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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
愛を告げる魔女
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魔女は任務を遂行する

 スピカ=ルーンは、部屋で一人悩んでいた。

エトワールが教えてくれたことを考えている。

 床に寝転がっているので、白い雪のような

髪はくしゃくしゃ。その頬にも、床の木目

のあとがついてしまっていた。

 それでも、スピカは動かない。

 怖かった。また、彼に会うのが。

 拒絶されるのが怖かった。

 あんなに怒っていたのだ。

 あんなに、傷つけたのだ。

 でも、二度と会えないのは嫌だった。

 会いたい。彼に会いたい。

 会いたい!! アルトに会いたい!!

 キッ、とスピカは顔を上げた。

「アルト、待っててね」



 スピカは、白い髪をきっちりと

ツインテールに結い、ピッカピカに

磨いた星型の髪飾りをつけていた。

 アルトがかわいいと言ってくれた、

かわいらしい桜色のローブ姿だった。

 彼女は今、彼がいるという、

『占い喫茶・カッサンドラ』の

戸口の前に立っている。

 胸がドキドキと高鳴る。

 だが、こうしていても始まらない。

 スピカは上質な木の扉を叩いた。

「はーい、入って」

 女性の声とともに、扉が開く。

 勇気を振り絞り、スピカは中に入った。



 大量のチョコレートケーキと、甘い香りが

スピカを歓迎した。

 ついごくりとつばを飲み込んでしまい、

慌てて彼女は顔を引き締めて

その女性を見つめた。

 アルトと仲がよさそうに話していた女性だ。

なかなかの美人だったので、それだけでも

負けたようで、彼女はムッとなった。

「座って」

「はい」

 声をかけられ、スピカは言われた通りにした。

 音も立てずに椅子に腰下ろす。

 称賛の輝きがその目に見えて、スピカは戸惑った。

「何の話に来たのか、もう、わかってますよね」

「ええ。でも、その前にケーキをいただいてくださらない?

 あなたのために焼いたのだから」

 時間稼ぎ!? でも、そんなことをする理由がない。

 スピカは悩みつつも、ケーキの魔力に負けて

それを食べ始めた。すごくおいしいので、

止まることなく食べていく。

 もう少しまずかったら、残してやるのに。

 スピカは悔しげに顔をゆがめながら、大量のケーキを

次々と口に運んで行った。

 瞬く間に、ケーキが載った皿は綺麗に空になった。

 差し出されたナプキンで口元をぬぐい、

スピカはキッ、と彼女を見た。

「アルトを出してください、連れて帰ります」

「どうしようかしら、私も、アルトが好きなのよね」

「私の方がアルトを好き!! 愛してる……」

 とその時、何か物音が聞こえてきた。

 首をかしげてその音が聞こえた方を

見るスピカに、彼女はひきつった笑みを浮かべた。

「今の音、なんですか?」

「息子がいるのよ!! もう、まったくしょうがない

わねえ、やんちゃざかりで!!」

「そうですか……」

 スピカの興味が薄れたのを見て取って、

彼女はホッとして笑みを浮かべた。

 音がした方をキッと睨んでいた

けれど、スピカが語り出したので、

そちらに慌てて目を移した。

「それで、お話の続きですが、

私はアルトを愛してます!!

 アルトがいなくては、生きていけません!!」

「本当に愛しているの?」

「もちろんです」

 彼女は意地悪そうな笑みを浮かべていた。

 スピカは一瞬ためらい、だがそれを顔

に出さないようにしている。

「アルトは、あなたが使い魔としか見てくれない

、って言っていたけれど?」

 音を立ててスピカが立ち上がる。

 その顔が、さっ、と青ざめた。

 今にも倒れそうな顔だ。

 再び物音がし、彼女が戸を強く叩くと

静まった。スピカの方にも、変化がある。

 一歩も引かない強い目が、

彼女を睨み据えていた。

「確かに、最初はそう思ってました。

最初は、彼は私の中で、所有物モノ

でしかなかった。ですが、私は気づいたのです。

アルトは、ただの使い魔ではなく、一人の男、だと」

 よしっ、と彼女がガッツポーズをした。

 懸命にかわいらしい口を動かしているスピカは、

それには気づかない。

「私は、アルトを愛してます。一人の男として。

一人の人間として」

「なら、どうしてアルトを拒絶したの?」

 その問いを聞いても、もうスピカは青ざめなかった。

「私は、怖かった。アルトと、使い魔と主としてではない

関係を作るのが、怖かった。でも……もう、怖くない」

 逃げるということは、それ以上先に進めないと

いうことに、スピカは気づいていた。

 逃げれば、永遠に彼の心を手に入れることなど

できない。永遠に、彼を失ってしまう。

 そんなのは、嫌だった。

「それ以上に、アルトが好きだから、

恐怖より、アルトを好きの方が勝っているから、

私はもう逃げない。アルトを連れて帰ります」

 くすくすと彼女は笑っていた。

カッとスピカの顔が赤くなる。

「何がおかし……!」

「おかしいのじゃなくて、嬉しいのよ」

「は?」

「出てらっしゃい、アルト、エトワール」

 スピカは頭がくらくらして、思わず

椅子に座りこんだ。

 アルトはともかく、エトワール!?

 私にいろいろなことを教えた

彼が、なんでここにいるの!?

 まさか……。

 担がれたと知ったスピカの眉

が、きりきりとつりあがった。

 白い顔が、耳まで真っ赤になる。

 ひっそりと出てきたアルトと

エトワールの頬を、平手打ち

した彼女は喚くような声で叫んだ。

「アルトも、エトワールも大嫌い!!」

 ショックを受けるアルトの顔を、

笑いながらメリッサが見ていた。


今回はスピカ視点で

物語を進めているので、

メリッサの名前が

最後しか出てきません。

次はアルト視点の

お話と、このお話

の後どうなったかを

書きたいと思っています。

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