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転生龍覚者と導きの紋章 〜始原の森から始まる英雄譚〜  作者: シェルフィールド
3章

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第81話:魔法司令塔と武器に宿る力

公王執務室の窓からは、快晴の空の下、エルムヘイムの活気に満ちた光景が広がっていた。


軍事都市『アイギス・フォート』の建設は、セレスティーナ総長の冷静かつ迅速な指揮の下で、驚くべき速度で進んでいる。


生産都市『アグリ・ヴィータ』も、アリシアとテラスさんたちの尽力で、公国の生命線となる穀倉地帯へと変貌を遂げつつある。


そして、ティアーナとゴードンさんが中枢を担う鉱山都市の建設も、今まさに始動したところだ。


俺が提唱した三都市同時建設という壮大な国家計画は、もはや絵空事ではない。転移門技術という物流革命を核に、現実として動き始めていた。

だが、この圧倒的なスピードで国家を築き上げるたびに、俺は一つの本質的な課題に直面していた。


(俺の魔力は、あまりにも粗い)


先日、『アイギス・フォート』の建設予定地を、数ヶ月かかるはずだった広大な敷地を無詠唱の土魔法で一瞬にして整地した時。ドラグニアの指導者たちはその規格外の力に戦慄し、計画の実現性を確信してくれた。それは、公国を一つにまとめる上で必要な、力による証明だった。


しかし、その力の放出は、まるでダムが決壊したかのようだ。成長し続ける俺の魔力総量は、精密な制御には程遠い。俺がこれまでに魔法を習得してきたのは、アリシアの基礎的な指導や、ティアーナの魔道具開発を通じた技術的フィードバックに頼ってきたからだ。体系的な教育、特に戦闘での効率的な運用を教わった経験がない。


俺の魔力制御の荒さは、普段の生活では問題ない。しかし、これから帝国という大陸最強の軍事国家と対峙する上で、この規格外の力を、無駄なく、戦術的に運用できなければ、いずれ自らや仲間を危険に晒すことになるかもしれない。


そんな懸念を抱いていた、まさにその日の午後だった。


執務室で次の建設予定地のマッピング作業に集中していた俺の背後から、静かだが、鋼のような響きを持った声がかけられた。


「レン公王。少々、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」


振り向くと、そこに立っていたのは、ジュリアス・ヴァルト。元ドラグニア魔術師団長であり、セレスティーナ総長の片腕として公国に合流した老魔術師だ。彼の理知的な青い瞳は、いつも冷静沈着で、俺の魔法を観察しているような、鋭い光を宿している。


「ジュリアス殿。もちろんです。何か問題でも?」


俺が問うと、彼はゆっくりと俺の目の前に歩み寄り、静かに頷いた。


「問題ではございません。むしろ、公国の未来に関わる、最も喫緊の課題についてです」


ジュリアスは、テーブルに置かれていた、俺が描いたばかりの建設予定地の簡易的な地図を指差した。


「わたくしは、公王閣下が『アイギス・フォート』の整地で用いた土魔法の奔流を拝見いたしました。あの魔力の総量は、わたくしが長年生きてきた中で、想像すらしたことのない神域の領域です」


彼の口調には、賛辞と共に、深い警戒心が混じっていた。


「数ヶ月の工期を一瞬で終わらせるその力は、確かに不可能を可能にする希望の光です。ですが、僭越ながら指摘させていただきます。公王閣下のマナ制御は、まるで荒馬のようです」


ジュリアスはそう言い切った。俺の核心を突く、痛烈な一言だった。


「膨大な魔力を、ただイメージのみで叩きつける。それは、戦場においては非効率極まりない、極めて乱暴な魔力の運用法です。現状の公王閣下は、高火力砲台としては優秀ですが、その砲台がいつ暴発し、連携を乱すか分からぬ状態では、大軍を率いる盟主としては、あまりにも脆弱すぎます」


彼の指摘は、あまりにも的確だった。俺は、顔が熱くなるのを感じた。反論の余地がない。


「……否定はできません。」


俺は、正直に認めた。


ジュリアスは、俺の素直な態度に、わずかに表情を緩めた。


「公王閣下。わたくしの役割は、セレスティーナ総長を補佐し、魔法戦術の立案を担うことです。しかし、公国の未来が、閣下の力に懸かっている以上、この規格外の魔力を、戦術的に運用できる『高火力砲台』から『魔法司令塔』へと昇華させること。それこそが、わたくしが今、最も果たすべき務めだと判断いたしました」


