15 来栖プラン改訂会議
六時間目が終わるベルと同時に、僕はいつもの相談室へ向かった。扉を開ける前からツインテール特有の“わたあめシャンプー”が漂ってくる。案の定、来栖ほたるは卓上ボードマーカーを両手に掲げ、スターターピストルのごとく構えていた。
「先輩! 昼休みのシュート講座、ありがとうございましたっ♡」
「いや、あれ講座というより介護の部類では」
「ボール当たった先輩の額、まだちょっと赤いですね…はい、冷えピタ!」
僕の返事を待たずに、彼女は額にペタリと貼り付ける。ひんやり感より先に、至近距離の笑顔が体温を上げた。
僕はホワイトボードを拭きながら、昼休みの回想を切り出す。
「ほたる。昼に榊と会ったが、おまえまったく恋愛感情なしな雰囲気あったが、本当に好きなのか?」
ツインテールは一瞬だけ“ピーン”と張り詰め、当人の表情だけが引きつった笑顔。
「え、え〜っと……ほら私、シュート外してテンパってたからつい! リングも榊先輩もどっちも見られなかったっていうか!」
目線は机上のペン立てを凝視。泳ぐですらなく“沈没”。
呆れを隠さず額の冷えピタを押さえた。
「……話を変えよう。榊のバスケ以外の趣味、何かリサーチした?」
質問を矢のように放つと、ほたるは口をパクパク。
「え、えっと……ボ、ボールが趣味?」
「バスケが趣味でいいだろ、なんで趣味がボールになるんだよ」
彼女の肩が縮こまる。
「じゃ、じゃあ飲み物は“水”!」
「会話終了のお知らせ。次のニュースです」
思わず新聞キャスター調で突っ込むと、ほたるは頭を抱えてデスクに突っ伏した。
「うわぁぁん! 先輩、補講お願いぃ!」
「嘘は下手でもギャグ点は高いな」
心の中で「嘘つけないタイプ判定:Sランク」のスタンプを押しつつ、柔らかく言い換える。
「俺は“好きなら本気でやれ派”だけど、気が進まないなら作戦を畳む手もある」
昼のドタバタを思い出し、軽く肩をすくめる。
するとほたるは顔を上げ、ツインテールをバネのように跳ねさせた。瞳はなぜかキラキラ倍増。
「むむっ、もちろん本気です! ただ……直接アプローチはまだ恥ずかしいの。シャイなので♡」
シャイと言いながら机をドラムロールし、音量MAXのシャイである。カツンカツン響く指先に、嘘設定が崩れかけたビルの瓦礫が見える。
(まぁいいか。そのうち飽きるだろうし、もう少し付き合ってやろう)
「じゃあ作戦について希望は?」
ボードマーカーを渡すと、ほたるはキャップを歯で外しながら満面の笑み。
「タイトルは『Operation: Charming Yu-ma Senpai』! ターゲットは“悠真先輩”で♡」
「……榊は?」
「そのクエストはもう忘れてください♡」
「相談ってより、単なる遊び相手になってるぞ」
「いいのいいの。先輩と話せば話すほど人間力が上がるんだもん!」
「それ統計根拠ゼロだろ」
「じゃあ未来の統計を作る♡ サンプルn=私、データ取り放題!」
ほたるは派手なスター付箋で「Plan Re: Yu-ma Senpai」と見出しを作り、にやにやしながら丸を付けた。
「じゃあこれから毎日、先輩は私の相談役ってことで決まり♡」
「無理。予約が入ってない日だけな」
ほたるが一拍だけ“げっ”と顔をしかめる。
「もうもう〜! 先輩がモテモテで困る〜!」
「そうじゃない。 せめて月曜か金曜のどっちかに絞ろう」
「じゃ、金曜! 週の終わりにほたるチャージ♡」
「ほたるチャージ……電池切れ起こしそうなワードだな」
「失礼な! ビタミンCと笑い成分が詰まってるんですよ?」
――恋愛コンサルとしての方向性はぐちゃぐちゃになったが、楽しそうに笑う彼女を見ると「まぁいいか」が口癖になりそうだった。




