43 火曜、秘密の打ち合わせ
火曜日の放課後。
チャイムが鳴ってから少し経ち、教室も廊下もざわつきが落ち着きはじめた頃――僕はいつものように相談室の扉を開けると、そこには笑みを浮かべた星乃さんがいた。
「やっほ☆ 加賀崎くん。今日もよろしくね」
「こっちこそ。……って、なんか機嫌良い?」
「うん。先週の勉強会、けっこう楽しかったから」
そう言って星乃さんは、机に頬杖をついて笑った。
「榊くんも、桜ちゃんも、ちゃんと空気読んでくれて。ああいうの、居心地いいって思っちゃった」
「確かに。ほぼ初対面なのに、思ってたより自然な時間だったね」
「……それでね、ちょっとだけ、桜ちゃんに榊くんのこと、聞いてみたの」
星乃さんは目を細めて、秘密の共有でもするように小声で続けた。
「“なんか、気さくな人だった”って。あとは、“すごく話しやすかったし、あんまり人を選ばずに接するタイプだよね”って。悪い印象じゃなさそうだったよ」
「おお、それはよかった。 花園さん、榊みたいな陽キャに抵抗あるかなってちょっと不安だったけど杞憂だったかな」
僕は思わずホッと息を吐く。恋愛対象というところまではいってないにせよ、桜が榊に対してフラットな印象を持っているのは大きい。むしろ、偏見なく見てくれてるからこそ、これからの積み上げが効く。
「……でね、今日の私の相談というか、企画なんだけどさ」
少し真剣なトーンに切り替わった星乃さんが、鞄の中から取り出したのは一冊のパンフレット。表紙には、カラフルなアトラクションとにぎやかなロゴ。
「来週の土曜、この『ミスティックランド』行かない? ちょっと郊外だけど、電車一本で行けるし、距離的にもちょうどいいんだよね」
「それって……“お忍びデートシミュレーション”?」
「そう☆ また加賀崎くんとふたりでって思ったけど……今回は、桜ちゃんも誘ってみようかなって」
「グループデートならただの友達同士の遊びで済むから周りに恋人バレしないということだね」
「そゆこと☆ ……それにね?」
にこっと笑って、星乃さんが意味深に視線を向けてくる。
「僕が榊を誘えば二人が仲良くなるきっかけになるってことだね」
「正解☆ なかなかナイスアイディアじゃない?」
「うん、いい考えだと思う」
星乃さんはパンフレットを机の上に広げると、マップを指でなぞりながら楽しそうに説明を始めた。
「見て見て、このエリア。2人組に分かれて回れそうなアトラクションが多いんだよ。観覧車とか、謎解き迷路とか、ホラー系のやつもあったり」
「なるほど……それなら、自然にペアになれるタイミングも作れるな」
「そーゆーのに、さり気なく背中押してあげられたらいいなって。……加賀崎くんなら、上手くやってくれるでしょ?」
「……責任重大だな」
肩をすくめると、星乃さんはにやっと笑った。
「私の“秘密デート”のためでもあるんだし、よろしく頼んだよ、コンサルさん♡」
「はいはい。……でも、そんなに強引に二人きりにしなくても、ちゃんと楽しめそうだけどな」
「うん、そうかもね。でも、ちょっとくらい“仕掛け”があった方が、恋は進みやすいんだよ☆」
星乃さんの声は、からかい混じりで、それでいてどこか自信に満ちていた。
僕は机の上のパンフレットをじっと見ながら、小さく息をついた。
「よし、じゃあまずは予定調整からかな」
「うん、桜ちゃんには、私から話しておく。加賀崎くんは榊くんを、誘っておいてね。あと現地プランもよろしく☆」
「了解。……ナビと調整役、頑張らせてもらいます」
「ふふっ、よろしくね。恋の司令塔くん」
からかうようにそう言いながら、星乃さんはページを閉じた。
その横顔は、いつもの天真爛漫さの奥に、どこか大人びた意思を秘めていた。
――次の舞台は、遊園地。
そこでどんな感情が芽吹くのか。胸の奥に、小さな期待が灯る。
僕はそっと、パンフレットの表紙に手を置いた。




