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34 親友としてのお願い

火曜日の放課後。旧視聴覚室――通称『相談室』の扉が軽くノックされ、星乃さんがいつもの笑顔で入ってきた。


「加賀崎くん、おつかれさまっ☆ 今日もよろしくね!」


「うん、よろしく」


制服のスカートを軽やかに揺らし、対面の席に座る星乃さんは、最近ではすっかりこの場所に慣れた様子だ。


「そういえば期末テスト、5位だったね! やっぱり加賀崎くんすごい☆」


「ありがとう。正直成績を落とさなくてホッとしているよ」


苦笑してみせると、星乃さんは「恋愛相談しながらいつ勉強してたんだよ〜☆」と指を立てて楽しそうに笑った。


「星乃さんのほうは、期末どうだった?」


「ん〜、正直微妙かなぁ……。モデルの仕事がちょっと忙しくて、今回はあんまり勉強できなかったんだよね〜」


申し訳なさそうに頬を掻く仕草も、モデルというよりは普通の女子高生らしい表情だ。


「それならちょうどいいかも。実は今週木曜日に、榊と期末の反省会も兼ねた勉強会をやる予定なんだけど、星乃さんも一緒にどう?」


「えっ、勉強会?」


ぱちり、と瞳が大きく開かれる。僕はゆっくりと頷いた。


「うん。前にブックカフェで一対一の勉強会をしたよね?」


「あ、あれね、めっちゃ楽しかったね☆」


星乃さんは思い出したように笑顔になる。黒縁メガネに三つ編み、地味な制服姿で訪れた彼女のことを僕もはっきり覚えている。


「あの時もちょっと話したけど、『グループ勉強会』なら、まだ恋人同士じゃない段階でも自然に一緒にいられるし、周囲にデートっぽく見られる心配もないよね」


「あ、たしかに☆ それに、単純にみんなで教え合えるから効率いいって話もしたよね!」


星乃さんは身を乗り出してくる。よかった、興味は持ってもらえたらしい。


「あの時以来ほとんど勉強会はしてなかったけど、ちょうどいい機会かなって思ったんだ」


「うん、私もいいと思う! ……でも、榊くんは大丈夫なのかな? 私と一緒にいるってバレたら色々面倒じゃない?」


星乃さんがやや心配そうな顔を見せる。僕は静かに首を振った。


「大丈夫。榊は信用できるし、星乃さんの情報を外に漏らすようなことは絶対にしない。それでも念のため、前みたいな変装はしてもらったほうがいいけど」


「そっか、そうだよね。じゃあまたあの三つ編みメガネの委員長モードで行こうかな〜☆」


彼女が明るく笑っているのを見て、僕はここで本題を切り出す決心をした。


「あのさ、星乃さん。ここからは少し個人的なお願いなんだけど……いいかな?」


僕のトーンが変わったことに気づき、星乃さんは表情を少し引き締めた。


「ん? どうしたの?」


「これは、Dr.Luvの仕事としてじゃなくて、僕個人……加賀崎悠真としてのお願いなんだけど」


僕が言葉を選ぶのを、星乃さんは真剣な瞳でじっと待ってくれている。


「実は榊が……星乃さんの友達の花園桜さんのことを気になってるんだ」


「えっ、桜ちゃんを!?」


星乃さんは驚きつつも、すぐに興味津々の顔になった。


「榊くん、桜ちゃんのこと好きなんだ……へぇ〜☆」


「うん。ただ、これは恋愛相談として依頼されたわけじゃないし、僕は本来、直接仲をとり持つことはしない。榊にもはっきり言ったんだ。『星乃さんを騙すようなことはしたくない』って」


星乃さんの表情がふっと柔らかくなったのを見て、僕は続ける。


「でも、アイツは僕の親友だ。友人としてなら背中を押してやりたいと思った。……それで、もし星乃さんが気にしないなら、でいいんだけど……花園さんを勉強会に誘ってもらえないかな?」


「あ、そういうことなんだ!」


星乃さんは明るく頷いた。少し迷うかと思っていたが、その反応はむしろ楽しげでさえある。


「もちろん、花園さんが気乗りしないなら無理強いはしなくていい。星乃さんにも負担になってほしくないし、迷惑をかける気もないから」


僕が慎重に言葉を添えると、星乃さんはくすっと微笑み、悪戯っぽい視線を僕に向けた。


「加賀崎くんは本当に真面目だね……。それに、それだけ慎重に言うってことは、私のこと大切にしてくれてるんだよね?」


「……うん、そうだね。あとは星乃さんを騙して利用するような事をしたくないってのが大きいかな」


僕がそう伝えると、星乃さんは嬉しそうに小さく息をつき、満面の笑みを見せた。


「うん、任せて☆ 桜ちゃんも期末テストの間違えた箇所の反省会とか興味ありそうだし、さりげなーく誘ってみるね!」


星乃さんの反応に、僕の胸にあったわずかな罪悪感も一気に吹き飛んだ。


「ありがとう。やっぱり星乃さんに話してよかったよ」


「ふふ、任されちゃった☆」


茶目っ気たっぷりに笑いながら、星乃さんは指を立てた。


「木曜の勉強会、成功させようね!」


「ああ、よろしく頼むよ」


星乃さんと交わした信頼の笑顔が、その証明のように、僕の心を穏やかに満たしていった。

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