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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
逃走する魔女
22/39

魔女たちは新たな生活を始める

 スピカ=ルーンは、アルト=ハルメリアと共に、

『占いカフェ・カッサンドラ』で働くことになった。

 スピカの親友・リイラ=コルラッジも同じである。

 スピカは朝からちくちくと針を動かしていた。なんのへんてつも

ない布に、花や蝶などの刺繍がなされている。

ほぼ手元を見ていないのに、すごい才能だった。

 アルトは接客やケーキ作りの合間に、彼女の姿を目で追っていた。

スピカは裁縫に夢中で、彼の方を見ようともしない。

 それに少しショックを受けながらも、アルトはつい彼女を

見つめてしまうのだった。白い頬を上気させて彼女は、本当に愛くるしい。

 一方、竜の子供、オリオンはというと、ふわふわ浮いてお客を魅了しながら、

火を吹いたりして活躍していた。メリッサ=ウォーカーも上機嫌である。

「アルト、仕事してよ!!」

 それに比べ、リイラは明らかに機嫌が悪かった。少しアルトの目がさまよう

だけで、カッとなって怒鳴りつけたりしている。

 アルトは恐縮し、そのたびに謝るのだった。

「リイラ、休憩に入っていいわよ。イライラしているんだったら、

仕事に入らなくていいわ」

 メリッサが厳しい声で告げると、リイラはキッと彼女を睨みつけたが、

やがて黙って店から部屋へと降りて行った。

 スピカは驚いたような顔だった。気が長い方ではなかったが、こんな

理不尽な怒り方をする女の子では、リイラはなかった。

 それなのに、彼女に何があったのだろう。

「メリッサ、私も、休憩してもいい?」

「いいわよー」

 そもそも、スピカが抜けたところで仕事に穴は開かない。

彼女の仕事は急ぎではないのだ。

 メリッサが簡単にOKを出したので、スピカはリイラのもとへ急いだ。


「リイラ!」

 スピカが声をかけると、うつむいて膝を抱えていた彼女は、

びくっとなって顔を上げた。その目が涙でぬれている。

「一体何があったの? どうして泣いてるの?」

「わ、私ーー」

 リイラは迷うように口を濁した。目がさまよい、壁のあたりを

見る。それでもスピカが重ねて問うと、彼女は告白した。

「私ーー。メリッサさんとアルトに嫉妬した……」

「嫉妬!? どうして!?」

「だって、スピカは私を頼ってくれなかった!!」

 スピカの顔も悲しみに染まった。

「私が村にいけない理由、知ってるでしょ?」

 この前村に行った時、追い払われた記憶はまだ新しい。

リイラはそれでも、悲しみが消えることはなかった。

「それは分かってるわ。でも、連絡くらいくれてもよかったん

じゃないの? 私たち、親友だよね?」

 責められたスピカは、ムッとなった。せっかく会いに

行ったのに、あの日、彼女はいなかったのだ。

 攻撃を受けるのも覚悟したのに。

「私、村に行ったの……でも、その時、リイラはいなかった」

「え!? 村に行ったの?」

 リイラの顔から血の気が引いていた。震える声は、

どこか怯えを含んでいる。

「逃げて……逃げてスピカ!!」

「どうしたの、リイラ? 何があったの?」

 すすり泣く声が彼女の口からもれた。顔を手で覆い、

リイラはぼろぼろと涙をこぼして泣いている。

 ただならぬ様子に、スピカは慌てた。

「ちゃんと答えてリイラッ!!」

「魔女狩りが始まったの……。魔法生物も次々と狩られてるって

教会の奴らが言ってたわ!! あいつらは魔法生物や魔女の

匂いに敏感な犬を持ってるの!! ここもいずれ気づかれるわ!!」

 魔女狩り。その言葉に、スピカの体も震えた。

捕まったら、確実に死が待っている。魔女狩りに掴まったもので、

生きていた者は一人もいない。

 それに、魔女の使い魔にもそれは害を及ぼすのだ。

「嘘……でしょう? 嘘だって言って!!」

 スピカはリイラの襟首を掴んで揺さぶった。八つ当たりだってわかっている。

だけど、どうしても彼女に嘘だって、冗談だって、言って笑ってほしかった。

 リイラはただ泣いて首を振るばかりだ。

 スピカは自身もまた泣きたいと思っていた。アルトはどこまでもついて

きてくれるだろう。だが、スピカは彼を巻き込みたくなかった。

 せっかく、幸せな生活が待っていたのに、彼を命の危険のある旅に

同行させたくはなかった。だったら、だったらーー。

「私が消えるしかないじゃない……」

「スピカ!?」

「リイラ、私、旅に出るわ。アルトのこと、頼んだわよ」

「スピカ!! あなた一人で行くつもりなの!?」

「そうよ。誰も巻き込みたくない」

 スピカの目には決意が秘められていた。唇は強くかみしめられ、

手は痛いほどに握りしめられている。

「駄目!! 行かせないわ!!」

 リイラは言っても聞かないと思い、力ずくで止めようと

彼女に飛びかかった。スピカは軽くよけ、壁に頭を打ちうける。

「うう……」

「ごめんね、リイラ」

 スピカは彼女の頭に手刀を叩きつけた。信じられないという

かのような顔になり、リイラはフッと倒れ込む。

「本当に、ごめんね……」

 スピカの紅い目から透明な雫がこぼれおちた。

リイラをそのまま床に横たえ、スピカは部屋を出る。

「あら、もう休憩は終わり?」

「ええ。布を買ってくるわ。どうしても足りないものがあるの」

 スピカは声の震えを隠そうと必死だった。笑顔を作り、

悟らせないように苦労をする。

「いってらっしゃい」

 アルトが気づいて笑顔で手を振った。スピカは泣きそうになるのを

こらえなくてはならなかった。彼が好きだ。離れたくなんかない。

 ずっとそばにいたい。だが、彼を失う痛みよりはたえられる。

「いってきます」

 スピカは愛しそうにアルトの手に触れ、それから温かい店を、

二度と戻らないであろう居場所を、出て行ったーー。


スピカがアルトのそばを離れます。

ずっとギャグが多かったので、

今回はシリアスが続くと思います。

次回も見てください。

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