て、リーナは思い出す。


 確か、エミリアはグランベル公爵が再婚した女性との子どもだった。


 その再婚相手の女性が、身分が低く、グランべセルの人間なら継ぐはずの漆黒の髪に黄金の瞳をエミリアは継がなかった。



 その事で、エミリアの母は浮気を疑われたり、エミリアが少しでも失敗すると、母親の出が悪いからだと馬鹿にされていたと聞いた。



 エミリアはリーナの手を掴むと「完全に目が覚めたし、もうあんな奴と会わないし話さない。だから、私たちはこれからも仲良くしましょう?」と力強く言う。


 嫌われてしまったと思っていたため、まさかそう言ってもらえるとは思っておらず、これからも仲良くしようと言われリーナは嬉しくなり「もちろん……!」と力強く頷く。




 そんなエミリアを見たエーデルが「あんなに盲目的だったのに、意外とあっさりしてんのな」と言うと、リヒトは「あぁ、まぁ良かったよ」と苦笑する。



 結果的にエミリアをシャスマン子息と離すことができ、リーナとリヒトはほっと胸を撫で下ろしたのだった。




 「また、手紙出すからね! 今度は二人で遊びましょう!」




 帰宅するため、ヴァンディリアの馬車に乗り込もうとするリーナに、エミリアがそう言うと、リーナは嬉しそうに「私も! 手紙書くね!」と返す。


 公爵同士も挨拶を交わし、エーデルとシュタインも挨拶をし、馬車に乗り込む。



 リーナはもう一度、手を振ろうと馬車の中から外を見ると、リヒトと目が合い、リヒトはリーナに向け「またね」と口をパクパクさせリーナは頷く。


 エミリアとリヒトに次会える日の楽しみを胸に、リーナを乗せた馬車は公爵家へと向かう。

 


 トラブルがあったものの、何とかエミリアの誕生日パーティーを終えることができ、再びリーナは、公爵邸での日々を過ごしていたのだった。

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