ジュリアスは、深く頭を下げる。


「どうか、わたくしに、公王閣下への魔法教育の機会を与えていただけないでしょうか。それは、閣下のためだけでなく、公国全体の防衛力強化に直結すると、お約束いたします」


俺は、目を見開いた。この申し出は、まさに渡りに船だ。元ドラグニア魔術師団長という、この世界における最高峰の魔法知識と実戦経験を持つ人物からの指導。断る理由など、どこにもない。


「ジュリアス殿。感謝します。謹んで、その指導を拝受いたします」


俺は立ち上がり、ジュリアスと固く握手をした。


「では、早速ですが、訓練を始めさせていただきます」


ジュリアスは、早速、俺の訓練計画を提示し始めた。彼の目には、魔術師としての純粋な探求心と、老練な指導者としての責任感が満ち溢れていた。


「まず、閣下にとって最も不足しているのは、魔力制御技術マナ・コントロールです。膨大すぎる魔力を効率よく運用するためには、体内魔力と自然界の魔力の流れを完全に同期させ、必要最小限の魔力で最大効果を得るための、日常的な訓練が不可欠となります」


「魔力循環の訓練ですね。それは、具体的には?」


「毎日、朝と晩の二回。静かに座し、体内の魔力回路を意識し、それを淀みなく循環させ続ける訓練です。呼吸と連動させ、自然界のマナとの境界を曖昧にし、魔力総量を一定に保つよう努める。これを日課とし、意識の全てが他の作業に集中していても、無意識下で完璧に実行できるようにする必要があります」


それは、俺がアリシアから教わった「魔力の流れを感じる」という基礎の、遥か上を行く、プロフェッショナルな訓練だった。


「承知しました。直ちに日課に組み込みます」


俺は、公王としての激務をこなしながら、この訓練を継続することの困難さを予期したが、同時に、これを乗り越えれば、俺の力が飛躍的に向上することも理解していた。


「そして、この訓練は、ほかのお仲間方にもお願いさせていただきたい」


ジュリアスの言葉に、俺は頷いた。共鳴者として、カイルやアリシア、ティアーナは魔力総量が向上している。彼らの身体能力と魔法を融合させる上で、精密なマナ制御は必須となる。


「次に、魔法剣エンチャント魔法の力を付与する技術を習得する必要があります」


ジュリアスは、既に彼らの戦闘スタイルを深く分析しているようだった。


「カイル殿は風属性。彼の持つ防御重視の盾術を応用し、風魔法を高速移動や斬撃の強化に応用する方法を教えます。堅実なスタイルを崩すことなく、身体強化や補助魔法を剣術と組み合わせるための基礎技術を指導しましょう。武器にも安定して魔法を纏わせることができるようになること、それが最初の目標となります」


俺は、胸が高鳴るのを感じた。これで、公国の軍事中核となる彼らの力が、一段階、いや、二段階も上のレベルへと引き上げられる。


「ジュリアス殿。早速、カイルと、そしてイリスも招集させてください。訓練場へ向かいましょう」



◇◇◇



俺たちは、公国の訓練場へと場所を移した。


建設作業の合間を縫って、ジュリアスから召集がかかったことを知らされたカイルとイリスは、すでに防具と武器を身につけ、緊張感のある面持ちで待機していた。セレスティーナ総長もまた、軍事最高責任者として、訓練の視察に立ち会ってくれていた。


「レン、一体、何が始まるんだ?」


カイルは、彼のトレードマークである片手剣と盾を構えながら、問いかけてきた。


「公国の軍事力強化、その第一歩だ、カイル。そして、お前たちの新たなステージへの始まりかな」


俺がそう告げると、セレスティーナ総長が静かに、しかし威厳ある声で口を開いた。


「ジュリアス殿。彼らの指導、頼みましたよ。特に、カイル殿とイリス殿の戦力向上は、王の護衛として、そして公国軍の新たな剣として、最も重要な要素となります」

ジュリアスは、恭しく一礼する。


「承知いたしました、総長。では、カイル殿、イリス殿。まずは、わたくしが提示する訓練の目的を理解していただきたい」


ジュリアスは、二人の前衛に、魔力循環の日常化と、魔法剣エンチャントの基礎を導入する意図を、理路整然と説明した。



◇◇◇



(カイル視点)


俺は、ジュリアスの説明を聞きながら、心の中で激しい葛藤を覚えていた。


(魔法剣……。俺に、本当にそんなことができるのか?)


