53 空に融ける声
その後もいくつかアトラクションを巡ったあと、僕たちはスマホで連絡を取り合って、園内の中心エリアで合流した。
「おーい、こっちこっち!」
手を振る榊の隣には、花園さんが軽く汗を拭きながら立っていた。
僕と星乃さんが近づくと、4人は自然と広場の端にあるベンチに腰を下ろす。
「いや〜、やっぱ遊園地って最高だな。身体くたくたなのに、なんでこんな元気なんだろ」
「ふふ、テンションで誤魔化してるだけで、明日絶対寝坊コースだと思うよ?」
「うわ、それはあるな……。でも花園さん、結構ノリいいよね。怖がるかと思ってたのに、絶叫系むしろ好きっていう」
「うん、気持ちいいくらい叫んじゃった。途中で笑い止まらなかったよ」
そんな風に、一人ひとりが「一番楽しかったやつ」を語りながら、笑い合う。
みんなの口数は多く、顔も明るい。
今日の1日が、それだけ充実していた証拠だった。
ふと、花園さんがスマホを手にして立ち上がる。
「あ、ちょっと家から電話。すぐ戻るね」
「了解。じゃ、ここで待ってる」
花園さんはベンチを離れて、少し離れた植え込みの近くで通話を始めた。
その様子を見て、みゆがスカートの裾を払って立ち上がる。
「じゃあ私、飲み物買ってくるね。なんかいる?」
「ううん、大丈夫」
「はーい☆」
にこっと笑って、みゆは売店のある方向へと歩いていく。
「じゃあ僕はちょっとトイレ行ってくるよ」
「あ、それなら俺も行くわ」
トイレ、というジェスチャーを花園さんに向かって送ると、彼女は軽く頷いて電話を続けたまま反応を返した。
ベンチを離れ、僕と榊は小道を抜けてトイレのある建物へ向かう。
歩きながら、僕はふと切り出した。
「で、どうだった? ペア行動」
「……あー、もう、めっちゃ楽しかった」
榊はちょっと照れくさそうに頭をかく。
「桜ちゃん、俺と一緒にいても無理に気を遣ったりせず、自然体でいてくれた。あのまったりした感じ、居心地よすぎてさ……」
「お、いいじゃん」
「てか、あのチケット。星乃さんが出してくれたアレ、どう考えても俺のために用意してくれたやつだろ?」
僕は笑って肩をすくめた。
「まあ、作戦の一部ではあったから」
「だよな〜。……ありがとな、悠真。それと、星乃さんにもちゃんとお礼言っとく」
「気づかれないように二人だけにする完璧なプランって自信たっぷりに言ってたからガッカリするかもしれんけどな」
「はは、そしたら正直に言うさ。“おかげで楽しかったです”って」
榊の言葉には、いつになく素直な熱がこもっていた。
僕も心から、それを聞けてよかったと思う。
数分後、用を済ませてベンチへ戻ると、花園さんはスマホを手に座っていた。
「おまたせ〜」
「あれ? みゆは?」
「飲み物買いに行くって言っていたけど、まだ戻ってないのか」
僕と榊は周囲を見渡すが、売店のある方向にはそれらしい姿がない。
そのとき、園内のスピーカーから音楽が流れはじめた。
軽快なマーチが響き、遠くから「キャー!」という歓声が混じってくる。
「パレードはじまっちゃったね。星乃さん、スムーズに戻ってこれるといいけど」
見れば、メインストリート方面から次々に人が集まり、園内の空気がざわざわと活気づいている。
ライトが点灯し始め、夕闇に向けて準備が整っていく中――
星乃さんの姿は、まだ見えなかった。




