使い魔は魔女に反抗する
スピカ＝ルーンは、困り果てていた。
朝から、いつも通りにすることができない。
使い魔・アルト＝ハルメリアへの恋心を
自覚してから、なんとなく調子が悪かった。
彼の顔を見るだけで、顔が赤くなる。
彼の名前を呼ぶことが難しい。
つい使い魔と呼んでしまい、彼に怒鳴られた。
アルトの様子もおかしい、とスピカは思った。
以前は使い魔と呼んでも怒らなかったのに、
今は涙目になって怒る。
かなりの大声で怒鳴りつける。
何故なのか、スピカにはわからなかった。
アルトの思いを、彼女は欠片も知らないのだ。
アルトは今日はずっと館にいるらしい。
館をピカピカに磨き上げ、洗濯をし、
作ってくれた食事はかなり量が多かった。
はりきっているようだ。
スピカは無言で、ふわふわに焼きあげられたパンやら、
野菜と魚介類たっぷりのスープやら、ソースをかけた
鶏肉の焼き物やら、デザートのチョコのアイスクリーム
をたいらげた。
作ったばかりの、黄色い地に、サクラの花の模様を
刺繍したローブを着て、いつものように白い髪を結う。
ローブに刺繍をするのは初めてだった。
リイラに、少しはおしゃれをしたら？ 服に刺繍をするとかさ～、
とか言われたからだ。
スピカは、アルトに似合うか、と聞いてみた。
アルトは赤くなって頷く。この動作を見ても、
鈍い彼女は気づかなかった。アルトも気づいていないので、
おあいこと言えばおあいこだが。
と、座っていたアルトが、いきなり立ち上がった。
小首をかしげるスピカの前に、歩いてくる。
少し近づくだけでも、彼女の顔は赤らんだ。
それには気づかず、アルトは自身も赤くなりながら
言った。
「スピカさん・・・・・・いや、スピカ」
本人の前で初めて呼び捨てにしたので、スピカは
驚きで目を見開いていた。
「こういうの、初めてだから、つたないかもしれない
けど、ちゃんと聞いてね」
「・・・・・・・」
ふわり、とアルトが優しく彼女を抱きよせた。
スピカはその瞬間、火の中に投げ込まれたかのような、
錯覚におちいった。顔から湯気が出ているかのように、
顔が真っ赤だった。
「僕は、スピカが好きだよ。今は、僕の事、男と
して見れないかもしてないけど、いつまでも待つから。
だから、僕とつきあってください・・・・・・」
いくら恋愛にうといスピカでも、この言葉の意味が
わからない訳ではない。
スピカは嬉しくなった。
アルトが、自分と同じ気持ちだった。
はい、と返事をしようとして、スピカはためらった。
恐怖が心の隅にわいてきたのだ。
このまま、アルトの気持ちを受け入れた時、
私はどうなるのだろう。
そう思うと、怖かった。
気がつくと、スピカはアルトを突き放し、
首を振っていた。
「なんで？ 僕を、男として見れないってこと！？
僕は、あなたにとって使い魔でしかないんですか！？
ずっと！？ 一生！？」
「うん・・・・・・」
スピカはアルトの顔が見られなかった。
言ってから、後悔したけれど、もう遅かった。
アルトはぐいっと彼女を引き寄せた。
あまりの力の強さに、スピカがきゃっと悲鳴を
上げたが、構わなかった。
スピカの唇に、アルトの唇が重なった。
初めて彼からする口づけだった。
だが、彼女がした時とは違い、むさぼるような、
奪うような口づけだった。
長い口づけの後、アルトはスピカを突き放した。
彼の顔は、今にも泣きそうだった。
「頭を少し冷やします。しばらく帰りません」
くるりと身をひるがえしたアルトに、スピカは
さっと青ざめた。大声で叫ぶ。
「アルト！！ 待ってアルトッ！！」
アルトは振りかえらなかった。止まりもしなかった。
バタン、と扉が閉まる音が響く。
床にぺたり、と座り込み、スピカは
すすり泣いた。ぼろぼろと、涙を流して
泣いた。言ったことは二度と取り消すことはできない。
そのことをおもいしったスピカは、一晩中一人で
泣いていたのだった。
アルトとスピカの恋愛が動き出します。いつまでもこのままではいけないので。
恋愛をあまり書いたことがないので、つたないですが、これからも
よろしくお願いします。