剣術も盾術も、反復訓練によって血の滲むような努力を重ねてきたからこそ、今の実力がある。しかし、魔法だけは、どうしても才能がないというコンプレックスが心の奥底に燻り続けている。


レンのような規格外の力や、アリシアやティアーナのような純粋な魔法の才能を目の当たりにするたびに、彼は自分の役割は「仲間を守る盾」徹することだと、自身に言い聞かせてきた。


だが、ジュリアスは、魔法を「剣術と盾術を強化する手段」として提示した。


「カイル殿。あなたは既に、風属性の魔力適性があることをご存じなのでは?盾に魔力を纏わせる術を攻撃に転用する方法です。あなたの堅実な防御が、一瞬で敵の懐に飛び込む高速移動へと変わり、あなたの剣術が、風の刃を纏った斬撃へと昇華するのです」


その言葉は、俺のプライドと、強くなりたいという渇望を直接刺激した。


(防御だけじゃ、足りない。レンもアリシアも、ティアーナも、皆強くなろうとしている。俺だって、仲間の盾であるだけでなく、攻撃の矛にもなってみせる!)


俺は、胸の中で炎が燃え上がるのを感じた。魔法へのコンプレックスを克服し、努力でその力を手に入れる。それが、彼にとっての試練であり、最大のチャンスだった。


「ジュリアス殿。やらせてください。俺は、レンやオリヴィア様、そして皆を守るために、どんな技術でも習得します」


力強く宣言した。



◇◇◇



(イリス視点)


私自身、魔法の才能は低いことを自覚しているが、身体強化や補助系の魔法を使える可能性がある。私の戦闘スタイルは、防御とカウンターを重視した堅実なスタイルだ。


私の脳裏に浮かぶのは、ただ一人、オリヴィア様の姿だった。


(姫様をお守りする。それが、私の全てだ)


帝国との戦いが激化する中、彼女を守るためには、いかなる脅威にも対応できる絶対的な戦闘力が必要だ。


「ジュリアス殿。わたくしは、攻撃的な魔法の才能は低いと自負しております。しかし、身体強化を施し、剣の斬撃に魔法の力を精密に付与できるならば、わたくしの防御・カウンターを主体とした剣術と、最高に融合するはずです」


イリスの言葉は、まるで戦術書を読み上げるかのように冷静だった。


「私のスタイルは、敵の動きを読み、一瞬の隙を突くカウンターです。その一撃に魔力を集中させ、最大効率で敵を打ち倒す技術。それを、ぜひご教授ください」


彼女の瞳の奥には、故郷を失った騎士の強い責任感と、主君を守り抜くという揺るぎない覚悟が宿っていた。


ジュリアスは、二人の異なるタイプの騎士の決意に、満足げに頷いた。


「よろしい。では、まずは魔力循環の徹底から始めましょう。魔法剣の基礎は、安定したマナの供給にあります。一日たりとも怠ることなく、これに励んでいただきます」



◇◇◇



その日から、俺たち三人の魔法強化プログラムが始まった。


俺、レンには、公王としての激務の合間を縫って、ジュリアスが付き、マナ制御と戦術的思考の訓練が課された。


朝、夜の魔力循環は、すぐに日課となった。


静かに座し、目を閉じる。体内の龍覚者の紋章から湧き出る膨大な魔力の奔流。これまでは、その全てを制御しようとすると、すぐに疲弊してしまうか、意識が魔力に飲み込まれそうになっていた。


「公王。魔力は、ダムの水ではありません。清流です。必要に応じて水位を上げ下げできるよう、常に一定の流量を維持し、淀みなく循環してください」


ジュリアスの厳しく、しかし正確な指導が、俺の意識の奥深くに響く。


(淀みなく……清流……)


俺は、配管を流れる水のイメージを応用した。魔力回路を体内に構築し、流入と流出のバランスを、呼吸に合わせて調整する。


この地味で気の遠くなるような訓練を続けるうちに、俺の体内の魔力の流れが、以前より遥かに滑らかに、そして精密になっていくのを感じた。


「ふむ……公王閣下の才能は、やはり常軌を逸していますな。たった数日の訓練で、既にわたくしの指導の本質を掴みかけている」


一方、カイルとイリスは、訓練場の片隅で、剣と盾を構えながら、ジュリアスからエンチャントの基礎を学んでいた。


「カイル殿! 魔力の流れが、粗雑です! そのままでは、剣に付与した魔力が、斬撃に変換される前に大気に散逸してしまう!」


ジュリアスの厳しい叱責が飛ぶ。


(くそっ! なんで、できねえんだ!)


