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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
人形の魔女
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使い魔は主に恋をする

 買われた少年は、名をアルト=ハルメリアと名乗った。

元は貴族の少年だったが、いきなり誘拐され、

人身売買を生業なりわいとする男に売られたのだという。

「あの、僕、何をすればいいんですか!?」

 そういう少年・アルトに、スピカ=ルーンはただ笑った。

少年曰く妖艶ようえんな感じに。かわいらしいのに、

その顔は何故か良く似合っていた。

「なにもしなくていい。君が好きなことをすればいい」

「好きな……こと……?」

「そう。私が君と築きたいのは、そんなうすっぺらい

関係ではないから」

 と、ぴたりと彼女は足を止めた。自分の住みかを見つけたからだ。

 木と土を使って魔法で立てられた館は、

井戸や畑や鶏小屋と共にそこに存在していた。

 館に入りかけたスピカは、少し考え、アルトの所へやってきた。

少年にしては少し白い手を取り、口づけする。

 ギョッとなり、顔を紅潮こうちょうさせる彼の前で、手と足に

はめられた鉄製のかせが破壊された。

 満足そうに頷き、スピカは館に入っていく。

 驚いたように目を見開いたまま、アルトも彼女に続いた。


「あなた、魔女なんですか?」

「そう。悪魔的な、ね」

 アルトは青い目をきらきらと輝かせ、スピカは得意そうに言った。

が、次の彼の言葉に眉根を寄せた。

「そんなの嘘ですよ。あなたは、ちっとも悪魔的じゃない。

だいたい、僕を助けてくれたじゃないですか」

「助けた訳じゃない。君が、貴重な存在だから買っただけだ。

使い魔にするために」

「使い魔? なんです、それ?」

「魔女に仕えるしもべのようなものだよ。

君、私と契約をする?」

 アルトはこくり、と頷いた。してもしなくても、行く場所が

ない以上、ここにいるしかない。ならばした方がいいと思えた。

 彼女がそれを望んでいるなら、そうした方がいい、と。

「契約をします」

「賢明だね」

 スピカの可憐な顔がアルトに近づいてくる。訳が分からない彼に、

彼女は説明もせぬまま、桜色の唇を彼の唇に重ねた。

 熟れた果物のように、アルトが赤面した。

と同時に、体中から力が溢れてきて、

立っていられなくなり、その場に膝をつく。

「契約完了」

 そういって微笑む彼女は、やはり悪魔的かもしれない。

 アルトはそう思ったのだった。


 使い魔となったアルトの初仕事は、井戸から水を汲むことだった。

マスターが、風呂に入りたいと言ったのだ。

 あまり力がないので、出来るか不安だったが、それは杞憂だった。

契約をして力を得たからか、いともたやすく出来たのだ。

水をたっぷりと満たした桶は、全然重くない。

羽か子猫でも持っているようだ。

マスター、水を汲んできましたよ~」

「スピカでいい。次からはそう呼ぶように」

 キッと睨まれ、アルトは肩をすくめた。はい、と返事をして

下がろうとすると、スピカが平然と言った。

「一緒に入るか、アルト?」

「はいぃ!?」

 アルトの顔が、これ以上ないほど紅くなった。

夕日だってこんなに紅くはないだろう。

 アルトだって年頃の男の子だった。

いきなり一緒に風呂に入るか、と聞かれて、

紅くならない訳はない。

「そうか。入るか」

「入りませんよ! や、やめてください、そういうこと言うの。

ぼ、僕も男なんですよ!!」

「男が女と風呂に入るのに、何か問題でも?」

「あ、ありますよ! とにかく駄目です! 入りません!!」

 からかっているのか、とスピカを睨むと、

彼女は何故怒っているのだろう、と不思議ふしぎそうな顔をしていた。

 アルトは相当に風変わりらしい、と幼い女主人に対しての評価をそう

くだし、そのまま浴室から逃げ出した。


 アルトは彼女についてきて、契約したことを早くも後悔し始めていた。

彼女はいろいろなことに無頓着なのだった。

 風呂からあがったそのままの姿でうろうろしたり、研究に夢中になると

飲食を忘れたり、主人というよりは、

何故か動物の世話をしている気分

にアルトをさせた。


「す、スピカさああああん!! なんてカッコしてるんですかああああ

ああああ!!」

「なんてカッコって? 私のローブ早く取って」

「早く着てくださああああい!!」

 目をやり場に困ったアルトは、慌てて白いローブを彼女に押し付けた。

首をかしげながら、スピカがそれをはおる。

 白い髪をとかし、二つに結い分けると、星の形をした髪飾りを二つ、髪に

飾った。きらきらと、本当の星のようにきらめいている。

「綺麗ですね、それ」

「リイラがくれたんだ。これはいつもつけてる」

「リイラって誰ですか?」

「リイラ=コルラッジ。私の親友。最近は来ないけど、いつも食事

の用意とかしてくれるんだ」

「最近ってどのくらい来てないんですか?」

「一週間くらいかな」

「一週間!? その間、食事はどうしてるんですか!?」

「食べてない。面倒だし、私は作れないし」

 アルトはギョッとなった。食事を食べていない?

 こんなに細くて折れてしまいそうな体つきなのに?

「駄目じゃないですか!! 僕、すぐに何か作りますから、

ちゃんと食べてください!!」

「まだ研究が終わっていなーー」

「研究より食事の方が大事ですっ」

 あきらめたらしく、ようやくスピカは頷いた。簡単なスープとパンだけ

を作り、アルトはぱたぱたと働いた。

 少しほこりのたまっている部屋を掃除し、

積んである洗濯物を洗い、ピカピカに床を磨き上げた。

 と、当たり前のように与えられた食事を食べていたスピカが、

あ、と小さくつぶやいた。

「どうかしました!?」

「リイラのよりおいしい……」

 アルトは嬉しそうに笑った。屋敷にいたころより、

ここの方が自分の居場所なのかもしれない。彼にはそう思えた。

 スピカ=ルーンの隣こそが。


やっと次話を投稿できました。これからどんどん増やしていくので、どうか見てください。

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