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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
命を狙われる魔女
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魔女は再び狙われる

 使い魔アルト=ハルメリアは、

今日は朝から機嫌が悪かった。

 なぜなら。

「スピカ~。お前が好きだ~。

俺はお前を愛してる~」

とか変な節をつけて歌うバカ様(嘘、若様)がいるからだ。

 顔だけは無駄に美形な彼は、スピカに惚れたらしく、

熱烈なアプローチを開始していて、

はっきり言ってスピカにもアルトにも大迷惑だった。

「麗しい顔をどうか見せておくれえええええ~。

俺のスピカああああああ~」

「うるさい」

 この館の女主人、スピカ=ルーンの声とともに、

大量の水流が男に振りかかった。

 がぼがぼと言いながらまだ歌おうとする、

貴族の坊っちゃん、エトワール・クロウ・リルアラ。

以外に一途なようだった。きっと、彼がくどけば、

OKする娘だっているだろうに。

「スピカさん、水は駄目です!! 

 死んじゃいますよお!!」

「じゃあ、火で行く」

「火も駄目です!! 彼は人間ですから!!」

「じゃあ、あいつを追い出して、アルト」

「苦手なんですけどね、あの人」

 アルトはしぶしぶながら彼に近づいた。

前回ボコボコされた記憶は、少年の中ではまだ記憶に新しい。

 大丈夫、とスピカはにっこりと笑った。

「君に何かあったら、今度こそ殺っちゃうから」

「殺しちゃ駄目ですってば!!」

 完全に無視された男が、二人の気付かないところで

死にかけていた。もう声さえも聞こえなかった。

「スピカさん!! あの人、死にかけてますっ!!」

「殺した方が私のため、君のため」

「スピカさあん!! そんなに迷惑だったんですか!?」

 パチン、とスピカが指を鳴らした。水が引いていき、

エトワールが解放される。げほげほ、と彼が水を吐いた。

「これにこりたら、家に帰れ、エトワール」

「スピカ。素直になれ!! この嫌がらせさえも君の愛の

かたーー」

「うるさいうるさいうるさいうるさい。とっとと帰れ!!」

 げしげしとエトワールを蹴りつけるスピカ。

 が、エトワールは素直になれ、と言い続けていた。

とんでもなくポジティブシンキングな奴である。

 アルトは思わず彼に同情した。

「バカ様~。リルアラ家の大バカさま~」

 とその時だった。からかうような声とともに、背の高い男性が

森にやってきたのだ。使用人のような服を着ているので、

おそらくは、エトワールの家に仕えているのだろう。

「イリアス!! バカ様はやめてくんない! 若様だろ!?」

「うるさいです、バカ様」

「だから、バカ様じゃねえっつの、クビにするぞお前」

「残念ですが、バカ様。俺が仕えてるのは旦那様ですので。

あ、バカだから分かんないか」

「ふざけんな、このやろお!!」

「はあっ!!」

 がすっとイリアスと呼ばれた男が、彼の鳩尾にこぶしを叩きつけた。

倒れ掛かってきたのを受け止め、ものすごい笑顔でもう一度殴っている。

「え、ちょっ! 何してんですか!?」

「バカの口を封じました」

「一応主の息子ですよね!?」

「あー、大丈夫です。俺ら幼馴染なんで。……

うちのバカ様がお世話かけました~」

「こいつ迷惑だから殺していい?」

「あー。駄目ですよ。こいつ、殺しても死なないんで。悪運だけは

強いんですよね~。食事に毒盛っても、誰かがこぼしたり、

やつがたまたま食べなかったりしますしね~」

「殺意あり!? 何があったんですか、あなたたちの間に!?」

「……なにもないですよ?」

「今の間はなんなんですか!!」

 怖い会話を続ける彼らに、半泣きになったアルトが割り込んだ。

「イリアスさんっていいましたね!! 早くこの人連れてって

ください!! スピカさんが殺す前に!!」

「また来ますので、さよ~なら~」

 もう二度と来ないで。アルトは心からそう思った。


 彼らが帰った後、アルトはいつものように彼女の食事を作った。

今日のメニューは、ガトーショコラとハーブティーだった。

 ハーブティーの方は、庭に咲いていたハーブを使った、

とてもおいしいものだった。

「スピカさん」

「何?」

 ケーキを食べながら、スピカはアルトに目を移した。

