使い魔と魔女は幼き王女のお茶会に招待される
お茶会の誘いが舞いこんだのは突然だった。
長い白い髪を星の髪飾りでツインテールに結った
魔女、スピカ=ルーンは使い魔であるアルト=
ハルメリアから差し出された手紙に目を軽く
見張った。アルトも驚いたように青い目を
瞬かせている。
スピカとこの国の王女はとても仲が良く、
たびたびお茶会に誘われるのだが、最近は
誘いは全くなかった。
目の前で暗殺者の少女が消えるのを見せられて
以来皆落ち込んでいる。そんな状況でお茶会が開
かれるというのにも驚きだったが。
「どうします……?」
「どうするって……行くよ」
「ええっ!?」
「レティがきっと私たちを励まそうとして開いた
お茶会だと思う。行かない訳にはいかない」
「スピカ……」
アルトはそれ以上言い返さなかった。スピカが若干
無理をしているのは分かっている。だけど、それでも
レティの好意を無碍にするまいと頑張る彼女にかける
言葉はなかった。というか、どう言えばいいかが分から
ない。と、スピカがいきなり振りかえった。
「私は大丈夫だよ。いつまでも落ち込んでいる訳にも
いかないのは分かってたから……」
「うん、なら僕も行くよ」
「当然でしょう? だって君は――」
あ、と口元を押さえたスピカが罰が悪そうに肩をすくめた。
以前だったら「君は私の使い魔だから」と言っただろう。
アルトに青い目で睨まれたスピカが言い淀む。
「き、君は、君は――、わ、私の恋人、なんだから」
「うん、それでいいんだよ」
「――アルト、最低。嫌い」
「ちょっと睨んだだけで!?」
ぎゃんぎゃん言い合う二人のカップルに、夫婦げんかは魔法
動物も食わないと言わんばかりにリリア達が部屋から出て行った――。
その頃、スピカの親友であるリイラ=コルラッジは。
『占い喫茶・カッサンドラ』の店主メリッサ=ウォーカー
から与えられた私室にてエトワール・クロウ・リルアラの
訪問を受けていた。
「――行かないわ」
「何でだよ? 美味い菓子や茶が出るし、スピカだって行くかも
しれないんだぜ?」
「スピカが行くところに私が必ず行くわけじゃないわ。レティには
久しぶりに会いたい気はするけど、今はそんな気分じゃないの」
態度がとげとげしい彼女にエトワールは苦笑していた。
それはいまだ彼の頬に顕著に残る手形が原因だったりする。
うっかりノックしてから返事が来る前に開けてしまったエトワールは、
リイラの着替え姿をばっちり見てしまったのである。
当然リイラは悲鳴を上げてエトワールを平手打ちし、部屋から追い出した
のだけれどそれだけで機嫌は直らないだろう。
ブルネットの髪を揺らしながらリイラはエトワールを睨む。
「帰ってくれる? これから仕事なの。カッサンドラが人気なのは、
エトワールだって知っているでしょう?」
「着替え見たのは悪かったって」
「そんな事は言ってないでしょう!?」
その態度を見ると断った事にも若干私怨が入っている気がしたが、
エトワールは黙っていた。
「なあ、本当に行かねえの?」
「行かない」
「ちぇ~リイラと一緒に楽しみたいと思ったんだけどな」
そこでようやくぴくっ、とリイラの耳が反応した。
リイラは自分でもまだ認めたくはないが、エトワールに
好意を持っているのである。
そんな彼にそんな事を言われたら気にならない訳がなかった。
「ほ、本当に、私が言ったら嬉しい?」
「ああ、嬉しいぜ! ――レティ姫も喜ぶだろうし」
(やっぱりやめようかしら……)
多少彼の返答にムッとしたリイラだったが、はあっと一つため息を
つくと顔を上げて口を開いた。
「いいわよ、行っても。あんたの顔を見てたらいろいろ悩んでるの
馬鹿らしくなっちゃった」
「な、何だよそれ!!」
睨んでくるエトワールにべーっ!と舌を出して部屋から追い出すと、
リイラは少しでも可愛く見えるドレスを探す事にした――。
見てくださっている方、半年以上も待たせて
しまってすみませんでした。
ようやく魔女と使い魔~が投稿出来ました。
次回はレティ達とで楽しいお茶会の予定です。
次の投稿はやる気のない女勇者とひ弱な
魔王のお話の予定です。