カイルは、風属性の魔力を右腕から片手剣へと流し込むイメージを試みていた。共鳴者として魔力適性は上がっているはずだ。しかし、魔法を「技」として使うことに慣れていないため、剣に流し込もうとすると、不均一に流れてしまい、武器の表面に風の膜を形成することができない。


隣のイリスは、既に剣の表面に微かに魔力の光を纏わせることに成功している。その様子を見て、カイルのコンプレックスが再び頭をもたげる。


(イリスさんはできているのに! 俺は……やっぱり、魔法には向いてないのか……)


だが、彼は立ち止まらない。彼の強さは、才能ではなく、反復訓練にある。


「もう一度! ジュリアス殿、お願いします!」


カイルは、剣を構え直し、呼吸を整える。仲間の顔、レンの期待、仲間の安全。全てを胸に、彼はただひたすらに、努力という名の道を突き進む。


そして、数日間の血のにじむような反復訓練の結果、ついにその努力が実を結ぶ瞬間が訪れた。


(剣と一体になる……。防御で盾に魔力を流す時の、あの安定した感覚……それを、剣の軌道に乗せるんだ!)


カイルは、無心で剣を振り下ろした。その瞬間、彼の体内の魔力循環が、淀みなく剣の表面へと流れ込み、剣全体が淡い緑色の風の膜で覆われた!


ヒュンッ!


斬撃が、空気を切り裂く風切り音を伴い、訓練場に響き渡る。


「……! で、できた!」


カイルは、自分の剣を見て、驚きと歓喜の声を上げた。彼の顔は汗まみれだが、その瞳には、魔法へのコンプレックスを克服したことによる、揺るぎない自信の光が宿っていた。


「見事です、カイル殿!」


ジュリアスも、心から称賛を送った。


「その調子です。次は、その風のエンチャントを、防御から高速移動、そして斬撃の強化へと応用する方法を学びましょう」


一方、イリスの訓練は、カイルとは対照的に進められた。


彼女は、元々精密な魔力操作を必要とする身体強化の才能をわずかに持っており、騎士としての高い集中力が、エンチャントに必要な繊細な制御を可能にしていた。


「イリス殿。その通り、防御的な魔法を攻撃的な魔法剣の基礎として捉えるのです。あなたは防御とカウンターが主体。斬撃に魔力を付与する時間は一瞬でなければならない。その一瞬に、魔力循環から淀みなくマナを抽出し、剣の表面に膜を形成する」


ジュリアスの指導を受け、イリスは闇属性の魔力と身体強化の魔力を融合させる術を習得していった。


数日後、イリスは、風を纏うカイルとは対照的に、剣の表面に冷たい、微かな光を纏わせることに成功した。それは、彼女の冷静沈着な性格と、堅実なスタイルにふさわしいエンチャントだった。


「レン公王。ご覧ください」


ジュリアスに促され、イリスが俺の目の前で剣を振るう。


キンッ!


彼女の剣は、訓練用の木人相手に一撃を繰り出した。その斬撃が木人に触れた瞬間、木人の表面に瞬時にヒビが走り、木人は内部から粉砕された。


「素晴らしい……!」


思わず、俺は声を上げた。イリスの一撃必殺の攻撃の破壊力は比べ物にならないほど向上していた。


イリスは、その顔に一切の表情を崩さなかったが、その青い瞳の奥には、確かな達成感と、主君を守るための自信が満ち溢れていた。



◇◇◇



俺たち三人が、それぞれの課題に取り組む中、公国の中核メンバーもまた、その変化を敏感に感じ取っていた。


特に、俺の妻であり、最も近くで俺を支えてくれるアリシアとティアーナは、俺の魔力制御の向上を間近で見ていた。


その日の夕食時。公王執務室で、俺とアリシア、ティアーナ、そしてカイルが集まり、簡単な食事をとっていた。


「ねえ、レン。最近、魔力循環の調子が良いでしょう?」


アリシアが、俺のために淹れてくれた温かい薬草茶を差し出しながら、優しく尋ねてきた。


「ああ、ジュリアス殿の指導のおかげだ。彼が言うには、俺の魔力は荒馬だったらしい」


俺は苦笑いしながら答える。


「ふふ、でも、レンの魔力は、以前よりずっと清らかで、滑らかになりましたわ。まるで、巨大な滝が、清らかに流れているようです」


ティアーナが、研究者らしい視点で分析する。彼女の瞳は、知的な好奇心でキラキラと輝いている。


「お兄ちゃんも、すごいよ! さっき、訓練場の隅で剣に風を纏わせる訓練をしているのを見たけど、数日前までとは比べ物にならないほど安定していた。あの斬撃の強化は、防御だけでなく、高速移動にも応用できるんだよね?」


