魔女と使い魔は二人で会話する
スピカ=ルーンは、不安な面持ちで歩いていた。
隣には、使い魔のアルト=ハルメリアがいる。
彼は再開を喜んでいるのか、それとも
勝手にいなくなったことを怒っているのか、
悲しんでいるのか、まったく見えない表情をしていた。
スピカは彼といるのが気まずくて仕方ない。
彼の幸せのために手を離した。
彼だけは幸せになって欲しくて。
だけど、スピカは簡単に戻ってきてしまった。
いや、実際には悩んで悩んで決めたことだけれど。
「……スピカ」
アルトが立ち止り、名前を呼ばれたスピカはびくっとなった。
慌てて立ち止り、彼の瞳を見つめる。
紅い目と青い目がかちあった。
スピカの体が小刻みに震える。
何を言っていいのか、また何をやっていいのかが
まったく分からなかった。ためらう彼女に、
アルトは音もなく近づいて優しく抱きしめた。
「どうして、黙っていなくなったりしたの?」
アルトの腕に力が籠った。
スピカが痛くないと感じる程度の力だったが、
それでもスピカは彼の怒りを感じ取っていた。
「あなたを、危険に巻き込みたくなかったの。
あなたにはこれは関係のないことだったから。
危険な目に遭うのは、私だけでいい」
「僕はあなたの使い魔だよ!?
どうして、関係ないだなんて言うの!?」
「……っ!!」
アルトの手にさらに力が込められた。
今度は悲鳴をあげそうになるぐらいの力だった。
スピカはあえて声をあげなかった。
彼の心の痛みを感じた気がしたから。
「僕の幸せは、僕が決めます。
あなたがそばにいないと、僕の
幸せはないんです!!」
「アルト……」
「あなたがいない未来も、何もかもいらない。
一生逃げる生活だっていい、あなたとならば
どこへだって逃げて見せる」
スピカは気づくと泣いていた。
赤い目からとめどなく涙があふれ出す。
目をこすっても、こすってもどんどん
あふれ出して止まらなかった。
「二度と、僕のそばから離れないで、スピカ」
アルトの目からも涙がこぼれおちていた。
彼らの涙はまるで星のようにきらめきながら、
地面にしたたりおちていた。
アルトは手の力を弱め、スピカはようやく
安心したように息を吐いていた。
「スピカ、好きだよ」
「私も、アルト」
二人の唇が重なった。
甘い口づけがスピカの白い頬を紅潮させていく。
はあっ、とどちかからともなく熱い吐息が
二人の口から漏れ出ていた。
長い長い口づけだった。
しばらくして、スピカは恥ずかしそうに
彼から身を離そうとしたけれど、アルトは
それを許さず彼女を解放しようとしなかった。
「アルト、離して」
「駄目。しばらく会っていないんだもん、
これくらいは許してよね?」
「もう、充分、したのに……」
「僕はまだ充分じゃないから」
アルトはなおも彼女の唇にキスを重ね、
彼女の顔はまるでトマトのように耳まで
赤くなっていた。
スピカは抵抗しようとしたが
使い魔になる際にかなり握力が強くなっている
アルトに、同じ年の少女にも劣る力の
スピカが敵う訳もない。
無理やり力で押さえ込まれてしまい、
アルトが唇だけでなく耳や頬や額に
までキスをするのをこらえるしか
なかったのだった。
珍しく楽しげな笑みを浮かべたアルトは、
彼女が泣きだしてしまうまでキスを
続け、スピカは二度と彼を置いていなくなったり
しないと心に誓ったのだったーー。
あまり二人の行動に進展がなかったので、
今回は甘甘を目指してアルトに頑張らせました。
次回からは日常編に戻ります。