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35 朝のすれ違いと定例の約束

水曜日。朝のホームルーム前。


教室の空気は、いつもより少しだけざわついていた。週の中日という倦怠と、梅雨明け間近の蒸し暑さが入り混じったような、微妙な空気感。そんな中で、後ろの席からひょこっと顔を出したのは榊だった。


「おう、悠真。おはよう」


眠そうな声で挨拶してきた榊に、僕はうなずきつつ一言添える。


「昨日、星乃さんに話してみたらグループ勉強会に花園さんも呼んでくれるってよ」


榊は眠気が飛んだかのように目を見開き、静かに頭を下げた。


「マジありがとな。感謝してる」


「まぁ、誘ってはくれると言っていたけど花園さん本人が了承してくれるかはまだわからないぞ」


苦笑気味に返すと、榊が「まあ、そうだな」と肩をすくめた直後。


――ピロン。


ポケットの中でスマホが震える。通知を見ると、メッセージは星乃さんからだった。


 ☆みゆ☆ 07:51

 桜ちゃん、木曜日オッケーです☆


それだけの短い文だったけど、確かな朗報だった。


 悠真 07:51

 ありがとう。明日楽しみにしてる


すぐに返し、スマホをしまうと、後ろの榊に向かって小さく声をかけた。


「花園さん、OKだってさ」


「……マジか!」


声を張り上げそうになった榊が慌てて口を手で塞ぎ、そして力強くガッツポーズを作った。


「よっっしゃ……! これは全力で行くしかねぇな。明日は最高のスタート切ってやる」


その表情はいつもの榊とは違う、どこか慎重さを含んだ覚悟の顔だった。……本気なんだろう。


そのまま廊下を何気なく見やると、氷室玲奈と目が合った。


けれど――


一瞬にして、その視線は逸らされた。まるで火でも見るかのように、表情には戸惑いと、微かな緊張が浮かんでいた。


(……やっぱり、何か避けられるような事でもしてしまったのだろうか)


玲奈はそのまま席につき、スマホを取り出して画面を見つめていた。こちらに視線を戻すことはない。


一時は柔らかい笑顔を向けてくれた彼女が、僕に心を閉ざすような素振りを見せるのは少し、寂しくもあった。


机に頬杖をついたまま、迷いながらスマホを取り出す。


 悠真 07:57

 先週は相談キャンセルだったけど、今日はどうする?


送信したと同時に、既読がついた。0秒既読。

彼女の画面にも、ちょうど同じトーク画面が表示されていたのだろうか。彼女も何かを伝えようとしていた……?


少しだけ鼓動が速くなる。


そして。


 氷室玲奈 07:58

 予定通りお願いします


簡潔な返事。それでも。


僕の心の中にあった微かな不安が、すっと和らいでいった。

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