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31 親友からの恋愛相談

月曜日の昼休み。


テスト返却と答案回収が終わり、教室は弁当の匂いと期末の開放感でざわめいている。

そんな喧騒の中、バスケ部エースの榊智也が僕の机に身を乗り出した。


「悠真、放課後ちょっと時間あるか?」

「あぁ、今日は予定ないぞ」


「――実は俺、好きな子ができた」


開口一番の爆弾。いつもの冗談めいた調子ではない。

僕はノートを閉じ、静かにうなずいた。


四限終了後。チャイムと同時に榊は「来い」と腕を引き、僕を廊下に連れ出した。

向かった先は、Aクラスと隣接するBクラスの教室前。

ガラス越しに中をのぞくと休憩時間中のBクラスの様子がわかる。


「あそこだ」


榊が顎で示すのは、窓際の最奥列。

ひときわ目立つ存在がそこにはいた。


キャラメルブラウンのウェーブヘアが陽光を反射させる一際華やかな美少女――星乃みゆ。


「ああ、星乃さんか?」

「いや、その隣だ」


榊は即答し、目を細めて星乃さんのすぐ隣で控えめに姿勢を正す女の子に視線を向ける。


花園 桜――

ピンク色のセミロングをゆるく結び、桜色のピンを留めた横顔が柔らかい可愛らしい少女だ。


花園 桜さんは"クラスでトップクラスに可愛い"と噂されるが、すぐ隣には日本でトップクラスに可愛いと言われる“全国区の星乃みゆ"がいるせいで注目が分散しがちな存在だ。

僕も何度か視界に入ったことはあったが、改めて見ると確かに愛らしく、品の良い微笑が印象的だ。


「なるほど、見る目あるな。可愛いし性格的にもお前と相性いいと思うぞ」

「ほ、本当か?」


榊の肩がほっと落ちる。だがすぐに眉をしかめた。


「でも隣のクラスだし、部活も違うし、接点ゼロなんだよ。声の掛け方がわからん」


「そうだな、プランはいくつか考えられるけど――」


言いかけたとき、教室内で星乃みゆが静かに立ち上がった。

ハニーアンバーの瞳がこちらの覗き見に気づき、一瞬きらりと輝く。

星乃みゆは唇だけで「ま・た・あ・し・た・ね」と笑い、ウインクをすると再び席へ戻った。


僕と榊は顔を見合わせ、同時に息をつく。


「おまえ、氷姫と一年の来栖だけじゃなく星乃みゆにも手ぇ出してるのか?」


榊が半ば呆れ、半ば尊敬の目で囁く。


「いや、違う……ちょっと事情があってな」


正確には“事情”というより“コンサル”なのだが、コンサルを受けているクライアントの情報は漏らさないことにしているため、誤魔化す他無い。


「またそれか〜……てか、星乃さんと仲いいなら、親友同士で遊びに行くとかどう?ってさりげなく言ってくれないか?

最初の場だけ作ってくれれば、あとは俺が何とかするから!」


榊は両手を合わせて拝むように頭を下げる。

廊下の光がスポーツ刈りの髪に反射するたび、バスケ部の熱血が伝わってきて苦笑を誘った。


「僕の恋愛コンサルは“僕が直接関係を取り持つ”のはNGだ。ーーいや……お前は例外か。クライアントじゃなく親友だし、手を貸してもいい」


「マジかよ。でも、お前ポリシーめっちゃ大事にしてるじゃん。本当にいいのか?」


榊の目が真剣だ。

僕は軽く肩をすくめる。


「ポリシーは“仕事”の線引きだ。今回はビジネスじゃなく、親友の背中を押すってだけ。

――とはいえ星乃さんを騙すような誘い方はしたくないから正直に事情を話して花園さんにも声かけてもらえないかって頼んでみるつもりだが、それでいいか?」


榊は満面の笑みを浮かべ、拳で僕の肩を軽く叩く。


「おぉ!恩に着るぜ」


教室のチャイムが次の移動準備を告げる。

ガラス越しの花園桜が、配布プリントを星乃に見せながら微笑んでいる。

隣の星乃は再び僕に目線を合わせ小さくウインクをしてくるのが見えた。


胸ポケットからノートを取り出し、僕は新たな名を書き加える。

〈榊 智也 × 花園 桜〉


廊下を背に歩き出す榊の背中は、地区大会に臨むときより軽やかだった。

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