50 ランチ
いくつかのアトラクションを巡ったあと、そろそろお腹の虫も限界を迎えはじめていた。
「……ってことで、昼休憩にしませんか〜? お腹空いた〜」
と、最初に根を上げたのはみゆだった。帽子を軽く押さえながら、日陰を探すように目を細める。
「賛成! 絶叫系でエネルギー使い果たした感あるわ」
榊も苦笑しながら首を回して伸びをする。ここまでテンション高く場を盛り上げてくれた彼も、さすがに少し疲れてきたらしい。
「フードコート、この先だよね。たしか星乃さんがマップでチェックしてくれてたはず」
僕がそう言うと、みゆが「ふふっ、さすが私のナビくん☆」と満足げに頷いた。
カラフルな椅子とテーブルが並ぶ屋根付きのフードコートは、昼どきということもありにぎわっていた。それでも少し奥の方にはまだ空きがあり、僕たちはそちらに腰を落ち着けることにした。
「さて、なに食べる?」
「うーん、カレーもいいけど、ここの照り焼きチキンプレートも気になるんだよな〜」
榊はメニュー表を手に、真剣な顔で唸っていた。その顔は本気そのもので、まるで命運を左右する選択かのよう。
「花園さんはカレーと照り焼きいいと思う?」
榊がふいに顔を上げて、柔らかく問いかけた。
「え、私?」
「うん。今日は花園さんの“おすすめ”で行ってみたい気分なんだ。俺、わりと誰かのセンス信じるタイプだからさ」
その言葉に、桜は小さく瞬きをしてから、メニューに視線を落とす。少し考えてから、顔を上げて言った。
「……じゃあ、この照り焼きチキンプレートはどう? 見た目も美味しそうだし、ここの照り焼きって、地鶏使ってて炭火で仕上げてるらしいよ。香ばしいって口コミで見たの」
「おぉ、たしかに!それに決めるわ。うん、めっちゃ食べたくなってきたわ」
榊はぱっと笑顔になり、即決でメニューを閉じた。
「照り焼きってさ、シンプルだけど奥深いんだよな。さすがだわ、花園さん!」
その言葉に、桜も嬉しそうにふっと笑う。頬を指先でかくようにして、少しだけ照れているようだった。
「……ありがとう。なんか、ちょっと褒められすぎな気がするけど」
「いやいや、本気のやつだから」
僕はそのやりとりを見ていて、自然と口元がほころんだ。
(おぉ、榊のやつ、以前アドバイスしたことを実践してくれているな)
誰かに選ばせて、そしてその選択を肯定する。シンプルだけど、たしかに心に残るやりとりだった。榊の小さなお願いと、桜の素直な反応。それを見ているだけで、なんだか胸があたたかくなるような気がした。
それぞれ注文を済ませて戻ってくると、トレイの上にはポテトやドリンクに混じって、チーズがとろけるピザまで並んでいた。
「え、誰かピザ頼んだの?」
「それは俺からのおごりだー!」榊がどや顔で胸を張る。
「こういうとこ来たら、みんなで手でちぎって食べるのが正解だろ。な?」
「わあ……ありがとう!」
「ナイス☆ こういう気配りできると、ポイント上がるよ、榊くん☆」
「マジ? ならもう一枚頼んどけばよかったか?」
「いや調子に乗るな」
そんな他愛のないやりとりの中でも、テーブルの反対側――みゆは、時折ちらりと悠真の方を見ながら、口元に手を当てて笑っていた。
「……なに?」
僕が問いかけると、みゆは何気ない素振りで首を横に振った……が、隣に座っていた桜が、その様子をじーっと見ていた。
「ねえ、みゆ」
「な、なに?」
「さっきからずっと顔ゆるんでるよ?」
「えっ、ち、違うよっ」
「ふふっ、ほんと? 顔、にやけてたけどな〜」
「さ、桜ちゃん……! なんか今日やけにいじわるだね!?」
みゆが目を丸くし、焦ったように桜の腕をつつく。けれど桜は悪戯っぽく笑ったまま、みゆにだけ聞こえるような声でこそっと付け加えた。
「大丈夫。応援してるから」
一瞬だけ、みゆの目が見開かれる。けれど次の瞬間には、少し照れたようにうつむきながら、そっと頷いていた。
「星乃さん、ポテト食べる?」
僕が差し出すと、みゆはぱっと顔を上げて、笑顔を取り戻す。
「うんっ☆ いただきま〜す!」
そうして、日陰のテーブルには、また笑い声が戻ってきた。
夏の空の下、気のおけない空気と、少しだけ混じった恋の気配。それはまるで、ひとときの夏休みを先取りするような、ささやかな午後だった。




