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77 地図の向こう、後悔のない決断

――このまま放っておいたら後悔する気がする。


考えるより先に、体が動いていた。

僕は机に向かってノートパソコンを開き、電源を入れる。

起動するまでの数十秒すらもどかしい。

まず最初にGoogleマップを立ち上げた。


検索バーに打ち込んだのは、僕とほたるが通っている学校――「私立白鳳学園高等学校」。

ほたるは毎日、徒歩で通学してる。


(たしか前に……)


記憶を手繰る。

――『朝はいつも20分ちょっと歩いてます~っ。夏は地獄ですよぉ~……でも痩せます♡』


そのときは冗談っぽく笑っていたが、情報としては重要だ。

徒歩20〜25分ということは、直線距離で1.5km前後が通学圏の目安になる。

ざっくり駅ひとつ分くらいの距離だ。


僕は地図上で白鳳学園を中心に円を描くように目を走らせ、その範囲をおおまかに把握した。


(次は……あいつの出身中学)


思い出すのは、自己紹介のときだったか、雑談の中だったか。

――『私、中学は南ヶ丘だったんです。地元の中でもけっこう真面目なとこで~』


今度は「市立南ヶ丘中学校」で検索をかける。

すると、地図上の白鳳学園から北東方向に位置する中学校が表示された。


「中学・高校ともに徒歩通学なら、この二つの学校の間に自宅がある可能性が高い」


エリアがかなり絞れた。あとは、決定打となる情報が欲しい。


そのとき、ふと頭に浮かんだ数日前の会話。


――『うちの近くの公園、池があって、友達とよくジュース賭けて“鯉に餌あげたらどっちが多く寄ってくるかゲーム”してたんですよっ! 私には何故かぜんぜん寄ってこなくて……』


会話のネタとしてはバカらしいけど、地理的ヒントとしてはかなり有力だ。

「うちの近くの公園」

「池がある」

「鯉がいる」

この3つの条件を満たす公園を、絞り込んだエリア内で探す。


ポインタを移動させながら、次々と公園の情報を調べていく。


──池が確認できる公園は、3箇所。


一つ目は「双葉台中央公園」。

地図上には池の表示があるが、航空写真で見ると柵で厳重に囲まれていて、立ち入り禁止の看板もある。

子供が鯉に餌をやるには適さない。


二つ目は「城ノ前児童公園」。

こちらにも池があるが、見るからに浅く小さなビオトープで、鯉が住める規模じゃない。

水辺というより、水たまりに毛が生えた程度。


そして三つ目――「川端北公園」。

ここだけは明らかに違った。

航空写真で確認すると、池はそこそこ広く、柵は低くて開放的。

ストリートビューに切り替えると、公園の入り口には「鯉のエサあります」と書かれた自販機と、餌やりルールの注意看板。

池の中を泳ぐ錦鯉の姿も写真に映っている。


(これだ)


ほたるが話していた内容に、一番合致している。

加えて、この公園の周辺には住宅が密集しており、道路と家が近い。


思い出すのは、SNSで見た、ほたるの投稿。

――「すごく綺麗な夕焼け!」

そう添えられた一枚の写真。

スマホの画面に指を滑らせながら、その投稿を拡大する。


部屋の窓から空に向けて撮影された構図。

画面の端に写るのは、薄く透けるピンクのレースカーテン。

そして、夕焼け空の下には黒い瓦屋根と、茶色のスレート屋根の家が並んでいる。


(夕陽の位置的に……西向きの部屋。窓は2階っぽい。たぶん通りに面してるな)


さらに写真をじっと見ていくと、画面の右上、空との境目近くに特徴的な赤い屋根の建物が、ごく小さく写り込んでいる。


パソコンに戻り、さきほど候補に挙げた「川端北公園」の周辺を航空写真モードで確認していく。

すると、数ブロック先に、赤い屋根と茶色い屋根が並んでいる箇所を見つけた。


(これだ。たぶんこの方向から見た構図だ……)


写真と地図の向きを見比べながら、西向き2階建て・窓の外に黒と茶の屋根・赤い屋根の建物が見える角度――

これら全ての条件に合致する住宅を――3軒に絞り込む。


ふたたびストリートビューに切り替え、順番に外観を確認していく。


1軒目。玄関脇にカーポート付きの駐車スペースがあり、そこには白とシルバーの軽自動車が2台停まっている。

(ほたるは1年前から一人暮らしをしていると聞いている。可能性は低いだろう)


念のため、画面左上に表示されているストリートビューの撮影日時を確認すると、昨年の11月となっている。

「他の日付を見る」をクリックして過去の画像をチェックしてみたところ、それより少し前の映像では別の車が写っていた。

どうやら、ここ1年ほどの間に車を買い替えたようだ。

(となると、親が車を放置したまま、という線も消える)


2軒目。外見は住宅っぽいが、よく見ると表札の下に「佐藤音楽教室」と書かれた小さな看板が掲げられていた。

(ここは店舗兼住居……違う)


そして、最後の1軒。白い2階建ての一軒家。

表札はあるがストリートビュー上ではぼかしが入っていて確認することはできない。

2階の窓をズームする。

解像度は荒く、はっきりとは見えない。

でも――その窓は薄いピンク色に見える。

(……ほたるの部屋のカーテンか?)


正直、画像だけでは確証は持てない。

けど――この家だけは、さっきの写真と全体の距離感、家の前の道幅、そして見えていた隣家の屋根の角度まですべてが一致していた。


はっきりとした確証はない。

でも、これまで集めた条件を満たすのは――ここだ。


地図を閉じた瞬間、僕は立ち上がっていた。

理由なんて要らない。行かなきゃいけない気がした。

たとえ確証がなくても、いま何かしなきゃ後悔する――

そんな確信だけは、胸の奥にずっしりとあった。

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