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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
逃走する魔女
24/39

使い魔は魔女を追いかける

 扉を蹴破る音がその場に響き渡った。

メリッサは一瞬肩を震わせたが、やがて

キッと顔を上げると、入ってきた男と対峙した。

「ここに何の用かしら? ここはただの店よ。

営業妨害で訴えられたいのかしら?」

「客は一人もいないだろう」

 男はにやりと口元をゆがめていた。その目にあるのは、狂気。

メリッサは底知れぬ恐怖と必死に戦っていた。

「失礼なこと言わないでくれます?

 いつもはもっと客がいるのよ」

「魔女がここにいるだろう? 早く出せ」

 男はメリッサの言葉にも耳をかさず、どこを見ているのか

分からない目で一方的に言った。

 メリッサは半分嘘で半分本当なことを言い返してやった。

「魔女はここにはいないわ。スピカ=ルーンは、

ここにはいない」

「お前使い魔か?」

「私は使い魔じゃないわよ!!」

 そう叫んだものの、彼女は冷静ではいられなかった。

ここには魔女の使い魔がいる。アルトがこちらに来ない

ことを祈るばかりだった。

「妖しいな……これでもくらえっ!!」

「きゃああっ!!」

 メリッサは悲鳴を上げた。いきなり液体を体にかけられたのだ。

それは、おそらく聖水だろう。

 メリッサの肩にかかったそれは、服ごしでもかなりの効果が

あり、彼女の肌を焼いた。

 否、とかしたのだ。聖水は、魔女は使い魔に対して

かなりの劇薬になる。

「う……あああ……」

 メリッサはあまりの痛みにうずくまった。男はそんな彼女を

蹴り倒し、胸倉をつかんで引き立てる。

「お前、魔女だな? 殺してやる!!」

 片手で出されたナイフが彼女に迫る。メリッサは悔しげに

顔をゆがめたが、覚悟を決めて目を閉じた。

 その時である。

「やめろっ!!」

 叫んだのは、アルトだった。投げつけられた調理器具が

男の手に当たり、ナイフが落下する。

「メリッサ、逃げて!!」

 隣にいたリイラが、男に飛び蹴りをくらわせて

その上に乗っかって手首をひねりあげた。

「この、小娘が……!!」

 力が足りず、すぐにリイラは突き飛ばされてしまった。

だが、キッと睨みつけて彼女は叫ぶ。

「殺せるもんなら殺してみなさいよ、私は人間よ。

あなたたちに人間が殺せるの?」

 男は憎々しげに彼女を睨みつけたが、手を出そうとは

しなかった。教会や村の人間は、魔女たち以外には

手を出してはいけないという掟があるのである。

 リイラは教会の娘の知り合いであったので、

それを覚えていたのだった。

「逃げてメリッサ!! このままじゃ殺されるわ!!

 ここは私が守る!! 教会の奴らには手出しさせないわ!!」

 アルトはどちらに加勢したらいいのか迷っていた。

そのすきをついて、男が聖水を彼に投げかけてくる。

「冷たい!!」

 メリッサと男とリイラの目が大きく見開かれた。

アルトは正真正銘スピカ=ルーンの使い魔である。

 一方的に契約を反故にすることはできないから、

彼はまだ契約を遂行中のはずだった。

 なのに、聖水に彼は反応しなかった。

彼の指一本でさえ溶かすことはできなかったのだ。

「アルト、あんたって何者なの?」

「……ぼ、僕にもわからないよ。どうしてこんなことに

なったんだろ!?」

 アルトは混乱して頭をかきむしった。

と、謎の声が彼の頭に響いてくる。

〝坊がスピカの使い魔かや? わらわはスピカ=ルーン

の名付け親にして師匠じゃ。あの娘に会いたいのならば、

わらわの言った通りにするのじゃ〝

「あなたがスピカの名付け親?」

 この声はアルトにしか聞こえていないらしかった。

驚いたような顔でリイラが見ている。

「アルト、誰と話しているの?」

〝坊、スピカの妹弟子を連れて外に出るのじゃ。

あの娘の言ったことは本当じゃから気にすることはない〝

 一瞬何のことか分からなかったが、思い出して合点がいった。

メリッサとスピカは姉妹弟子である。スピカの妹弟子とは、

メリッサのことに間違いなかった。

「リイラ、ここは頼んだよ、メリッサ来てっ!!」

 戸惑う彼女の腕を引っ張ると、アルトはそのまま外に

飛び出した。男は追ってこない。

 うまく、リイラが足止めしてくれているのだろう。

「どうしたっていうの、アルト!! いきなり何なの!?」

〝妹弟子にこう言うがいい……。星の魔女の名のもとに〝

「えーっと、星の魔女の名のもとに……」

 そのまま言うと、メリッサの顔が驚愕の色を示した。

目からこぼれた涙が、地面に落ちて消えていく。

「師匠……」

 メリッサはもう何も聞かずにアルトについて行った。

アルトも無言で歩き続ける。疲れても疲れても

歩き続けた。愛しい少女に、スピカに会うために。

 その間、スピカたちの師匠からの連絡はなかった。

だから、二人はひたすらまっすぐに進んでいた。

 体力が続く限り歩き続け、ついに二人は

へたり込んでしまった。今日はここで野宿をするしか

ないだろう。宿に泊まるにしても金はないし、

 教会からの連絡がいっていたら困る。

「メリッサ、ごめんね、もう少し早く来ていれば、

君は怪我をしなかったかもしれない……」

 アルトは涙目でメリッサを見ていた。

否、実際にはメリッサのやけどの後を見ていた。

「何言ってるの、助けてくれたじゃない。

 あんたがいなかったら、私は死んでいたわ」

 メリッサは本能的な恐怖で身を震わせた。

彼が間に合わなかったら、確実に自分は死んでいた。

 そのことが、今更ながらに怖かった。

「スピカは、今どこにいるのかしら?」

「分からない……。でも、スピカの師匠がまた

連絡をくれると思う……」

 二人はたまたま持っていたチョコレートを

半分に割って食べ、その日はそこで眠りに就いたーー。

アルトがついに店を出ていきます。

いきなり連絡をしてきたスピカの

師匠。星の魔女だと名乗る

彼女の正体はーー?

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