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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
愛を知る魔女
9/39

魔女と使い魔は奔走する

スピカ=ルーンは、朝から大忙しだった。

珍しく、初めての家事をしていたのだ。

使い魔・アルト=ハルメリアがオロオロしている。

彼女の初めての試みは、大失敗だった。

皿を洗おうとすれば全て割り、洗濯をすれば破くか、

干すときにすっ転ぶ。料理をすれば手を切る、もしくは

(何故か)爆発を起こす。掃除をすれば逆に

散らかすといった感じで、ついにアルトに、低い声で

何もしないでください、と叱られた。

スピカが何故家事をしようとしたのかというと、自分の

アルトへの思いを自覚したからだった。

アルトが他の女性と仲良くしているのを見てしまい、

どこかへ行ってしまうのでは?と恐怖したのだ。

彼のために何かしたいと思い、早速やったのだが、空回りしていた。



アルトは首をかしげながら、皿の破片を片づけ、洗濯をやり直し、

台所をぴかぴかに磨き上げていた。アルトは訳がわからなかった。

今まで何もしようとしなかった女主人が、いきなり私が家事をする、

と言ってきたのだ。全て失敗していたので、心配になり、何もしないで

、と叱りつけてしまったが。

彼女がけがをしているのを見るのが、とても嫌だった。悲しかった。

彼女に知ってほしいと思った。自分の気持ちを。自分が、どれだけ

彼女のことを想っているかを。

 『告白しちゃったら?』

友人であるメリッサ=ウォーカーの言葉がよみがえり、アルトは

赤くなった。でも、今は言えない。言って、普通の顔で君を私も

好きだ、と言われたくなかった。使い魔としての愛情なんて、

アルトは求めていなかった。一人の男としてみてくれないので

あれば、愛なんていらなかった。

 「スピカ・・・・・・」

初めてさんをつけずに呼んでみる。少し赤くなっていると、

ドサッと何かが倒れる音が聞こえてきた。



 「スピカさん!!」

アルトが駆け付けると、スピカは顔を真っ赤にして倒れていた。

目がぐるぐると回っている。額に手をあてると、やけどしそうなほど

の熱が手に伝わってきた。

 「アルト・・・・・・あつい・・・・・・なんで・・・・・・?」

 「だ、大丈夫ですか!? 立てますか!?」

アルトはかなり軽い彼女を抱き上げ、ベッドまで運んだ。

 「ちょっと待っててくださいね、すぐに戻りますから」

 「いかないで」

ぐいっとスピカがアルトの服の裾を引っ張った。おもいがけず強い

力に、彼はつんのめった。

 「どこにもいかないで」

 「わがまま言わないでくださいよ、氷とか薬とか買ってきますから。

リイラさんにも連絡しないと・・・・・・」

 「リイラ・・・・・・今日・・・・・出張中・・・・・・仕事・・・・・・

いない・・・・・・」

 「うっ、うそおおおおおっ!!」

アルトはつい絶叫してしまった。リイラ=コルラッジは、スピカの

親友である。しっかりした女性で頼りになるのだが、それがいないなんて。

ぐいっと引っ張られ、アルトはスピカのベッドの上に倒れこんだ。

 「いたたた。スピカさん、なにするんですか!!」

 「とおくにいかないで。わたしのそばからはなれないで」

アルトは目を見開いた。唇にやわらかい感触が伝わってくる。

スピカの唇が、アルトの唇に重なっていた。

 「ずっと・・・・・・わたしの・・・・・そばに・・・・・」

それだけ言うと、スピカはかわいらしい寝息を立てて眠ってしまった。

真っ赤になりながら、アルトは首をかしげる。

元々鋭いたちではないので、彼女の思いには気づかなかった。



アルトはスピカの財布から少しお金を持ちだし、馬車に乗って

王都シュザリアにやってきた。

歩き回っていると、友人のメリッサと会った。

 「アルト、今日も買い物?」

 「メリッサさん!! スピカさんが風邪になったみたいなんです。

薬とか、売ってるお店しりませんか?」

 「家によっていけるなら、薬くらいわけるよ。氷もたくさんあるしね」

にっこりと笑った彼女は、仕入れ中らしく、果物や卵の入った袋を

持っていた。小麦粉の大袋を、後で届けてくれるように、店の人に

頼んでいる。

彼女は『占いカフェ・カッサンドラ』の店主なのだった。

 「ありがとうございます!!」

アルトは持ちます、とメリッサの荷物を取り上げた。



店に着くと、メリッサはすぐに薬を取ってきてくれた。袋に入った

いくつかの氷も渡してくれる。

 「これ、アイスの作り方ね。食欲なくても、冷たいアイスなら

食べれるかもしれないから」

 「ありがとうございます、助かりました!!」

 「いいよぅ。人形の魔女によろしくね」

 「はいっ!!」

アルトは再び馬車に乗り、館へ戻っていった。

目覚めたスピカが、ぎゅうっと抱きついて来て、顔が赤くなる。

 「どこにもいかないでっていった・・・・・・」

 「ご、ごめんなさい。薬とかを買いに行っていたんです。・・・・

・・あっ!! 体温計がないっ!!」

買い忘れた、と悲観したが、薬が入った袋に一緒に入っていた。

メリッサに感謝し、スピカに渡す。

 「熱、はかってください」

 「やりかたわからない」

アルトは泣きたくなった。男としてみられていないのかな、とショック

を受けた。嘆いていても仕方ないので、目を閉じてスピカのわきの下に

体温計をはさむ。あっと声が上がったので、思わず目を開いてしまった。

そして、後悔した。見てしまった。女の子の裸を。

 「あつい・・・・・これ、いらない・・・・・・」

 「こんなところで脱がないでくださいっ!!」

いきなりスピカがローブを脱ぎ捨てたのだ。どこまでも平坦な体の造り。

少年のような体の線。白すぎるほどの肌。細すぎる体。

かあっと紅くなり、慌てて目をそらしたアルトは、スピカに新しい

ローブを着せかけた。薄い青色をしていて、一番薄い素材だった。

 「すずしくなった」

 「何か、食べれますか?」

 「いらない~」

メリッサのメモを思い出し、アルトは少し彼女のそばを離れた。



アイスクリームの造り方は、思ったより簡単だった。

氷やいろいろなものを入れ、くるくるとまわしていく。

冷たいアイスは、甘くておいしかった。とろりと口の中でとける。

アルトには、初めて食べるものだった。これなら彼女も食べられる

かもしれない。しばらく冷やして、一番良く出来た、チョコレート

味のをスピカのところへ持っていった。

ついでに、枕を氷枕に変える。

スピカの紅い目がきらきらとまたたいた。

銀色のスプーンで、ガラスの入れ物に入ったアイスをすくいあげる。

 「おいしい・・・・・・。あまい・・・・・・・」

さっきよりスピカの顔色はよかった。こころなしか、顔もあかくないような

・・・・・・? と思う前に、アルトはバタンッと倒れた。

ずっと看病していたせいか、スピカに口づけされたせいか、風邪をうつされたようだ。

 「アルトッ!?」

正気に返ったスピカが叫ぶ。そのまま、アルトはスピカと入れ替わりに、

ベッドの住人になってしまったのだった。

仕事を終えて帰ってきたリイラとともに、スピカの看病を受け、アルトは

ぐるぐると目を回していた。

おつかれさま、と事情を聞いたリイラが言った言葉は、スピカの泣き声

でかきけされたのだった。


ほとんど使い魔のアルトが頑張るお話です。スピカも頑張りますが。

次は番外編のスピカのお話を書く予定です。

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