さらなる婚約破棄
コンニャク鎧は高い防御力を示したが、弱点も見えてきた。
単純な問題として、コンニャクで全身を覆っているため、前がまったく見えない。覗き穴を空ければ視界は得られるが、穴を突かれれば眼をつぶされることになってしまう。
もう一つ、息を吸うとコンニャクが顔に貼りついて息ができなくなる。呼吸穴を空ければこちらも解決しそうだが、防御力が落ちないようにする必要があるだろう。
不動拳という奥義で吹き飛ばされた問題については、イモダーが検証中だ。ばらばらに吹き飛ばされたコンニャクの欠片の千切れかた、内部構造や組成への影響などから、不動拳という技はおそらく物理的な攻撃ではなく、高周波の魔力振動でほぼ間違いないらしい。
衝撃吸収コンニャクとは別に魔力振動吸収コンニャクを用意して、何層か交互に重ね合わせてやれば、どちらも無力化できる鎧が製造できるはずだと、追加研究に勤しんでいる。
キシージは新しい鎧のための衝撃吸収用と魔力振動吸収用の二種類の芋の栽培をしながら、暇を見ては目隠しをしながら素振りなどの稽古を行っている。
プランセロはお小遣い全部を芋研究に充てることになったため、まったく遊ぶお金も無いらしく、以前に比べてあまり元気がないが、鎧の出来には関係なかろう。
前回の倍以上の時間がかかったが、新しい芋鎧は完成した。前回はただのコンニャク山だったが、今回は動きやすい構造になっていて、コンニャク人かも?ぐらいの見た目に落ち着いた。
重量はそれなりにあるが、転んだら起きられないほどではない。呼吸の問題も改善している。目の周囲は一応開閉可能になっているが、強度の問題があるので戦闘中の視界はゼロのままなのは残念だ。透明なコンニャクの開発が待たれる。
前回は鎧完成と同時に実戦投入したが、キシージの意見もあり、今回は数日間の練習期間を設けることになった。実際に着てみて、動いてみて、不具合のあるところや弱点になりそうなところを見つけて、細かい修正を行うのだ。
「イモダーよ、良く成し遂げた。この二号鎧には『魂躍覇気』と名付けることを許そう。」
「前回よりも軽くて動きやすいのが良いですね。」
「防御力も一割ほど向上しているはずですぞ。」
こうして放課後、またまた中庭にマルシェナが呼び出された。
「よく来たな、マルシェナよ。今日こそ貴様との婚約が終わるのだと知るが良いぞ!」
プランセロの宣言に対して、マルシェナは返事をしようともしない。
マルシェナは新しい鎧をまるで警戒していないのか、スタスタ歩いて近寄ってくる。鎧のすぐそばまで来ると、すっと腕を上げ、握った右こぶしを軽く鎧に当てて、いきなり、
「不動拳!」
鎧は少しぷるぷる震えていたが、吹き飛ぶことはなかった。
「ちゃんと対策できたようですね。」
「当然であろう!」
「ですが、これはどうでしょうか。」
マルシェナは今度は左の手のひらを鎧に当てると、気合を入れた。
「奥義弐之型、焔殺不動掌!」
ジューッ!という音とともに、当てた手のひらから水蒸気が噴き上がる。彼女の両手は青白い炎に包まれていた。
音はシューッという高いものにだんだん変わっていく。それとともに音量も小さくなっていく。それとは少し遅れて、何やら焦げ臭いにおいがあたりに漂い始めた。
「あ、熱っ!おい、鎧が、鎧が燃えているぞ、どうするんだこれ!」
「消せば良いのではありませんかな。」
あせるキシージ、冷静なイモダー。
「どうするんだ!消すって、どうするんだ!」
「ご自由にて。残念ながら特には自動消火機能はつけておりませんぞ。」
さらにあせるキシージ、冷静なイモダー。
「熱いっ!熱いって!水!水だ!早く!熱い!」
「残念ながら今はバケツも水も持ちあわせておりませんな。」
めちゃくちゃ焦るキシージ、冷静なイモダー。
仲間が動かないと悟ると、キシージはさっと眼の覆いを取り去り、中央の噴水に向かって走った。もしも動き回る練習をしていなければ、かなり危険だったことだろう。
こうして二号鎧『魂躍覇気』も失敗に終わったのだった。