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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
3章:囚われの民と雷鳴の姫君 〜目覚める龍の紋章〜

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第71話:銀狼の決断

大陸南部、月明かりだけが照らす抵抗軍の隠れ家。


その作戦室で、私、セレスティーナ・フォン・シルフィードは、広げられた帝国軍の配置図を、鋼のような光を宿した瞳で睨みつけていた。


私の前には、命がけで偵察から戻った部下と、抵抗軍の幹部たちが固唾を飲んで立っている。ランプの油が爆ぜる音だけが、重苦しい沈黙を破っていた。


「……間違いありません。古鷲の砦跡を通過する護送部隊は、我らを誘き寄せるための罠です」


斥候長である若き騎士、ダリウスが、泥と汗にまみれた顔で報告を終えた。その声には、疲労と共に、隠しきれない怒りが滲んでいる。


「砦の周囲には、“鉄壁”のギデオン将軍が率いる帝国軍本隊、少なくとも五千が潜んでいます。我々が砦に手を出した瞬間、四方から包囲殲滅する手筈かと」


作戦室内が、凍りついたような沈黙に包まれる。そして、報告はさらに続く。最も残酷な、心臓を抉るような事実が。


「護送されているのは、アルバート卿だけではありません。帝国への抵抗を表明したために捕らえられた、有力な文官、学者、技術者たち。そして……彼らの家族、さらには我々が先日まで保護していた避難民の家族が、数十人含まれています。子供も、多数……」


幹部の一人が、悔しそうに拳を机に叩きつけた。


「子供まで人質に使うとは……帝国め、どこまで卑劣なのだ!」


その怒りは、この場にいる全員の心を代弁していた。アルバート卿は、王国の未来を担うはずだった最高の頭脳。彼を失うことは、王国の再興をさらに遠のかせる。だが、それだけではない。何の罪もない民、我々が守ると誓ったはずの、か弱い人々が、我々を誘き寄せるための「餌」として、無慈悲に利用されている。


バルトロメオが、苦渋に満ちた表情で私に進言した。


「セレスティーナ様。……断腸の思いですが、これは見過ごすべきです。同胞たちには申し訳ありませんが、罠に飛び込めば我々は全滅します。我々には、あなた様を信じ、この背後にいる数千の民と兵士がおります。全てを失っては、ドラグニアの未来は完全に閉ざされてしまう」


その言葉は、将軍として下すべき判断としては、あまりにも正論だった。


冷徹な計算の上では、それが唯一の正しい選択肢なのだろう。だが、私の脳裏には、帝国兵に怯える子供たちの顔、助けを求める民衆の声、そして「民を守れ」という亡き王との最後の約束が、幻聴のように響いていた。


そして何より、私の胸を締め付けていたのは、オリヴィア姫への想いだった。


王都が陥落したあの日、私は姫様をお守りすることができなかった。必ず生き延び、再起の道を切り拓いてくださいと、涙を流しながらお見送りした。姫様は今、どこかで必ず生きている。そう信じているからこそ、私は戦い続けているのだ。


もし、姫様がこの場におられたなら、何とおっしゃるだろうか? 民を見捨てよと、そうお命じになるだろうか? いや、断じて否。あのお優しい姫様が、民の犠牲の上に成り立つ未来など、決して望まれるはずがない。


(私がここで彼らを見捨てれば、それは帝国と同じではないのか? 民を守れぬ騎士に、国を、そして姫様にお仕えする資格などない……!)


幹部たちの間で「今は耐えるべきだ」「いや、誇りを見せるべきだ」という激しい議論が交わされる中、私は一人、静かに思考を巡らせる。


私の心は、将軍として数千の兵の命を守るという冷徹な判断と、騎士として目の前の無辜の民を救うという高潔な誇りの間で、激しく引き裂かれていた。


「……少し、風に当たる」


私はそれだけ言うと、重い空気の作戦室を出た。夜の冷気が、火照った頬に心地よかった。隠れ家の周囲には、兵士たちが焚く無数のキャンプファイヤーが、まるで星々のように点在している。武器の手入れをする音、故郷の歌を静かに口ずさむ声、そして、避難民の子供たちの寝息。その全てが、私が背負う命の重みだった。


私は救護所へと足を向けた。そこでは、負傷した若い兵士が、月明かりを頼りに故郷に残してきた家族への手紙を書いていた。私の存在に気づくと、彼は慌ててそれを隠そうとする。


「……良いのです、続けなさい」


私は、穏やかな声で兵士に語りかけた。その声には、将軍としての厳しさではなく、一人の人間としての温かみが宿っていた。私は彼の隣に静かに膝をついた。


「怖いですか?」


私の問いに、まだ少年のようなあどけなさを残す兵士は、こくりと頷いた。


「……はい。ですが、セレスティーナ様と共ならば!」


その瞳には、恐怖と、しかしそれを上回る私への信頼が宿っている。その純粋な信頼が、私の心を締め付けた。


「ありがとう」


私は、彼の肩を力強く、しかし優しく叩いた。


「その手紙は…必ず家族に届けるのですよ。そのための未来を、私がこの剣で切り拓きます。ですが、この戦いは九死に一生を得るもの。死地に赴くことを、私は誰にも強制しません。それでも、私と共に民のために剣を振るう覚悟がある者だけ、ついてきなさい」


私の言葉に、兵士は驚いたように目を見開いた。そして、その瞳から恐怖の色が消え、揺るぎない決意の光が灯る。


「セレスティーナ様……! 私は、行きます! あなたと、そして囚われた同胞たちのために!」


彼だけではない。この隠れ家にいる全ての兵士が、そして民が、同じ想いを抱いているはずだ。私がここで退くことは、彼らの誇りを、希望を、そしてオリヴィア姫への忠誠を踏みにじることに他ならない。


私は、自らの決意を固めた。そして、作戦室に戻ると、議論を続けていた幹部たちに向き直った。その瞳には、もはや迷いはなかった。


「……私は、行きます」


その言葉に、作戦室内が息を呑む。


「無謀は承知の上です。ですが、目の前で助けを求めている民を見捨てて、未来の再興などありえません。ドラグニアの騎士の誇りは、民と共にあります。たとえ、それが茨の道であろうとも」


私の瞳は、地図の一点を捉えていた。


「罠であるならば、その裏をかくまで。帝国が我々の玉砕を望むなら、我々は彼らの喉元を食い破り、必ずや同胞を奪還する。これは、絶望的な戦いではありません。我々ドラグニアの民の、誇りと未来を懸けた戦いです」


「全軍に告げなさい。三日後の満月の夜、我々は古鷲の砦を強襲する、と」


その決断が、後に語り継がれることになる、壮絶な戦いの火蓋を切って落とすことになるのを、この時の私はまだ知らなかった。ただ、守るべきもののために、自らが信じる正義の道を、迷いなく進むだけだった。


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