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49 自然体なふたり

シャドウコースターを終えて出口に出ると、すっかり日差しは強まり、園内の熱気も高まっていた。


「次は、ちょっと涼しげなやつ行こっか☆ おすすめのやつあるんだ〜」

そう言って星乃さんが指さした先にあったのは、青と白を基調としたファンタジー風の入り口看板。


『ミスティック・アンダーウォーター〜深海探検ツアー〜』


「へえ、これ知ってる。映えスポット多いやつだよな?」

「うん☆ 海の中みたいな空間に入って、2人乗りのボートでゆっくり進む感じらしいよ」

「いいじゃん、映えと涼しさは正義」


スタッフの案内で2人ずつの乗り分けに。

自然な流れで、僕と桜、榊と星乃さんの組み合わせになった。


「よっしゃ、じゃあ俺らはこっちな」

榊が軽く手を振りながら星乃さんと一緒にボートへ向かう。

僕は花園さんと同じボートへ乗り込む。


ボートが動き出すと、そこにはクラゲの光の演出、泡のスクリーン、サンゴ礁のトンネル。

まるで本当に深海にいるような没入感。途中、水面がゆらゆらと揺れるなか、僕と花園さんを乗せたボートはゆっくりとアンダーウォーターの海底を進んでいく。クラゲの照明や泡の演出に包まれた幻想的な空間は、まるで別世界のようだった。


「……これ、想像以上に綺麗だね」

「うん。光が水に反射してて……なんか、ほんとに海の底にいるみたい」

花園さんは、小さく感嘆の声を漏らしながら、顔を上げて天井の光のオーロラを見つめていた。


その横顔に、ふと目を奪われる。


「花園さんって、こういうアトラクション、好きなんだね」

「うん。派手なのも楽しいけど、こういう静かなやつのほうが好きかも。……ほら、落ち着くし」

「たしかに。テンション上がる系もいいけど、これはこれで癒されるね」


そんなことを話しているうちに、次の演出が始まった。

光のトンネルを抜けた瞬間、ボートの横から、突然水しぶきが跳ね上がる――


「うわっ!!」

思わず僕たちはのけぞり、顔を見合わせて、声を上げて笑った。


「っははは……めっちゃ濡れた!」

「ちょっと、予想以上……でも、なんか、楽しいね」

「うん。なんか、こういうの……久しぶりかも」


水に濡れた前髪を払いながら、花園さんが微笑んだ。

それが思いのほか楽しそうで、僕もつられて自然と笑顔になる。


「加賀崎くん、よく笑うんだね」

「え、そうかな」

「うん、なんか……いつもはちょっとクールなイメージだったから。びっくりした」


「そっか。でも、楽しい時間って、つい笑っちゃうんだよ」

「……ふふ、そっか。そういうの、いいね」


そんな会話をしているうちに、出口が見えてきた。


ボートが岸に近づき、ふたり並んで立ち上がると、軽く濡れた服の裾を気にしながら花園さんが笑った。


「……ちょっと涼しくなったかも」

「この暑さには、むしろありがたいかもね」


そう言いながら、僕たちはスロープを上がって出口ゲートへ。そこで待っていた榊と星乃さんが手をふる。


「おっ、無事生還!」榊が片手を上げて迎えてくる。

「おかえり。桜ちゃん、楽しそうだったね〜☆」

「うん、すごく綺麗だった!」

そう言いながら桜は笑顔を向けたが、すぐにみゆの様子に気づいた。

「……どうしたの、みゆ?」


みゆの声は明るく、笑顔も普段通りだった。けれど桜は、その口元がほんのわずかに揺れていることに気づいて、そっと肩を寄せた。


「もしかして、みゆ、加賀崎くんと一緒になれなくて私に嫉妬しちゃったのかな?」

「え、そ、そんなんじゃないし」

みゆは桜の顔を見て、はっとしたように瞬きをしたのち慌てて否定の言葉を口にする。

「ふふ、大丈夫よ。次はみゆと加賀崎くんが一緒になれるように、ちゃんとアシストしてあげるからね」

「も、もうっ……だから違うってばぁ」

それから、笑って首を横に振った。


その後、みゆは気持ちを切り替えるように悠真と榊の元へ戻り、ぱっと手を打った。


「よーし! そろそろ次のアトラクション行こっか☆ 次はーートワイライト・グライダー!」

「お、面白そうじゃん。ああいうの、乗ったことないから楽しみだぜ」榊が乗り気で言う。


「星乃さん、落ちないようにね」僕が笑って言うと、星乃さんもクスッと笑った。

「加賀崎くんこそ、ね☆」


そして星乃さんの笑顔が、さっきよりも少しだけ明るく見えた気がした。


4人で並んで歩き出す。トワイライト・グライダーへ向かう足取りは、さっきよりも軽かった。



次のアトラクションは、丘の上にある「トワイライト・グライダー」。

乗り場まではエスカレーターで上がっていく。


「空、めっちゃ見晴らしいい……!」

「すご……これ、上から見えるってこと?」

「うん、ほんと気持ちいいらしいよ!」


ペアを組むとき、今度は星乃さんが僕の袖をそっと引いた。


「さっきは榊くんとだったから、次は、加賀崎くんと私ね!」

「了解。じゃ、僕は星乃さんとで」


自然な形で桜と榊がペアに。

桜は一瞬みゆを見て、意味ありげににこっと笑った。


「じゃあ、榊さん、私たちから先に滑っちゃいましょうか!」

「お、おう……ちょっと緊張するな?」

「ふふ、落ちたらキャッチしてくださいね」


花園さんと榊の2人が先に滑空していくのを、僕と星乃さんは上から見ていた。

背中に受ける風、遠ざかっていくふたりの姿。星乃さんがぽつりと呟く。


「……いいね、ふたりとも。自然体っていうか」


「うん。榊も、楽しそうだったな」

「ええ、桜ちゃんも楽しそう。あの子も私と一緒で男の子と一緒にでかけることほんとど無いから少し心配していたけど杞憂だったみたい」


やがて僕たちの番。

ハーネスが体を支え、足がふわりと浮いた瞬間、星乃さんが小さく声を上げた。


「……わっ、これ……!」

「平気? 怖かったら、目つぶっててもいいよ」

「だいじょうぶ……。でも、これは……ほんとに、空飛んでるみたいだね」


滑空しながら風に包まれ、園内の全景が見渡せた。

遠くに観覧車がゆっくりと回っている。

星乃さんの頬に風があたって、髪がなびいていた。


「……楽しい」

その声が、風に乗って僕の胸に届いた。


滑空を終えて地上に戻ったふたりを、桜と榊が手を振って迎える。

お互いの笑顔を見て、僕も星乃さんも、なんだか自然と微笑んでいた。


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