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使い魔は葛藤する

告白し、振られてしまった使い魔、

アルト。彼は館を飛び出し、

ある場所へ行きついた・・・・・・。

使い魔・アルト＝ハルメリアは、

身一つで友人のメリッサ＝ウォーカー

のもとへやってきた。

彼女は、今にも泣きそうな顔で、

「しばらく泊めてください」

と言ってきたアルトに少し驚いたが、

笑顔で了承した。

「何かあったの、アルト？」

「ふられました」

「は？」

「ふられたんです！！　スピカに！！」

どかっとアルトは音を立て、椅子に座った。

メリッサは砂糖入りの紅茶を出し、アルトの

前に座った。

「ふられたってどういうこと？」

「そんなこと聞かないでくださいよ！！　

　僕は使い魔としか見られないんですって！！」

大声でわめいてすっきりしたのか、アルトは

しばらくの間黙っていた。

　メリッサは仕方なく、ケーキの仕込みを開始

していた。アルトがやってきて、手伝い始める。

いいから、と手で制止しようとしたが、

何も考えたくないからと言われ、やらせてやった。

こんなつらそうな目で言われたら、そうして

やらざるを得ないだろう。

　「アルト、泣いたっていいんだよ？」

　「え？」

　「あんた、最近いつ泣いた？」

ぴたりとアルトが手を止めた。

しばし考え込む。ここ五年ほど、泣いていない。

　「悲しい時は、泣いた方がいいと思うよ。

お姉さんが胸を貸してあげるから、

思い切りお泣き」

　「・・・・・・」

メリッサの顔は母性であふれていた。

弟妹《ていまい》か、ひょっとしたら

息子がいるのかもしれない。

アルトはメリッサに抱きしめられ、

久しぶりに大声で泣いた。

　すっかり目を泣き腫らしたアルトは、

濡れタオルを目にあてていた。

メリッサは気遣わしげに目をやっている。

それでも、手はケーキづくりのために

動かされていた。くるくるとクリームの

入ったボウルをかき回している。

と、コンコンと外でノックの音がした。

　「すみません、開店時間がすぎてるんですけれど。

もしかして今日、お休みですか？」

　「あ、はーい、今開けます」

がたっ、とアルトが立ちあがった。青ざめている。

　「どうしたの、アルト？」

　「リイラさんだ・・・・・・」

　「リイラ？」

　「リイラ＝コルラッジ。スピカの親友です」

隠れてて。そう言い置いて、メリッサは戸を開けた。

アルトがそっ、と部屋を抜け出して隣の部屋に隠れる。

入ってきた少女は、アルトがここにいることなど、

まったく知らなかった。知る訳もない。

リイラはスピカの分のケーキ全種類と、自分とアルト用

にチョコレートケーキを二つ買いあげていった。

「よかったやっていて、私の友達が、ここのケーキ大好きなんです」

「光栄ですわ、ありがとうございます」

リイラに手を振られ、メリッサはニコニコしていたが、

すぐにアルトを呼びに行った。

「アルト、一度帰った方がいいんじゃないの？」

「嫌です」

「そんなにあの子と顔を合わせるのが嫌？」

アルトは悲しそうな顔で首を振った。

「そんなことはありません。振られたことを差し引いても、

彼女と会えないとさみしいですから」

「じゃあ、なんで？」

「何をするかわからないから」

アルトはため息をつき、冷めきった紅茶を一口飲んだ。

メリッサは新しく紅茶を淹れ直し、アルトの前に置く。

「僕、無理やりキスしちゃったんです、スピカに」

「え、アルトが？」

「頭に血が上っていて、どうすることもできなかった」

「・・・・・・・」

「だから、怖いんです。また、彼女に狼藉《ろうぜき》を働いて

しまうような気がして」

アルトは手で顔を覆った。ぼろぼろと、手の隙間から

涙のしずくが垂れ落ちていく。

メリッサは黙ってそれを聞いていたが、やがて口を開いた。

「その時、彼女は嫌がっていた？」

「え？」

「キスした時、彼女は抵抗した？」

「して、ないです、けど・・・・・・」

「じゃあ、彼女はあんたが好きなんじゃないの？」

「僕の話聞いてました！？　彼女は僕のこと使い魔

としか見れないって言ったんです！！」

「彼女は怖かったのかもしれないよ。使い魔として

じゃない君と過ごすのが、怖かったのかも」

「やめてください！！　これ以上混乱させないでくださいよっ」

わめきたてると、アルトはメリッサが用意してくれた部屋に

飛び込み、そこでまた泣いた。

彼は知らなかった。あの館で、魔女もまた、同じように

泣いていることに。ただ彼女のことを想い、ひたすらに

泣くばかりだった。

アルトの方のお話を書いてみました。

次はスピカです。スピカが決意しないと、

二人の恋は進展しませんから。