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20 金曜日の放課後

氷室さんがパンフレットの学生代表に選出され、2日後の金曜の放課後。

旧視聴覚室――通称「相談室」のドアが勢いよく開き、蜂蜜色ツインテールが跳ねた。


「せ・ん・ぱ・いっ♡ 週末のほたるチャージのお時間だよ♡」


来栖ほたるは、今日もカーディガンを腰で結んだままスキップで入室。

僕はホワイトボードの前でマーカーを構え、思わず肩をすくめる。


「おう、また邪魔しに来たのか」


「私の“恋愛コンサル”も先輩の仕事でしょ! だから書類より私と遊ぼ♡」


「遊びじゃなくて相談、な?」


言いながら椅子を差し出すと、ほたるはくるりと回転して着席。

卓上のミントキャンディを見つけ、真っ先に袋を破った。


「先輩が買い置きするお菓子、いつもミント系ばっか」


「脳をスッキリさせるんだよ。ほたるが騒がしいから集中力削られるし」


「じゃあ私が静かなら甘いやつ置いてくれる?」


「検討しよう」


「やった♡ で、今日のテーマは――ズバリ“清楚系ほたる”!」


ノートを開いたほたるが、可愛らしい丸文字で〈清楚系になって先輩の心をズキュン♡〉と書き込む。


「……清楚系は無理じゃないか?」


僕の率直な言葉に、ほたるの頬がぷくっと膨らむ。


「先輩、それどういう意味ですか!?」


「いや、おまえ清楚系とは程遠い属性じゃん」


「うっ……ぐぬぬ。でも! でもでも、ほたるはやればできる子なんです!」


ノートをトントンと叩きながら、彼女は真剣な目でこちらを見てきた。


「……まぁいいか。じゃあ“清楚系”を目指すなら、まず条件を定義しよう」


マーカーを手にホワイトボードへ向かう。


「まず髪型。派手な色や巻きすぎは避ける。できればストレートか、控えめなハーフアップ」


「……ツインテール、だめ?」


「清楚ではないな」


「えええぇぇ!? このツイン、ほたるのチャームポイントなのに!」


「逆に言えば、それが“元気っ子”のアイコンになってるわけだ。清楚を目指すなら封印もやむなし」


「うわ、清楚ってハードル高すぎぃ……」


頭を抱えたほたるが、ノートに〈ツイン→封印……?〉と弱々しくメモする。


「服装は白やベージュ、ラベンダー系が好ましい。スカート丈も少し長め、アクセは小ぶりなもの。あと、声のトーンは抑えめに」


「トーン……?」


「今の三割減くらい。落ち着いた印象を与えるには重要」


「なるほど。……せんぱい……わたくし……がんばりますわ」


「それはトーンじゃなくてキャラ崩壊だな」


思わず苦笑しながら、もう一項目加える。


「最後に、立ち振る舞い。姿勢を正して、動作はゆっくり。物を落としたときも“あっ!”じゃなくて、“……あ、落ちちゃった”みたいに」


「なるほど……わかりみが深い……」


ひととおりのポイントを伝えると、ほたるがじっとこちらを見つめてきた。


「ねぇ、先輩は……清楚系、好きですか?」


問いかけのトーンが、ほんのわずかに沈んだ。普段のノリとは違う空気感に、僕は少しだけ言葉を選ぶ。


「うーん……特別好きってわけでもないけど、印象が良くなるのは事実だな。別に悪くないと思う」


「……ふーん」


ほたるが小さく唇を尖らせながら、シャーペンで何かを書き加えている。

そのペン先が止まったとき、ぽそっとつぶやいた僕の独り言が、彼女の耳に届いてしまった。


「清楚系っていうと……氷室さん、みたいな感じか……」


ガタッ。


その瞬間、ほたるの動きが急に上体を乗り出してきた。


「まさか先輩……氷姫のこと、好きなんですか!?」


八の字眉で詰め寄られ、僕は思わず椅子を引いた。


「いや、違う違う。別に好きとかじゃない。何となく清楚ってイメージで浮かんだだけで……」


ほたるの視線は鋭かったが、やがてふっと興味を切り替えたように椅子へもたれかかった。


「――あ、氷姫といえば、一昨日くらいからちょっと掲示板が炎上してるって話、知ってます?」


その言葉に、僕の手が止まる。


「荒れてる?」


「うん。“氷姫がパンフレットのモデルになった”ってスレが立ってて、最初はめっちゃ好意的だったんだけど……急に“無表情すぎ”とか“人選ミス”みたいな書き込みが増えて、それをきっかけに氷姫のアンチスレがたくさんたってるみたいですよ」


「……それ、本当か?」


「ええ、私もそんなに詳しくはないですけど、クラスの子が話していました」


僕は言葉に詰まった。

あの完璧な立ち居振る舞いと、常に冷静な視線。彼女が“平気そう”に見えない日はない。

けれど――だからといって、何も感じていないとは限らない。


「……確認してみるよ」


静かにそう答えた僕の中に、かすかなざわめきが広がっていた。

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