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42 清楚ファッション攻略作戦♡

7月半ばの土曜日の昼下がり、僕は駅前の大型ショッピングセンター前に立っていた。

約束の時刻ピッタリ。大きなガラス自動ドアに映る自分の顔を確認していると、


「せんぱ~い♡ お待たせっ!」


ツインテールを揺らしながら来栖ほたるが駆け寄ってくる。今日は白地に淡いラベンダーのブラウス、紺のプリーツスカート、足元は真っ白なスニーカー。先週より“清楚ゲージ”高めだが、腰巻きカーディガンは相変わらずピンクだ。


「遅刻無し。清楚ポイント+5だな」

「えへへ、先輩も時間キッチリ♡ じゃあ行こ!」


エスカレーターで3階フロアへ上がると、そこは若者向けのアパレル街区。《FleuLight》《CIELO》《NATULIN…》――目に入るショップはどれもパステルかアースカラーの看板で、いかにも“抜け感”“透明感”を推してきそうだ。


「まずは『CIELO』行こ? 清楚系ブラウスいっぱいあるんだよ♡」


腕を引かれ店内へ。ディスプレーにはレース襟やパールボタンが光るトップスがずらり。ほたるは手当たり次第ハンガーを抜き取り、僕の前に並べていく。


「右はフレンチスリーブ、左は長袖。先輩的にはどっちが“清楚”度高い?」

「素材が同じなら袖は季節感優先かな。半袖でいいんじゃないか」

「なるほど☆ じゃあこっちはキープで!」


器用に腕にかけたまま次の棚へ滑り込む。目の輝きが完全にハンターのそれだ。


「スカートはベージュ? それともネイビー?」

「トップスが薄色なら締め色のネイビー推奨」


気づけば両腕にはハンガーが十本。店員さんが試着室のカーテンを開けて手を振る。


「じゃ、先輩、付き添いよろしく♡」

「試着室は一人用だろ」

「外で評価してもらうの! 出るたび点数付けて♡」


カーテンが閉まると小声で「ちゃんとそこにいくださいね」と声が飛んできた。

「はいはい、わかってるよ」


試着室前のソファに腰掛けて待っていると試着室からほたるが出てくる。


「第一弾はこれ! フレンチスリーブ+ネイビーフレア♡」

「清楚度65%。ふわっと感は合格。けどブラウスのリボンが大きすぎて元気成分が漏れてる」

「おっと、リボンはNGかぁ」


「第二弾! 半袖リブニット+ラベンダー花柄スカート♡」

「柄が主張強いかも。清楚というよりフェミニンだな」

「むむむ……」


「これは自信作! 白タックブラウス+ライトグレー台形スカート♡」

カーテンが開いた瞬間、ほたる自身が「おお……」と声を漏らした。すとんと落ちるシルエットに淡いグレーが映えて、ツインテールもわずかに大人しく見える。


「清楚度……85%」

「85!? 過去最高記録っ♡」

満面の笑みを浮かべ、くるりと回転。裾がふわりと波を描く。

「ただし――スニーカーだとバランス崩れる。ローファーかパンプス推奨」

「了解! 靴売り場であうやつ探そ!」


パンプスエリアでエナメル素材を手に取ったほたるが「ヒール高いと清楚よりコンサバになる?」と相談。

ローヒール2センチをおすすめすると試着台で転びそうになり、慌てて支える。至近距離、ほたるの頬が桜色。


「せ、せんぱいに支えてもらうの清楚ポイント高い♡」

「自分で稼げ」

「えへへ〜」


結局、シンプルなストラップ付きローファーを選択。鏡の前で一回転し、ツインを揺らして満足げに頷いた。


買い物袋を両手に下げ、フードコートでレモンスカッシュをシェア。ほたるはストローで氷をつつきながら尋ねてきた。


「ねぇ先輩、清楚モードで告白されたら……OK率って上がる?」

「相手の趣味にもよる。清楚=誠実さが伝わるのは確かだけど、結局は普段とのギャップをどう活かすかだな」

「ギャップ……。じゃあ“元気×清楚”のハイブリッド、今日のコーデみたいな?」

「それで行くなら、動作や声量は清楚寄りに寄せたまま、言葉選びで元気を出すとか。バランス7:3だ」

「7:3……黄金比ですねっ♡」


出口へ向かうエスカレーターで、前の段に立つほたるが袋を持ち替えようとしてバランスを崩す。

反射的に手を伸ばし、細い手首を掴むと、彼女が目を丸くして見上げた。


「せ、先輩……キャッチ成功♡」

「清楚度はともかく、落ち着き度は0だな」


からかうとほたるは唇を尖らせ、次いで頬をほんのり染めた。


「でも……ありがとう」


照れた声は、ショッピングセンターの館内放送より小さく、けれど真っ直ぐに響いた。


駅前ロータリーで分かれるとき、ほたるは袋を掲げて嬉しそうに跳ねる。


「清楚セット、大事に育てます♡ 次は“7:3ハイブリッド宣言”!」

「じゃあ来週は姿勢維持10分リベンジな」

「うう……が、がんばるっ!」


夕陽に照らされたツインテールが、白ブラウスに映えて金糸みたいに輝く。

ほたるの歩幅が遠ざかるにつれ、胸の奥にぽかぽかな熱が残った――ミントキャンディでは溶かせない、甘い温度。


その熱を抱えたまま、僕はスマホのスケジュールにメモを追加する。

《来週金・清楚度チェック/ハイブリッド実践》


その下に、自分でも気づかない癖で、数式の余白を作るように小さく書き添えた。

“現在清楚度:60% 伸びしろ∞”


予測不能のパラメータは、恋愛コンサルのグラフを今日も大きく揺らす。

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