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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: ルナ
過去編 2
10/39

番外編 ~魔女になった訳~

スピカ=ルーンの本名は、アナマリア=ベルと

いった。彼女はこの名前を一度捨てている。

これは彼女が、魔女となる前の物語である。



アナマリアはかわいらしかったが、大人しく内気

な娘だった。天真爛漫てんしんらんまんな愛くるしい妹・アネットと、

厳格な、教会に住む両親と暮らしていた。

火と水のように違う姉妹たちは、とても仲がよかった。

村人たちも、両親もこの姉妹を愛した。特に仲がよかったのが、

リイラ=コルラッジだった。彼女はとても優しく、お気に入りの装飾品を

おしげもなく二人にくれた。モモという花の髪飾りと、きらきらと輝く

星の髪飾りだった。

アナマリアの好みは、人並み外れていたが、これだけは毎日つけていた。

真っ白い雪のような二人の髪に、それはとても良く映えていた。

楽しい毎日は続いたが、それは彼女が十歳になるころにそれは終わった。

幼い妹が、八歳で体の弱いアネットが、奉公に出ると言い始めたのだ。

両親は猛反対した。リイラとアナマリアも、あまり良い顔はしなかった。

けれど、彼女はすっかり決意していたらしい。

一度はあきらめた振りをし、家を飛び出した。

そして、すっかり体を悪くして戻ってきた。

奉公先で何かがあったらしい。

死ぬ間際、彼女はアナマリアに一言を残した。

 「おねえちゃん、おかあさんたちに、えんりょばっかしてちゃダメだよ。

ちゃんとじぶんにしょうじきに、いきてね」

この言葉が、アナマリアの運命を変えた。

彼女がそう言わなければ、アナマリアは魔女になどなっていなかっただろう。

そのまま村で教会の仕事を継いでいたはずだった。



彼女が魔女になる決意をしたのは、リイラがアナマリアの家から、

紫色の地に、ダビデの星《ヘキサグラム》が書いてある魔導書を

持ちだして来てからだった。アナマリアは青ざめて止めたが、リイラ

は冗談半分で、悪魔を召喚してしまったのだ。

その召喚に必要だったのは、資質ではなく、汚れなき血だったのだ。

だが、資質がなければ契約はできない。リイラには資質は欠片もなく、

アナマリアには資質があった。

怒り狂ってリイラに飛びかかる前に、アナマリアは悪魔の前に飛び出した。

 「あたしが契約するわ!! だから、リイラに手を出さないで!!」

 「うまそうな血の娘だ。もちろんお前でも構わない。契約の対価は、

お前の一番大切なものだ。いいな」

 「いいわ」

 「アナマリア、だめっ!!」

リイラが叫んだ。

 「責任ならあたしが取る!! 死んででも取るから、あんたは契約

なんてしちゃだめよっ!!」

アナマリアは振り向き、黙って首を振った。悲しげな目だった。

 「アナマリア=ベルは、悪魔・サテリアルと契約をします」

 「いいだろう、ケケケケケ」

彼女に対する対価は、〝両親の愛〝だった。

その時は、彼女には、何を取られたのかわからなかったけれど。



悲劇は、両親が家に帰って来てからおこった。

 「おかえりなさい!!」

いつものように出迎えた娘に、両親は汚らしいものでも見るかの

ような目を向けた。びくっ、とアナマリアが立ち止る。

 「お父様!? お母様!?」

 「誰がお前の両親だって? ふざけるんじゃねえよ、この

化け物が!!」

 「死んでしまえ!! 化け物!!」

たとえ、アナマリアが、禁忌である契約を行ったのだとしても、

〝愛〝があったのなら、両親は幼い娘を許したに違いなかった。

私欲ではなく、大事な親友を救うためだったのだから。

両親は武器を手に、アナマリアに襲いかかった。

 「あ・・・・・・ああああああああああっ!!」

アナマリアは咆哮ほうこうした。死にたくない。

怖い。恐怖の心が彼女を支配していた。

アナマリアは手にしたばかりの力で、本能が命じるままに

爪を変化させ、両親を切り裂いた。

血があふれ、一部は彼女の顔や服に飛んだ。

悲鳴が上がる。だが、アナマリアは止まらなかった。

何度も何度も、死に絶えるまで攻撃した。人間が、肉塊に

変わるまで。自分が力つきるまで。

リイラが家に駆け込んだ時、スピカは血の海で、倒れこんでいた。

両親の肉塊を胸に抱きながら。感情のない目でリイラを見つめていた。



アナマリアは、この日から、感情がないかのように、過ごしていた。

依頼がくるままに、何人も人を殺した。

三人目は、レヴァン=コーラルという名だった。

悪徳高利貸しで、妹が一人、いるらしい。

だが、アナマリアにはどうでもいいことだった。

 「あなたがレヴァン=コーラル?」

 「あ? なんだよ、お前」

 「依頼人のために、あなたを殺す」

 「俺を、殺すだと? 冗談も休み休み・・・・・・ぎゃあああっ!!」

風刃で彼の腕が片方、落とされた。血があふれだして、小さな血だまりをつくる。

彼は恐怖で顔をひきつらせた。腰が抜けたらしく、ズルズルと体を

ひきずって後ずさろうとする。

 「ひっ!! く、来るな!! 来るなあっ!!」

 「殺す殺す殺す殺す殺す」

 「み、見逃してくれ、オレには妹がいるんだ!! オレが死んだら、どんなに

ディオナが、あいつが悲しむことか・・・・・・」

 「だーめ。依頼人は、あなたを殺せといったから」

断末魔の悲鳴が響く中、少女はただ笑っていた。

それから、彼女は名も知らぬものたちを殺した。

殺しまくった。心は壊れたかのように、感情は消えていた。



そんな時、血にまみれた彼女に、声をかけてくれたものが、いた。

 「ねえ、君、家に来ない?」

その女性は、とても美しかった。紅い目と金の目、右目と左目で

色が違っていた。どちらも、見えていないらしいが。

 「なぜ、私に声をかけたの?」

 「きれいな魂があるなあって思ったから」

 「私は人を殺したのに!! きれいな訳がないっ」

 「きれいだよ~。手は血に染まったかもしれないけど、

心はちっとも汚れてない。あんた、私欲で人を殺したんじゃ

ないでしょ? 何人殺しても、後で後悔したでしょ?」

アナマリアは、人を殺してから初めて泣いた。

女性の胸に飛び込んで、大声で泣いた。

女性は、アリアドネー・ヘカテ・ルーンと名乗った。

新しい名前を彼女にくれた。

 「スピカ=ルーン?」

 「うん。きれいな星の名前だよ。一等星なの。

君にぴったりだと思うよ」



それから、アナマリア改めスピカは、アリアドネー(略アリア)

のもとですごすことになった。彼女は、『盲目の魔女』と恐れられる

強大な魔女だった。悪魔と契約した際、両目の視力を失ったらしい。

彼女はスピカにいろいろな魔法を教えてくれた。

でも、いつまでも弟子でいるわけにはいかない。

免許皆伝をもらったスピカは、師匠とともに一晩泣き明かした。

そして、彼女の元から旅立ち、森に館を構えた。

元はアナマリア=ベルという名だった少女は、今はスピカ=ルーンと

して、生きているのだった。ちゃんと罪を背負って。

スピカは妹・アネットと、師匠であるアリアには、

ずっと感謝しているのだった。


彼女がスピカとして生きる前の物語です。次は本編に戻ります。

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