「当たり前だろ、誰に向かって言ってやがる!」


カイルは豪快に笑うが、その顔は喜びと疲労で輝いていた。


俺は、そんな仲間たちの姿を見て、心の中で深く安堵する。


「カイルの成長が、俺たちの心強い盾になる。この公国の生命線だ」


「そうですね。そして、レンさん」


ティアーナが、真剣な顔で俺に問いかけてきた。


「ジュリアス殿は、レンを『魔法司令塔』へと成長させたいと仰っていましたね。具体的に、どのような訓練を受けているのですか?」


「ああ。それは、これまで俺が直感と魔力総量に頼っていた魔法発動を、戦況に応じた術式の選択と構築へと変える訓練だ」


俺は、コップに残っていたハーブティーを一気に飲み干した。


「例えば、戦場で敵の軍勢に遭遇した際だ。以前の俺なら、無詠唱という利点に任せて、単一の広範囲高火力魔法を力任せに放出していただろう。


ジュリアス殿はそれを『戦術的な自滅』と断じた。『公王の膨大な魔力は、その粗雑な使い方では、一度の攻撃で散逸し、戦況の変化に対応する持久力を失う』と。」


「代わりに、俺が今学んでいるのは、その魔力を清流のように精密に制御し、戦場全体を設計することだ。具体的には、単一の力に頼るのではなく、状況に応じて異なる種類・属性の魔法を瞬時に組み替える。無詠唱という利点を最大限に活かし、必要最小限の魔力で、複数の敵の属性耐性や弱点に最適化された魔法を、時間差なく展開する方法だな」


「例えば、敵の前衛の重装歩兵集団には殺傷力の高い風の刃を、後衛の魔術師には火属性の爆発魔法を、そして側面から回り込もうとする機動性の高い敵には水属性の拘束魔法を、一瞬で同時に展開するんだ。」


「それは……! まさに戦場そのものを支配し、指揮を執る、司令塔の役割ですわ! レンの持つ規格外の魔力を、最高の技術と合理性で運用する術ですね!」


ティアーナが、興奮して目を輝かせる。彼女は、その知識と技術で、俺の魔法を軍事的な戦術へと昇華させることに、純粋な喜びを感じている。


アリシアも、俺の進化を心から喜んでくれている。


「レンが、そんなに強くなっていくのは、私も嬉しいよ。これで、どんな戦いになっても、レンは怪我を負わなくて済むものね!」


「まだまだ練習中だけどね。頑張るよ!」


ジュリアスとの訓練は、まだ始まったばかりだ。だが、俺の龍覚者の力は、確実に『魔法司令塔』としての覚醒へと向かっていた。



◇◇◇



セレスティーナ総長が指揮を執る建設現場は、既に初期の兵舎と防衛線が構築され始めていた。転移門を中心に、抵抗軍の兵士たちが迅速に行動している。


俺は、建設状況の視察に訪れていた。セレスティーナは、俺たちに軍事最高責任者としての報告を行うため俺たちを出迎えた。


「レン公王、現状、初期防衛線は予定通り構築されました。兵士たちの訓練も並行して進めています」


セレスティーナは、そう切り出した。


「そして、レン公王」


セレスティーナは、鋭い視線を軍事都市の建設予定地から、俺に向けた。


「軍事都市の初期防衛線は構築され、生産都市、鉱山都市の計画も定まりました。公国の基盤建設は着実に進んでいます。ですが、我々には、この安定の裏で、目を背けることのできない責務があります」


彼女は、静かに言葉を選びながら、核心を突いてきた。


「大陸では、今も多くのドラグニアの同胞が、帝国の圧政の下で苦しみ、散り散りになっております。彼らを救出することは、オリヴィア様と公国の王家再建における、最優先事項です。公国軍の戦力強化が進み、転移門という切り札がある今、建設を継続しつつ、大陸に潜伏する仲間たちを救出する作戦を、並行して始動させてはいただけないでしょうか。兵の一部を割き、情報収集と救出に当たらせたいのです」


セレスティーナの瞳には、民を思う強い炎が宿っていた。


「そうですね、承知しました、セレスティーナ総長」


俺は、深く息を吐き、静かに頷いた。


「俺たちがここにいる限り、大陸の仲間を見捨てることはできません。救出と情報収集を目的とした遠征隊を編成しましょう。次の作戦の目標は、大陸における仲間たちの確実な確保です」


俺は、目の前に広がる『アイギス・フォート』の建設予定地を見渡しながら、次の戦いへの出陣の合図である自分の言葉を噛みしめていた。


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