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婚約破棄への道

 なぜうまく婚約破棄できないのか。プランセロは考える。


 それは戦いに負けたからだ。相手は卑怯にも奇襲をしかけてくるのだ。たとえそうだとしても戦いには勝たねばならない。戦いに勝つことが全てなのだ。


 普通に戦うことさえできれば、侯爵令嬢ごとき鎧袖一触のはず。それなのに、なぜ勝てないのか。戦う準備をする前に奇襲されているからに違いない。思えば婚約破棄を宣言する際には、両手を腰にあて胸をそらし声を張るようにしていた。確かにこの態勢では敵の動きに瞬時に対応できるはずもない。しっかり構えて挑む必要があるだろう。


 もう一つ理由があるとすれば、それは仲間の存在だ。まさか母から奇襲を浴びるとは、まったく予想していなかったのだ。多勢に無勢では勝ち目は薄い。相手が数を(たの)みにするならば、こちらも仲間を募って対峙せねばならない。それが王者の道なのである。


 しっかり構える、事前に仲間を募る、この2点さえ守れば百戦百勝も間違いない。


 第二王子プランセロは反省のできる男であった。


 そうとわかれば、さっそく仲間を集めようか。プランセロは動き出す。


 学園の同じ一年生には、騎士団長次男のキシージと、王国宰相三男のサイショーサがいたはずだ。こいつらを手に入れてよう。そしてキシージには戦闘を、サイショーサには参謀を任せれば、どのような事態にも柔軟に対応できるに違いない。


 プランセロは学園中を走り回って二人を見つけ出し、王子権限を振りかざして家来とした。騎士団長次男キシージは戦えるなら万事オッケーで、家来になるのに特に抵抗はないようだ。王国宰相三男サイショーサは滅茶苦茶イヤそうな顔をしていたが、キシージと二人で呼びかけ(脅し)たら簡単に家来になった。これが大王の威厳という物か。


 我ほどの勇者の言葉に従うことは無上の喜びであるはずなのだが、この騎士団長次男のごとく、なぜか尻込みしてしまうものが時折見受けられる。侯爵令嬢もしかり。おそらくだが、彼らのような平々凡々とした小人は、大鵬のごとき我の側に控えることを恐れ多いと感じてしまうのだろう。それを(さと)(まこと)の願いを(かな)えてやることこそが、我の大願とすべき真理なのだと、プランセロは思うのだ。


 家来は手に入れた。あとは構えながら婚約破棄を行うだけだ。


「いやちょっと待ってくださいよ、殿下。」

サイショーサには何か異論があるらしい。

「何だ、意見があるなら言ってみよ。」 

「婚約破棄ってなんなのですか? マルシェナ嬢は非常にお美しく聡明で、伴侶にするには最高の女性ではないですか。それに殿下が是非に、と求められたと伺っておりますが……」


 ドゴッ!


 プランセロの左フックがサイショーサのボディに炸裂した。その一発でサイショーサは完全にダウンした。やはり奇襲は有効である。過去を顧みる暇などない、世界とはなんと無情なのだろう、とプランセロは思う。


「征くぞ、キシージ。仲間の屍を越えて!」

白目を剥いて倒れているサイショーサを放置して、プランセロとキシージは行く。目指すは勝利の二文字のみ! 今はそう、過去を顧みる時ではない。


 憎き敵、侯爵令嬢を発見すべく、学園の廊下を回遊するプランセロとキシージ。授業への出席など完全に無視する二人は、なんのために学園に通っているというのか。そして未だに誰の手当も受けられず、廊下に倒れたままでいるサイショーサは、夢の世界で何を見、何を感じているのだろうか。それもまたこの王国の闇なのかもしれない。


 二人の狩人(ハンター)侯爵令嬢(獲物)を見つけたのは、学園の特別棟を出て一般学舎へと向かう渡り廊下でのことだった。まずは構えてから婚約破棄を、とプランセロは思ったが、それよりも遥かに素早く声を上げたのは、マルシェナのほうだった。


「殿下は授業に出席もせず学園内をうろうろ歩き回っているご様子。性懲りもなく、またまた婚約破棄宣言でもするおつもりなのでしょうか。」

温かみなどまるでない(さげす)むような瞳もまた美しい。


「そう、そのことよ、貴様との婚約を破棄す…...」


 第二王子に最後まで言わせず、マルシェナの右正拳が宙を割く!


 しっかり腰の入った美しいフォームから繰り出された正拳は、まるで彗星のように一直線に第二王子の顔面に……入るはずだったが、それを阻止する一枚の巌壁!?


「な、なん、、ですって?」


 第二王子プランセロの前に騎士団長次男キシージが体を割り込ませ、しっかりと防御していたのだ。


 キシージはプランセロよりも一回り以上大きいからだをしている。それがプランセロよりも前に入ってきたのだ。マルシェナの正拳はキシージの頭にはまるで届かず、その上、最大威力となるインパクトの一点を前にずらされて、不発に終わってしまったのだった。これにはキシージの素早い対応を褒めるしかないだろう。騎士団長次男は伊達ではないのだ。


 しかし今回は、マルシェナが一枚上手だった。正拳が防がれたと知るやすぐさま、パンチとキックの激しい連撃を何度も何度もキシージに打ち込み始めたのだ。その超連打はまるで流星群のような凄まじさだった。


 連打!連打!

 ピシ!ピシ!

 侯爵令嬢が撃ち、騎士団長次男がガードする。


 連打!連打!連打!

 ピシ!ピシ!ピシ!

 上がる打ち込み速度、しかし全てがいなされる。


 連打!連打!連打!連打!

 ピシ!ピシ!ピシ!ピシ!

 さらに上がる速度、ガードはまだ間に合っているか。


 連打!連打!連打!連打!連打!連打!

 ピシ!ピシ!ピシ!ピシ!ガシ!ピシ!

 まだまだ上がる速度、ガードがだんだん追いつかなくなる。


 最初の数発は防げだものの、あまりの回転速度にキシージのガードが徐々に追いつかなくなっていく。


 連打!連打!連打!連打!連打!連打!連打!連打!

 ピシ!ピシ!ピシ!ドコ!ピシ!ガシ!ピシ!ドコ!

 無情に上がる速度、ガードが追いつかない!


 父親である騎士団長に鍛え上げられていたはずの両腕が上がらなくなる。そしてすべての打撃がキシージの急所に直撃していく。


 連打!連打!連打!連打!連打!連打!連打!連打!連打!連打ぁ!!

 ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドカ!ドガ!ドガ!ドガ!ドガン!!


 直撃連打を浴びせられて耐えきれるはずがない。すぐに倒れなかったことは称賛に(あたい)するだろう、しかしそれも長くは続かず、キシージはプランセロを将棋倒しのように巻き込みながら、仰向けになって廊下に倒れていった。


 ゴチンッという低い音が廊下に響いた。巻き込まれたプランセロが頭でも打ったのだろう。侯爵令嬢マルシェナは敗者たちを軽く一瞥したあと、振り返ることなく一般学舎へと去っていった。


 次の授業も始まりを告げる鐘が学園に鳴りわたる。


 その数日後、その日丸一日を無断欠席した三人の男子の保護者たちは、学園に呼び出され激しい叱責を受けることになるであろう。それだけは疑いが無かった。

なんだか婚約破棄モノでは無いような気がしてきました。

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