「お願いがあるんですけど」

 どこかあどけなさを感じる顔で、スピカは首をかしげた。


 アルトのお願いとは、スピカの仕事の見学をすることだった。

一度、見てみたいというのだ。

 スピカは一瞬迷ったが、邪魔をしないなら、といいおいて

頷いた。研究室として使っているところに、

アルトを招き入れる。そこは奇妙な匂いがした。

 定期的に掃除はしているのか、あまり汚れてはいない。

フラスコとビーカーが、いろいろな大きさでたくさんあり、

どれにもさまざまな色の液体が満たしてあった。

匂いの正体はこれなのだろう。

 いろいろな色の水晶が、きらきらときらめいてきれいだった。

 スピカは一言もなく、研究を開始した。

水色の液体を赤い液体に混ぜ、さらに緑の液体に入れる。

 ぼわん、と黒い気体が漂い始めた。

なんだかこげくさい。

「アルト、ふせて!」

「え、ええええええ!?」

 スピカに突き飛ばされ、倒れこむと、先ほどのビーカーが

破裂し、轟音ともに壁が壊された。

 彼女は慌ててそれを壁に叩きつけたのだ。

「だ、大丈夫、です、か?」

「大丈夫。直すから……我の召喚に応えよ!!

 いにしえよりの盟約により、出でよ、アルテミス!!」

 弓を構えた、男装の美しい少女がその場に現れた。

 スピカはさらに言う。

「この場を元の姿に!!」

 パアッと純白の光が飛び散った。壊れた壁が、しだいに直っていく。

が、それが完全に直って少女が消えてしまうと、

スピカはいきなり倒れた。ドサッと鈍い音が響く。

 「スピカ、さん……?」

 アルトはスピカを抱き上げた。体がひどく冷たい。アルトは焦った。

顔が青ざめていて、いつもよりスピカの肌は白かった。

「スピカさん!!」

 アルトはスピカを揺さぶった。返事はない。目も開かない。

 「どうしよう……おちつけ、おちつけ、とりあえず、

ベッドに寝かせて、おちつけ……」

 アルトは自分に言い聞かせると、迅速に行動した。

スピカを私室に運び込み、しばらく使われた形跡のないベッド

に寝かせる。急いで村と城へ行き、リイラ=コルラッジと、

レティーシャ・エルト・モランを呼びに行った。

 二人はスピカを見て泣きそうになったが、懸命に魔法書

を調べ上げ、解決方法を見つけてくれた。


 その方法とは、使い魔が、主に力を分けるということだった。

契約する際、少し魔女の魔力が使い魔にも分け与えられているらしい。

 手をかざすと、少しずつスピカの顔に精気が戻ってきた。

半日以上そうしていると、ようやくスピカが目を開けた。

「バカバカバカ!! 心配したのよ!!」

 リイラは泣きながらスピカに抱きついた。

「わあーん、バカバカぁ!!」

 レティも同じように抱きつく。スピカは罰が悪そうに、うつむいていた。

 アルトもせいいっぱいの怖い顔をしている。

「心臓に悪いですから、気をつけてくださいね!!」

「仲直りする前に、死んじゃったらどうしようって思ったじゃないの!!

 アルトがいなかったら、本当に死んじゃったかもしれなかったのよ!!」

「ごめん……三人とも」

 スピカは二度と魔力をつかいはたすな、と二時間にわたってリイラに説教された。

 だが、その代わり、彼女と仲直りすることができたのだった。


 レティは勉強があるからと帰ったが、リイラは心配だからと

次の仕事にもついてきた。

 次の仕事は、場末の酒場の客引きとして、酒を飲むことだった。

ここの国では、未成年禁酒法がないのだ。

 アルトは一杯で目を回したけれど、スピカとリイラがすごかった。

飲むは飲むは。強い酒や甘い酒、そんなに強くない酒までゆうに

、かなり巨大なジョッキで二十杯は飲んでいた。

 アルトはもう気持ち悪そうだった。

「よく、そんなに飲めますね」

「もっと飲めるよ」

「まだ足りないわねえ」

「えええええええええ!!」

「もう一軒行きましょうか?」

「もうかんべんしてくださいよ!!」

 アルトが半泣きになったが、二人は構わず

別の店に行ってしまい、アルトは匂いだけで

酔って吐きそうになり、少し休むことになった。


 そして次の仕事に向かおうとした、その時だった。

「スピカあああああああ!!」

 バカ様ことエトワール登場。

「こんなところで会うなんて、俺達うんめー「スピカ=

ルーン、死ねっ!!」い、ぎゃああ!!」

 何か言いかけたが、スピカへの復讐者の少女が飛び出して来て、

鳩尾を蹴り飛ばしていった。

「ディオナ=コーラルの名において、絶対にお前を殺してやる!! 

