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48 漆黒の空間

「――え、マジ? これ三回転もすんの!?」

入園して最初の目的地、“シャドウコースター”の搭乗口で、榊がパンフレットの注意書きを読み上げて目を見開いた。


「絶叫系ってレベルじゃないだろ、これ……!」


「でもこういうのって最初に乗っちゃった方が楽になるんだよ。テンション的にもね」

星乃さんが涼しい顔でそう返し、榊は「マジかよ〜」と頭をかく。

でも、口では怖がりつつもどこかワクワクしてるのが分かる。完全にテンション上がってるやつだ。


「榊くん、苦手なの?」

花園さんが首をかしげる。


「いや……まあ、苦手じゃないけど! でもなんていうかこう……このスピードとループの多さはさすがにビビるっしょ? な?」


「……榊、叫びそうだな」

「やめろ加賀崎、お前が言うと本当に叫びそうになるから!」


「ふふ……」

星乃さんが口元を押さえて笑い、花園さんも小さく吹き出した。


並んでいる間も、榊がムードメーカーとして話題を次々と投げていくおかげで、会話が絶えなかった。

「最近のクラスのヤバい男子あるある」とか「先生の口癖モノマネ選手権」とか、無意味な話なのに、どうしてかみんな笑ってしまう。


花園さんも最初はちょっと緊張してるように見えたけど、今はもう自然に笑ってる。

その様子を見て、僕は内心、ほっと息を吐いた。


(……うん、いい雰囲気かもしれない)


恋愛相談って言っても、最初から二人きりになる必要はない。

むしろ、こうして“グループで自然に楽しく過ごす”ことの方が、よっぽど仲が深まったりする。


「じゃあ席順どうする? 横並び4人だから、ペアで前後だね」

「私と桜ちゃんで前に乗る?」

「うんっ、いいよ」


星乃さんと桜ちゃんが顔を見合わせて頷く。


最初から男女ペアにはしない。これは星乃さんとあらかじめ打ち合わせていたシナリオ通りだ。


「それじゃこっちは俺と悠真だな、うわ、めっちゃ男子同士叫んでるって思われそう……」

「じゃあ無言で乗る?」

「それはそれで怖ぇよ!!」


そんなやりとりをしているうちに、僕らの順番が来た。

金属のきしむ音を立てながら、黒塗りのゴンドラが停止する。

周囲からは絶叫と歓声が入り混じった音が漏れてきて、嫌でも緊張感が高まる。


「……さあ、運命の瞬間だな」

僕が冗談めかして言うと、榊は顔を引きつらせた。

「頼むから“運命”とか言うな、フラグにしか聞こえない……!」


ゴンドラの座席に腰を下ろすと、がしゃん、と上から安全バーが下りてくる。

目の前には暗いトンネルの入り口。その奥は、ほぼ闇。

ライトアップされたコースの一部だけが、チラチラと光を放っていた。


前方の星乃さんと花園さんが振り返って、手を振ってくる。

星乃さんはどこか楽しげで、桜ちゃんは少し緊張している様子だった。


「がんばれ男子ペア~☆」

「目を閉じずに楽しんでよ~!」


「うわ、すげぇハードル上がってる……」


そして、スタッフのテンションが場の空気を締めくくる。


「それでは皆さん、ご乗車ありがとうございますっ! いってらっしゃいませ~!

 ミスティック・シャドウコースター、漆黒の空間へようこそぉ!!」


「いやその軽さで“漆黒”とか言わないで!? もうちょい深刻なトーンでお願いしたい!」


榊の最後のツッコミが虚空に吸い込まれた瞬間、

――ゴンドラが、突然動いた。


「うわあああああああっっっ!!!」


体が浮いたかと思うと、すぐさま急降下。

その後はまるで重力と無重力を交互に叩きつけられるかのような感覚。

風が耳元で唸り、視界が上下左右に暴れる。


「なんでだよぉぉぉー!!3回目のループいらないって言っただろぉぉぉ!!」


横で叫ぶ榊の声が、風にかき消されながらも異様に大きく聞こえる。

叫び声というよりも、ほとんど魂の絶叫だ。


振り返る余裕なんてなかったけど、前のゴンドラから星乃さんと花園さんの歓声も聞こえた。

たぶん、あの二人は普通に楽しんでるんだろう。


「うおおお……ぐるぐる回ってるぅぅぅ……」

「しゃべってる余裕あるならまだ大丈夫だ」

「ちょ、これもう一回転すんの!? え、また来るの!? いやだあああっ!!」


まさに叫び声で空中を突き抜けるような数十秒間――

ようやく、コースターが減速し、ブレーキ音とともに平坦なレールへと戻ってきた。


「……た、助かった……」


ゴンドラが停止し、安全バーが外れると、榊は席から立ち上がった瞬間にぐらりとよろけた。


「……無理……回転系はマジで酔う……マジで……」

「口の端、ちょっと白くなってるけど大丈夫?」

「それ言うな……! でも、オレたち……戦ったよな……!」

「勝敗で言えば、おまえは負けてたと思う」

「うるせぇ……! 花園さんの前で言うなよ! せめて“余裕そうだった”って言ってよ!」


花園さんが「ふふっ」と笑いながら、ペットボトルを差し出す。

榊はそれを「おぉお、ありがとう!」と大袈裟なリアクションで受け取ると、遠慮なくぐびぐびと飲み干した。


星乃さんが僕の横に歩いてきて、ささやく。

「榊くん、いいキャラしてるね。場がすごく和んだよ」

「うん、ああいうタイプがひとりいると、最初の空気が一気にほぐれるね。花園さんも笑ってたし、いい感じだった」

「ふふ。加賀崎くんも笑ってたよ。ちゃんと」

「そりゃあね。あそこまで完璧なリアクション取られたら、笑わずにはいられないよ」


4人での最初のアトラクションは、大きな悲鳴と笑いと共に幕を開けた。

その余韻が、次の時間をきっともっと楽しくする。

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