表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
愛を告げる魔女
18/39

使い魔は魔女を見守る

 アルト=ハルメリアは、

エトワール・クロウ・リルアラと

共に、隠れていた。

 ここからは、彼女の顔は良く見える。

 この前かわいいと言ったローブ

を着ているのは分かって、アルトは嬉しくなった。

「ひとまずは、成功だな」

 小声でエトワールが言ってくる。

 はい、と笑顔で返し、アルトは彼女を見入っていた。

 メリッサが座ってと言い、スピカが音も立てずに

座る。彼女がほめるような目を向けたので、

スピカは困ったような顔をしていた。

「何の話をしに来たか、わかってますよね」

 久しぶりのスピカの声!!

 アルトが身を乗り出しそうになり、

慌ててエトワールは止めていた。

「落ちつけよ」

「あ、ごめん……」

 アルトは心を落ち着かせるために、

メリッサが用意してくれたお茶を口に運んだ。

 ほどよく冷めている。お茶はローズティーだった。

 メリッサの言葉に従って、ケーキを頬ぼる

スピカは、とてもかわいらしい。

 いつものように、瞬く間に平らげてしまった。

 アルトは魅入られたかのようにそれを見ている。

 エトワールはそこまで興味はないので、

お茶とともに用意させたアップルパイを食べていた。

 甘さ控えめなそのパイは、彼の好物である。

 と、そうこうしている間に、二人の会話は進んでいた。

「アルトを出してください、連れて帰ります」

「どうしようかしら、私も、アルトが好きなのよね」

「私の方がアルトを好き!! 愛してる……」

 アルトが椅子を転げ落ちた。かなり大きな音が響く。

 エトワールは舌打ちして彼を助け起こす。

 アルトの顔は、これ以上ないほど真っ赤だった。

「このバカ! バレたらどうする!!」

「ごめ……びっくりして……」

 小声でやりとりし、二人は気配を殺した。

 スピカが不審そうな顔をしていて、

メリッサがごまかしているのが見える。

 メリッサ、ごめん、とアルトは心中で謝った。

 顔の赤味はなかなか抜けない。

 メリッサの言った通りだった。

 スピカは、自分のことを愛している。

 自分だけじゃないと知り、アルトは

嬉しかった。涙が出そうなくらい、

嬉しかった。

「これ、いるか?」

 涙目になったアルトを見て、エトワールが

白い上等そうなハンカチを差し出してきた。

 アルトは気持ちだけ受け取って断り、

スピカの方に目線を戻す。

「アルトは、あなたが使い魔としか見てくれない

、って言っていたけれど?」

 その言葉を聞き、スピカが青ざめた。

 彼女が以前倒れたことを思い出し、アルトも青ざめる。

 思わず扉を開けそうになったアルトを、慌てて

エトワールがはがいじめにした。彼の肘がテーブルに

あたり、ガシャン、とカップが揺れる。

 メリッサが扉を叩くのが見え、エトワールは

そのまま後ろに下がった。

「黙って見ていられないなら、お前、家に帰すぞ」

「ごめん……なさい……なるべく静かにする」

 怖い顔で睨まれ、アルトはしゅん、となった。

 エトワールはアルトを解放し、アルトが椅子に座る。

 エトワールは予想外な大変さに、ため息をついていた。

アルトは基本大人しいが、スピカがからんでくると

違うのである。

「確かに、最初はそう思ってました。

最初は、彼は私の中で、所有物モノ

でしかなかった。ですが、私は気づいたのです。

アルトは、ただの使い魔ではなく、一人の男、だと」

 エトワールは、その言葉を、一抹の寂しさと共に

聞いた。忘れたいと思っても、なかなか忘れられない。

 彼女への想いを、捨てきることなどできない。

「エトワール……」

「大丈夫だって。そんな顔するなよ。

俺は、スピカを好きになったこと、

後悔してないからな」

 気遣わしげに見られると、腹が立つものがある。

 だが、エトワールは懸命に怒りをおさめた。

 誓ったのだ。彼女をあきらめると。

「私は、アルトを愛してます。一人の男として。

一人の人間として」

 スピカは一歩も引いていない。

 アルトは少し気持ちが落ち着いた。

 エトワールの方は、気にされても向こうが

困るだけだと気づき、もう見ないようにしている。

「なら、どうしてアルトを拒絶したの?」

「私は、怖かった。アルトと、使い魔と主としてではない

関係を作るのが、怖かった。でも……もう、怖くない」

 アルトの心が温かくなった。まるで、熱いお茶を

飲んだ時のような温かさだ。

「それ以上に、アルトが好きだから、

恐怖より、アルトを好きの方が勝っているから、

私はもう逃げない。アルトを連れて帰ります」

 それを聞いた後に、メリッサが笑いだした。

 ようやく出ていいというお許しが出て、

アルトたちは扉を開けて出ていく。

 スピカは一瞬驚いたような顔をしていたが、

騙されたことに気づくなり、怒りをあらわにした。

「アルトもエトワールも大嫌い!!」

 平手打ちを受け、宣告されたアルトは、

今度こそ泣きそうになっていた。


 その後、アルトはスピカの機嫌取りに

忙しかった。スピカはつん、とそっぽ向いた

まま、彼の方を見ようともしない。

 すべてのネタバラしをした、エトワールも。

「やっぱり思った通りだったな」

「かなりくっきりとあとがついてるわね」

 くすくすとメリッサが笑っている。

エトワールも笑ったので、キッとスピカは

彼を睨みつけた。振った腹いせではないと

は思うが、振ったすぐ後にこんなことを

されるのは苛立たしかった。

「スピカ、ごめん!! 試すようなことして!!

 でも、不安だったんだよ!!」

「うるさいうるさいうるさいっ!!」

 スピカはケーキを頬ぼったまま、

叫ぶように言った。エトワールも許せないが、

それ以上に許せないのが、アルトだった。

 裏切られた気持ちになったのだ。

「もういい! アルトなんか……」

「あら、もらっちゃうわよ?」

「ダーリンはどうしたの?」

 計画のことを話した後、メリッサは既婚者であることも

彼女に話していた。じろりと睨まれ、メリッサはくすくす

笑っている。

「あら、彼氏としてじゃなく、息子として貰い受けるのよ。

そうしたら、アルトはあなたに会わせないわよ。

大嫌い、なんでしょう?」

 スピカが今にも泣きそうになった。

 冗談だと気づいていないらしい。

「大嫌いだけど、大好きなの!!」

「矛盾してるわね」

「うるさいっ!!」

 大好き、と聞き、アルトが彼女を抱きしめた。

 スピカは突き飛ばそうとしたけれど、

結局やめて彼の背に手を回す。

 唇と唇がぴたりと重なった。

「私もダーリンに会いに行こうっと!!

 ひさしぶりに工房に行くわよ」

 メリッサはその場にあったケーキを

包むなり、すぐに店を飛び出した。

 エトワールも中にいるわけにはいかず、

外に出る。と、歩いてくる少女の姿が見えた。

 --リイラである。

「おい、今中に入らない方がいいぜ?」

「何でですか? あなたに言われるいわれはありません」

「スピカとアルトが中にいるんだ」

 リイラは目を見開いた。どういうことかと問いただそうと

したけれど、別な店を紹介するから行こうと言われ、

悪くない気持ちになって彼の手を取った。


ついにスピカとアルトが結ばれました。

次回は、突然ですがスピカが

竜の子供を育てるという話に

しようと思います。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