兄、レヴァンの敵!!」

 ここでやっと少女の名が明かされた。ディオナは小刀を構え、

スピカに向かってきた。スピカはよけない。

 今にも泣きそうに、紅い目がゆがんだ。

 ドスッという鈍い音が響いた。少女の小刀が、スピカの腕に

突き刺さったのだ。彼女の手が微かに震えた。

 スピカが小刀を引き抜き、血が溢れる。

「よくも!!」

 アルトがディオナに殴りかかった。ディオナは動かない。

否、動けないのだろう。敵という大義名分で刺したが、

彼女は人やいきものを害したことがないのだ。

 アルトに突き飛ばされるように、彼女はへたり込んだ。

「よくも!! スピカさんを!!」

 アルトは本気で怒っていた。ディオナを殴りつけ、彼女の

体は宙を舞った。そのまま受け身を取れず、背中を打ちつける。

 さらにアルトは殴ろうとした。

 少女は抵抗ができず、目を閉じることもできない。

「アルト、やめなさい。私は大丈夫だから」

 アルトは命令を無視しようとした。が、主の言葉の強制力で、

動けなくなる。

「あ、あたし……あたし……」

 動揺したように少女が呟いた。スピカが彼女に近づく。

「もう、終わりにしないか? 私が言うべきではないのかも

しれないけれど、復讐は復讐しか生まない。私が死んだら、

アルトたちがあなたを殺すかもしれない」

「あんたに、あんたに何がわかるのよ!! 私の苦しむも!! 

 悲しみも知らないじゃないか!!」

「うん、知らない。けど、知ろうとすることはできる」

 ディオナの目が大きく見開かれた。一瞬、その目が迷った。

だが、後ろの二人の姿を見て、彼女は迷いを捨てた。

否、捨てようとした。

 彼女には仲間がいる。でも、自分には誰もいない。

その事実が少女の怒りに火をつけた。

「絶対に、絶対に、あんたのこと、あたし、許さないんだから!! 

次は本当に殺してやるからッ!!」

 ディオナは走り去ってしまい、スピカはうつむいていた。


 その後、三人は薬を届けてからすぐに帰ることとなった。

リイラと別れ、館へと戻る。

お風呂をすませると、スピカは寝ると言いだした。

「まだ暗くなってませんよ?」

「いい。寝る」

「食事はどうします?」

「いらない」

 スピカの部屋から出て、アルトは家事をするために歩きだした。


 スピカが館へと帰ったその頃、ディオナは、スピカがいるのとは

別の森で、古い小屋に帰っていた。

「あたし、どうしたらいいの。教えて、兄さん。

レヴァン兄さん。兄さん!!」

 寄る辺のない少女は、ただ一人、すすり泣くのであった。

唯一の肉親だった、兄の名を呟きながら。

 少女だってわかっていた。敵である魔女を殺しても、兄がもう二度と

戻って来ないということを。だが、どうしても恨みは消えなかった。

悲しむも。痛みも。ぶつける相手は、魔女しかいなかったのだ。

魔女が後悔をしているとしても。もうもどることはできなかった。



 スピカは夢を見ていた。殺した人間が、彼女を逆に殺そうとする

という、悪夢だ。夢の中で、彼女は引き裂かれ、突き刺され、火をつけられ、

命乞いをしてもそれは許されなかった。

 全ては、彼女が殺した者たちにやったことだった。

繰り返される殺戮。死ぬことさえも許されない。

 たすけて、と彼女は呟いた。もうゆるして、と。

それでもそれは止まることなく続く。

その時だった。

〝スピカさん、大丈夫ですか!! スピカさん!!〝

 声ともに、空中から白い手が伸びてきたのだ。

 スピカはその手を取った。と同時に、目を覚ました。

 気づくと、アルトが手をにぎっていてくれていた。

「アルト……」

「どうかしましたか?」

「怖い夢をみたの」

「大丈夫ですよ。僕がついてますから」

「アルト、私、人を殺したの。依頼されるままに。

何人も。むしけらのように」

 アルトは一瞬驚いたような顔になったが、すぐに頷いた。

「そんな私でも、生きるケンリって、あるのかな。

私は、あの子になにをしてあげればいいんだろう」

「何も、しなくていいと思います。仮に、あったと

しても、それはあの子が考えるべきですから」

「そう……。アルト、こんな私でも、

一緒にいてくれる? 最後まで……」

「もちろんですよ。話してくださって、ありがとう

ございます。……もう、眠ったほうがいいですよ。

僕がずっと手をにぎってますから」

「ありがとう……」

 やっと、スピカは安心したように眠った。

スピカがだんだん幼くなってきました。最初はもう少し大人っぽかったのに。

それに反比例し、アルトが大人っぽくなってきたので、この二人はこれで

いいのかなあとも思います

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